* てくてくと地道に歩いて! はあ。思わず、重い息を漏らしてしまう。 にしても、結構な距離を歩いたよなぁ。足が痛くなってきた。 「およ?」 ゴシゴシ。見間違えじゃないかと、目を擦ってみる。 * 「……で、お前は二十人連れて南だ。お前は……十五人つれて、西へ行け!」 もしかしなくても、街を襲う相談をしている……? た、大変だっ。 っと、思ったけど、その前に……。 おれは、荷物入れの中を整理することにした。 まず、ウインド、エルウインド、サンダー。これらの魔道書は当然貰っておく。ウインドは、自分が使ってきたものもある。でもまあ、親の形見だ。それに、使い込んであるものの方がいいという話も聞く。貰っておくことにする。愛用のウインドの方は、そのうち中古屋にでも売るか。 カビの生えた衣服に包まって、『値切り』と彫られた腕輪と、『アーダン‘s』とぎこちなく記名された指輪が入っていた。この二つは、銀に上品に宝石がちりばめられた華美な物だった。捨てるにはあまりに惜しい。だが持ち歩くには、やはり邪魔だ。そこで左の腕と指に、装着してみた。いい感じ。アクセサリーはあまりつけ過ぎると、ちゃらちゃらした感じになりそうでヤなんだけど……。ま、2つ……いや、母さんの形見のペンダントを入れて3つか? ま、3つくらいならいいだろ。 残りの古着や、食べ物。悔しいことに使えないリライブの杖は捨てた。さすがに邪魔になるからだ。 よし、荷物整理終了、っと。 おれが荷物整理をしている隙に、盗賊団は行動を開始してしまったようだ……。なんというせっかちな奴ら。 今、時間的な余裕はない。 「遠き日よりありて、現在を創りし万物の源よ。今日を護り未来を創る自然の力よ……」 屈強な盗賊らは、“何か”を呟きながら真っ直ぐに歩いてくるおれに気が付いたようだ。 「あー? なんだ、お前はぁ」 カモだといわんばかりに鼻先で笑った盗賊は斧を振り上げ、おれに襲いかかってきた。 「我を導く空の流れとなり、全ての力の標準をここに合わせよ! バルキリーっ!!」 まず大地が声を上げる。 この魔法。 「……ヒッィ」 バルキリーは標準として定めた、街門の破壊に従事していた盗賊を破裂させた。その周囲にあった者も、おれに襲いかかろうとしていた無謀な盗賊も、力の余剰で切り裂いた。 「ふう。運動にもならないな。やっぱ、バルキリーって凄いよなぁ。使いこなしちゃうおれも天才っ!」 なのに、何で他の杖は使えないんだろうなぁ……。 レスキューやリザーブを! とは言わないけど、ライブ、リライブくらいは覚えたいよ、エッダの直系としてはさぁ。やっぱ、解放軍でフィーと合流して、お兄さんを紹介してもらわないといかんなぁ。素養は、きっと、多分、あるはずなんだから……、コツさえ教えてもらえれば……っ! 杖、使えるはずだ!! 「っと、そのためにはまず、情報収集だな」 おれは解放軍の情報を得るべく……全壊した門の跡を踏み、街中に入った。 * 情報収集といえば! 「あ……のっ、もしっ!」 震える声が聞こえた、後背部から。 「何、おれ?」 腰に手を当て、胸を張るおれ。 「?」 にこにこ。 「あの……?」 にこにこ。 「あ、あの……? この手は……?」 およ。もしかして、お礼をしようというんじゃないのか? 「?? お礼くれるんじゃないの?」 率直に聞いたらば、おっさんは困ったように眉を下げた。 「あ、いや……その、私も、盗賊団から村を守るように言われて、ここに来た者でして……」 礼をくれるのでなければ、用はない。おれは適当なことを言って、情報収集をするべく酒場に入ろうとした。 「あ……れぇ?」 開かなかったのだ。鍵が掛かっているようだ。 「おそらく、盗賊がこの街を狙っているという情報を入手した地点で、金目のものを持って非難したのでしょう……」 言われてみれば、街門からここに至るまで、人っ子ひとり見当たらなかった。 「もし、リボー城まで同行していただければ、酒の一つくらい用意できると思いますが、いかがですか」 丁寧な言葉使い、背後に控える数騎の兵。そして城への招待……? 「リボー城ねえ。あんたひょっとして偉い人なの? それにしちゃ、腰が低いかな。あ、きっと中間管理職なんだ。で、何、おれを雇いたいとか? でもおれ生憎と傭兵稼業なんてやってる暇ないんだ」 ティニーとフィーのお兄さんを探す為に、解放軍に参加しなくちゃいけないんだから。 「じゃあな」 と手を振って、おれはその場を去ろうとした。行くアテは正直ないが、ここにいても仕方が無い。適当に歩いていれば、解放軍の進軍ルートに重なるかもしれないし。人生なんとかなるさ。そう思って足を動かした。 「お待ち下さいっ!……私は……っ」 おっさんは、移動しようとするおれの肩を掴んだ。そうして、顔を食い入るように見た。そこまでしておきながら、続く言葉をなかなか出さない。ちとイライラしたおれは、優しく促した。 「言いたい事があるんなら、はっきり言ったらどうだよ?」 顔を伏せる。上げる。おっさん。 「私は、もしかしたら貴方のご両親を知っているかもしれません」 ひょっとして占いの押売り屋か? おれは不審に満ちた眼差しを、おっさんに向けた。おっさんは恭しく礼をした。 「これは申し遅れました。私はオイフェと申します。かつて、シグルド公の相談役を務めていたこともあります」 ひゃあ、おれってツイてる。適当に歩いていただけで解放軍に当たるなんて。このツキがあれば、ティニーと遭遇する日も、バルキリー以外の杖を使えるようになる日も、そう遠くないだろっ。 「そうか。おれは、アーサーって言うんだ。シレジアから来た。よろしく」 おれは、礼儀正しく手を差し出した。オイフェはしっかと握り返してきた。 「あの魔法を拝見して、もしやと思いましたが……本当に、アーサー殿とは。ご無事で何よりです。覚えてはいないでしょうが、私は、赤子の貴方をこの手に抱き上げたこともあります。あの一際泣き声の大きかった赤ん坊が、こんなに立派になられて」 オイフェは泣き出さんばかりだ。 「よく、おれがアーサーだって判ったなぁ」 父さんと同種! ああ、それは嬉しい言葉だ……。継承者なんだから同じ種類の力で当然なんだけど、杖使えないってのがコンプレックスになってるのかなぁ。イマイチ、父さんの力を強く受け継いでいる気がしないから……。 「それにしても、知己のもののお子と、こうして再会できるとは……運命に感謝します!」 あーあ、オイフェの目。涙が滲んじゃってるよ……。 「あ、あのさぁ……」 おれは、彼の人望のためにも、さっさと解放軍本隊と合流することを考えた。 「リボー城に行くんだっけか。そこって何、解放軍の城なの」 まあ、足は棒のように痛いんだけど……。でもま、歩いて合流する訳じゃないしな。 「え、では解放軍に参加していただけるのですか」 ほんっと、オーバーだなぁ。でも、こう手放しで期待されると、嬉しいもんだ。やっぱ神器持ちの存在は、戦争にはありがたいんだな。これでもう、フィーにうそつき呼ばわりなんてさせないぞ。 「ところでさ、レヴィンって……」 「ふ、ふうん、そう」 レヴィンという人物について、聞こうと思った。が、やめた。オイフェが、当然おれもその人を知っているかのような口ぶりをするから聞くに聞けない。 「……会えるのが、楽しみだなぁ」 多分、一度も会った事ない人のはずだけど? 「じゃあ、さっさと行こう」 オイフェは、行こうといいつつも馬具に手を掛けて動こうとしないおれを、怪訝に思ったらしい。釈然としない表情を浮かべた。気のきかない奴だ。 「馬で、乗せていってくれよ。解放軍まで」 |