SHUFFLE! SS

【ドタバタ温泉旅行】
                    震天 さん

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 -- 第五話 --


 さて、そろそろちゃんとおさらいをしようと思うのだが、ここまで徹底して手を
抜いてきたのだ。
 よって、最後までこれを貫こうと思う。
 まあ、一応軽く……。
 夕食後、2大おじさんが露天風呂に行ってその後何かやらかしたようだ。
 仕方ないので、俺が様子を見に行く事にする。

「あの二人、なにをやったんだ?」

 ろくでもないようなことだとは思うが……。

「確か露天風呂に……」

 そろそろ露天風呂にさしかかろうとした時、旅館の異変に気付いた。
 なぜか周辺が破壊されているのだ。

「あの二人、なにやってるんだよ……」

 更に進んでいくと、二人の姿があった。

「なかなかやるね、神ちゃん!」
「まー坊こそ!」

 二人は卓球をやっていた。
 風呂上りの卓球……温泉イベントの一つと言えよう。
 だが、どう見ても普通の卓球じゃない。
 ピンポン球が光っている。

「それ!」
「ちっ!」

 神王のおじさんが拾い損ね、ピンポン玉は壁に……。

 ボコッ!

 ……減り込んだ?

「ちっ! 外しちまったな」
「これで、22-23で、私がマッチポイントだね」
「だが、すぐにひっくり返してやるさ」
「そう簡単にいくかな?」

 何必死になってるんだ、この二人?

「今度は俺からのサーブだな。そら!」
「なんのっ!」

 周りを気にせず熱中する二人だが……。
 俺は静かに卓球台に近づく。
 そして。

「ボールに魔力込めて打ってるんじゃねぇ!」

 卓球台をひっくり返した。

「う、うわぁっ!」
「ぬおっ!?」

 おお、人間、その気になればこんな事もできるんだな。

「稟ちゃん、何てことするんだ?」
「そうだぜ、稟殿。これから俺の逆襲劇が始まるところだったのに」
「俺もだってできれば止めたくなかったですよ。だけど……旅館を破壊するな!」

 二人は改めて周りを見渡す。

「こ、これは……!?」
「一体、誰がこんな事をしやがったんだ!?」

 ……素で言ってる?

「おじさんたちですよ」
「「な、なんだってぇー!?」」

 ほんとに気付いてなかったのか。

「……ま、まぁ、こんなもん。修繕部隊を召喚すりゃあ、一発よ」
「そ、そうだよね。あまり気にする事は……」
「そうですか。では、以前のことも含め、シアとネリネに報告を……」
「「ご、ごめんなさい! 俺(私)たちが悪かった! どうかそれだけは!」」

 まあ、二人も土下座して誤っている事だし……。

「それじゃあ、二人で責任持ってここ、直してくださいね」
「お、俺たちがか!?」
「他に誰がいるんですか?」

 大体、この人たち、自分がやった事の重大さをわかってるのか?

「私は魔王だよ!?」
「俺は神王だぞ!?」
「だから?」

 今問題にしてるのは身分じゃないんですよ、二人とも。

「だから、王たる私たちが、なぜ……」
「なぜ、働かなければいけない、ですか?」

 二人がうんうんと頷く。

「それ、職権濫用って言うんですよ?」
「「それがどうした!?」」

 だめだ、この二人、職権や権力は濫用するためにあると思ってるよ。

「つまり、シアとネリネにどう報告しても良いと?」
「「……」」

 二人が固まる。
 しかも、若干涙目だし。

「……ま、魔法は、使っても良いよね、稟ちゃん?」

 どうやら、やる気を出してくれたようだ。

「まぁ、破壊しない程度なら……」
「よし! 神ちゃん!」
「おうよ!」
「ただし、召喚魔法もだめですよ」
「「……」」

 二人が完全に石になった。
 どうやら、これで完全に逃げ道を塞いだようだ。

「それじゃあ、ちゃんと直してくださいね。神王様、魔王様」
「「!?」」

 さて、後ろで何かぎゃーぎゃー言ってるのは放っておいて、部屋に戻るか。



「ただいま」
「あ、稟。お帰り」
「キキョウ?」

 なんでキキョウが表に出てるんだろう?
 ……まぁ、別に全然構わないんだが。

「ねぇ、二人ともどうだった?」
「ああ、えーっと……」

 まぁ、俺の方から罰を下しておいたし、別に取り立てて説明するような事はない
か。

「うん。二人とも、旅館の人からこってり絞られてるよ」
「ふぅん。……ってことは、二人とも、もうお風呂に入ってないんだよね?」
「? ああ」
「じゃあ、稟。一緒に入ろう♪」
「な、なに?」

 い、一緒に入るだと?
 あの露天風呂にか?

「ほら、あたしまだ入ってないし。それに、稟。約束したじゃない」
「…………ああ!」

 なんか色々あったから忘れてた。

「ほら、行こ♪」
「あ、おい、押すなよ」

 キキョウが俺を押して露天風呂に向おうとする。

「キキョウさん、待ってください!」
「ほえ? なに、ネリネ」
「私もご一緒させてもらっていいですか?」
「うん! もちろん! なんなら、皆一緒に……」

 と、キキョウが言い切る前に皆、風呂に向う準備を済ませていた。
 若干数名を除いて。

「うぅ……こっちかな……それとも……」
「亜沙先輩、麻弓。二人は?」
「決着つけてから。……ああ! また、ジョーカー引いた!」
「よーし、今度こそ……」

 どうやら、かなり白熱している御様子。
 置いて行こう。



「はぁ〜〜〜……」

 湯に浸かり、今まで溜め込んでいた苦労を搾り出すように溜息をつく。
 溜息をつくと幸せが逃げるとか言われているようだが、別に構わない。
 なぜなら、俺の人生、幸せと不幸が交じり合ったカオスの人生だからだ。
 しかし、短いようで長すぎる一日だったなぁ……。

「そういや、この旅館、大浴場もあったんだよな……」

 ちなみに、大浴場は混浴ではない。
 疲労と心労を取ろうと思うなら、こっち(露天風呂)じゃないほうが良かったかも
しれない。

「まぁ、キキョウと約束していたから、今更……」
(だ、だめですよ、キキョウさん!)
「ん?」

 なんか、楓が叫んでる声が聞こえたような……。
 しかも、キキョウに注意するように……。

(いいじゃない……。別に……でも……)
(し、しかし……様に…………なんて……)

 扉を隔てていて、距離もあるため、普通の声での会話は聞き取りにくい。
 だが、なぜだか嫌な予感がする。
 ここ最近、俺はシックスセンス(第六感)が鍛えられている(様な気がする)から、
こういう場合の嫌な予感は嫌味とも言うべき確立で当たる。
 ……なんか悲しくなってくる。

「……いや、落ち込んでる場合じゃなくて」

 戦略的撤退したほうが良い様な気がする。
 だが、キキョウとの約束を破るわけにも……。
 でもでも……!

「なに悩んでるの、稟?」
「? ああ、キキョウ……っ!?」

 キキョウの姿を見て、俺は咄嗟に湯に潜った。
 ちなみに、俺の頭はただいま大混乱中。

(こ、こいつ、なんて格好してるんだ!?)

 最初に入ったときのような水着姿ではなく、バスタオルを体に巻いているだけで
ある。
 おいおい、これ以上はなんか引っ掛かるんじゃないのか!?

「お〜い、稟。どうしたの?」

 人間、それほど長く息を止められるものではない。
 なので、キキョウに背を向けるように湯から顔を出す。

「ぶはっ! お、お前、なんで水着を着てないんだ!?」
「稟が喜ぶと思って♪」

 俺だけじゃなくて世の男全てが喜ぶと思うが……。
 いや、そうじゃなくて……。
 ……待てよ?
 さっき、楓が叫んでたのは、この事か?
 まさか……。

「キ、キキョウ……他の皆は?」
「皆恥ずかしがっちゃって。なかなか出てこないのよ」

 ああ、それは助かるような……困ったような……。
 まぁ、楓たちのことだから、キキョウに言いくるめられて、キキョウのような格
好で入って来る事はないと思うけど。
 それより、早くこれ(キキョウ)を連行して欲しいよ。
 俺の願いは天に届いた。
 ……嫌な方の願いが。

「り、稟君……」
「ああ、楓。キキョウの奴を何とか……なっ!?」

 楓の声のほうを見てみると、皆入って来ているのだけれど、皆が皆、キキョウと
同じ格好をしている。

「な、な、な……」
「つっちー、自分の理性が危ないと思ったら、すぐにここから出て行くことをお
 すすめするが?」
「そ、そう……です、ね」

 皆のほうを見ないように、露天風呂から出て……。

「だめだよ、稟。私との約束!」

 キキョウは俺を逃がさぬように、俺の腕にしがみつく。

「うわぁっ! 引っ付くな、危ないだろ!?」

 主に俺の理性が。
 しかし、俺は腕を動かす事ができない。
 動かすとやっぱり色々なんか引っ掛かりそうだし、俺の理性が崩壊しそうだ。

「稟さん、お顔が赤いようですが……」
「り〜ん♪」
「うっ!」

 キキョウが更に引っ付いてくる。
 その時、俺はいくつかの視線が俺に向けられている事に気付いた。

「稟君……」

 楓が見てる。

「稟様……」

 ネリネが見てる。

「お兄ちゃん……」

 プリムラが見てる。

「稟ちゃん……」

 亜沙先輩が見てる。

「土見君……」

 麻弓がカメラを向けてる。
 うぅ、なんか、更に状況が悪化しそう……。

「って、ちょっと待て! 特に最後!」
「土見君って、どこか反応が遅いのよね」
「そういうことを言ってるんじゃない!」
「大丈夫。防水加工はばっちりだから!」

 そう言って、親指を立てる。
 蹴り倒したいんだが、どうだろう?

「それより、亜沙先輩と麻弓は部屋でトランプやってたんじゃないんですか?」
「ああ、あれ? あれね、稟ちゃんたちが出て行った後、すぐに決着がついたの
 よ」
「はは、そうですか……」

 どの道、これで逃げ道はなくなったな。
 この二人が揃うと……。

「麻弓! 早く早く!」
「はいは〜い! 皆、もっとくっついてくっついて!」
「って、なにやってるんだ!?」

 いつの間にか、皆が俺にくっついて、それを麻弓がカメラに収めようとしている。
 だが、既に囲まれているため、逃げる事すらできない。

「あっ……」

 不意に、キキョウのバスタオルが外れる。

「!?」

 見てはいけないと思いつつ、どうしても目が行ってしまうのは男の悲しい性だろ
う。

「……」

 俺は驚愕した。
 抜ける様な白い肌、艶と張りがあり、決して小さくない豊かな胸に……。

「あははっ! 稟、目が点になってるよ?」

 まぁ、キキョウらしいと言えばキキョウらしいな。
 バスタオルの下にしっかりと水着をつけていた。

「まさか、皆も?」
「土見君、私たちがそんなに無防備に見える?」

 そう言って、皆がバスタオルを取る。

「最初と水着が全然違うじゃねぇかよ……」

 全員、肩に紐がないタイプの水着だ。
 ……騙された……。

「ってことは、楓。お前、あれ演技か!?」
「ち、違うんです! あ、あれは……」
「亜沙と麻弓が来るまでは本当だったの」

 つまり、この二人が犯人か。

「まぁまぁ、稟ちゃん。ちょっと嬉しかったりするんでしょ?」
「……」

 当たっているだけに何も言えない。
 すみません、ちょっとだけ期待しました。

「……うぅ。俺、先に出る」
「えぇ〜! 稟、約束〜!」
「知らん!」

 とにかく逃げよう。
 逃げるが勝ちだ。
 だが……。

「はいはい、土見君。乙女の想いを踏み躙らないの♪」

 そう言って、俺の腕を掴む。
 こいつの華奢な体のどこにそんな力があるのだろうか、俺は麻弓に引き摺られて
いく。

「俺の想いは良いのか!?」
「良いんじゃない? どうせ、今まで無視されてきたんだし」
「お前、身も蓋も鍋までも無くすような事を言うなよ……」

 その一言で俺は気力を無くし、後は成すがままだ。
 どうなったかは……やめておこう。
 悲しくなる……。



 部屋に戻ると布団が敷かれていた。
 俺は部屋に戻るとそのまま布団に倒れた。

「……旅行って、疲れる……」

 いや、旅行が疲れるというより、一緒に来たメンツに問題があるんだろう。

「土見君。部屋に戻るたびに倒れてるね」
「ほっとけ……」

 せめてこの部屋にいるときだけは何事もないことを祈ろう。

「さて、稟ちゃん。ここからが一番の問題だよ?」
「問題? なにがですか?」

 ここにまで問題があるんじゃ、俺は一体いつ休めるんだ?

「土見君はどうでもいいかもしれないけど、プリンセス達には重大な問題なので
 すよ」
「随分と遠回しに言うんだな。何が問題だって言うんだ?」
「りっちゃん。これからどうするつもりなの?」
「どうするって……」

 俺はもう疲れたし、寝るにはまだ少し早いかもしれなけど……。
 ……寝る?

「……」

 部屋を見回してみる。

「……まさか……」
「つっちー、もう少し洞察力を養え」

 まぁ、そういうことだろう。
 つまり、寝るにあたっての場所、か。
 シアとネリネと楓とプリムラは俺を見てなんとなく期待の眼差しをむけてるし。

「では、稟さんは中央という事で」
「ちょ、ちょっと待ってください! なんで俺は既に決定済みなんですか!?」

 しかも、さっきの感じから、俺には拒否権なさそうだし。

「ちなみに、稟ちゃんに拒否権はないから」
「……やっぱり」
「あの、ところで……」

 今まで黙って成り行きを見守っていた楓が恐る恐る口を開いた。

「なに、楓。やっぱり、土見君の傍が良いとか?」
「え! あの、その……そういうわけでは! いえ、稟君の傍がいやとか、そう
 いうことではなくて!」

 楓、そこまでパニックにならなくても。

「はいはい。楓たちがその方が良いと言う事は重々承知してるから。それで、な
 に?」

 わかってるなら言うなよ。

「あ、あの……神王様と魔王様、あれでいいんですか?」

 あれというのは、二つの布団だけなぜか壁を隔てて隔離されている。
 壁と言っても、キキョウとネリネが作り出した結界の障壁だけど。
 しかも、完全防音までされていて、二人は出れないらしい。
 というのも、そこから出てきたら一週間、シアは神王のおじさんにおかわりさせ
ない、ネリネは魔王のおじさんと口を利かない、という条件を出した。
 よって……後はわかるよな?

「いいのいいの。お父さん達が入ってきたら大変だもん。ね、リンちゃん?」
「はい」
「そういうことらしいぞ、楓」
「は、はあ……」

 そういうことで、その問題は解決。

「ねぇねぇ。麻弓ちゃん」
「ん? なに?」
「稟君と同じ布団で寝る、って言うのはあり?」
「なっ!?」

 何を言い出すんだ、このお嬢さんは!?

「うん! ありあり!」
「って、待てーッ!」

 なに勝手に了承してんだよ!

「それじゃあ、3大プリンセス達は土見君と同じ布団……」
「だから! 勝手に話し進めるな!」
「そうそう!」

 お、プリムラ、よく言った。
 もっと言ってやれ。

「私もお兄ちゃんと同じ布団で寝る!」

 ズルッ!

 よ○もと新喜劇張りにずっこけた。
 まさか、このタイミングで奇襲に遭うとは……。

「それじゃあ、シアちゃん、リンちゃん、楓、リムちゃんは土見君と同じ布団と
 言うことで」
「……」
「稟ちゃん、なにか言いたいことある?」
「……言っても聞き入れてくれないんでしょ?」
「うん♪」

 じゃあ、なに言っても無駄じゃん!

「それでは、私は亜沙ちゃんと同じお布団で寝ますわ」
「えっ……!?」
「はい、決定〜」
「ちょっ、稟ちゃん!?」

 まあ、些細な復讐ですよ、亜沙先輩。

「じゃあ、残った3人は、適当に、ということで」
「そうだな」
「私は、あーちゃんの近くで寝ますね」

 という訳で、寝る場所は(ほぼ強制的に)決まった。
 しかし、こういうのでも真剣に考えないといけないとはな。
 寝る前にもう一悶着ありそうだ。

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……ちぇっ。

なんに対しての舌打ちかは、察してあげて下さい。(ぇ
ヒントは……私としては彼女は「大きいと言うほどではない」だと思ってます。ええ。

さてさてさてさて。
大変なイベントが発生しようとしてますね。
独り占め、ズルイっ!(拳
しかもあれですよ?
旅館と言えば、浴衣。
だとすると……。(邪妄想
お兄んは代わって欲しい気持ちで一杯です。(ぉ
や、なにげに代わってくれるのは亜沙先輩でも良い気がしますが。(笑

さあ、そろそろグランドフィナーレは近いのか?
伏せ字のオンパレードは有り得るのか。
待て次回っ!です。


あ、そうそう。
何年か前まで、卓球は1セット21点の3セット制でした。
余談ですが。


Comment by けもりん


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