* ところレンスター城。 レンスター城の攻防戦は半年にも及びました。 防御力重視の城を設計してくれたリーフ王子の先祖に感謝しましょう。篭城できるだけの食料を備蓄しておいてくれたフリージ軍に感謝しましょう。 リーフ軍の窮地は、光の公子セリスさまによって救われました。レンスター城は平穏を取り戻したのです。 ……で! 共に苦労している、共に耐えているという一体感は、人と人の結びつきを強めるもの。人間は共に危機の中にある相手に、好意を抱きやすいようにできています。恋愛感情とは危機にある時こそ、芽生えやすいものなのです。篭城していた半年の間に軍内カップルが急増したのは、自然な流れといえるでしょう。 一つの戦いが終わり、次の戦いに備えるためのつかの間の休息の時間。それが今です。窮地のときに結ばれた恋人と、無事を喜び合い、心おきなくらぶらぶするには絶好の機会です。 「ねえ、パーン。あたしのこと、好き?」 「オーシンっ」 こんな感じの甘い会話が、城のそこここで聞けます。 戦いの日々で恋人を作りそびれてしまった人は、いよいよあぶれてしまうかもしれないと、焦りに焦ります。 「サフィ! 今日という今日はいい返事を聞かせてくれよぉ」 カップル乱立時にあぶれてしまった男性が今から恋人を得るのは、そうとうに困難です。従軍している女の子の数など、しれているからです。 自分には恋人を作るなんて無理なのだと諦めモードに入った男も多数です。 「ああ、彼女欲しい……」 諦めに入った独り身の男たちは、身を寄せ合って武器の手入れをしたり、愚痴を言いあったりしています。男同士の親睦を深めます。 ……虚しいですねぇ。 でももっと虚しいのは、独り身の女の子でしょう。この状況下で誰からも言い寄られない、独り身の女の子でしょう。 ……寂しい状況ですね。 そんな状況に陥っている女の子がいるのかって? いるんです。 * レンスター城内。こちらは、マチュア他三人に充てられた部屋です。でも今は、マチュアしかいない部屋、です。 「イリオスとカリンってそういう関係なのね……」 暇人マチュアは窓辺に座り、よせばいいのに外を眺めていました。 「いいなぁ。仲良さそう」 マチュアの口から、羨望の言葉が漏れました。 「って、別に私は羨ましくなんてないわよ、ええ!……はあ」 誰も聞いていないにも関わらず、ついつい言いつくろってしまいます。 やがてイリオスとカリンがマチュアの視界から消えました。そして、次なるカップルが門を通過しました。 「……また仲睦まじい2人が外に出ていくわね。腕なんか組んでまあ」 その様子を見るだけでも、マチュアの胸中は穏やかではありません。 「え、嘘、あれは……」 その睦まじい男女が誰と誰なのかを確認して、マチュアの胸は、さらに騒ぎました。 なんと、そのカップルは……。 「ス、スルーフとサラ!?」 だったのです。 サラといったら、従軍している女の子の中で最年少です。まだ13歳です。マチュアはもう20歳です。因みに恋人いない歴も歳と同じです。 サラの相手スルーフは、甘いマスクと優しい性格で、女性陣に多大な人気を誇っています。神父というストイックな職業も人気に一役買っている模様です。女の子たちがキャーキャー騒ぐのを、マチュアは嫌というほど耳にしていました。 「……サラに……恋人……しかも、スルーフ……」 子供のサラに恋人がいたこと。その恋人がモテモテ神父スルーフだったということ。マチュアには、かなりの衝撃でした。 「な、なんで子供のサラに人気者の恋人がいて、大人の私に言い寄る男が、一人もいないの……」 マチュアの身体から、力という力が抜けてしまいました。腰掛けていた椅子から滑り落ち、床にへたり込んでしまいました。 マチュアの名誉のためにいっておきますが、彼女は本当に誰からも誘われなかったわけではありません。 「剣の稽古に付き合ってくれないか?」 剣、剣、剣。稽古、稽古、稽古……だったのです。 二人きりの時間を持つことで親密度を上げようとしていた……のでしょうね。男ども。これまで気楽に付き合ってきた女友達を改めて誘うというのは、意外と勇気がいるものです。稽古の後でそれとなく雰囲気を出してみて、反応を見つつ告白! なんて計画を立てていたのでしょう……。 ただマチュアはどうも、その手の駆け引きというか、男心の妙というか……が、分からないみたいで“そういう雰囲気”には全くならなかったのです。 「マチュア。この後少し、時間をとれないか?」 「マチュアさん、よかったら一緒に食事をしませんか? おごりますよ」 「前からマチュアさんのこと、気になっていたんです」 これでは芽生える恋も芽生えません。 「はあ……」 マチュアは盛大な溜息を吐きました。 可愛いと形容される顔ではない、と思います。 「こりゃ、駄目だわ……」 これではモテるワケなど、ない。恋人など出来るはずがない。 すっかり諦めモードに入ったマチュアは、寂しい結論に達してしまいました。 |