僕らの旅立ち 〜ホームズver〜

 

 海……海はオレの世界だ……。オレは海が大好きだ。蒼とも翠ともとれる複雑な色。特有の匂い。塩を含んだ空気。
 海が好きだ。愛しているといっても過言ではない。

 そして、オレにはもう一つ、好きなものがある。
 それは……。

「リュナン?……こんなところにいたのか。どうしたんだ、ぼーっとして?」
「ホームズ……」

 オレの最高の友人、リュナンだ。オレはこいつが好きで好きでたまらない。なんでこんなに好きなのか分らないが、こいつのためなら何でもしてやりたいって思っている。

 リュナンは、寂しげな……それでいて、強い意思を含んだ目線で、これから向かうウエルト大陸を見ていた。リュナンはオレの姿を確認すると、口許を隠し、水気を多く含んだ瞳をこちらに向けた。もしかして……泣いていたのか!?

「いや……少し潮風にあたっていただけだ」

 微笑みを浮べるが……何処か無理のある笑顔だ。
 こいつの今の立場じゃ、心から笑うことなんてできないんだろうな。今も、故国を思って、人知れず涙を流していたのだろう。気の毒に……。

「それならいいが。もうすぐウエルト王国だぜ。上陸の準備はできているのか」
「僕はこのレイピアさえあればいい」

 公子であるリュナンにはレイピアがよく似合う。だけど、それ一本ではさすがにこの先厳しいだろう。旅をしていくには、もっと強力な武器や身を護る武具だって必要のはずだ……。しかし、オレたちにはそれほど金がない。乏しい軍資金を自分のために使うなと言いたいのか? 他の人間のために使えといいたいのか? くぅ、公子という出自にありながら、なんという控えめな……。

「部下たちもオイゲンに任せておけば大丈夫だろう」

 はあ!? あの爺さん……!?? オレとリュナンが二人で睦まじくしていると、いつもいつも、割って入ってくるあの爺さんか! あんなヤツを頼りにするなら、オレを頼りにしろっ!

「ラゼリアの騎士たちも大変だな。あんな口うるさいじじいによく我慢ができるものだ」
「彼らはわかっているんだ。帝国との戦いでラゼリア騎士団は全滅し生き残ったのは若い騎士ばかり。オイゲンは僕たちを守るために無理に無理を重ねてきた。その結果、何度も重傷を負って今ではもう、剣を握ることさえできない。その無念さがわかっているから、皆必死で頑張っているんだ」

 くう、いいこというなぁ。
 さすがだぜ、我が最愛の友リュナン……。

「まあな……確かにじじいや俺の親父がいなけりゃ俺たちは皆死んでいただろうよ。年寄り二人に命を救われるとはまったく情けない話だよな」
「ホームズ。僕たちは提督に言われるままにグラナダ砦を脱出したが本当にこれでよかったのか。提督を犠牲にしてまで生きる価値が僕たちにあるのだろうか……」

 お前にはあるとも!
 お前は、帝国の圧政に苦しむラゼリア祖国の人間すべての、希望なんだ!! お前の存在があるから、未来を信じて生き続けることができるんだ。だから親父も我が身を犠牲にしておまえを助けたんだ。オレもいざとなったら、自分を盾にしてでもお前を護るっ!

「そんなことを気にしているのか。だったら安心しろ。ヤツはそう簡単にくたばるような男じゃない。俺が保証してやるぜ」
 あの親父だもんなぁ……。
 とはいえ、あの状況じゃあ、さすがに……。
 っと、でもそんなこといったら、リュナンが余計に落ち込んじまうかっ。

「そうだといいが。でもなぁ、いくらヴァルス提督でもあの状況下では……」
「リュナン。終わったことをぐちぐちと悔やむなんてお前らしくないぜ。親父はお前のために無理をしたわけじゃない。自分の信念に従い、自分の意地を貫き通しただけのことだ。いずれ時期が来たらグラナダを取り戻す。そうなりゃまた親父とも再会できるだろうよ」

 オレはリュナンを元気づけるために適当なことを言った。

「そうだな……ありがとう、ホームズ」

 リュナンは少しだけ晴れた笑顔で、礼を言う。なんて素直で可愛いヤツなんだ……っ。オレも釣られて笑っちまうぜ。

「おいおい、よせよ。親父の生死はともかくとして俺は結構浮かれているんだぜ。前にも話したと思うが俺の夢は冒険者となって世界を旅して回ることなんだ。親父から解放されてようやくその夢がかなうというわけさ」
「冒険の旅か……楽しいだろうな」

 できれば……その旅にお前を伴いたい……。
 無理な話なのだろうか? 無理だろうなぁ。でも言うだけならタダ。それとなく打診してみようか……。

「ああ、気の合った仲間たちと面白おかしく暮らす。なあ、リュナン。お前も一緒に来ないか。こんなくだらない戦争はもういいだろう」
「ホームズ、僕は……」

 リュナンはそこで言葉を止めた。何かを考えているようだった。迷っているというより……どう言えば、オレが傷つかないか考えているように見える。

「僕は……」
「ははは、冗談だよ」

 オレはリュナンを困らせたくない。はっきり断わられる前に自分から身を引こう。将来への希望は持ち続けたいんだ……。

「それが無理だってことくらい俺にだってわかっているさ」
「うん……だけど、いつかきっと……」

 いつかと言わず、今すぐに……と思う。だが、<いつか>そう言ってくれるだけで、オレは満足なんだ。満足することにする。

 だがそうだ、その<いつか>が何時なのか、はっきりさせておくくらいはしてもいいのかもしれないな。ラゼリアを取り戻した時なのか、大陸から戦争がなくなった時なのか……。その日を支えにすれば、よりいっそう、お前のために頑張ることができそうだ。

「いつかってのはさ……」

 訊ねようとしたら、邪魔が入った。オイゲンの爺だ……。
「リュナン様、お話し中ですがウエルト島が見えてきましたぞ」
 毎度毎度、絶妙のタイミングで、オレとリュナンの間に現われる嫌なヤツだ。

「おっ、そうだ。悠長に話し込んでいる場合じゃないな。リュナンとりあえずソラの港に上陸しよう。あそこならウエルト王宮にも近いはずだ」

 あ、リュナン……っ。
 オレたちは今大事な話をしていたのに……っ。
 と、ああ、勢いよくオイゲンのところに走っていっちゃって……。
 ま、いいさ。
 祖国のために頑張るお前が、オレは大好きなんだからさ。 

「わかった。オイゲン、皆に準備を急がせてくれ」
「はっ、かしこまりました」

 リュナンと冒険の旅をする日が少しでもその日が早まるように、リュナンの笑顔が晴れやかなものになるように、オレは尽力する。

 リュナンが餓えたり、武器防具の不足が原因で、怪我をしたりしないように、稼いで、稼いで、稼ぎまくる。そして、オイゲンより役に立つことを証明するために、お前を部下をビシビシしごいたりもしてやる。オレはお前のために、何でもしてやるつもりなんだ。
 ……そう遠くないうちに、ともに旅をする日が来ると信じて、な。


<あとがき>

 阿呆ですみません……。
 因みに私、これ書いている現在、ティアサガクリアしておりません(爆)。リュナンが太守になるところまで見ましたけど(笑)。さらにいうなら、これは7割方、発売日に書いたヤツです。プレイ日記、キャラ視点で書こうかなって思ってセリフメモしつつ、脚色しつつ、プレイしていたのですが、すぐに気力がなくなって止め……(あんた…)で、これはその名残だったり。よってセリフのほとんどはゲーム中のまんまです。にしても、二人ともアホや……そして、ホモくさい……。ゆ、許して……っ(逃ダッシュ)。隠しにしようかとも思ったのですが、隠すとかえって怪しさが増す気がするので、堂々と表に置いちゃいました(死)。ああ、それにしても、これが私のティアサガ初創作(創作といっていいのだろうか…)になるのか……(遠い目)。

リュナンver

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