本日の一言   

2002/5/6

セスナで大島へ飛んで さらに新島へ

   まずは、我々のセスナ機は大島空港へと静かに滑り込んでいった。
約4ケ月前の元旦に来た時にはちょっとした緊張感が走ったが、今回はも
う機体のタイヤが地上と接するのが待ち遠しいぐらいであった。
「昼食にはまだ早いですね、港の方にでも行ってみますか」
着地した途端、パイロットからそう声がかかったので、我々はすぐさま
知人のクルマで大島の海岸沿いを走ることになった。
すれ違うクルマは殆どなく、のんびりした自然の風景が続いていた。
景色を堪能して走っているうちにいつのまにか昼食時間となった。我々
は手近かな寿司屋に入り、ここへ到着するまでの経過を楽しんだりした。



 そして、この後が本日の目指す新島への出発だ。機はまた離陸した。
「ここからどれぐらい時間がかかりますか?」
「10、10分ぐらいなものですよ」
パイロットから手渡されたヘッドホンでの会話である。
「幾つかの島がみえますがど、どれですか」
「あの奥の大きい方の島です」
「では、手、手前の島は?」
「利島です」
「ほかにも小さな島々がありますが」
「あれは無人島です」
――なるほど、その上空に達して下を見下ろすと島内には人家はない。
「あんなところで数日間過ごすのもいい経験だな」――。
内心、そう思うものの水や電気のことで諦め観も脳裏をかすめる。

やがて、目的の新島の上空へと達した。空港は島の中央辺りに見える。
機は町の上空から次第に降下、滑走路が目前に迫った頃、一瞬機体が風
圧で揺れるが、パイロットはここぞとばかりに真剣な表情での対応する。



スー、ダダーン、スー、―――機体はここでもスムーズに着陸した。
滑走路の行き止まりのところまで走り、後はUターンして管制塔らしき
ところへとゆっくりと近づいて行った。
建物にはちゃんと「新島空港」、と大きな文字が書いてある。
「ついにやってきたぞ」――、と何となくうれしくなる。
ヨーロッパへ出向いた時ほどの感激はないにせよ、思いもよらぬ地へ立
ち降りた喜びはそれに匹敵するぐらいの刺激感と満足感が生まれる。
 空港ロビーで一服していたら、タクシーが近づいてきた。
パイロットが電話で呼び寄せたらしい。空港からタクシーはよく見える。
「さあ、乗りましょう」
パイロットは親切に我々を案内、皆でクルマに乗り込むことになった。
「今日は天気がよくてよかったですね」――かわいらしい声が聞こえた。
「あれ、女性の運転手ですか」――その声に驚いて自分がそう言った。
本土の都会では女性の運転手なんて不思議でも何でもないが、この新島で
女性運転手に遭遇するのには意外だったのである。



 クルマは「新島ガラスアートセンター」へと向かって行った。
途中の景色は大島が火山灰で黒い感じなのに対し、新島は何となく白かっ
た。路上脇にはエキゾチックな石の像なども並んでいたりした。
「さあ、着きましたよ、ゆっくりとご覧になってください」――不思議な
ことにそう言った女性運転手も場内へついてくる。
「なんでこんな島まで来てガラス細工を見るのだろう」――そう思いつつ
も場内に展示してある緑色のガラス製品には何となく見惚れていく。
会場の奥側ではガラス工芸を学ぶグループも何組かいた。火が赤々と燃え
ていた。

「ここのガラス細工が有名なのは抗火石を原料にしているからです」
係員の説明だ。
コーガ石?初めて聞いたような名なのでもう少し突っ込んで聞いてみると、
「シシリー島とここの世界でも2ケ所だけの産です」と思わぬ話。
「では先程の石の像は?」と尋ねてみると
「モヤイの像です」との回答。
「モヤイ像?イースター島のモアイの像は知っていますが…」
「ああ、あれにあやかっているのでしょうね」

クルマの中でそんな会話をしていると、今度はお墓へと案内された。
「なんで新島まで来てお墓を見ることになるのだろう」と心の中で呟く
が、実際来てみるとなんとなく明るいお墓なのだ。
聞けば、毎年砂浜から新しい砂を運んでくるそうで通路が白っぽいのだ。
見学途中で、江戸時代の流人の話しが出てきたりした。本土とは今でこ
そ高速船で2時間そこそこだが、その昔だったらまさに二度と帰って来
れない遠隔地であっただろう、と思うと何となく気持ちが切なくなる。
と同時に、そんな時代にここがわが国の領土であったことに感心もする。

次に向かったのが島内の羽伏浦海岸だった。
島の東岸に続く約6.5kmの白浜だ。青い海との対比でとても美しい。
タクシーはそれを一望に見渡せる高台の駐車場に停まった。クルマから
降りるとスピーカーからサーフィン大会のアナウンスがされていた。
どうやら準決勝戦みたいだ。
海上では波に乗って鮮やかに手を上げ、立ち芸をしてくる者がいる。
砂浜側の若者たちはそれを見つめ、歓声を上げ、一体感となっている。



「そろそろ帰りましょうか」――。
誰が言うともなく我々は飛行場へと向かうことになった。
空港での出発は3時半、今度は大島経由ではなく三保空港への直行だ。
上空は本日の天気が良過ぎたせいか軽い靄がかかり始めていた。
しかし、下界の海上ははっきりと見え、客船の動きもよくわかる。白い波
を蹴立てているからだ。富士山は、腹の辺りをうっすらと灰色の帯びを漂
わせ、神秘性を醸し出していた。

そして、ついに三保空港の上空へと到達した。
陸上での三保空港は辺鄙なところにあるみたいだが上空から眺めると実に
好立地な場所にあることがわかる。
「滑走路はどれぐらいあるんですか」
パイロットに大声で聞いてみると「500m足らずですよ」とのこと。
500m以下というのは日本中でも指折りのの短い滑走路らしい。
その言葉が終わると同時に機は静かに滑走路へと降りはじめた。
ついに、新島旅行も無事終わったのだ。機体のタイヤが地に着くのが勿体
ないような気もした。4時5分過ぎだった。
              2002−5−6記

 

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