怪しい日記 西暦2004年4月

4月29日
 さあ、ゴールデンウィークだ! がんばって小説書くぞ!
 と思ったら。
 iBookが突然壊れました。
 画面が明滅してうんともすんともいわなくなるという、去年の夏と同じような壊れ方を。
 あああ! この大切なときにー!!
 これは一体なんの呪いか!?
 しかもゴールデンウィークのせいで修理が著しく遅れます。なんでも一ヶ月かかるとか。

 さいわい原稿やメールなど、金で買えないものはバックアップしてありました。
 家族に頭をさげて、予備パソコンを借り受けることもできました。
 数時間で、また小説を書ける環境にもどれました。
 被害を極限できてよかった、と考えるべきでしょう。
 マカーやってたこの一年で使い方をわすれてしまったらしく、ウィンドウズの操作に戸惑いながら、日記を書いてます。Macに慣れてしまうと、ウィンドウズは余計な操作を必要とするうざったいものに感じます。もちろん優れた部分もあるんですが。
 1月にペン4マシンを売り払ったりしなければもっと楽だったのですが、あの時は本当にお金がなかったので、仕方ありません。

 ペンネームC「またMacが壊れちゃったよー。マザーボードかなあ?」
 某「Macにマザーボードなど存在しない! Macにあるのは『ロジックボード』だ! マザーボードは敵性語だ!」
 ペンネームC「て、敵!?」
4月25日
 今日は一日中原稿を書いていました。
 スーパー銭湯でお風呂に入る→休憩コーナーで書く→また風呂に入ってリラックス→休憩コーナーで書く
 途中でバッテリーがあがったので続きは家で。
 ふう。まだまだ完成には遠いです。

 本の感想。
 
 田口仙年堂「吉永さん家のガーゴイル」ファミ通文庫
 「えんため大賞」大賞受賞作。
 めちゃくちゃ荒っぽい妹、美少女みたいな兄、マイペースすぎる母など、おかしな一家。
 そこに「門番」として犬みたいな石像がやってきます。
 石像の名はガーゴイル。無敵に強くて優しいですが、人間社会の常識はいま一つ。
 涙あり笑いあり、というのはまさしくこの小説のことです。
 ギャグ的に誇張された人物が漫才をやりながらストーリーを進行させます。テンポの良さが絶妙で、笑えます。でも話全体としては、泣けます。ええ。けなげすぎて泣けてしまう、という感じです。
 基本に忠実なようでいて、しかし「ありがち感」はなし。まさしく大型新人です。
4月24日
 今日も友人と神田神保町で遊びました。
 
 ペンネームC「この店はアットワンダーといって、SF系に強い店なんですよ」
 友人「あー! 光瀬龍がこんなにー! わー……どれ買おうかなあ……」
 ペンネームC「SFマガジンのバックナンバーが全部そろってるあたりがすごいですな」
 友人「ショートショートの本だー。昔よくありましたよねーショートショート」
 ペンネームC「いまはSFマガジンで細々とやってるだけですからねー」
 友人「買いたいものがたくさんあって困るー」
 ペンネームC「古本は欲しいと思った時が買い時です。次きたらもうないかも」
 友人「何おどしてるんですか! でも、この本もしかして家にあるかもしれないんですよ!」
 ペンネームC「その時はその時です」
 友人「ああーまた散財しちゃうー」
 ペンネームC「いやあ、そういう人によって神保町は支えられているのです。っていうか出版全体がそうかも。だって本を読む人間って少数派じゃないですか。1パーセントの人が100倍がんばって『本』というものを支えているのです」
 友人「ところで何かさがしてるものあります?」
 ペンネームC「SFアドベンチャーのバックナンバーに興味ありますな。山本弘の短編とか、単行本化されてないものがけっこうあるんですよ。あと緑背ソノラマにも心がうきうきします」
 
 ペンネームC「ここがカブール食堂です。先週は失礼しました」
 友人「この店どうしてみつけたんですか? あ、週刊金曜日に紹介されてるんですね」
 ペンネームC「そうらしいですな。あ、メニューはこちらです」
 友人「マンゴープリンってアフガン料理なんですか?」
 ペンネームC「いや、たぶん違うでしょう(笑)。ここのナンはメチャクチャでかいので二人で一枚にしましょう。あとはカバブセットと……こっちの炊き込みご飯とかいうのと……」
 友人「乳酒に興味あります!」
 ペンネームC「はーい注文!」
 友人「ところでこないだ借りた『ハイウイング・ストロール』なんですけど……面白かったですけど、SF的な最後の展開をもっとしっかり、ページ使って書いたらもっとよかったです」
 ペンネームC「ほー。でも一冊だしなあ……ぼくはむしろ世界の種明かしはいらなかったかなと思ってます」
 友人「ナンがきた。……でかいー!!」
 ペンネームC「これがソビエト軍を撤退させたアフガニスタンのパワーですよ!」
 友人「てきとーなこと言わないで下さい(笑)」
 ペンネームC「撤退で思い出したけど、なんかイラク人質事件をめぐって産經新聞と朝日新聞がえんえんと論争してます。両方読むと面白いですよ」
 友人「してますねー。『自己責任』って今年の流行語大賞ですよ。いただきます」
 ペンネームC「こないだ店員さんに聞いた話だと、カレーをナンではさんで食べるのが本式の食べ方だそうです。しかしぼくにはできませんでした。しょうがないのでスプーンでナンに載せました。邪道ですいません」
 友人「まあ、椅子とテーブル使ってるだけでイスラム的には邪道かも」
 ペンネームC「パラウ(炊き込みご飯)、うわー独特すぎる味。うわーうわー。甘酸っぱくてスパイス効いててサラサラしてる。これですね、個人的にお気に入りは。既存のなにものにも似ていない新しい旨さ」
 友人「カバブもおいしいですね」
 ペンネームC「いいでしょー」

 友人「コーヒー飲んでいきましょうか?」
 ペンネームC「いきましょう。ここが喫茶店『さぼうる』ですー」
 友人「すごい店構え……トーテムポールつき山小屋」
 ペンネームC「中は……もっとすごいー!!」
 友人「いいですね、古風で隠れ家っぽくて」
 ペンネームC「そうです! 喫茶店には隠れ家というか、秘密の空間というか、異世界っぽい雰囲気が必要なのです。でもいま量産されてるスタバ系のガラス張りで椅子の背がやたら高い店は雰囲気ないわけですよ」
 友人「わたしもこの雰囲気いいと思いますよー。本読むのに最適。そこら中の落書きが不思議……あ、相合い傘!」
 ペンネームC「よく見たら女同士ですよ、この相合い傘。まあ、はやってますから」
 友人「はやってるんですかー!?」
 
 こんな感じでした。とても楽しかったです。
4月19日
 日曜、友人と二人で神田神保町に出かけました。
 アフガニスタン料理店「神田カブール食堂」が目当てです。
 ……ところが日曜は休みでした。
 な、なぜ調べなかったのか。ボケ過ぎ。
 ペコペコ謝って他の喫茶店などに連れていったら、笑って許してくれました。
 ああよかったです……
 神保町の喫茶店は雰囲気あるところが多いですね。
 今回行ったのは二軒。
 アルゼンチンタンゴの流れるやたら古風な喫茶店「ミロンガ」。
 壁画のある「カフェテラス古瀬戸」。
 とくにミロンガの落ち着ける雰囲気は、はまりそうです。妙に店内が暗いですが、すぐに慣れます。じっくり物を考えて話すのにとても向いている、という気がします。
 単に喫茶店ではなく世界各国のビールもあるため、飲み会もできます。
 喫茶店での雑談と書店めぐりで一日が過ぎました。
 充実した休日でした。
 ……でも、結果としてうまくいっただけで、ペンCがヴォケだったことは変わりありません。
4月17日
 本の感想です。今日は短め。
 
 榊一郎「ストレイト・ジャケット6 ラクエンのサダメ」富士見ファンタジア文庫
 相変わらず、冴え渡ってます。いいえ、今まで以上です。
 今回の敵は愛ゆえに狂ってしまったひと。「人の心が壊れる」のを書かせると抜群の腕を発揮する榊一郎、期待は裏切りません。
 しかも説教が、うまいぐあいにストーリイと溶け合ってます。
 ネリンが本筋にからんでないのは悲しいですが、しかし物語として一級品である事にはかわりません。

 田代裕彦「平井骸惚此中ニ在リ 其二」富士見ミステリ文庫
 さっそうと現れた大正時代ミステリの良作、早くも第二弾です。
 謎、人間心理の掘りさげ、ラブコメ要素など、あらゆる面が強化されてます。
 富士見ミステリの顔になれるシリーズだと思います。
 これであとは眼鏡っ娘さえ出れば完璧です。
 ぼくはこないだ「タクティカル・ジャッジメント」の新キャラを見て「どんな詭弁を使ってでもこの作品を擁護するぞ」と決めました。眼鏡っ娘を出してこそ富士見ミステリです。

 イラクの人質が全員解放されたのは朗報でした。
 しかし、ほとんど時を同じくして横山光輝御大が亡くなりました。喜びがふっとんでしまいました。
 日本オタ文化の二大要素「巨大ロボ」「魔法少女」の始祖ですから、ぼくを含むオタの大半は横山御大に大きな恩があるはずです。
 ご冥福をお祈りします。
4月11日
 イラクの人質事件。
 あの人たちは危険を承知で、信念なりなんなりに基づいてイラクへ行ったようですから、「自衛隊が悪い」「日本政府が悪い」みたいに扱ってしまうのは失敬というものじゃないか、と思います。
 それにしても、18歳で市民団体の代表というのは不思議です。
 若い活動家がいることは知ってますが……

 今日のおすすめ本。

 赤城毅「贋作遊戯」光文社カッパノベルズ
 昭和初期を舞台に、青年詐欺師と強気美少女の活躍を描いたシリーズ第二弾です。
 今回はもう一人の詐欺師と対決します。狙うは三つの美術品、武器は舌先三寸と頭脳のみ。
 前作「紳士遊戯」の面白さを何倍にも研ぎすませ、膨らませた、大傑作です。
 まさに息もつかせぬ展開。そう来たか! あっ今度はこうか! あー、あれはそのことだったかー!
 読んでいる最中、ひたすら感嘆してばかりでした。
 文章や台詞まわしもスムーズになり、文句のつけようがありません。
4月10日
 新木伸さんに提案された「描写の反復練習」を試してます。
 「怒る人」とか「犬」とか「疾走」とか課題をきめて、その課題にかんして描写してみるのです。
 物語や設定を作らず、ある一シーンだけ切り取って書くというのはほとんどやったことがないので、文章がなかなか出てこなくて困ってます。

 そうそう、小説の練習といえばこんな本がありまして。

 鳥海尽三「アニメ・シナリオ入門」映人社
 タツノコプロなどでアニメのシナリオをひたすら書き続けてきた大ベテラン脚本家による、アニメシナリオの書き方入門書。
 小説とシナリオはもちろん別ですが、愛されるキャラクターをいかに設定し、いかに立てるか、いかに話をもりあげるか、という部分は小説に流用できそうです。つまりキャラづくりと構成ですね。
 具体例として、昔なつかしいアニメ作品の企画書やシナリオが引用され、「この作品はこのようにして作られた。このキャラはこれこれこういう理由でこういう性格になった」という過程がこまかく書かれています。タイムボカン、ハクション大魔王、キャシャーン、一発貫太くん、ポールのミラクル大作戦、ボトムズ……新しいものでもボトムズどまりというのが気になりますが、実際そのころに書かれた本なので仕方ありません。
 純粋に読み物としても面白いです。
 たとえば、「ギャグは風刺が欠かせない。ハクション大魔王は、階級社会への批判をこめて作られた」などという記述があり「えー!? うさんくせー!」などと思うのですが、読み進めてみるとなるほど納得。論理的なのです。
 小さなネタを膨らませてキャラや物語にしていくテクニックも紹介されている、汎用性の高い「ストーリーづくりの教科書」です。
 ストーリーづくりやキャラづくりに関する教本といえば「ハリウッド脚本術」が有名ですが、この「アニメ・シナリオ入門」もそれに匹敵する名著です。
4月3日
 小説家の新木伸さんからいろいろと助言を頂きました。
 「あらすじも一緒に載せておかないと小説読んでもらえないんじゃないか?」とか、
 「誰々さんの文章はヘナチョコだとか悪口書いて、責任とれるの?」とか、
 「二次創作は違法なので、覚悟なしにやってはいけないよ!」とか、
 「自分の事を国王とかいうのってキモくないか?」とか。
 なるほど、と納得できる部分が多々あったので、助言に従ってサイトを直していきます。
 あと、気持ちを切り替えるため、日記をですます調で書くときめました。
 
 今日は病院いったあと、神保町まで出て資料あつめ。
 神保町の雰囲気が好きです。
 あっちこっちの古本屋で立ち読みしていると時間を忘れます。
 まあ要するに歴史系資料を集めに行っているわけですが、あんまり古いのは高いので、歴史読本とかそういう歴史系雑誌のバックナンバーなどを買い集めました。幕末に塾を開いて多くの人材を育てた二人、吉田松陰と緒方洪庵の教え方がどう違うか、という記事が大変面白かったです。緒方洪庵の塾って基本的に塾生が自分たちで勉強し、師は競争システムを整備して学習を助けるって感じなんですね。
 あと、緒方洪庵の塾にいた人は医学以外にも砲術とか軍事学とか化学とかいろいろやってましたが、それでも緒方洪庵の医者としての信念に強く影響されたはずです。医者は身分制度を超えた存在でなければならない、病や怪我が身分を選ばないように、という考え。
 ぼくの「エゾ共和国建国記」の主人公である大鳥圭介も、そういう考えを叩き込まれてきたはず。
 いや、それは考えというより感覚。
 感覚のレベルで「そうなんだよ!」というのを根底においてみようと思います。理想主義というより、医者の本能みたいな。医者の本能をもっていながら、大鳥は軍事技術者であり、全陸軍の最高指揮官なのです。この矛盾!
 人間は平等だという考えがどこから生まれて来たのか、まえまえから不思議に思っていました。キリスト教だろうとあたりをつけていたのですが、必ずしもそうではなかったのですね。いわれてみればキリストより昔の中国に、人間平等を掲げる墨子がいました。彼の思想がどこから生まれたのかは専門家でないぼくにはわからないのですが。
 歴史雑誌以外に買ったのは、アイヌのトリカブト毒矢に関する本とか。
 
 さて本も買ったしあとは腹ごしらえだな、と神保町周辺をうろうろいていたら、「アフガン料理」なる看板が目に入りました。
 東京初のアフガニスタン料理店「神田カブール食堂」です!
 アフガニスタン料理なんて見た事もありません。興味をひかれて入ってみました。
 土壁に絨毯。壁画。雰囲気出てます。
 カレーを食べてみると、むう、なかなかおいしいです。少なくとも赤豆カレーは新鮮なうまさがあります。日本のカレーともインドのカレーともタイのカレーとも違う。やわらかい辛さで、素朴で、おいしい。でもナンをちぎってうまくカレーをすくうのできなくて困りました。どうやるんですか? って店員さんにきいてもまだできません。仕方なくスプーンでカレーすくいました。
 そういやあ、神保町およびその周辺って、妙にカレー屋多くありません?



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