SHUFFLE! SS
<<前書き>>
今回のSS、Tick!Tack!のファンブックに載っているサイドストーリーをもとに書きました。
内容は魔王様の相手がアイさんになり、セージが稟を追って例の鏡で人間界に来るっていうお話です。
メイドvs幼馴染
震天 さん
「あああぁぁぁっ!!?」
朝、何だか騒がしい悲鳴とともに俺の一日は始まった。
今の声は楓か?
俺はまだ眠いんだが、なにがあったのか気になってとりあえず、起きる事にした。
っていうか、まだ朝の5時半じゃないか。
一階に降りると、楓は台所の方を指差して固まっていた。
長年の付き合いでわかる。
今の状態の楓に何を言っても反応しない。
手っ取り早く状況確認するには楓の指の先にあるものを見たら良いだろう。
で、その先にいたのは朝食の準備をしているセージだった。
「セージ、なにしてるんだ?」
「何って、見ての通り朝食の準備です。稟さまのお世話は久しぶりですから」
あぁ〜……確かに、セージのご飯食べるのは結構久しぶりになるな。
って、今はそれが問題じゃないんだよな……。
「だからって……」
「だからって、私の生き甲斐を奪わないでください!!」
「奪うなんて人聞きの悪い。あたしはメイドとしての仕事を……」
「稟くんのお世話は私だけに許された特権なんです!」
「……ということらしいんだ」
そもそも、なぜセージがここにいるのか。
そのことを説明するとなると、昨日の夜にまで遡る。
セージが例の鏡で時空間転移してきたその後、魔王のおじさん達に会いに行った。
で、その後のこと。
「ところでセージ。どこで寝泊りするんだい?」
「え……?」
「あれ? セージさん、家に泊まるんじゃないの?」
「えっと、あたしはそのつもりだったんですけど……?」
「アイちゃん、野暮は言わないものだよ。せっかくセージは稟ちゃんを追って時空間を飛び越えたんだから」
「あ、そっか〜♪ セージさんは稟君のところに泊まるんだよね〜」
「え、そ、そうなんですか……?」
セージが恥ずかしそうに、だけど期待に満ちた眼差しで俺を見上げる。
いや、そうなんですかと聞かれても、俺が独断で決めるわけには行かないんだけど……。
「え〜!! セージさんが稟の所に泊まるなら、私も稟の家に泊まりたい〜♪」
ネリネ、それは確かに魅力的な申し出だけど、それはできないんだ。
一緒に寝たりすれば部屋の問題云々は解決しそうだが、それは楓に申し訳ないし、おじさんがあんなに涙目で「ネリネちゃんを連れて行ったりしないよね!?」って言わんばかりの目で俺を見つめてくるし。
「ネリネに悪いけど、それは却下の方向で。家が隣なんだし、いつでも会えるだろ?」
「うぅ〜……稟がそう言うなら……」
「まぁ、セージにしても、楓の許可をもらわないとなんともいえないけど……」
まぁ、許可をもらうまでもなく、「稟くんがいいのでしたら、私も構いませんよ」と笑顔で言ってきた。
セージが少し唖然としていたのはちょっと印象的だった。
そんなこんなで、セージは家に住むことになった。
その時点でまずは説明しとかないといけなかったな。
この家のルールというか、楓の性格を。
この家で家事をするということは楓の生き甲斐を奪うことと同じ。
おかげで、俺はネリネと付き合うようになってからますます申し訳なく思っているんだよな……。
「悪いけど、この家では家事とか遠慮してもらえると……」
「そんなぁ〜! あたしの趣味で、使命で、生き甲斐でもある家事を禁止するなんて横暴です!」
「そうなんだが……」
セージをこの家に泊めるという時点で気づけよ、俺。
俺の世話を生き甲斐にしている楓と、メイドオブザメイド(だっけ?)を目指しているセージが同じ屋根の下で暮らしたらどうなるか位。
たぶん、俺の見解ではどっちも譲る気はないだろうな。
さて、どうしたものか……。
「稟くん! これからも私にお世話させてくれるんですよね!?」
「稟さまは人の趣味を奪うような人じゃないって、あたし信じてます!」
「え、ええぇぇ〜……」
マ、マジでどうしたら良いんでしょうか……?
と、とりあえず、まずは定石からだな。
「え〜っと、ひとまず、話し合いということで……」
「「さっき話し合いました!!」」
「……あれ?」
いつ話し合ったんだ?
まあ、それはさておき、どっちも譲る気はなさそうだな。
そうなると……。
「役割分担、か?」
「その辺が妥当かもしれませんね。あたしは居候の身なので、大変なお仕事はお任せください♪」
「そうですか? それじゃ、炊事、洗濯、お掃除は私がしますから、その他をお願いします」
おいおい……。
普通はそっちを任せないか?
「却下です」
で、セージはセージで心臓が止まりそうな目で睨むし……。
なのに楓はまったく怯みもしないし……。
もしかして、この二人、相性最悪ですか?
「メイドの花形ともいえるお仕事全部持っていくなんてあんまりです!」
「稟くんのお世話をする権利は誰にも譲れません!」
……分担さえできませんか……。
これは参ったな……。
このままじゃ、この二人の仲がどんどん悪くなっていく……。
それはダメだ!
こうなったら、俺が二人の仲をどうにかするしかない!
でも、俺にそんなこと出来るか?
……いや、何を弱気になっているんだ!
大丈夫!
俺には神様と魔王様がついているんだ!
……って、あの二人か!
ちょっとタンマ! ストップ!
前言撤回します!
だから、俺に天の使いをよこしてください!
「う〜ん……お兄ちゃん、朝からうるさい……」
「……プリムラが果たして、天の使いになるか否や……」
「?」
俺はひとまず、淡い期待を抱きながらプリムラに事情を説明してみた。
半分寝ているみたいだけど、大丈夫だろうか?
「……一応、事情は理解したけど……」
「やっぱ、難しいか?」
「だって、ある意味似た者同士だし……」
そうなんだよ……だから困ってるんだよ……。
「お兄ちゃんが二人に仕事を与えてみたら?」
「お、俺が!?」
「うん。お兄ちゃんの言うことなら、一応聞くんじゃない?」
「……名案な様だけど、そこはかとなく漂ってくるこの嫌な予感はなんなんだろう……?」
人間の嫌な予感ってのは結構高い確率で当たったりする。
俺の頭の中では渋々納得する二人じゃなくて、猛抗議してくる二人の姿しか思い浮かばんのだが……。
「お兄ちゃん、物は試しだよ」
「……だな。ダメなら他の案を考えよう」
そうだ、今は何でも試すしかない。
……願わくば、最悪な方向に行きませんように。
「ふ、二人とも。聞いてくれ」
「はい?」
「なんですか?」
「俺が、二人のそれぞれの仕事を、決めようと、思う……」
「お兄ちゃん、緊張しすぎ……」
だ、だって、二人の目がなんか怖いんだよ?
気を抜いたら心臓が止まっちゃいそうなんだよ?
結構精神力が削れていくんだよ?
「……稟くんが、そういうのでしたら……」
「メイドはご主人様の言いつけは守らないといけない種族ですからね」
いや、メイドって種族とかじゃないから。
って言うか、俺は別にセージのご主人様でもないんだが?
「じ、じゃあ、発表するぞ」
「どきどき……」
「わくわく……」
「まず、掃除だが、どこになにがあるのか覚えてもらう意味も兼ねて、セージにしてもらおうと思う」
「やった♪」
「しゅん……」
頼む、楓。
そんな本気で落ち込まないでくれ。
「で、洗濯だが、これは楓にお願いしよう」
「はい♪ おまかせください♪」
「しょぼ〜ん……」
だーかーらー!
本気で落ち込んで俺に精神的苦痛を与えるのはマジで勘弁してくれ!
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「俺、挫けそう……」
「が、がんばって、お兄ちゃん。残るは料理だけだから」
その残りが一番問題なんだよな……。
「じーーーーーーーーーー」
「じーーーーーーーーーーーーーー」
「じーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「じーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
……二人とも、怖いって……。
「……最後の料理だが、これは、
・楓しかいないだろう
・セージにお願いしよう
・どうしよう……
」
無断転載厳禁です。
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