-- 第二話 --
さて、前回までのおさらいをしておいたほうがいいだろう。
事の始まりは二大おじさんの紛らわしい『温泉へ行こう』発言。
ついでに、その日、プリムラも豪華温泉旅行の無料宿泊券を福引で当てた。
そして、行くメンバーは俺、シア、ネリネ、楓、プリムラ、亜沙先輩、カレハ先
輩、麻弓、紅女史、亜麻さん、神王のおじさん、魔王のおじさんの計12人。
行く手段は、やっぱりというか、何というか、修学旅行などに行く時にチャータ
ーするような大型バス。
王という存在はこうもやることが大胆になんだな。
「……中もすごい設備だな」
道中、退屈しないようなものがほとんど揃っている。
カラオケやらテレビやら、飲み物は……なぜか冷蔵庫がバスに積まれている。
「そういえば、誰が運転するんですか?」
「俺が運転してやろうか?」
「まだ生きていたいのでやめてください」
神王のおじさんに任せたら絶対に暴走する。
それだけは阻止しなくては……。
「それなら、私が運転しよう」
「…………う、う〜ん…………お願い……します……?」
「随分悩むんだね、稟ちゃん」
あなたも不安要素の一つなんですよ、魔王のおじさん。
「つっちー、苦労してるんだな」
「ありがとうございます……」
紅女史、俺の苦労をわかってくれるのはあなただけだ。
「それじゃあ、出発するよ」
魔王のおじさんが運転する中、俺たちは目的の温泉旅館へ向う……。
「お〜い! 稟殿、稟殿も飲もうぜ!」
「って、既に酒盛り!?」
まだ出発もしてないのに何でもう酒飲んでるんですか!?
「お、これはなかなか……」
「紅女史ー!」
あなた、なんで自分が呼ばれたかわかってるんですか!?
「ん? つっちーも飲むか?」
「飲みません! って言うか、教師が未成年に酒勧めるな!」
「神ちゃん、ずるいよ。私も……」
「飲酒運転になるからやめろ!」
ああ、頭が痛い……。
どうにか魔王のおじさんが酒を飲むのは阻止して、出発させる。
まさか、紅女史までおじさんたちにペースを合わせるとは思わなかった。
俺は自分で頭痛の種を増やしたんじゃないのか?
「大丈夫ですか、稟君?」
「あ、ああ……体力的には問題ないが、精神的に……」
既に限界状態ではある。
「稟君、これ飲んで落ち着いたら?」
「サンキュ、シア……(ごくっ)」
シアから貰った飲み物を一口飲む。
「ブフッー!」
「り、稟君!?」
「稟君、どうしたの?」
ど、どうしたのじゃないだろう……。
「げほっ、げほっ! これ酒じゃないかー!」
「だって、これしかなかったものだから♪」
「だったら飲ますな……」
更に疲れる……。
シアは神王のおじさんと紅女史のもとに戻る。
そういえば、他のメンバーは何してるんだ?
まずは俺の後ろの座っているはずのネリネは……。
「ネ、ネリネ!? 大丈夫か?!」
「う、うぅ……」
「リンちゃん、大丈夫?」
いや、見てわかるだろう。
大丈夫じゃないぞ、明らかに。
って言うかシア、戻ったのは酒を持ってくるためだったのか?
「き、気持ち悪いです……」
「乗り物酔いのようですね」
「ネリネちゃん! 大丈夫かい?」
「は、はい……何とか……」
「……」
さすがは親だな。
娘は運転よりも大事……。
「……なぁ、楓」
「はい?」
「今、誰が運転してるんだ?」
「え……?」
俺は目の前にいるはずの無い人物を見ているので、楓が運転席を見る。
「……誰でしょう……?」
まぁ、はっきり言おう。
誰も運転していないのだ。
それなのにバスは動いている。
それがどういうことか、頭がかなり悪くない限りわかるはずだ。
そう、手放し運転のレベルではない。
「みんなの命を預かってるのに、なにしてるんですか?!」
「だ、だって、ネリネちゃんが……」
「事故ったら意味無いだろうが!」
「大丈夫! 自動運転に……」
「なるか! ネリネは俺たちが介抱するから早く運転に戻れ!」
ネリネがよほど心配なのだろう、運転に戻るのをかなり渋っていたが、どうにか
(無理矢理)運転席に押し戻した。
それでも、運転途中にネリネのほうを見てたりする。
完全に縛り付けたほうが良いのではないだろうか?
「楓……俺、人選間違えたか?」
「だ、大丈夫ですよ、稟君。……多分……」
楓、限りなく根拠の無い慰めでも、今は嬉しいよ。
「そういえば、亜沙先輩たちは?」
プリムラや麻弓も見当たらないし、皆で何かしてるのかな?
と思えば、後ろでトランプをしていた。
「まぁ、大人しくしている分には何も問題は無いな」
「稟君も行ってきたらどうですか?」
「え? でも、ネリネが……」
「リンさんは私が看ていますから、大丈夫ですよ」
まあ、確かに、楓に任せておけば大丈夫だろうけど……。
「……そうか? じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
ネリネを楓にまかせて、亜沙先輩たちの元へ行く。
「楽しそうですね」
「あ、りっちゃん!」
「はい、あがり♪」
「え?」
亜麻さんが俺のほうに向いた瞬間、亜沙先輩が亜麻さんのカードを引いた。
どうやらババ抜きをしていて、二人の勝負だったらしい。
そして、たった今、亜麻さんが負けた。
「あーちゃん、ずるいよ〜」
「ずるくない、ずるくない。ね、稟ちゃん?」
「え?」
俺が来た事で亜麻さんが負けたのなら、素直に頷く事はできないのだが……。
「えっと……俺が……悪いのかな?」
「そんなに気にしなくてもいいよ。油断したお母さんの責任だし」
「うぅ〜、りっちゃ〜ん! あーちゃんがいじめる〜」
そう言って俺にしがみついてくる。
ホント、見た目相応の行動なのに、年齢で言うと相応じゃないのはなぜだろう?
「……麻弓、気付かれないように写真撮るのはやめろ」
「うっ、土見君。なかなか鋭いわね……」
デジカメは普通、シャッター音が無いため気付きにくいが、真ん前で撮られれば
誰でも気付く。
「お兄ちゃんもいっしょにやろう」
「そうだな」
俺も混ざってカードゲームをする。
「そうだ! 負けた人は罰ゲーム、って事にしない?」
「まあ、亜沙ちゃん。それはいい考えですわ」
確かに。
何らかのリスクがあるほうが燃えるのは事実だ。
「そうですね」
「さんせー!」
そういうことで、ゲームは引き続きババ抜きとなった。
負ければ罰ゲームか。
参加しているメンバーがメンバーだけに、負けたくは無い。
……数分後。
「は〜い、稟ちゃんの負けー♪」
「……」
最初から最後まで、なぜか俺の手札からジョーカーが出て行くことが無かった。
「はぁ〜……それで、罰ゲームはなんですか?」
「そうね……」
しかも、運悪く、最初にあがったのは麻弓だ。
こいつがまともな罰ゲームを考えるわけが無い。
「フッフッフ、いい事考えた♪」
「ぐっ……」
今だけだが、麻弓が本当に魔族の血を引いていると信じれたぞ。
あれこそ、悪魔の微笑みだ。
「土見君、覚悟はいいわね?」
「……わかった」
そして、罰ゲームが言い渡された後、今日泊まる旅館についた。
「り、稟君……少し、持ちましょうか?」
「だめよ、楓。それじゃあ罰ゲームの意味無いもん」
罰ゲームは俺がみんなの荷物を持つというもの。
何で一人で12人分の荷物を待たなきゃいけないんだ。
「つっちー、本当に苦労してるんだな」
この人、ただ見てるだけ?
ああ、何のために紅女史を呼んだのかわからなくなってきた。
「はぁ〜〜〜……」
「稟ちゃん、大丈夫かい?」
「体力的、精神的にもうだめです……」
ホント、あれだけで済んでよかったよ。
ちなみに、もう既に部屋に通されているので、俺が倒れているのは当然客間だ。
「それにしても、なんでこの部屋、こんなに大きいんですか?」
部屋割りを気にしなくていいのは楽でいいのだが……。
「だって、皆一緒のほうが楽しいじゃないか」
「そういう問題ですか? それに、12人も一緒に泊まれる部屋があるこの旅館も
すごいですけど」
そう、なぜか無駄に広くて20人ほどは軽く泊まれるような部屋なのだ。
「俺たちは良いけど、シア達は良いのか?」
「なにが?」
「いや、もういい……」
あのキョトンとした態度、全然気にしてませんか。
「ねぇ、稟君。お風呂に行こう!」
「風呂か……そうだな、疲れたし」
しかも、荷物持ちで腕も痛いからな。
これくらいで筋肉痛になるほどやわじゃないと思うんだが……いや……。
「……」
「? なんでい、稟殿」
「いえ……」
これと比較すれば、全ての人間がやわに見えるよな。
とにかく、風呂に入ろう。
「じゃあ、後でね。稟君」
「それでは、稟様」
「あ? ああ……」
あとで?
ああ、風呂からあがった後の事か。
「稟ちゃん、覗いちゃだめよ♪」
「まあ♪」
「覗きませんから、カレハ先輩、妄想モードに入らないで下さい」
そういうことは(ここにはいないが)樹に言ってくれ。
とにかく、それぞれの脱衣所に入っていく。
「それにしても……」
稟達の部屋
「シアー! なんで俺たちはだめなんだー!?」
「ネリネちゃーん! 昔に戻るのも良いじゃないかー!?」
「あそこまでするか?」
おじさん達は部屋に縛られている。
まあ、おじさんたちなら縛っているロープを千切るくらいはわけない。
だが、シアとネリネが少し小細工をしたらしく、おじさん達はそれができない。
「そもそも、なんでおじさんたちはだめなんだ?」
風呂に入るくらいなら別に良いような気もするが……。
とにかく、俺は着ている服を脱いで、風呂場へと向う。
がらららららっ。
「おおっ! 結構広いなぁ……」
露天風呂だし、まぁ広いのは当たり前だけど、想像していたよりかなり広い。
「とりあえず浸かるか」
湯に浸かり、思っていたより気持ち良いので目を瞑って堪能する。
がらららららっ。
ん?
ああ、シア達も入ったのか。
向こうは長湯だからな。
俺もゆっくり……。
「り〜ん君♪」
「……」
なんか、物凄く近くでシアの声が聞こえたのだが……。
「稟様、もう入っていらしたのですか?」
「……は?」
ネ、ネリネまで?
なんでだ?
「な、なんで二人とも、ここに?」
「なんでって……ここ混浴だよ?」
「は、はぁっ!?」
こ、こ、ここ、混浴だとぉっ!
混浴って、男と女が一緒に風呂に入る、あれか!?
そ、そういえば……。
────<I>第一話参照。
</I>
って、言ってたよな。
忘れてた……どうしよう……。
と、とにかく、二人のほうを見ないように早くここから……。
「やっほー、稟ちゃん♪」
「う、うわぁっ! ……って、あれ?」
目の前にいきなり現れた亜沙先輩に驚いたんだが、良く見れば水着を着ている。
まさかと思い、シアたちのほうを見てみると、二人も水着を着ている。
「なんだ、みんな水着着てたのか」
「うん。みんな持ってきてるよ」
「稟ちゃん、みんな裸だと思った?」
「うっ……」
図星なので何も言い返せない。
「じゃあ、他のみんなも水着着てるんだよな?」
「そうだけど?」
「だったら、なんでおじさんたちを縛り付けてきたんだ?」
水着なら別に抵抗無いんじゃ……。
「う、う〜ん……水着のあるなしに関わらず……」
「お父様たちは、ここに連れてこないほうが……」
「?」
「稟ちゃん、あの二人の性格、良く思い出してみて」
あの二人の性格?
……。
「……そうだな。あの二人はこの広い露天風呂に連れてこないほうが良いな」
「なんで?」
俺たちが喋っていると、他のみんなも入ってきていた。
「……プリムラくらいなら許されるんだけどな」
「???」
そう、あの二人ならここで泳ぎだしかねないからな。
「そういえば、リンさん。新しい水着なんですね」
「はい、以前の水着は……」
「ストップ!」
「?」
夏のプール開きのときを思い出すんだ。
麻弓にそれはタブー……。
「ああ! リンちゃん、また胸が大きくなったんだ!」
ドバーン!
麻弓、また撃沈した。
「ま、麻弓ちゃぁん!」
「あれ?」
シア、なんでお前は人の気遣いを一瞬で無駄にするんだ?
「ねぇねぇ、りっちゃん」
「はい?」
「リムちゃんも沈んでるよ?」
「な、なにーっ!?」
プリムラ、お前も気にしてたのか……。
「うぅ……リムちゃぁん! 微乳同盟を再結成しよう!」
「うん! 麻弓お姉ちゃん!」
二人の間に(訳わからん)友情が芽生えた。
「うぅ……」
女って、なんであんなに強いんだ?
「稟様、大丈夫ですか?」
「うぅ……ちょっと大丈夫じゃない……」
皆にあわせて湯に浸かってたら、のぼせた。
ネリネもそれほど長く湯に浸かってられないのか、皆より先に出てきた。
「稟様、これを」
ネリネが冷たい缶ジュースを渡してくれる。
「ああ……気持ち良い……」
渡された缶ジュースをとりあえず額に当てる。
それでどうにか、少しだけ熱が抜けたようだ。
「なんで皆あんなに長く湯に浸かってられるんだ?」
「皆さん、お風呂が好きなんですよ。私も好きなのですが、あまり長時間は入っ
ていられないので、回数を分けて入りますけど」
「なるほど」
風呂が好きで長く浸かれる、か。
まぁ、それでのぼせたら世話無いんだけどな。
「り、稟君、稟君!」
「? 楓? そんなに慌ててどうした?」
「シ、シアさんが!」
「……は?」
「キュ〜……」
「まったく……」
楓が慌てて俺を呼びに来るから何かと思えば……。
「シア、風呂が好きなのはわかるが、のぼせたら意味無いぞ?」
「うぅ……面目ないっす……」
そういえば、前に雨が好きだ、と言っていながら、傘を忘れていたよな。
ホント、世話の焼ける奴だな。
俺はシアを団扇で扇いでやりながら、どうしようか考える。
ここは女子の脱衣所。
いつまでも俺がいるわけにもいかないし……。
「そうだ。シア、しばらくキキョウと代われ」
「……?」
だめだ、のぼせててシアの頭が上手く機能してない。
「キキョウ、とにかく出て来い」
「は〜い」
ダウンしていたシアが復活した。……様に見えるが、キキョウと入れ替わっただ
けだ。
シアとキキョウは1つの体を共有しているわけではないのだ。
だから、シアのダメージがキキョウに行くことはない。
「キキョウ、悪いけど、シアが回復するまでは頼む」
こういうとき、代わりがいる奴は便利だよな。
「シアったら、途中で代わるって言っておきながら、いきなりのぼせちゃうんだ
もん。ねぇ、稟。今度は、あたしと入ろう♪」
「俺もさっきまでのぼせてたんだが……」
と言っても、シアほどではない。
「良いじゃん、良いじゃん。あたしがのぼせても稟が助けてくれるし」
「のぼせるの前提かよ」
キキョウの特徴としては、この小悪魔的な性格だよな。
……可愛いから良いんだけど。
「あのな、キキョウ。温泉て言うのは、回数を分けて入るのが通なんだぞ?」
って、なにかで読んだ事がある。
「ふぅん、そうなんだ……」
「だから、また少ししたら俺も入るから、それまで我慢してくれ」
「むぅ〜……仕方ないな」
ふぅ、とにかく、連続で入らなくて済むぞ。
あれ? そういえば……。
「カレハ先輩と亜麻さんと紅女史は?」
皆、そろそろあがるようなのに、まだ出てきてない人物が数名いたのに気付いた。
「そ、それがね、稟ちゃん……」
「?」
「……」
まだ浴場にいるくらいなら別に構わないと思った。
ただ、亜沙先輩の話によると、一度も湯から出てないとの事。
それでいて、まだ全然平気そうな顔をしている。
「……なんで……」
「ボクも今日知ったんだけど、3人とも、無類の温泉好きみたいなんだよ」
だから、ずっと浸かってるのか?
でも、確か、湯に浸かりすぎると逆に体力使うって聞いた事があるぞ?
のぼせるのも確かそれだし……。
「まぁ……カレハ先輩がいるから大丈夫だとは思うけど……」
治癒魔法が得意だし。
「しょうがないですね。あの3人、当分あがりそうもないですし」
「じゃあ、3人とは後で合流するとして」
「街を見に行こう!」
確かに、待ってたら夕食時になりそうだ。
伝言を残して街に行くか。
「……そういえば、なんか忘れているような……」
別にどうでもよかった事のような気もするんだけど……。
「りーん! 早く行くよー!」
「お、おー……」
ま、いいか。
その忘れている事。
「うぅ、神ちゃん。私たち、いつになったら解放されるのかな?」
「ここは耐えるんだ、まー坊。稟殿がきっと!」
その頼りにしている稟、みんなと共に街へ繰り出していた。
Yes、混浴っ!
……こほん。
や、だってねぇ……。(ォィ
けど、お風呂に水着は邪道だと思いまっす!!
……がふがふっ。(吐血
や、だって、ですねぇ……。(マテ
まあ、端的にいえば羨ましいと、そういうわけです。
ところで、知らなかった稟くんは水着着てないのではっ!?
だとすると……タイヘンなことになったんじゃないかと、邪な考えも沸々です。(笑
尚、私は麻弓とプリムラが育つことには猛烈に反対させていただきます。
膨らんだら、魅力半減以下ですよ。ええ。
そんなわけで、震天さんのSHUFFLE!連載SS第二話でした♪
題名も決まったとのことで、「ドタバタ温泉旅行」。
まだまだ激しくドタバタしそう予感ですよ〜。
猛虎たちの中に投げ込まれた稟の運命や如何に!?(爆
Comment by けもりん
無断転載厳禁です。
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