平成十一年へ

【日乗 平成十二年】
1月1日(土) 曇
 三宅八幡参拝。後、北大路橋近くで、鳩とユリカモメに餌を撒く。三宅八幡、参詣者多く、鳩少なく、一成たのしみにしていた鳩への餌やりが出来なかったためなり。
 深夜、ビデオの整理をかねて、劇場版『ブラック・ジャック』のアニメを観る。

1月2日(日) 曇
 午後、宝ケ池運動公園にて一成と凧上げ。風なし。糸を引きて、枯芝の上を走り回るのみ。
 夕食は、仁和寺門前の佐近。よい料理、応対もよし。塩昆布と柴漬けを求めて戻る。

1月3日(月)
 午後のこだまで帰静。

1月4日(火)
 SBSラジオ「おはようワイド」に出演。正月に関連して、古代の天皇陛下の年齢、曽我狂言が盆狂言から初春狂言に変わった理由など話す。また、落語の魅力についても話す。

1月7日(金)
 教授会の後、センチュリーHで短大の新年会。

1月8日(土)
 午前中、朝日テレビ・カルチャーで歌舞伎の講座「江戸の芝居見物」。
 午後五時より、ターミナルHで学園の新年会。

1月12日〈水〉 雨
 奥サン、上野の美術館へ往復。東京は寒かったとのこと。独立展、秀作なり。これにより、独立書人団準会員に昇格。
 一時より、清水の中央老人福祉センターで講演「歌舞伎の楽しみ」。
 金谷のばあば泊まる。

1月15日〈土〉
 午後、公開講座委員会。
 夕刻、一成と大岡山へ。初めて二人だけでのお泊まり。

1月16日〈日〉 曇
 十時過ぎ、上野で奥サンと落ち合い、独立展へ。奥サンの書風、少し変わりたるか。
 精養軒で昼食後、国立科学博物館。後、東京駅に奥サン、一成を送る。
 新幹線出発間際、一成泣く。東京の一泊、楽しかったよし。
 夜、船田氏と自由が丘「八剣伝」。アジア系らしきグループ喧しき中、一件についての悩みを聴く。

1月17日〈月〉 曇
 歌舞伎座夜の部、満席にて、演舞場を観る。
 『義経千本桜』「鳥居前」、早見藤太の科白に、正月らしい物尽くしあり。次、『身替座禅』。
 後、『助六由縁江戸桜』。新之助の助六、多少荒さはあるものの、荒事の名優誕生の予感有り。十二代目襲名の助六と思い合わせらる。新之助、名優たるに不可欠の「得意」の心あるものの如し。
 大岡山に戻りて、瀬名に電話すれば、『文学的体験とは……』完成の連絡あったとのこと。

1月18日〈火〉
 朝、昼食用に東京駅にて「深川めし」を求めて帰静。直接短大へ。

1月19日〈水〉
 午前中、『文学的体験とは……』見本一冊届く。
 夕食、出版のお祝いとて、奥サン、ちらし寿司を作る。後、鶏の足など。

1月21日〈金〉
 卒業研究発表会。我が方からは、久保寺さんのホームズものの翻訳と受容についての研究。
 夜、寝床にて、半藤一利『ルンガ沖夜戦』読了。感傷的修辞が、それなりの効果をあげている戦記なり。
 遂に風邪を引く。

1月22日〈土〉
 文芸部・イラスト研合同のコンパ。ケーキとコーヒーを届けたのみで、出席を見合わせる。歌舞伎を楽しむ会新年会を断って出席を予定したれど、風邪の為いたしかたなし。

1月23日〈日〉
 なお、風邪。枕元にラジカセを置き、ラジオから録音しおきし林家正蔵の『真景累ケ淵』を聴く。円生のものと較べる心算あれど、聴きつつまどろみ、テープを巻き戻すこと一度ならず。

1月24日〈月〉
 寒気ゆるむ。風邪、快方に向かう。内田百ケンの『山高帽子』、久方ぶりに読み継ぐ。『真景累ケ淵』の続き、「相撲浪曲全集」『関取千両幟』のカセットなど聴く。

1月25日〈火〉 雨
 朝、「きこり」の前にて、〈島田一般〉の原稿、永田副校長に渡す。来年度の使用教科書についても伝える。

1月26日〈水〉 晴
 十二時過ぎ、昼食を届けに奥サン来る。午前中『文学的体験とは……』百二十二冊届いたよし。
 四時過ぎ、六号館の廊下より、近き小山の燃ゆるが如きを見る。研究室の窓より、千切れ雲の夕映えたる見る。

1月27日〈木〉
 深夜、寝床で『山高帽子』読了。

1月28日〈金〉
 夜、朝日テレビ・カルチャーの歌舞伎講座、次節の予定など水野さんにメール。

1月29日〈土〉
 入試、科会、七時過ぎに帰宅。パルシェにて「わさび漬け」、新幹線ホームにて夏樹静子『家路の果て』を買い、大岡山へ。

1月30日〈日〉 晴
 午後、臼田甚五郎先生宅に、『文学的体験とは……』二冊、「わさび漬け」を持参。二時間半ばかりお話を伺う。先生、視界不自由なるもお元気なり。奥様、少し太られた如く見ゆ。
 夜、神奈川方多摩河原、比較的暖かなり。後、新丸子の焼鳥屋。例の件。
 十時前、大岡山に戻り、奥サンに電話。直後、酔いも手伝って眠りに落ちる。

1月31日(月) 晴
 午前二時頃、目覚め、五時過ぎまで『家路の果て』を読む。
 「ひかり」で帰静。瀬名へ向かうバスの中で『家路の果て』読了。昼過ぎ、直接短大に赴く。

2月2日(水) 晴
 看護学校入試の帰途、島田駅前の書店で林屋辰三郎『京都』を購入。読み始める。ここ何年か、〈都市構造の心理学〉といったテーマ、頻りに思はるる。

2月5日(土) 晴
 夕刻、一成と長尾川遊歩道を散歩。河畔の梢、春を待ちて、芽ふくらみたり。
 夜はしゃぶしゃぶ。鴨肉を加える。味よし。

2月11日(金)
 前日からの発熱のため、歌舞伎研修旅行引率できず。

2月12日(土)
 SATVカルチャーの歌舞伎講座、翌月の歌舞伎座観劇と文学散歩の事前勉強会、日程変更叶わず行う。

2月15日(火)
 SBSラジオ「おはようワイド」出演。修二会と能の関係など。また、長嶋茂雄について語るコーナーがあり、気分良く話す。

2月26日(土) 曇のち晴
 朝、奥サン、一成と新静岡センターよりバスで御前崎サンホテルに向かう。
 到着後、一成と岩場を歩く。一成、水の中の岩を指して、金色なりと言う。
 三人で灯台に上る。ホテルに戻れば、金谷のじいじ、ばあばの姿あり。
 皆でなぶら市場へ歩く。風強けれど、さすがに暖かき土地なり。
 風呂のあと、食事。その席にて出版祝いとて下さる。食後、少し酔いを醒ましてまた風呂。
 一成とバルコニーに出て、灯台の灯を眺める。

2月27日(日) 快晴
 早朝、用事ありとてじいじ帰る。
 朝食後、一成と丘の上の散歩道を白き女神の像のある見晴らし台まで辿る。椿の樹多し。空晴れて風強く、木立が途切れれば、岬に寄せる白き波、幾つとなく並びて動く見ゆ。サーフィンをする若者もあり。
 聖子ちゃん、車で迎えに来て、なぶら市場、お茶の里などに寄りて帰る。茶の文化に関する本、私家版らしきもの、求む。昼食は金谷の宅。
 船田氏引っ越しの日なり。

2月28日(月)
 ここ二十日ばかりの体調の悪さ、忙しさ。本日、久しぶりにこの日乗を記す。

3月1日(水)
 深夜、西村京太郎『寝台特急「ゆうづる」の女』読了。
 奥サンの枕元にあったものを、数日前ふと手に取りしままに読み始めしものなり。冒頭、主人公に関わる伏線らしきもの、処理されたとも思えず。但し、却って物語にリズムを与えたるか。
 内田康夫の、ある番組で、構想を完全に立てずにミステリーを書き始めしことありなど、話したること思い合わせらる。

3月3日(金)
 島田看護学校卒業式。帰途、静岡駅の本屋にて岡嶋二人『珊瑚色ラプソディ』を求め、ビールを飲みつつ読み始める。
 一基会のホームページを作成。ほぼ徹夜する。

3月4日(土) 久々の雨
 B日程入試。帰宅すれば「おうふう」の往復葉書に『文学的体験とは……』の案内あり。

3月6日(月)
 菊川で最後の合同教授会。
 菊川に向かう列車でバッキー氏と乗り合わす。海軍機が塗装されていて、陸軍機にジュラルミンのままのものが多い理由など、興味深い話を聞く。
 木宮乾峰学術文化振興賞の受賞決定。

3月7日(火) 晴
 風強く、花粉甚だ多し。
 深夜、岡嶋二人『珊瑚色ラプソディ』読了。久々にミステリーの名作に出逢った思い。主人公の造型、ストーリーテリング、細部の描写、全て高水準である。善意の登場人物だけで、これほどのサスペンスが成立することに驚かされる。もちろん、この作品を支えている大きな要素の一つが、読者の〈辺境への偏見〉であることは否めない。しかし一般に、金持ちへの偏見、貴族への偏見など、素材に対する様々な日常的印象を抜きに、作品は成立しないであろうから、文学的には問題とするに当たらないのかも知れない。

3月8日(水) 晴
 風強く、花粉甚だ多し。
 船田氏より電話。市が尾、未だ空き家なるよし。
 午後八時頃寝てしまい、深夜目覚める。入浴し、佐藤春夫『森鴎外のロマンティシズム』を読む。

3月11日(土) 曇
 SATVカルチャーの歌舞伎鑑賞旅行。歌舞伎座昼の部『春霞歌舞伎草紙』『雪暮夜入谷畦道』など。昼は劇場内で白魚の天蕎麦。季節の食事、好評なり。あと文学散歩。築地小劇場跡、新富座跡、猿若三座跡などを巡る。夕食は、むぎとろ。これも好評。
 東京駅まで見送り、大岡山へ。船田氏へ電話。途中から叔母さんと代わる。

3月12日(日) 雨のち晴
 午後二時、市が尾に赴き、船田氏の新築の家を見る。なだらかな丘陵を開発したるところにて、地勢変化に富み風情あり。近隣、梅の咲きたる家もあり。あと、大岡山に戻り、夜は自由が丘で天麩羅。与喜とかいう初めての店。少しは元気づけることの出来たるか。そのまま東京駅に向かい、十一時を過ぎて瀬名に帰着。F1レースのテレビなど見てから寝る。

3月14日(火) 晴
 石上さんの案内にて、初めて8号館の研究室を見る。
 夜、河上一家の送別会。鴨肉も加えてしゃぶしゃぶ。河上氏持参のシャンパン口当たり極めてよし。会果てて眠り、十二時頃目覚め、多少仕事をする。
 明日より研究室の引っ越し。

3月16日(木) 雨のち晴
 卒業式。謝恩会はHアソシア。ゲームの時間の長き謝恩会なり。

3月17日(金) 晴
 九回目の結婚記念日。夕方、三人で「あずさ」でお好み焼き。研究室の引っ越し疲れと花粉症で盛り上がらず。
 あと、一成と奥サン、金谷へ向かう。

3月18日(土) 晴
 夕方、奥サン寿司を持って帰り、二人で記念日のやり直し。

3月19日(日) 晴
 朝、河上一家、焼津へ引っ越すを見送る。あと、奥サン、清水で書道の合宿。
 この頃、鈴木光司『リング』を読んでいる。面白いが、文章に同人誌的な初々しさもあり。

3月20日(月) 晴
 春分の日。
 奥サン合宿から、一成金谷から戻る。
 土曜を含め、休日の三日を研究室の引っ越しに費やす。

3月23日(木)
 SBSラジオ「おはようワイド」出演。落語『妾馬』の話、時事川柳の評など。

3月24日(金)
 木宮乾峰先生御葬儀。
 研究室の引っ越し、一応終了。

3月25日(土)
 昼過ぎ静岡発の「こだま」で一成と京都へ。流石に、京都は寒し。
 夕食、宝ケ池通りヤナセ向かいのビストロ。牛蒡のポタージュ、珍し。

3月26日(日)
 Hグランビアの展望レストランで昼食の後、一成、ばあばと梅小路蒸気機関車館へ。
 一成、同館は実に六回目。京都での恒例行事となる。
 来館者にHOゲージのレイアウトを運転させるイベントなどあり。例によって、スチーム号にも乗る。

3月27日(月) 晴
 朝、建部歯科へ。
 ドラえもんの映画を見に、一成と三条河原町へ。
 「太陽王伝説」をメインに、「ザ・ドラエモンズ」のシリーズと「おばあちゃんの思い出」。
 一成はSLの活躍する「ザ・ドラエモンズ」が最も気に入った様子。
 「おばあちゃんの思い出」は泣いてしまう。前回の「のび太の結婚前夜」でも胸が熱くなった覚えあり。
 幼い頃の一成は「帰ってきたドラえもん」(?)を見た夜に、夢を見て泣いたことがあったのを思い出す。
 「太陽王伝説」、恒例のしずかちゃんの入浴シーンなし。児童ポルノ規制の影響か。
 『さらば宇宙戦艦ヤマト』のビデオを買って帰り、夜、ばあばと三人で見る。

3月28日(火) 曇り時々雨
 藤の森の青少年科学センターへ、プラネタリウムを見に行く(三人)。
 夕食は阪急デパートの上で寿司。店で鯖寿司を食べるのは初めてなり。重兵衛のものに比し淡白。

3月29日(水)
 北大路橋付近で鳩に餌をやる。ユリカモメ、未だ賀茂川に留まるも、この時は見えず。
 予定していたレストラン休業で、宝ケ池PHで昼食のバイキング。
 あと、お土産を買いに四条へ。ふと思い付いてデジカメ「ミーシャ」を買う。

3月30日(木)
 夕刻、三人で帰静。

3月31日(金)
 昼頃、県立美術館に赴き、一基会の展覧会を見る。柿下先生、三枝氏らにHPの説明をする。
 夜、中島屋Hの中華で誕生会。料理美味なれど、五十歳うれしくもなし。

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