-- 第四話 --
さて、前回のおさらいといこう。
……と思ったけど、前回手を抜いたし、今回も抜かせてもらおう。
という訳で、軽くおさらい。
前回、俺はたこ焼き飴なるものを食べて倒れた。
……以上。
「……はぁ、酷い目にあった」
俺は気付けば宿の部屋に戻って寝ていた。
まさか、あの飴。
本当にたこ焼きに飴を絡めただけのものだったなんて。
倒れても無理ないな。
「でも、良かったですよ。稟君、目が覚めて」
「ホント。毒を盛った、なんていうから」
「いや、冗談抜きで毒を盛られたみたいだったんだ」
かなり強烈なインパクトだった。
もうホント、言葉にできないな、あれは。
「ところで……なんでおじさん達、縛られてるの?」
「「っ!?」」
特殊な趣味かと思い余り触れないようにいようと思ったけど、やっぱり気になる。
それに、俺の一言におじさん達が口をあんぐりと開けている。
「り、稟殿……やっぱり忘れてたのか?」
「ひ、酷いよ、稟ちゃん……」
お、俺!?
なんでだ?
えーっと……そもそもなんで縛られてるんだっけ……?
………………あ。
そうだ、温泉でこの人たちと知り合いだと思われたくないから縛り付けてきたん
だったよな。
シアとネリネが。
でも、それでなんで俺なんだ?
「ところで、はやく解いてあげた方が……」
「うん。だから、稟。よろしく」
「は?」
「実は、あのロープ。稟様しか解けないようにしてあるんです」
「……なぜ?」
解けないようにするだけなら別に俺がそんな役割を担わなくても。
そう思っていると、どうやら俺が寝ている間に復活したのか、シアがちゃんと説
明してくれた。
「あのね、お父さんやおじさんだと、ある程度の束縛魔法は解いちゃうのよ」
「束縛魔法?」
聞いた事ないな……。
思いっきり顔に出ていたのか、ネリネがちゃんと説明してくれた。
「束縛魔法というのは、動きを封じたりするものをそう呼ぶんです。今回の場合
は、ロープという媒介を使った少し特殊な魔法なんですけど」
「ふ、ふぅん……」
まさかこんなところで魔法学の勉強をするとは思ってなかった。
「つっちー、予習できて良かったな」
「今度のテストにでも出るんですか?」
出てくれるなら今すぐにでも記憶するぞ。
いや、今はそれどころじゃないだろう。
「それで、その特殊な魔法はどうすれば解けるんだ?」
「うん。この魔法、ある人のある言葉をキーワードにする事で、絶対に破られな
くするものなの。ただ、注意しないといけない事は……」
「いけないことは?」
「その人以外がそのキーワードをこの魔法の前で言っちゃうと、二度と解けなく
なるの」
「…………」
シア、それって……おじさんたちがここから動けなくなっても全然構わないって
こと?
一応(似てないけど)親子だろ?
まぁ、俺としてはそっちのほうが今後は助かると思うんだが。
「それで、キーワードはなんなんだ?」
「…………あ」
「シア?」
言っておくが、俺はそれを今初めて聞いた。
キーワードなんて知らない。
「……シアちゃん、どうしましょう?」
「ど、どうしよう……」
やっぱり、俺に伝える事を忘れていたな。
シアはともかく、ネリネまで忘れているとは、意外と抜けてる?
「あの、ここで言えないなら、一度外に出て……」
「そうすると、ほんとに抜け出せなくなりますわ」
「どういうこと、カレハ?」
「この魔法、一度特定の方がこの魔法の領域内に入って、その方がキーワードを
言わずに出てしまうと……」
つまり、俺がこの部屋から出れば、二人は永久にここから……。
「稟ちゃん、見捨てたら、化けて出るからね♪」
「……今猛烈に見捨てたくなりました」
まぁ、そんなことしたら本当に化けて出られそうで怖い。
魔王様の幽霊……。
「全力で救い出そう!」
「お兄ちゃん、責任重大で必死だね」
というより、わからないキーワードをどうやって口にすればいいんだ?
「そのキーワードのヒントはないのか?」
「う〜ん……どういえばいいのかな?」
「稟ちゃん、私に何か言いたい事はないかい?」
言いたい事?
それがキーワードなのか?
俺が魔王様に言いたい事か……。
「え〜っと……自業自得?」
「え、えぇっ!?」
どうやら違うようだ。
「稟殿、俺を誰だと思う?」
「……」
なるほど、キーワードはそっちか。
「神王のおじさん」
「ま、まぁ……違いないわな……」
また違うようだ。
一体、なにを言わせたいんだ?
「稟ちゃん、私を馴れ馴れしく呼んでみたまえ!」
「な、馴れ馴れしく? ……おっさん?」
「ちっがーう!」
「稟殿、俺を親しみをこめて!」
「神王のおじさん」
「ああ、そうだったな……」
まだ違うのか?
一体、なにを言わせたいんだ?
「ねぇねぇ、りっちゃん」
「はい、なんですか? 亜麻さん」
「言葉にできないなら、紙か何かに書いたらいいんじゃないかな?」
「……」
その場にいる全員、顔を見合わせた。
「それもだめなの?」
シアはなにも言わず、亜麻さんの手を取る。
「亜麻さん、天才!」
「ボク……天才?」
う、う〜ん……この場合、そう言ってしまって言いのだろうか?
「そうですね。キーワードを口にできないなら、紙に書く、という手がありまし
たね」
「なんでそんな簡単な事、思いつかなかったんだろう!」
まぁ、ただの思い込みだろうな。
「それじゃあ、はやく書いて見せてよ。こういうのもなんだけど、いつまでもこ
の二人をこのままにしておくのは……」
「り、稟ちゃん……」
「稟殿……そこまで、俺たちのことを……」
あ、なんか勘違いしてるよ、この二人。
俺が言いたいのは、いつまでもこのままにしておくと、旅館の人に怪しまれるか
らだ。
正直、この二人がどうなろうと知った事じゃない。
「はい、稟君」
「ん?」
シアがキーワードを書いた紙を渡してくれる。
俺はそれに目を通すと、すっごくやる気が無くなった。
「……飯にしようか」
「「え、えぇっ!?」」
「つっちー、どうかしたのか?」
「いや……誰ですか、こんなキーワード考えたの?」
シアとネリネ以外がキーワードの書かれた紙を見る。
「良いじゃない、稟ちゃん。言ってあげたら?」
笑いながら言わないで下さいよ、亜沙先輩。
人事だと思って……。
「そうですわ。こんな素敵なキーワードなんですから」
カレハ先輩、俺にとっては最悪なキーワードですよ。
「素敵……かな? どう思う、楓?」
「う、う〜ん……ちょっと、わかりません……」
まぁ、この二人は正論だな。
「楓お姉ちゃん、逃げた」
プリムラ、お前も楓の立場になったら逃げるだろうが。
「りっちゃん。ただ一言言うだけなんだから」
「そうだぞ、つっちー。いつまでもこの二人をこのままにしておくと宿の人に迷
惑がかかる」
この二人は大人の意見だな。
「シア、これ、お前が考えたのか?」
「ううん。それは二人の希望で……」
「ほぅ……」
まぁ、この二人に通用するかどうかわからないが、恨みをたっぷり込めて二人を
睨んでみた。
「稟ちゃん。早く呼んでくれたまえ♪」
「稟殿。遠慮なく言ってくれ!」
案の定、まったく気付いてもくれなかった。
「はぁ……」
俺は溜息を一つついて、どうしようか考える。
1、このまま部屋から出て行く。
2、誰か代わりに言ってもらう。
3、開き直って二人の想像している通りに呼んであげる。
4、寝る。
……3?
「大穴だなぁ……」
「なんか言った、稟ちゃん?」
「いえ……」
できれば言いたくないんだよな……このキーワード。
言った後のこの二人の行動パターンが手に取るようにわかる。
どうにかして、この二人の意識がないときに……。
「そうだ。プリムラ、ちょっと買ってきて欲しいものがあるんだけど」
「なに、お兄ちゃん」
「あのな……」
俺はプリムラに耳打ちをする。
「……お兄ちゃん、もしかして、味覚、変?」
「失礼な事を言うな。とにかく、二本、頼んだぞ」
「う、うん……」
プリムラが部屋から出て行く。
まぁ、あれを食べさせれば、この二人も多分、気を失うはずだ。
「ただいま、お兄ちゃん」
「おう、サンキュ」
プリムラから例のぶつを受け取る。
「それ、なに、稟君」
「うん? これはな……」
「「?」」
おじさん達に聞こえないように皆にぶつの正体を教える。
「土見君、たまに酷い事するよね」
「お前ほどじゃない」
とりあえず、例のぶつを持って、二人の前に立つ。
「稟ちゃん、やっと言ってくれるんだね!」
「ところで、それはなんでい?」
「これですか? これは……」
袋からぶつを取り出すと、二人の口に無理矢理突っ込む。
「「んぐっ!?」」
まぁ、頭のいい人ならもう既に気付いているだろう。
このぶつの正体を。
「り、稟……ちゃん……」
「なかなかの……奇襲……だった……ぜ……」
がくっ!
よし、逝った!
「じゃあ、今のうちにキーワードを言うか」
「つっちーが……人の道を外れかけてる……」
何気に失礼ですね。
「紅女史、外れたくなりません?」
「……お前は正常だ」
当たり前です。
これ相手なら全部が正常なんですから。
「大体、My Fatherをキーワードにするような人たち、これくらいしても何も問
題ありませんよ」
「稟ちゃん、何気なく言っちゃったね」
「土見君、面白みが無いな」
俺にそんなものを求めるな。
面白みなら他のやつに求めろ。
「はぁ……とにかく、キーワードはいったんだ。飯にしよう」
「ところで、神王様と魔王様、このままで良いんですか?」
「別に放っておいても良いんじゃない?」
「私もキキョウちゃんに賛成!」
シア、キキョウ、お前ら、神王のおじさんを親だと思ってないだろう。
「あの、お食事をお持ち……しま……し……た……」
と、一騒動終わったところで仲居さんが食事を持ってきた。
……のだが、この光景を見て固まってしまった。
「えーっと……これは……」
こういう場合、どう言えばいいのだろうか?
変に言い訳して誤解されるのは嫌だ。
かといって、なにも言わなくても勝手に誤解する。
何か良い言い訳はないものか。
そう思っていると、シアが突然説明しだした。
「これはですね、お父さん達、ちょっといきなり暴れ出しまして……」
「「「えっ!?」」」
仲居さんだけでなく、俺たちも驚いた。
シア、もしかして、計画的犯行?
「それで、少し眠らせて、頭が冷えるまでこうして縛っておかないといけないん
ですよ」
「そうそう、毎日こうだから……」
おぉ、見事な連携だな、シア、キキョウ。
だが、それでこの人が納得するわけ……。
「それはお気の毒に……」
って、それで納得してるー!?
「お客様、毎日お辛いでしょうが、頑張ってください!」
「はい! ありがとうございます!」
んで、二人の間に友情が芽生えてるし。
この二人、しばらくは仲居さんたちの間で冷たい目で見られるんだろうなぁ……。
まぁ、この二人の場合、そんな事気にしないだろうけど。
さて、仲居さんが持ってきてくれた食事を皆で食べた。
途中でおじさんたち二人も目を覚まし、二人も豪快に食べた。
「ふぅ〜、食った食った」
「いや〜、たまには旅館の料理も良いね。レシピを貰っておこうかな?」
今はもらえないと思いますよ、おじさん。
「よっしゃ、まー坊。風呂に行こうぜ、風呂!」
「そうだね。私たちは入れなかったし。……稟ちゃん」
「なんですか?」
なんとなく予想できる、この人たちが言いたい事が。
「「一緒に入ろうじゃないか!!」」
「却下」
0.01秒くらいできっぱりと答える。
「そんな〜!」
「つめてえじゃねぇか、稟殿!」
「だって、飯食った直後ですよ? さすがに……」
うん。普通なら、食事の前か、食った後でもしばらくしてからだよな。
「そうか。それなら仕方ないね」
それに、この人たちと入りたくないもう一つの理由。
「それじゃあ、行こうか、神ちゃん」
「おう! 泳げるほど広いと良いな、まー坊!」
「そうだね。そうだ、どっちが長く潜れるかもしよう!」
これだ。
「じゃあ、入って来るね」
「稟殿もあとで来いよな」
「……落ち着いたら」
この人たちが上がってから入る事にしよう。
二人が部屋から出て行く。
「土見君、いい判断ね」
「お褒め頂きありがと」
まぁ、あの二人が上がるのはかなり先だろう。
絶対あの露天風呂で何かする。
泳いだりとか、潜ったりとか、泳いだりとか、潜ったりとか……。
「それじゃあ、なにしようか?」
「ねぇ、トランプやらない?」
「この人数で?」
10人でやると、さすがに多いような……。
トランプは普通、ジョーカーを抜いて52枚。
ババ抜きをやろうとすると、一人の手札は5枚……。
終わらなそう……。
「あの、私は……」
「えぇ! 楓、やらないの!?」
「あの、私も」
「リンちゃんまで!?」
もしかして、俺達に気を使って?
「私たち、冬休みの課題をやってますので」
「…………は?」
冬休みの課題……持ってきてるのか?
「では、私も。亜沙ちゃんとご一緒できないのは残念ですが」
「カレハも!?」
うぅ、優等生組と補習候補組では、時間の使い方がこうも違うのか!?
旅行は楽しむものだろう!?
なんでわざわざ旅行先で勉強を!?
「優等生で通ってるこの3人には感心するな。それに引き換え、補習候補は!?」
「「「「ぐぅっ!」」」」
「ボクは、その中間あたりだし」
ああ、紅女史をつれてきたの、間違いだったかな?
「つっちー、今頃後悔しても遅いぞ?」
「……はい」
「まぁ、本来は息抜きという名目で旅行にきてるわけだ。別にお前たちを責める
つもりはない。だがな……」
あぁ、言いたい事がひしひしと伝わってくるのなぜだろう……。
「少しは芙蓉たちを見習え!」
「「「「はい……」」」」
俺、シア、麻弓、プリムラは別に言われたわけではないのに、正座になっていた。
「ふぅ。まあ、さっきも言ったが、今回は息抜きとしての旅行だし、私は招待さ
れた身だ。これ以上は何も言わん。遊ぶなら、お前たちだけで遊ぶといい」
「あれ、なっちゃんは遊ばないの?」
「私が抜けたほうが、ちょうどいい人数になるだろう。それに、頑張って勉強し
ているものもいるんだ。教師として、見てやらないとな」
というのは口実のような気がする。
多分、このメンツでゲームをやって、負けた時の罰ゲームが嫌なんだろう。
さすがは大人、さっさと逃げちゃった。
「……な、なんか、遊びにくいね」
「……そうですね」
勉強してる人たちのすぐ近くで遊ぶのもなんか気が引けるな……。
と、そう思っていると。
「お、お客様!」
さっき、食事を持ってきてくれた仲居さんが血相を変えて入って来た。
「ど、どうかしましたか?」
「あの、お客様方のお連れの方が……」
「え……?」
俺たちの連れといったら、あの二人だよな?
なんかやらかしたか?
それにしては、少し大げさすぎるが、ただ事ではない雰囲気がしてきた。
そう思うと、俺達に緊張が走る。
はたして、神王のおじさんと魔王のおじさんはなにを!?
次回へ続く!
お父様と呼ばせて下さいっ!
特に神王様を希望。(ぉ
強力な魔法がでてきました〜。
何気に二度度解けなくするのが一般的な使い方のような気がします。
や、束縛魔法っていうと、サハリエルですね。
びふぉーみーふれいむすざぺんたごん。(ナニ
それにしても、お茶目なキーワードを設定するお父様方です。
すっかり責任をなすりつけてますが、シア達だって快く受け入れたはず。
や、むしろ
「シア、愛してる」
とか
「ネリネ、結婚してくれ」
とかじゃなくて良かっんじゃないですか? 凛くん。(笑
彼女達なら、放っておけばそのくらいはしかねないかとー。
お父様方に感謝しないとですよ。
最近のデジカメは、録音機能も付いてますし。(爆
あ、例のブツとはアレですよね。
丸くて強力な、毒入りのアレ。
なんでも買える便利な世の中になったものです。(マテ
温泉旅行の夜も更けて、まだまだタイヘンなことが起こりそうな予感!?
4度目の「待て次回っ!」です。
Comment by けもりん
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