本日の一言   

2003/4/11

鉄火まき 日本一

 JRの清水駅を降りて商店街の方に入って行くと、白布の特設テーブルが奥深
くへと続いていた。周囲には日本一の鉄火巻きを作ろうとしている人々が、所
狭しと肩を寄せ合い談笑、一般客はその背後をすり抜けるようにして歩いてい
た。中には鉄火巻きの準備に目を奪われ、そのためか人の流れが止まり、身の
動きもとれない状態も生じていた。



 その合間を押し分けるように入って行くと、特設テーブルの頭上に0.0m
と274.0mの表示板の掲げてある中央地点にたどり着いた。「あれはどう
いう意味?」――と、スレ違いざまに見かけた係員らしい黄色ジャンパー姿の
人に尋ねてみると、「ああ、あれですか、あそこの0.0mからスタートして、
一周したところの正面が274.0mになるのです」との答えだった。



 「そうか、左右1.8mのテーブルを75本並べれば135mになり、それ
を2列並べれば曲がり角を含めて274mぐらいになる筈だ」――そう思いつ
つ、「1,8mのテーブルに寿司作りの人が4名ずつ並べは150本×4名で計
600名、それに母子が一体になっている場合もあるため最低700名、通り
がかりの観客を含めれば1,000名はくだらないな」と計算したりする。

やがて開会の案内があって係員が慌しく動き始めた。二列のテーブルの合間
に立つ人と、外側に立つ人が声を掛け合ってパッケージしてあるゴハンやマグ
ロを皆に前に行き届くよう配っていく。「あれ、海苔はどうするのかな」と思っ
ていると、ロール紙のような海苔が登場してきた。「一巻き70mですよ」と誰
かが耳打ちする。鉄火巻き用の竹敷の上をゴロゴロと回され敷かれていく。



 海苔が敷かれ、ゴハンがのせられ、それがならされたところにマグロが置か
れ、いよいよ皆で一斉に巻きにかかることになる。ここが難しいところだ。て
んでバラバラに巻いては連続の一本にならないため、係員のアナウンスがひと
きわ大きくなる。0.0mと274m地点の結合はミス静岡達の役目だ。一同
は静まりその地点を注目する。報道陣のカメラも一斉にまわり始める。




 結合完了。いよいよ持ち上げだ。見事274mつながったものを宙に掲げな
ければ成功とはいえない。係員のアナウンスがきわめて慎重になってくる。ど
こか一箇所でも掲げることに失敗し、そこで切れては意味がないからだ。
係員の指示で皆が左右を確かめながら自作の鉄火巻きを持ち上げていく。
「やったぁ!」――周囲から大きな拍手が沸き上がる。



鉄火巻きを持ち上げた人達は誰もがにこやかでうれしそうだった。
その時だった。今まで気付かなかったが宙に浮かんでいたクス球がパックリ
と割られ「日本一達成、274m」と垂れ幕が下りてきた。
鉄火巻きを掲げていた人達もその手を降ろし、拍手と歓声を上げた。
商店街には主催者と参加者が一体になって達成した喜びがみなぎっていた。



 折りしも清水市は静岡市と合併、新市へのスタート時期でもあった。
新市名が「静岡市」であり、清水市の市名が消えることに名残惜しむ人も多
かったに違いない。そんな矢先での明るさ作りのイベントでもあった。
今回でこそ気仙沼市のもつ272.0mの記録を打ち破ることに成功したが、
これもいずれはどこかに追い越されることを容認した上のことであろう。

 時代は刻々と変わり、地名や地域エリアのサイズも変わる。その背後には
自動車の発達や道路整備、インターネット、携帯電話の普及ぶりなどがそう
させている部分もあるからだろう。そういった意味では市名のこだわりなど
は情感の部分であり論理面では弱いものになろう。でも、人間社会である以
上、その情感こそが大切であることも否定はできない。



 清水市商店街の今回の「鉄火巻き日本一への挑戦」は、その心意気やよし
であった。清水市の名は消えるものの「清水市民の気質は生きている」とい
うことを標榜している面もあったからだ。頑張ろう清水市民気質!――今回
の鉄火巻きは瞬間風速になるかも知れないが、次なるテは日本平にでも世界
一の何かを作ってみせようではないか。その根性だけは生かしておきたい。

                          2003−4月 記
 

 

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