本日の一言   

2002/1/3

セスナで空から「初日の出」見学



   我々のセスナ機は上空へ、上空へと飛翔した。
下界を見下ろしていると瞬く間に海上の船が小さくなっていく。遠くの山
々や市街地の様子も次第に広がりを見せていく。富士山も美しい。
「ついに駿河湾上空に達したぞ」――。これまで操縦席の計器が目線より
上にあったものが、次第に下がり、やっと前方の視界が広がり、浮上態勢
から平行飛行態勢に移り変わったことがわかったからだ。

その時だった。「これから伊豆方面へと向かいます」と、機長のパイロッ
トからの声が響いた。
機内にはエンジン音やプロペラ音が鳴り響き、その声はすぐさまかき消さ
れていたが、パイロットの身振り手振りでその意味は充分わかった。
指差す方向の眼下には伊豆の山々が迫っていたからだ。
高度は3、000フィートぐらいだったろうか。



「あれが戸田港です」「こちらが修善寺です」――。
パイロットは伊豆半島の地表を左右に見下ろしながら解説を加えていく。
  我々はそのたびに顔を右下へ、あるいは左下へと移り変えて行く。
  「あっ、あれは川奈ゴルフ場だ」――我々も知っていることを口に出した
りする。緊張から溶けて慣れてきた証拠だ。伊豆スカイラインや大室山も
見え隠れしている。
  
   やがて空一帯が明るさを増し、太陽を含んだ雲が輝きを増してきた。
  下界は見回しは出来るが、朝靄がかかった感じでまだまだ青紫の色調だっ
た。と、急に雲間が明るくなり、朝日がまぶしく差し込んできた。
「もう少しで本当の初日の出ですね」――またパイロットの声がする。
我々は期待感をもってその雲上を見つめる。何か自然界の偉大さ、神々し
さを見る思いだ。

ピカーッ、ピカッ、ピカーッ、―――。ほんの一瞬、木漏れ日のような場
面があったが、ついには雲上からの太陽が顔を出したのだ。
パイロットは我々へのサービスを意識してか、機体を左に回しながら旋回
のよう格好で、そのまま前後左右から初日の出が見えるように気遣う。
見下ろせば、地表の天城山にも光が行き届いている。かってのヒット曲で
はないが、まさに我々こそが空からの「天城越え」だったのである。



   やがて、セスナ機は三保空港へと方向舵を変えた。
  明るんでいく駿河湾は広々として実にすがすがしく、初漁を目指している
  漁船団も所々に見える。モーターボートも白波を蹴立てている。
  一方、沼津から清水方面に向かっての山裾沿いには町並みが続いている。
  その背後に小山が幾つかあり、さらにその後ろには「これが日本一の山だ」
とばかりに富士山の裾野が大きく広がっている。実に雄大だ。

   そのうちに清水港が見え、三保の松原が近づいてきた。
  わがセスナ機は西側から静かに下降をし始め、滑走路の中央線に向かって
滑り込んで行った。一瞬、軽くドンと音がしたが心地よい着陸音であった。
  機体は滑走路を静かに走り、出発点まで戻った後でちょっとした小坂を登
り、エアークラブのハウス近くへ横付けとなった。
  まるで、自宅の庭先へ乗りつけるマイカーのような気軽さであった。

  「いやぁ、ありがとうございました」
  「ご満足頂けましたか」
  「そりゃぁ、もう、勿論です」 
  そんな会話の後、ハウス内で乗員4名による歓談となった。
  お神酒も若干入ったりしたのでパイロットの方々の話を聞いていると実に
楽しくなる。我々の日頃の世界とは全くかけ離れた夢の世界の話だ。

「ちょっと早いですが、そろそろ出かけましょうか」「えっ?」「伊豆大島
へです」「連れてって頂けるんですか」「行きましょう、行きましょう、そ
して向こうでメシでも食べて温泉に入ってきましょう」
  ―――なんのことはない。先程の初日の出視察は小手先調べみたいなもの
でこれからが本番のようだ。
我々は喜んで、またもや、セスナ機に乗り込んだ。



   すっかり明るくなった空をエンジン音も高らかに東へ東へと進んでいく。
  機体はまるで止まったままのようだが下の景色が次第に変わって行く。聞
けば時速は200km位だそうだ。伊豆の背骨部分を通り越したと思った
らもう左手には伊東市だ。遥か沖合いには大島がポッカリと浮かんでいる。
  セスナ機の場合は人間が下界を見渡すにちょうどよい高さで飛行するから
ジェット旅客機とは違った爽快感が味わえる。



「あれが大島の飛行場です」
パイロットの声にじっくりと空港を見回すと結構広い。いくら大島とはい
え所詮一つの島の飛行場、という感覚でいたが、滑走路は立派なものだ。
我々の機体は左側の海岸からゆっくりと降りて行った。飛行場側の係員は
1名、遠くで手招きして駐機の案内をしている。
我々はその場所へ到達し、飛行機から大島への初一歩を踏み出した。
 
 それからが昼食会である。
まだ時間的には早かったが「初日の出見学」という起床の早さからすれば
違和感はない。またもやお神酒をあおり、今度はお寿司をつまむことにな
った。
そして、頃合をみて本日の目指す大島温泉ホテルへの出発となった。
外に出てみると寒い。しかし、我々の車は山頂方面へと向かった。

 玄関先に着いてみると観光バスが数台並びマイカーも数多く並んでいる。
素早く受付を済まし、すぐ入浴場へと向かう。目指すは野天風呂だ。
脱衣場の次が大風呂、その向こう側が野天風呂だ。その合間でドアを開け
てみると、途端に冷気が襲いあわててドアを閉め直したりする。
「おお、ブルルル」――思わずそう言いつつも再挑戦。
そして、いよいよ入浴だ。

 タオルを頭に載せ、前方を見渡すと、そこには噴火で名高い三原山が聳
え立っている。山腹には白雪があるかと思えばそれは噴煙のたなびきだ。
空は快晴、海も見える。その真正面に新聞やテレビでしか知らなかった三
原山が起伏に富んだ裾野を広げている。
我々はその景色を堪能した後、ゆっくりと風呂から出た。身体の芯まで温
まったからなのだろうか、先程の寒さはなく、ポカポカ気分となった。



 帰り際には山頂口展望台という所へ立ち寄った。
そして、大島椿の苗を買い求めに農園にも寄ってみたりした。
大島空港へ着いたのは15時頃だっただろうか、またもや伊豆山頂を通り、
三保空港へと向かった。帰着は東側からの滑降であった。
こうして振り返ってみると2002年元旦の一日は実に充実した日であっ
た。ついでに雄飛の年にしたいものだ。  2002−1−3記
  

 

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