2003年10月

10月30日
 仕事の合間をぬって神田神保町の古本祭りに顔を出し、「幕末海戦物語」(栗原隆一著、雄山閣)という本を手に入れた。
 来年書く架空戦記の資料あつめ。
 1971年に出た本で、幕末期の海戦について当時の記録を引用しつつ詳細に解説している。
 なかなか興味深いことがいろいろ書いてある。当時は砲の威力が弱く、軍艦は砲弾を80発くらっても戦闘を続行でき、105発を受けてやっと沈んだとか。訓練日課とか。榎本は函館で徹甲弾を開発していたとか。
 やはり第一章は、榎本艦隊が明治政府艦隊を撃滅する艦隊決戦だな。
 榎本艦隊の「開陽丸」、明治政府艦隊の「甲鉄」という、まったくコンセプトの異なる最強艦二隻の死闘。描きがいがありそうだ。
 「開陽丸」は小型旧式砲をたくさん積んでいる。木造で、装甲は限定的だ。帆船時代の軍艦設計をモロに引きずってる。
 一方「甲鉄」は分厚い装甲に身を包み、強力な砲を少数積んでいる。のちの戦艦につながる新機軸の設計だ。
 「甲鉄」の速力がいくつなのか資料によって異なる(8ノットだったり15.5ノットだったり! 大違いだよ)のが気掛かりだが、とにかく燃える組み合わせだ。
 史実では開陽丸は悪天候のため座礁沈没してるんだけど、そのへんは起こらなかったことにできるよな。鉄船として建造されたことにしてもいい。
 ……で、問題はその先だ。
 蝦夷共和国が存続して発展したら……という架空歴史を作る上で問題点がいくつかある。

 1 経済的な基盤が弱すぎる。領土は北海道だけ、都市は函館だけ、わずかな人口……一体どうやって、日本帝国の経済発展についていくのか。
 2 ロシアに侵略されてしまうのでは?
 3 アイヌの扱いはどうするか? アイヌを強制労働させたり、無理矢理和人に同化させるような国は嫌だが、そのようなことをせず平等に扱ったというのも当時の人々が持っていた意識を考えると非現実的な気がする。


 これらの問題点はいろいろ調べつつ解決していく予定。 
 三木原慧一が「新・大日本帝国の興亡」という「幕府サイドの人々が日本を脱出してもう一つの日本を作る」話を書いているが、場所は北海道ではなく、石油が大量に出る架空の島だ。やはり北海道ではいろいろ問題があると考えたのかもしれない。
10月26日
 この土日、ずっと「改訂版まーち」を書いていたのだが……
 だめだ、5.2話は完成したが5.3話がまだできない。
 この5.3話で、あくまでギャグのまま盛り上げて第一部完にできればいいのだが。
 今月中に仕上げて送るつもりだったけど、もう少しかかる。
 自分で言ったことを守れなくて悔しい。

 来年はミステリと架空戦記を書きたい、ぼくはこないだそう書いた。
 それについて補足。

 ミステリ書く理由は、Tさんという作家さんから書くように勧められたってのが一つ。
 それからもう一つ、ぼくの小説の欠点を直すために一度書いてみる必要があるのではないか、ということ。
 ぼくの小説には欠点がたくさんあるが、まあたとえば、
 伏線がない。
 展開に意外性がない。

 なんてのがあるわけだ。
 ミステリは伏線と意外性で成り立ってるわけだから、ミステリを書くことによってこの欠点二つを直す方法が見つかるのではないか、と考えたのだ。
 まだ書けないみたいだが。

 では、架空戦記をなぜ書くのか。
 好きな物だから。まるで空気を吸うように、当たり前のようにたくさん読んでるから。おそらく体がもとめている。
 SFも好きなんだが、どうもぼくの考えることはSF的に練られてないらしい。
 たとえば、ぼくの書く異星人や宇宙戦争は、地球にあった物の模倣だ。劣化した模倣だ。
 「SFとして書く意味がない」。SFを読み慣れてる人の眼にはそう映る。
 プロの意見はおおむねそうだ。
 だったら、その模倣の原型を書いた方がいいのではないか。地球の過去を。
 作家は、自分が一番愛するものを書くべきだという。ぼくが一番愛するものとは何だ。
 たぶんそれは、歴史のうねりの中にこそうまっている。SFである必要はおそらくない。
 まあ書いてみれば向いてるかどうかは判ること。ほんとに好きかどうかもわかるだろう。
 ってなわけで幕末の資料とか集めてる。
 書きはじめるのは来年。目標は9月の歴史群像大賞。これはさすがにソノラマ向けじゃないと思う。

 どのジャンルも、どの題材も、その作家ならではの味を出さなければ本を書く意味がない。
 だがぼくは、自分を入れようとすれば思想がそのまま入って説教になってしまう。味が味として機能してない。
 「まーち」がそうなってないのは、たぶん理念や頭ではなく、快楽原則で書いたから。
 架空戦記も、そう書けるといいな。
10月20日
 昨日、つまり日曜日は、友人と一緒に秋葉原を散策した。
 「最近の秋葉原はすごいらしい、案内して欲しい」そう言われたのだ。
 はりきって案内した。
 まずアキハバラデパート内のガンダム屋。
 そしてゲーマーズ、とらのあな、アソビットシティ、コスパ、キュアメイドカフェなどを巡った。
 この作品は月姫といって……ラグナロクオンラインという韓国のゲームがあって……などと細かい説明を加えながら。
 こんな感じ。

 とらのあなにて
 某「すごいですね! 今はこうなんですか!」
 ペンネームC「はい」
 某「普通の店で同人誌が買えるんですね」
 ペンネームC「いや、あまり普通ではない気がします」
 某「……」
 ペンネームC「あんまりえっちな同人誌みられるとその……なんっていうかその……隠してたエロ本を発見されたような気分に……妙にはずかしくてその……」
 某「あ。すいません。でもほんとに男の人ばっかりですね」
 ペンネームC「じゃあ女の人がいるところに行きましょう」

 アソビットシティ女性向けコーナーにて
 某「こんなのがゲームになってるんですか……同人誌では昔からあるけど……『俺の下であがけ』って何ですか」
 ペンネームC「すいません勉強不足で、ぼくに訊かれても(笑)」

 キュアメイドカフェにて
 某「意外とメイドカフェって普通の喫茶店なんですね」
 ペンネームC「なんだと思ってたんですか(笑)」
 某「スカートの長さが人によって違うんですね」
 ペンネームC「メイドさんごとにキャラクターを演出してるのでは?」
 某「日記にも書いてありましたけど、萌えってなんなんですか?」
 ペンネームC「定義はいろいろあるようですが、性欲プラス物語性かと。まあ男性オタクは即物的で、そのものずばりでも別にいいのですが……プラスαが欲しい」
 某「メイドさんも物語性が?」
 ペンネームC「おそらくは。まあ純粋にコスチュームとしても、シンプルでありながら可愛いと思いますが」

 驚かれつつも楽しんでもらえたようだ。よかったよかった。

 ……。
 さらに締め切りが近付いた。
 やーばーいー。

 葛西伸哉「アニレオン!」の4巻を読んだ。完結編です。
 ギャグ設定のなかでマジ恋愛の話をやる、という基本コンセプトを最後まで貫き、完全に消化した。
 すばらしい。
 「まーち」と同じマッドサイエンティスト物でオタクネタのギャグで……ずっと意識してきたが、ぼくはこれを超えなければいけないのかと思うと……恐い。
 しかし負けないぞ。
 遊園地デートの話なんかは、かなり書き直す必要があるだろうな。
10月18日
 先週の倉敷旅行でとった写真を載せよう。
 といっても、友人との会話が楽しくてほとんど写真を撮らなかった。
 
   
 これが倉敷美観地区。木造瓦ぶきの建物がたちならび、人力車が走り回る。川には鯉と白鳥。
 土産物屋、露天、民宿、居酒屋、喫茶店。全部が古風。西洋風建築もこの風景に調和してるのがいいね。
 ここは何の店だろうと思って見たら証券会社でした、ということも。普通の家や会社もとけこんでるのだ。
 
 
 街をうろうろしていたら偶然に発見したこの店。
 うさんくささ全開。このマスコット(とくに左側)のイノセントな瞳がなんともいえません。あと半開きの口(笑)。
 中は実にすごい。古い機械だらけ。まるきり博物館。「宇宙ヘルメット」とは日本海軍の与圧ヘルメットのことだった。
 

 駅前から、「倉敷チボリ公園」という遊園地をのぞむ。


 倉敷天文台。見ての通りとても小さい。手作り感覚の天文台なんだそうだ。「そうだ」というのは、中には入れなかったから。残念。

 楽しい旅でした。行って良かった。不安もあったのですが杞憂でした。
 脳の、ふだん使わない部分を思いきり使った気がします。新鮮な体験でした。
 気合いを充電して帰って来て、小説書いてます。
 ありがとう某友人。
 
 しかし、自分で決めた締め切りまであと二週間。
 むう。がんばれ自分。
 今日も書いたことは書いたが、足りない! 
 もっとがんばれ。 

 電撃hpとファンタジアバトルロイヤルを買う。
 電撃hp新人賞は500作品突破か。はりあいがあっていい。
10月12日 
 いま倉敷のホテルで書いてます。

 朝起きて、「やばい、まだ頭痛い。だるい。やばい」と思いながらも電車に乗る。
 新横浜で新幹線のぞみ号に乗車。これがのぞみか。初めて乗るぞ。
 うわ!! 名古屋までノンストップかよ!
 シュウマイ弁当の味が期待外れで、しかも周りの乗客たちがモクモクとタバコを吸いまくるのでぼくの気分はさらに悪くなった。
 しかし、揺られること三時間、やっと着きました岡山に。
 暑い! 岡山暑い! 上着もセーターも必要ない! 
 さすが晴れの国! さすが桃太郎!(関係ない)
 駅前を走る路面電車のかわいさに頬をゆるませ、そのへんに腰かけているうちにだいぶ体調がよくなった。やはりタバコの煙が一番問題だったようだ。
 ここで衝撃の事実が発覚。
 デジカメがなぜか動かないー!!!!!
 使い捨てカメラを買ってしのいだけど、現像の手間がいるので、ネットに写真載せられるのはだいぶ先になります。

 山陽本線で倉敷へ。
 電車が妙にレトロだ。
 友人と会って倉敷を案内してもらう。
 ううむ、美観地区は異世界だ。すべての建物が古風な感じで統一されてる。
 面白い店ばっかりだね。
 美観地区の外も面白い。
 天文台とかあるし。
 とくに凄いと思ったのは、
 「うちは明治大正の頃から最新のワンピース犬夜叉までそろってるよ、とくにルパン三世とガンダムと名作劇場は充実してるよ」
 という、人形などアニメグッズが店内を埋め尽くす店。ほんとにギッシリ。クラクラしてきます。
 そして骨董品屋。
 『日本海軍の開発した宇宙ヘルメット』なるものが置いてある。宇宙ヘルメットとは、高高度飛行用に作られた与圧ヘルメットのこと。迫力のある品だった。他にも古い物がたくさん。いや、美術的なものはぜんぜんわからないのだが、黒光りするレジスターとかエジソン式蓄音機とか真空管式ラジオとかカメラとかは見てるだけで楽しい。
 歩きながら、あるいは喫茶店で一服しながら、創作などの趣味について語り合った。
 とても熱い会話ができた。エネルギーを受け取った。
 気がついたら頭痛もだるさもすっかり消えていた。
 
 そして今、倉敷のホテルで日記を書いている。
 明日もいろいろ楽しむつもりだ。
 しかし、その前に。創作意欲がわいてきた。眠れそうにない。書こう。
10月11日
 やばい。
 待ちに待った旅行なのに体調悪い。
 鼻ずるずる。熱っぽい。
 寝る! 寝るぞ!
 何が何でも治す。
 倉敷旅行、思いきり楽しんで来ます。

 本の感想。

 小川洋子「博士の愛した数式」新潮社
 カンザキさんにおすすめされた本です。
 記憶が80分しかもたない障害を負った数学者と、一人の家政婦と、少年。
 その三人が知り合い、おそるおそる心を重ねていく姿を描いた小説。
 こころの扱い方が気に入った。けっして大声を出さず、理屈もこねず、ただいたわるように接している。
 水がしみるように伝わる想いもあるのだ、と思った。
 方程式を美しいと感じる人がいることは実体験として知っていた。
 「役に立つかどうかじゃない、数式が美しければいいんだ!」ある人にそういわれた時ぼくは驚き、畏怖すら覚えた。
 だが。
 この作品に出てくる数学者も数式を愛している。けれどぼくは今度は驚かなかった。
 彼のやってるのは奇妙なことじゃない。小さなかけらを拾って磨いてみたらとても綺麗だった。それだけのことだ。たまたまそれが彼にとっては数式なだけで、実は同じことをぼくもやってる。そう納得できたのだ。 
 あと、後半は泣ける。
 やっぱりぼくはこういうのが好きなんだなあと思った。
 実家に帰って犬をだきしめて、どうかこの子に幸せな時間を、と祈りたくなった。

 話題変えます。

 今年いっぱいはソノラマ持ち込み用の小説2本を書く。
 で、来年は新ジャンルに挑戦しようと思ってる。
 具体的には架空戦記とミステリ。
 架空戦記は単にぼく個人の趣味。書いててたのしそうだなと。

 ミステリを書くことはある作家さんにお勧めされた。
 興味をもったはいいが、どうもまだ勉強が足りなすぎるようだ。

 すると架空戦記だな。
 日本分割ものがやりたい。ぜひやりたい。
 それで新鮮味をだすには、「もう一つの日本」をどんな国にするかが重要だ。
 北朝鮮のパロディみたいな国は、もう書き尽くされた。
 幕末の歴史をいじって、もうひとつの日本を作れないか検討中。  
 たとえば榎本武揚の北海道共和国だよね。
 経済や産業の基盤はどうするのかなあ、という不安がわいてくる。 
 フランスが後を推してくれるらしいけど、ロシアに属国化される恐れはないのか、とか。
 ちゃんと国になっても、小さ過ぎて戦争できないんじゃないかなあ、とか……
 どんな軍をもつんだろうとか……
 まあ、もし北海道に独立国家が存在したら、維新後の日本が歩む歴史に大きな影響を与えることは間違いない。
 たぶん大陸政策とかぜんぜん違うよ。
 北海道共和国を第二次大戦の頃まで存続させて、軍艦の名前はアイヌ語で……とか面白そうだなあ。
 日本帝国とはどういう関係になるのかな。
 ……どこかで誰かが書いてた気がする。もっと調べよう。
10月4日
 今日は図書館で勉強していた。
 図書館の雰囲気がなつかしい。
 本屋でいくら探してもなかった本が次々見つかって大喜び。
 
 さらに、新幹線の切符買ってホテルの予約をした。
 10月12日と13日の連休を使って、岡山(正確には倉敷)まで旅行に行くのだ。
 ホテルの予約するのは生まれて初めてだ。いきあたりばったりの旅行しかやってなかったから。
 なんとなく北に行きたい気分なのでバイクで北上する。興味ぶかいものに出くわしたら寄る。日が沈んだら適当にそのへんで泊まる
 みたいな感じ。
 あれはあれで面白いんだが……
 今回の旅行も楽しみ。
 
 原稿が少しだけ進む。
 ぜんぜん関係ない別の小説のネタやシーンが頭に浮かぶ。それも連続して。嬉しいのだが、いまはそれを書くわけにいかんじゃー。
 もっと時間をー!
 
 ああ、そうそう。
 現在ソノラマは新人の持ち込みを受け付けているそうです。確認しました。実は狙い目なのかもしれません。
 編集さんの意見を聞けるだけでも素晴らしいことだと思う。
 応援するためにソノラマ文庫を何冊か買ってきた。

 本の感想。
 
 富永浩史「覇空戦記1 帝国空軍、咆哮!」コスミック
 最近、架空戦記とライトノベルの関係についていろいろ考えてる。
 考えてるときに書店で手に取ったのが、これ。
 富永浩史! 富士見ファンタジアで賞をとった、飛行機大好きのライトノベル作家!
 前々から「純然たる架空戦記をかけばいいのに」と思っていたけど、ついに架空戦記界進出か!
 やっぱり飛行機の話だ。シベリアに親日の独立国家が出来て、その結果日本にシコルスキーが来て、爆撃機を開発する。
 この世界の日本は第一次大戦の欧州戦線に深く関わったため、史実より強烈な航空主兵主義が広まって、日本空軍が創設される。
 その戦いと、男たちの葛藤を描いた作品。全体的に悲しい雰囲気がでてるね。
 主人公たちの理想は、今日の我々からすれば明らかに「青すぎる、ついえた夢」だからだろう。
 でも否定する資格は我々にはない。読んでるうちにそう思い知らされる。
 飛行機の技術的な部分も、わかりやすくていい書き方をしてると思う。
 あと架空戦記なのに眼鏡の美少女が出てきて萌え。

 三木原慧一「クリムゾンバーニング カナダ侵攻」中央公論新社
 ああ、よかった。ちゃんと続いてる。
 長いシリーズは中断が気掛かりだ。
 戦争の暗黒面と、それを乗り越えて決断する男たちを描いた佳作。
 メイドスキーネタも完全に定着していい感じ。

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