海……海はオレの世界だ……。オレは海が大好きだ。蒼とも翠ともとれる複雑な色。特有の匂い。塩を含んだ空気。 そして、オレにはもう一つ、好きなものがある。 「リュナン?……こんなところにいたのか。どうしたんだ、ぼーっとして?」 オレの最高の友人、リュナンだ。オレはこいつが好きで好きでたまらない。なんでこんなに好きなのか分らないが、こいつのためなら何でもしてやりたいって思っている。 リュナンは、寂しげな……それでいて、強い意思を含んだ目線で、これから向かうウエルト大陸を見ていた。リュナンはオレの姿を確認すると、口許を隠し、水気を多く含んだ瞳をこちらに向けた。もしかして……泣いていたのか!? 「いや……少し潮風にあたっていただけだ」 微笑みを浮べるが……何処か無理のある笑顔だ。 「それならいいが。もうすぐウエルト王国だぜ。上陸の準備はできているのか」 公子であるリュナンにはレイピアがよく似合う。だけど、それ一本ではさすがにこの先厳しいだろう。旅をしていくには、もっと強力な武器や身を護る武具だって必要のはずだ……。しかし、オレたちにはそれほど金がない。乏しい軍資金を自分のために使うなと言いたいのか? 他の人間のために使えといいたいのか? くぅ、公子という出自にありながら、なんという控えめな……。 「部下たちもオイゲンに任せておけば大丈夫だろう」 はあ!? あの爺さん……!?? オレとリュナンが二人で睦まじくしていると、いつもいつも、割って入ってくるあの爺さんか! あんなヤツを頼りにするなら、オレを頼りにしろっ! 「ラゼリアの騎士たちも大変だな。あんな口うるさいじじいによく我慢ができるものだ」 くう、いいこというなぁ。 「まあな……確かにじじいや俺の親父がいなけりゃ俺たちは皆死んでいただろうよ。年寄り二人に命を救われるとはまったく情けない話だよな」 お前にはあるとも! 「そんなことを気にしているのか。だったら安心しろ。ヤツはそう簡単にくたばるような男じゃない。俺が保証してやるぜ」 「そうだといいが。でもなぁ、いくらヴァルス提督でもあの状況下では……」 オレはリュナンを元気づけるために適当なことを言った。 「そうだな……ありがとう、ホームズ」 リュナンは少しだけ晴れた笑顔で、礼を言う。なんて素直で可愛いヤツなんだ……っ。オレも釣られて笑っちまうぜ。 「おいおい、よせよ。親父の生死はともかくとして俺は結構浮かれているんだぜ。前にも話したと思うが俺の夢は冒険者となって世界を旅して回ることなんだ。親父から解放されてようやくその夢がかなうというわけさ」 できれば……その旅にお前を伴いたい……。 「ああ、気の合った仲間たちと面白おかしく暮らす。なあ、リュナン。お前も一緒に来ないか。こんなくだらない戦争はもういいだろう」 リュナンはそこで言葉を止めた。何かを考えているようだった。迷っているというより……どう言えば、オレが傷つかないか考えているように見える。 「僕は……」 オレはリュナンを困らせたくない。はっきり断わられる前に自分から身を引こう。将来への希望は持ち続けたいんだ……。 「それが無理だってことくらい俺にだってわかっているさ」 いつかと言わず、今すぐに……と思う。だが、<いつか>そう言ってくれるだけで、オレは満足なんだ。満足することにする。 だがそうだ、その<いつか>が何時なのか、はっきりさせておくくらいはしてもいいのかもしれないな。ラゼリアを取り戻した時なのか、大陸から戦争がなくなった時なのか……。その日を支えにすれば、よりいっそう、お前のために頑張ることができそうだ。 「いつかってのはさ……」 訊ねようとしたら、邪魔が入った。オイゲンの爺だ……。 「おっ、そうだ。悠長に話し込んでいる場合じゃないな。リュナンとりあえずソラの港に上陸しよう。あそこならウエルト王宮にも近いはずだ」 あ、リュナン……っ。 「わかった。オイゲン、皆に準備を急がせてくれ」 リュナンと冒険の旅をする日が少しでもその日が早まるように、リュナンの笑顔が晴れやかなものになるように、オレは尽力する。 リュナンが餓えたり、武器防具の不足が原因で、怪我をしたりしないように、稼いで、稼いで、稼ぎまくる。そして、オイゲンより役に立つことを証明するために、お前を部下をビシビシしごいたりもしてやる。オレはお前のために、何でもしてやるつもりなんだ。 <あとがき> 阿呆ですみません……。 |