過去・否定・現在 第四話
『じゃ〜またね』 『ああ』 そう言うと俺とつばさはそれぞれの帰路についた。 さくら荘の自分の部屋に着くと俺は疲れていたのかすぐに眠ってしまった。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ 2本の綺麗でそれでいてどこか儚い桜の木。 少年と少女が一緒に笑い合っている。 二人より少し年上の青年は桜の木にもたれかかってそんな様子を笑顔で眺めている。 それはいつまでも変わらない空間。 何日経っても何年経っても・・・変わるはずは無い時間。 永遠と呼ばれる時間だった。 少年がある少女と出会うまでは・・・。 少年は一人、丘から街を眺めていた。 少女も青年も今はいない。 すると少年の背後で物音が聞こえた。 振り返ってみると少女が立っていた。 『こんにちは』 『・・こんにちは』 『ねぇ、何してたの?』 少女が少年に尋ねる。 『アレを・・見ていたんだ』 少年は街を指差して答えた。 『アレって・・・あなた、街を知らないの?』 少女は驚いたように尋ねる。 『誰も教えてくれなかったから・・・』 少年は俯きながら消え入りそうな声で言った。 『ねぇ、あなた名前はなんて言うの?』 『僕は・・・舞人』 『私は希望って言うの。ねぇ舞人、街に遊びに行かない?』 ───あそこに行ってはなんりません 少女の言葉を思い出す。 『ごめん・・それは・・・』 言葉にする前に少女が舞人の手を握り走り出す。 『いいから〜さっ走る!!』 そう言うと少女は舞人の手を握ったまま丘を駆け下りた。 街に着いた時、舞人は驚かずにはいられなかった。 今まで見た事の無いような存在。 人間と言う存在に。 『ほら、迷子にならないようについてきてよ』 そういう少女の背中を舞人は駆け足で追いかけて行った。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ 少女と別れ丘に戻っていくとそこには少女と青年が立っていた。 『やぁ、初めて訪れた街はどうだった?』 青年は舞人に尋ねた・・・。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ そこで目が覚めた。 時計を見てみると朝の4時だった。 体は気持ちの悪い寝汗をタップリとかいていた。 『なんなんだ、この夢は・・・』 自分の幼い頃の夢。 でもあの丘で少女と青年と遊んだと言う記憶なんて無い。 むしろ見た事の無い二人だ。 所詮ただの夢だ。気にするだけ仕方が無い。 そう思いたい。 なのになんだ、この胸がモヤモヤする気分は・・・。 ちゃらら〜ら〜ら〜ら〜ららららら〜♪ 不意に電話の音がなる。 こんな時間に電話をかけてくる人物など一人しかいない。 桜井家の人間だ。 だがちょうど良かった、あの母親だったら何かを知っているかもしれない。 そう思い、俺は電話を取った。 『もしもし、ちょうどあんたに聞きたい事があったんだ』 『なんだ、こんな時間に起きていたのか?ママンの声でも聞きたくなったか?』 『冗談はいらない。今日は聞きたい事がある。』 そう言うと俺は母親に昨日あの丘で見た夢と今見た夢の内容を話した。 『・・・と言う訳なんだ。俺には何がなんだかさっぱりだ。ただの夢なのかそれとも・・・ あんただったら分かると思ったんだが』 『・・・・・ふぅ』 受話器の向こうでタバコの煙を吐く音が聞こえる。 『お前はその丘の事を何も知らないんだろ?だったらそれで良いじゃないか』 母親はそう言い放つ。 『俺もそう思うとしている。だがどうしても気になる。あんただったら何かわかるかと思ったんだけど』 『・・・私は何も知らないよ。これはお前の問題だ』 『なに!?どういうことだ!?』 ツーツーツー・・・ 『くそっ!!なんなんだ一体!!』 苛立つ俺は携帯を投げ捨てた。 ───俺の問題・・・なんだってんだ 苛立ちを押さえ込むかのように俺は布団を頭からかぶった。 その時、夢の中で出会った少女のことを思い出していた。 なんだかあった気がする、身近にいる気がする。 だが、それが誰だかわからない。 わからない方がいいのかもしれない。 ただこのままではすっきりしない。 だから、もう一度、あの丘へ行こう。 そんな事を考えているうちに俺は二度目の睡眠へと陥って行った・・・。
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