本日の一言   

1998/11/23

青木ケ原樹海を初踏破


この夏、富士山に登ったのでもう当分富士山とは関係ないだろうと思っていたら、「ねぇ、富士山麓の青木ケ原樹海へ行ってみない?」と仲間から声がかかってきた。「えっ、あの鬱蒼たる樹海のことかい?」「そうだよ、結構スリルがあって面白というよ」「だって迷い込んだら磁石も利かず同じところをぐるぐる回ってやがて行方不明になるというじゃない」−−。

そんな会話があった後、ほぼ3ケ月後の11月8日朝6時半、我々有志一同は静岡駅近くの指定場所に集まり、仲間が所有しているワンボックスカーに乗り込んだ。目指すは富士五湖のうちの精進湖である。途中、オームで一躍有名になった上九一色村なども横目で眺めていく。朝霧高原というだけあって朝方のこの一帯は霧が立ち込めなんとなく幻想的かつ妖しげな風景の連続だ。

やがて精進湖に到着、湖畔で一服していると別口で出発した仲間が家族連れで合流、これで先発組と合わせ9名となった。「では、樹海の入り口まで車2台で行き、皆が降りた後クルマ1台を樹海の出口側に持っていくことにしましょう」と、仲間のうちの2名がそんな会話をしたかしないかのうちに2台のクルマが相前後してスタートした。精進湖の霧がじわじわと明けていく朝の一コマであった。

「樹海の中の道なき道を歩いて行くのに我々の出て行く先がわかるんですか?」−−そんな質問が誰かから出た。すると「大体うまく行けると思いますよ」−−とツアーのリーダー格の人がそう答えた。皆に不安を与えないような発言だったが、その横には「命は親から頂いた大切なもの、もう一度静かに両親や兄弟、子供のことを考えてみましょう。」という警察名の入った看板が立っていた。

「こんな看板が立っていると余計不気味ですね」−−誰かが皆の心情を察してそう呟いた。その発言が図星だったせいか仲間諸氏はいつものように軽口を叩かず、改めて看板を見直した。「あそこに白い紐が密林の方に伸びて行っているでしょう、あれは捜索隊の目印なんです」−−リーダー格の人はそう付け加えた。捜索範囲を指定すると同時に自分たちの帰途の目印でもあるそうだ。

「やはり、入るのは止めた方がよさそうだな」−−冗談とも本音ともつかぬ言葉がどこからとなく聞こえてきた。リーダー格の人以外は誰もがそれを口にはしないもののまさに同感といった感じだった。薄暗い林の中に曲がりくねって伸びていく白い紐、今にも事件に直面しそうな警察名の看板−−それを見つめているとますます不安と緊張感が高まってきた。

と、目を醒まさせるかのようにブブーンという排気音を鳴らして先ほどの車が1台帰って来た。そして「バタン」と大きなドアの音をさせながら、「さあ出かけましょう」とそのドライバーは言った。一同はリュックを背負い直し、その人の後ろをついて行くことになる。鬱蒼たる茂みの中を不安を押し隠すような行進だ。「大蛇が出てくることはありませんか」−−そんな質問がまだ出ていた。

「そうですね、はぐれるといけませんからここらで歩行順位だけは決めておきましょう」−−リーダー格の人が頃合いをみて声をあげた。「トップはあなた、しんがりは一番若いあなた、私は真ん中で、あとは適当に順番を作って、但し、お互いの前後だけは憶えておいてください」−−急にその説明が重みを増してくる。「足元には気をつけてください、深みにはまらぬように」ー説明を聞きながら行進開始。

−−−−中略−−−−この行進風景はご希望者のみに別途解説−−−−中略−−−−

徒歩時間約4時間、私たちはやっと樹海を抜け出た。空が急に明るくなりほどよい汗が心地よい爽やかさに変わった。「ついにやりましたね」「青木ケ原の樹海を突っ切ったんだ」皆が出口が見えた瞬間から喜びを噛み締めるような言葉を交わし始めた。木々の間からはかすかに遠くを走る車の走行音が聞けるようになった。静寂をそっとなでるような音が人間の生存感につながるとは思いもよらなかった。

−−−−中略−−−−出口で車を見つけ、無事入り口まで到着−−−−中略−−−−

ついでにまた車2台で見晴らしのよさで有名な紅葉台に向かった。ここは小山になっているため車を下に置いてまたもや徒歩による登山の開始だ。樹海を歩く時は危険との闘いみたいな緊張感があり、さほどの疲れはなかったがここではぐっと疲労感が出ていた。しかし、歯を食いしばって登頂に成功、山頂の建物屋上に上ると百円ずつ取られたが、そこから樹海を見下ろすと景色はまさに圧巻だった。

−−−−後略−−−−道中、秘話は色々ありましたがこれも別途解説−−−−後略−−−−

あっそうそう、後日談でいえば「なんでまたそんな青木ケ原の樹海なんて行ったの」と怪訝そうに尋ねる人と、「いいねぇ、ボクも行ってみたいよ、誰かベテランガイドを知っているの?」と参加欲を示す人の2派いることに改めて気づいた。怖いもの見たさに挑戦する人をバカバカしいと考えるか勇気ある行動と捉えるか、−−私はその時の年齢、性別、家庭環境がそれを左右させるだけだと思えてならない。

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