過去・否定・現在 第六話
『人がゲームの世界に浸っていると言うのになんなんだ(怒)』 俺はブチブチと文句を言いながら電話に出る。 『おかけになったハンサムは現在、ホモサピエンスの高みへと挑んでおります。 御用のお方はピーと言う発信音の後に奇声メッセージをどうぞ。ピー』 『・・・・・・』 電話の向こう側は沈黙。 ちっ、全く!! 『もしもし、人のギャグを沈黙で流すな!何の用だ!?』 俺は早々と自分のお決まりのギャグを切り上げだるそうに言う。 『さくっち・・・今日の丘で話してた事、ホント?』 『今日の丘での話?俺が見た夢の事か?』 俺が夢の話をつばさにしていた時、星崎は聞いていないと思っていた。 ちゃっかり聞いていたんだな・・・。 『そう、夢の話だよ』 『ああ、本当だ。ただ話したような夢を見たのは本当だが、夢の内容のような過去はないぞ』 俺がそう言うとしばらくの沈黙が続いた。 『意味深な沈黙をするな』 俺がそう言うと星崎は小さな声で呟いた。 『さくっち・・・覚えてないんだね・・・』 ・・・・・・ 一瞬、意味が分からなかった。 覚えてない!? 俺が!? 何を!? 『・・・どういう事だ!?』 俺はわけがわからず、少し声を荒げて星崎に問う。 『私とさくっちはあの丘で会ってるんだよ。そう・・・さくっちが見た夢のように・・・』 俺があの丘で星崎と会っていた!? あの夢のように!? 訳が分からなかった。 『私、少し前に思い出したんだ。思い出した時にすぐに言おうと思ったんだよ。 でもさくっちは八重ちゃんと相思相愛だったし言えなかったんだよね。 でも今日、さくっちの夢の話を聞いて言わなきゃ駄目だって思ったんだよ』 俺が訳の分からなくて黙っていると星崎は話を続けていた。 俺はやっとの思いで言葉を発した。 『と言うことは何か。俺と星崎は昔に出会っていた。それも俺が見た夢の通りに・・・って事か?』 『うん・・・そうだよ。初めて出会った頃のさくっちは街の事も知らないで、一人寂しそうだった。 だから私は一緒に遊ぼうって誘ったんだ。それが始まり。』 『そんな出会いなんか俺は知らない!』 俺が星崎を知ったのは桜坂学園に入学した後、噂で聞いたのが始まりだ。 星崎の言うような出会いをした覚えなんてこれっぽっちもない。 『どうして・・・どうしてさくっちは覚えてないの!?』 『覚えてないも何も俺はそんな過去知らない。お前の事を知ったのも桜坂学園に入学した後だ!』 『そんな事無い!確かに私達はまだ小さかった頃にあの丘で会ってるんだよ! 二人で一緒にあの丘から街を見たり、街に出かけてクレープを食べたり!そんな楽しかった思い出を さくっちは忘れてしまったの!?』 星崎は泣きながら怒鳴るような声で俺に言う。 それでも俺は全く覚えていない。 いや、覚えていないと言うより知らないと言う表現の方が正しいだろう。 『俺はそんな事知らない。知らない事でとやかく言われるのは我慢出来ない。切るぞ』 そう言うと俺は星崎の返事を聞く前に電話を切った。 ・・・ ・・ ・ 俺はゲームを再開するも、苛立つ気持ちを抑えられずコントローラーを投げ捨ててベットに寝転がった。 眠気はあまり無いが眠ろうと思い、瞼を閉じる。 しかし星崎の「私とさくっちはあの丘で会ってるんだよ」と言う言葉が頭から離れない。 俺は雑念を振り払うかのように頭を左右にぶんぶんと振り、静かに眠りについた。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ 翌朝、何も変わらぬ朝。 昨晩の星崎の電話。 その内容は一晩たった今だったら理解出来る。 電話の内容は理解出来るが、星崎の言うような出会いに関しては俺自身、皆目見当がつかない。 だから学校で星崎に改めて聞くつもりもない。 いつも通りの1日が始まるんだ。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ 校門で山彦、つばさと出会い3人で教室に入る。 それから何でもない世間話に花を咲かす。 いつもと違う事。 それは星崎がいない事だ。 ただいつもより登校時間が遅いだけの事。 俺は気にも留めなかった。 すると山彦とつばさが言葉にしてた。 『星崎さん、今日は遅いね』 『ホント、ゾンミどうしたんだろね〜』 『ああ、そうだな』 山彦とつばさの言葉に俺は軽く聞こえないぐらいの返事をしておいた。 そうこうしている内に担任の鬼浅間が教室に入ってきた。 『今日、星崎は欠席だ』 そう告げた。 クラスの男連中のため息が聞こえる。 星崎は休みか・・・。 昨日の電話は気にしないと心に決めていた。 だが昨日の今日だけに多少は気になってしまう。 もちろん星崎の話を信じたわけじゃない。 ただ、冗談であんな事を言うとも思えない。 だがその話を信じる事も出来ない。 そんな答えの出ない思考を俺は堂々巡りさせていた。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ その夜、俺は考えていた。 星崎の言葉の真偽を。 俺は星崎の言うような出会いをした記憶なんて無い。 だけど星崎が嘘を言っているようには思えない。 だからといって星崎の言葉を信じる事も出来ない。 考えれば考えるほど答えから遠のいていく。 だがこのまま無視する事も出来ない。 俺はある決心をした。 もしかしたら事情を知っているかもしれないであろう人物に電話をする事にした。 そうして俺は携帯電話を握った。
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