終章「君がきっと楽園に」
一
裁判は終わった。
やっぱり予想どおりの結果だった。
二
ぼくは今も独房の中にいる。
スプリングが嫌な音をたてる安物のベッドに腰掛けている。
刑の執行は明日かあさってには行われるらしい。
だから、時間がない。
ぼくには時間がない。
別に処刑されること自体をどうこういおうっていうんじゃない。せいぜい笑って死んでいきたいと思っている。
だから、そのためにも、これを終わらせなければ。
ぼくはノートに文章を書いている。ペルーサに頼んで差し入れてもらったノート。
……ぼくがペルーサに連れられて、あの隣の惑星にいったこと。そこで見たこと。そして決意したこと。こっちの星に戻ってきてから、父さんと交わした口論。父さんの死。自分の力でやってみた改革。その失敗。感情にまかせての大虐殺。……デミさんの微笑み。
すべてを書いてきた。
そう、君が今読んでいるこの文章のことだ。これがぼくの手記だ。ずいぶん長くなったけど、もうすぐ終わる。
もう一つペルーサに頼んだのは、このノートを持ち出して、どうにか保管して欲しい、ということ。難しいと思う。反逆者が獄中で書いた、反帝国的思想が書いてあるノートなわけだから。でも頼んだ。きっとペルーサならやってくれると思う。
きみが今この文章を読んでいるということは、このノートは処分されずに済んだっていうことだよね。よかった。
君がどこの誰なのか、ぼくは知らない。知ることは絶対にできない。はっきり判っているのは、君がこれを読むときぼくはもう処刑されているということだけだ。
君の生きている時代がぼくの十年後なのか、それとも五十年後なのか、百年後か、あるいは千年くらい経っているのか、それはわからない。
その時代はどんな時代かな? 地球帝国はまだ残っているだろうか? それとも滅びてしまっただろうか? 銀河を支配しているのはまだ地球人だろうか?
それもわからない。でも、その時代にもやっぱり不幸なことはあって、納得できない理不尽なことがあって、自分のせいじゃない身分とかで苦しまなければいけない人がいて……それは確かだと思う。
そして君はたぶんそれを変えたいと思っている。生まれとか、種族が違うとか、そういう理由で泣いたり死んだりする人がいない世界を創りたい、そう思ってる。そうだよね。たぶんペルーサは、そういう人がいたらこのノートを渡してくれると思うんだ。そのあとも、ぼくと同じようなことを考える人達のあいだにこのノートが伝わっていくような気がするんだ。そうであってほしいって、ただの願望なのかも知れないけど。
だから。もしそうだとしたら。君がもし、ぼくと同じことを考えているのだとしたら。
どうかこの手記をよく読んで欲しい。どうしてぼくが失敗したのか、どうしてあんなにもたくさんの人を死なせて、自分も死ななければいけなくなったのか、そのヒントを掴んで欲しい。絶対に、ぼくと同じ間違いは繰り返さないで欲しい。
そういう役に立てるなら、ぼくはすごく嬉しい。たぶん、いろいろなことに意味があったって思える。なんでもいい、なにかが伝わってくれたって思えるなら。
看守が呼んでる。ずいぶん早いな。もう執行されるらしい。
じゃあここまでだ。もうペンを置くよ。
最後に。
君がいつか迷宮を抜け出せることを祈っている。
君がきっと楽園にたどりつけることを祈っている。
キリアス・アルカゼル
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