<フォルアーサーのぼうけむ>

「可愛い妹ティニー。今、どうしている? 泣いていたり、しないだろうか?」

 おれことアーサーは、幼い頃に別れた妹を迎えるための旅をしている。
 因みに、一人旅ではない。ひょんなことから知り合った少女フィーと一緒だ。ようするに二人旅。おれは彼女の天馬に同乗させてもらっている。

「もしも、もしも叔父の下で幸せだというなら……それでもいい。だけど、幸せでないのだったら……おれがお前のこれからを、きっと幸福なものにする……」

 妹は幼い頃に、母と共に連れ去られた。アルスターの叔父に。
 そして、現在もアルスターに居て、半分囚人のような生活を送っているという。
 おれはティニーが少しでも哀しい想いをしているのなら、救い出さなくてはいけない。
 昔、母さんと“大人になったらティニーを護る”って約束をしたから。

 あ。
 ……って、言ってもな。約束したから仕方なーくティニーを迎えに行くってワケじゃないぞ!
 おれ自身ティニーに会いたいって思っているし、彼女には誰よりも幸福になって欲しいって思っているし……出来ればおれの手で幸福にしてやりたいとも思っている。ティニーは大切な……多分この世に存在する、唯一の家族だから。当然だよ。

「ティニー。すぐに行くからな」

 と、決意を新たにするおれ。

 おれはシレジアで生まれ、つい先日までシレジアに居た。
 誰もが呆れるほど、シレジアとアルスターは遠い。
 だが、これもティニーの為だ! とおれは弱音の一つも吐かず旅を続けている……。 

「にしても、流石に疲れたなぁ。結構移動したもんな。今、何処らへんなのさ。そろそろイード砂漠、見えてくる?」
「……」
「なぁ、フィーってばさ」

 おれは、空翔ぶ車……もとい、天馬マーニャの運転手たるフィーに話しかけた。

「アーサー……」
 フィーの溜息が聞こえる。
「ん?」
「何が、疲れたな、よ! 疲れたのはあたしとマーニャよ! あんたは後ろに乗っかってただけじゃない! しかも、独り言ぐちぐち言いながら!」
「げ。独り言って……おれ考えること、しゃべってた?」
 うーん。おれ、独り言好きっていうか、癖になってるからなぁ。あり得る……。
「可愛い妹さんを幸せにしてあげたいんでしょ」
「あの、ほらさ。ペガサス運転しながら、フィーが眠くなったりしたら危ないじゃん。だ、だからさ。BGM代わりに少ししゃべっていたんだ」
「あんたの独り言は、気を散らせるだけ! かえって危ないわっ」
「そう? ま、細かいことは気にするなよ。おれ達、親友じゃん」
「そんなもん、なった覚えはないわあっ!」
「痛っ……」

 フィーは肘を曲げて、おれの左脇腹に打ち込んだ。強暴な女である。

「十日かそこら前に知り合ったばっかのあんたに、なんで親友なんて言われなくちゃいけないの。物事には順序ってモンがあるでしょう」
「そうだなぁ。じゃあ、まずはお友達からお願いします」
「うん。まあ、それなら考えない事も……って、そういう問題じゃなーーーーいっ!」
「じゃあ、どういう問題さ」
「どういうって……ああ、もういいわ。あんたと話をしてると、こっちまで頭悪くなりそう。言いたい事わかんなくなっちゃった」

 それは気の毒なことだ。でもまぁ……言いたい事わかんなくなるなんて、おれにはいつものことだ。大事ないだろう。

「ふうん。で、結局ここは何処なのさ」
「イザークの外れ……の筈よ。自分で地図見てよ。こっちは文字通り手が離せないんだから」
「えーー、まだイザークなのか!! アルスターまで、かなりあるじゃん」 

 因みにおれは、地図など読んだことがない。見てもさっぱり分からないので、荷物袋の奥底に仕舞いっぱなしだ。出すのも面倒。よって、フィーの言う事を信用することにする。
 視線を下へ移動させてみる。
 山ばっかりだった。緑が深い山なので、砂漠の近くって感じはしない。辺境であるイザークの外れ、という言葉は事実っぽい。
 どうやらおれは今、イザークの上空にいるようだ。
 視線をそのまま固定する。始めて見る景色を、しばし愉しむことにする。まあ見るものといっても、山ばっかりなんだけどさ。

「……ん?」

 険しい山の一つ、木々に隠れるような小さな泉を見つけた。それを見ながら、喉乾いたなぁ、なんて考えていると、フィーは手綱を繰って下降を開始した。
 さっすが、友達(仮)だ! 
 おれのことをよく分かってくれる!

 まあこんな感じで。おれたちはイザークの地に降り立った。

 遠くに眼を凝らせば、城が見えた。
 強固だが装飾性がない、原始的な造りの。
 おれはペガサスから降りて、身体を伸ばした。乗っているだけといっても、身体は疲れるのだ。不慣れな乗り物なのだから当然のこと。マーニャとおれ達は、携帯していた食料と泉の水とで身体を充たした。
 大きな石を椅子の代わりにした。足にあたる石の硬質が、冷たくて気持ちよかった。

「それにしても、アルスターだなんて。あんたって、本当に馬鹿なのね。いっくら、生き別れた妹さんの為とはいえ……」

 一心地ついたところで、フィーが切り出した。

「馬鹿馬鹿言うなよ、馬鹿って言う奴が馬鹿なんだぞ」
「アルスターなんて、シレジアからどれだけの距離があると思っているのよ。イザークからだって、結構あるわよ。歩いていくつもりなの」

 失礼なことを平気で言う娘だ。シレジアとアルスターだぞ? 地道に歩こうなんて無計画なこと、考えているわけないじゃないか。馬鹿にするにもほどがある。

「いや、このままペガサスに乗っけてってもらおうと思っているんだけど」

 正直におれ計画を話すと、フィーは眉を中央に寄せた。

「はあ。なんでこんな馬鹿拾っちゃったの、あたし。早いところ、捨てなきゃ……ああ、もうっ」
「何、しょぼくれた顔しているんだい、相棒! おれたち、まだ若いんだからさっ、明るく前向きに行こう。な?」
「な? じゃないわよ。あたしは十分、前向きに生きているわ」

 親友というのは否定されたが、相棒というのは否定されなかった。どうやら、おれとフィーの仲は相棒ということで落ちついたらしい。

「あのね。あたしはこれからセリス様の解放軍に加わるつもりなの。だから、アルスターまでなんて、付き合えないわ」
「え、そうなのか?」

 は、初耳だ。困った、おれが勝手に立てていたアルスターまで同乗計画が、決行不能になるじゃないか。どうしようか……。

「な、な、なんだって、解放軍に?」

 おれは心の動揺を隠して訊いた。
 フィーは目を輝かせて語り出した。

「あたしのお母さんは、シレジアの天馬騎士でね。……シグルド様の軍で戦っていたの。それでシグルド様の英雄物語を聞いていて。ずっと憧れていたんだ、正義の戦いに。で、シグルド様のご子息セリス様がイザークで旗揚げされたって聞いたから、これはあたしも頑張らなくちゃって思ったの。なんでだろう。そうしていたら、お兄ちゃんにも巡り会えるって気もするんだ。だから。理由になってないかな」

 照れたように笑って、フィーは言った。

「……ふうん」

 分かるような、分からないような理由だ……。
 しかしそう言われると、解放軍に加わればおれも妹と巡り会えちゃうような気がしてくるから言葉って不思議だ。それに解放軍なら、馬やらなんやら、乗り物だってたくさん用意されているはず。歩いてアルスターまで行くよりは楽ができる。
 うーん。おれも解放軍に参加してみようかな……。
 それにしても兄弟を探しているということだけでなく、両親の所属までが同じだったとは驚きだ。おれとフィーは、なんらかの縁があるのかもしれない。

「しっかし、奇遇だよなぁ。おれの母さんと父さんも、シグルド軍に参加してたんだ」
「え、そうなの!?」
「うん。そして、戦時中に結ばれ、おれやティニーを儲けるに至った……」
「う、うちの両親よ! あたしも、そんな感じで生まれてきたの。きゃー、すっごい偶然っ!」
「偶然じゃなくて運命なのかもな、案外。おれたちの出会いもさ」
「え……」

 フィーは声を詰まらせた。

「……う、うん……そ、そうね、そうかもねっ」

 彼女の顔が、絵の具で塗ったくったかのように赤くなっている。いきなり風邪でもひいたか? うつされやしないだろうか。心配だ。

「うちの母さんは、魔道士でさ。ティルテュっていうんだけど。もしかして、お母さんから、聞いたことあったりしない?」
「ティルテュ、さんね。珍しい響きの名前よね……。うーん、あっれえ。うーん、昔、どっかで聞いたことがあるような、無いような……」
「君のお母さんの名前は? と、言ってもおれ、子供の頃に別れたっきりだから、聞いていても、覚えてないかもしれないけれど」
「フュリーって言うの。シレジアの天馬騎士よ」
「フュリー? あれ? おれも、聞いたような覚えがあるような気がする。いや、なかったか? いいやあったぞ、確かに」

 響きには覚えがある。その名を口にする時、母さんはいつも辛そうに顔を歪めたことは覚えている。理由は見当もつかないけど。ティニーに再会できたら、フュリーという人のことも聞いてみよう。

「じゃあ、あたしたちの両親、本当に知り合いだったのね」
「ああ。共に戦った仲間だったんだ……」
「案外、本当に運命かもね……あたしたちが会ったの」
「そうかもなぁ。君も、お母さんが天馬騎士だったから、天馬騎士になったの?」
「そうね。簡単に言っちゃえば、そうかもね。あんたもなの?」
「うん。母さんは、フリージ家の出でね。血筋のせいか、環境のせいか……雷系が得意な魔道士だった。おれも血のせいか、攻撃用魔法の才能あったみたいでね。魔道士になったんだ。おれは何故だか雷より風の魔法のほうが得意だったりするんだけど……」
 本当は……魔道士の母が強すぎたのか、魔道士にしかなれなかったってのもあったりする。それにしても、雷より風のが得意ってのは不思議だよな。フリージっていったら、雷魔法が得意な家系なのに。

「まあ……氏より育ちっていうもんな。シレジアで生まれ育ったからなんだろ」

 納得させるように、呟いてみる。口に出すと、ホントにそんな気がする。だからおれ、独り言が好きなんだ。

「へえ。うちのお兄ちゃんも、風が結構得意よ。まあ、得意っていうよりは好んで使うっていう方が正しいかな。アーサー同様シレジア育ちだしね」
「育つ場所からは影響受けるよな。やっぱ」
「魔道書も入手しやすかったりするし、教えてくれる人も多いもんね」
「……う、うん」
 雷系の魔道書、家にたくさんあったよなぁ……。そりゃ、風系も同じくらいあったけどさ。
 おれの師匠は北トラキアからの亡命者だったから、特にどの魔法が得意っていうのもなかったし……。
 ……不思議だよなぁ、どう考えても。

「まあ、うちの場合、お母さんが風系魔法好きだったってのも大きいんだけどね。実際には光系の魔法も得意だったりするし、お兄ちゃん。基本的に魔法ならなんでも器用に使いこなすな。でもね、一番得意なのは杖なの。凄いのよ、何だって扱えちゃうの。リザーブもレスキューも、杖習い始めて、すぐに習得しちゃったの」
「……杖!」
「? そ、杖。お兄ちゃんね、昔は風系の魔道士目指してたの。回復魔法は好奇心から少し触ってみようかなってくらいだったの……。それなのにね。並外れた才能があるのに使わないなんて勿体無いって、杖を教えてくれた司祭さまに説得されちゃったのよ、涙ながらに。で、まあ、結局お兄ちゃん、能力的には器用で、でも人の頼みを断わったりするのは苦手な不器用さんで。それで結局、杖と攻撃魔法、両方勉強することになったの。で、そうこうしているうちにセイジの称号まで取っちゃって……っていうか、取らされちゃって」

 フィーは、実に楽しそうに兄のことを話す。兄弟の仲の良さが窺い知れる。兄妹仲がいいのは、いいことだ。
 ……それにしても。
 その兄という人物! なんと羨ましいことだろう。言葉が漏れる。

「いいなぁ。杖使う才能があるなんて、ほんと、羨ましい話だなぁ。しかもセイジの称号っ! 憧れだ……」
「あんたは攻撃魔法専門なんでしょう。いいじゃない、それも。うちのお兄ちゃんだって、最初はそうなるつもりだったんだから」
「うん。でもさ、おれは普通の杖も使えるようになりたいんだ」

 母さんはおれに杖の習得を望んだ。だから昔は教会に通ったりしたこともあった。でも、さっぱり芽が出なかったんだ。フィーのお兄さんとは逆に、魔道書専門に絞ったほうがいいって廻りから忠言されてさ……結局、断念したんだ、杖使いになるの。
 おれは父さんの才能を継がなかった。だから、その分! ティニーは父さんの能力を濃く受けているに違いないって思うんだ。
 きっと、性格も容貌も父さん似。おれの記憶には全くない父さんは、むちゃくちゃな美形で、性格も大人で優しく、さらに伝説の神器の継承者で能力も高い……とにかく素晴らしい人だったって母さんは言っていたから……。
 ティニーはきっと、素晴らしくいい娘に成長している……。ほわん。
 早く会いたいな……。
 解放軍入り、本気で考えようかな。

「フィーのお兄さんって、お父さん探しにいったまま行方が知れないんだったよな」

 道々聞いた話を思い返しながら、おれは言った。

「うん、そうなのよ」
「それほど優秀な杖使いならば、一度会ってみたいな。そして、是非コツを教えてもらいたい! おれ、おかしなことなんだけど、どうにも杖と相性が悪いみたいでさ」
「……別におかしなことなんて、ないと思うけど」

 実際のところ、魔法を使いこなす素養のある人間ってのは、それだけで稀だったりする。素養があっても、修業にはある程度の時間と集中が必要だったりもする。同時に習得したという、フィーのお兄さんの方がおかしいのだ。

「うーん……」

 ただ、おれの場合は血筋から行くと、扱えて当然というか、扱えないとマズイというか……なんだよなぁ。

「大体あんた、魔道士なんでしょう。今更、杖のコツなんて教えてもらってどうするのよ」
「ふ。まだクラスチェンジってのが残っているじゃん。魔道士系の上位職は杖を扱えるものが多い! おれにだって、普通の杖を振れる可能性は残っている! おれはそれに賭ける!」
 立ち上がり、がっつぽーず!
「おー。頑張れーーーーー」
 フィーは、手を叩いて感心している。音と声が乾いているように聞こえないでもないけど、きっと気のせいだろ。気のせいに違いない。

「うん、頑張るよ。だからさ。もしお兄さんと再会できたら……、フィーからも頼んでくれよ。杖使うコツ、教えてやってくれって」
「そりゃ、まあ……いいけど。あたしが言わなくても、熱心に頼めばお兄ちゃんは断われないよ」

 苦笑混じりに言ってから、何かに思い当たったらしく、フィーは首を傾げた。

「あれ? でもそれじゃあ何。それまであたしと一緒にいる気なの?」
「いけないか?」
「……いけないってわけじゃないけど、うーん。だってあたし、これから解放軍に参加するんだよ?」
「うん」
「うん……って、え、じゃ、あんたも一緒に参加するって言うの? 解放軍に?」

 大きな目を、さらに開くフィー。おれは頷く。

「妹さん探すための旅なんでしょ? いいの??」
「うん。何でだろうか。おれも解放軍に参加すれば、いつか巡り巡って、ティニーと再会できる気がしていたんだ。だから、解放軍に参加するのも悪くないかなぁって。そう思ってたとこでさ」
「……そうなんだ。あんた、弱っちそうだけど、ちゃんと戦える? 魔道士は貴重な存在だから、酷使されるわよ?」

 フィーはいたずらっぽく言って、おれを見上げる。
 おれ、弱くはないけど……。体力ナシだから、酷使は嫌だなぁ。肩を竦める。顎に手を当てて、考え込むポーズを取る。
 フィーは明るく笑った。

「そんなに難しく考えることないわよっ! あたしだって、見習いの身だから強くはないんだ。天馬騎士も貴重っぽいから、酷使されそうなのにね」

 む。おれのこと、弱っちい見習い魔道士だと思っているな? 失礼なヤツ。

「言っとくけど、おれはなかなか強いぞ」
「へえー、そうなんだ」

 胸を張る。フィーは、抑揚無く言って、またまた手を叩いた。どうやら気のせいじゃないっぽいな、この乾いた声と音。

 ……。
 ……もしかしなくても、信じてないってことか?
 ……おれが強いのは、ホントだぞ?
 ……うーん。
 遠い記憶の母さんは、おいそれと他人に漏らしてはいけないと言っていたけど……。
 でもでも、母さんや父さんと共に戦ったって人の娘になら、構わないよな。うん。構わない、構わない。
 そう自分を納得させてから、口にした。おれの強さの根拠を。

「おれ……ここだけの話、伝説の神器、継承しているからさ」

 神器の継承者。一世代に12人しか生まれない……人を超えた能力を持った者たち。おれはその内の1人なのだ。えへん。

「え……」

 と、音を発したきり、フィーは言葉を失った。口を半開きにしたまま、視線を上から下、下から上に動かした。おれの全身を観察するように。
 どーだ、驚いたか。
 フィーは先に給水したばかりの水筒の蓋を開ける。口に含み、喉を湿らした。そうしてからやっと、口を開いた。

「神器の継承者ってさあ……、凄いことなんじゃないっけ? 確か、血筋も能力も常人を遥かに超えるはず……。あ、あんたってば、そんな風には見えないっ! ぜんっぜんっっ」
「見えない、かな。まあいいじゃん。その方が敵も油断するってものさ。実力は、これからの戦いで証明するよ」
「そう……? じゃあ一応、ホントに一応だけど。まあ、信用して期待することにしましょう」
「信じてもらえて嬉しいよ」
「で、何、何の神器の継承者なのよ。トールハンマー? フォルセティ? それとも、ファラフレイム??」

 詳しいな、この娘。声に期待を輝かせて、伝説の神器の名前らしきものを、さらっと並べたてた……ようだ。おれは、どの名前も知らないぞ。つーか、自分の持っているの以外の名前なんて、聞いたこともない。因みに、おれの持っている伝説の神器は……。

「えへん。聞いて驚け。おれはバルキリーの継承者なんだ!」

 フィーは口に含んでいた水を、地面に零した。そして、先以上に不審を露にした眼でおれを見た。

「あ、他の杖はさっぱり使えないんだけどさ。でも、バルキリーだけはちゃんと扱えるんだ、おれ。本当だぞ」
「はあ。あんたの話をマトモに聞いたあたしが馬鹿だったわ」

 フィーは、すくっと立ちあがったかと思うと、素早い動作でマーニャに跨った。

「ちょっと、フィー! 待てよ、おれも行くってばあ!」
「解放軍に参加したいんだったら、勝手に参加したら。でも、一緒に行くのはごめんよ。あたしまで門前払いされちゃう。こんなうそつき連れてったら。じゃあね、もしも本当に縁があったてんなら、また会えるでしょ!」

 フィーは、あっというまに上昇し、翔んでいってしまった。
 おれは呆然とフィーを見送って、悲しい息を吐いた。

「本当のことなんだけどな。まあ、信じてもらえなくても仕方がないのか。おれ、魔道士だもんなぁ。杖が使えない……」

 エッダの直系のはずなのに……。バルキリーの継承者なのに。何故なのだろう。
 懐に入れて肌身離さずに持ち運んでいる“バルキリー”に触れてみる。柔らかく強大な力が身体を満たす。それこそ神器の継承者の証なのだと、母さんは言っていた。

「にしても、変な形の杖だよなぁ、聖杖バルキリーって。神器だから特別なのかな。どっちかっていうと、豪華な魔道書って感じ……」

 おれはバルキリーに触れながら、しばし、空を見上げていた。
 フィーが戻ってきてくれるのではないかという、微かな期待を込めて。
 だが、彼女が戻ってくる気配はない。
 ……仕方ない、歩いて山を降りるか。そうして、解放軍と合流しよう。
 フィーの誤解だって、いずれ解けるだろう。だって、おれは本当に神器の継承者なのだから。

「おーし、んじゃ、行くとするか!」
 と、おれは解放軍と合流すべく出発……出発……。出発しようと思ったけど、できない。

 解放軍って、今どの辺にいるんだよ?
 何処に向けて出発すればいいんだ……?

 おれは途方にくれた。
 解放軍……イザークのどっかってことは確かなんだけど、イザークっていっても広い。
 うーん。困った。だけどここでぼーっとしていても、仕方がないし……。

 ま、どうにかなるだろ。

 とりあえずおれは、フィーの翔んでいった方角に歩き出した。山を降りて、街を探すことに決めたんだ。
 街での情報集めは、冒険の鉄則だからだ。
 解放軍の情報、得られるといいな。

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