過去・否定・現在 第七話 俺は電話帳の中から【桜井一族】のグループを引き出した。 電話の相手は俺の母親だ。 あいつなら何か知っているに違いない。 俺は何か知っていて欲しいと言う期待ではなく、何か知っているだろうと確信していた。 そう確信したのは先日の電話であいつが言った言葉からだ。 【これはお前の問題だ】 その言葉からあいつは何か知っている。 俺はそう確信して電話をする事にしたのだ。 プルルル〜プルルル〜プルルル〜 プルル・・・ガチャ・・ 『もしもし、桜井ですが?』 『もしもし、俺だが』 『・・・ふぅ〜舞人か。何の用だ?』 『この前の話の続きだ』 そう言うと受話器の向こうからタバコの煙を吐く音が聞こえた。 『・・私は何も知らないと言っただろう』 このままだと電話を一方的に切られると思い俺は星崎の話をした。 もちろん俺の母親が星崎の事を知っているとも思えなかったが・・・。 『星崎・・・希望を知っているか?』 俺の母親は知らない。 そう思っていた俺だが質問してみると何故か不安になった。 『・・・・知ってるよ』 知らないと思っていた。 そう思いたかった。 でも俺は心の奥底であいつは星崎の事を知っている気がしていたのだ。 『なんで・・なんで知っているんだ!?』 俺は興奮気味に問いかける。 『何でも何も・・・あんたが昔、桜坂にいた頃、よく遊んでいた相手じゃないか』 『なら、どうして俺は星崎の事を忘れているんだ!?』 『そんな事は知らないよ!』 少し強めの口調で母親は言った。 俺は何が何だかわからなかった。 俺も星崎も昔に出会っていた事を忘れていた。 でも星崎はあの丘でその事を思い出した。 俺は・・・まだこの事実であろう事を信じる事が出来なかった。 『それに最近まで星崎も忘れていたみたいだった。なんで俺達は忘れていたんだ!?』 俺はそう聞く事しか出来なかった。 暫しの沈黙のうちに母親は言った。 『前にも言ったとおりこれはお前の問題だ。お前が解決しなきゃいけないんだよ』 ツーツーツー そこで電話は切られた。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ もしそれが事実だとしたら俺は・・・星崎はどうして忘れていたんだ。 だが、二人の態度は普通ではなかったし、嘘を言っている様には思えなかった。 それでも俺はどうしても真実に思えないし、昔の事を思い出したわけじゃない。 だから何も変わるわけじゃない。 俺は自分に言い聞かせた。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ 『だから・・・笑って・・・いてくださいね』 急に脳裏に浮かんだ言葉。 これは誰の言葉だっただろう・・・ どんな気持ちで俺に言ったんだろう。 だがその言葉が頭に浮かんだ時、俺は笑っていた。 俺が何をするべきだったのか。 答えは初めから決まっているのだ。 まずは星崎ともう一度話をしよう。 全てはそれからだ。 そう決めると俺は眠りへと落ちていった。 ・・・・・ ・・・・ ・・・ ・・ ・ 翌日、俺は星崎を呼び出して話しをする事にした。 『お〜い星崎、話がある』 そう俺は星崎に声をかけた。 『えっ?』 星崎は驚いた表情で答えた。 あの時の電話以来、俺と星崎は会話と言う会話をしていなかった。 もちろんいつものメンバーで会話などはしていたが星崎と二人でと言う点では会話は全く無かった。 だから星崎が驚くのも無理は無かったわけだ。 『えっ?じゃない。話がある。ちょっと来い!』 そう言うと俺と星崎は人気の無い場所まで移動した。 『話って・・・何?』 俯きながら星崎が尋ねてくる。 『この前の電話の話だよ。てかわかるだろ』 そう言うと俺は言葉を続けた。 『この前、お前に電話で昔の話を聞かされた時俺は信じる事は出来なかった。それから母親に電話したんだ。 そうしたら母親もお前の事を知っていた。俺と良く遊んでいた子だと言った』 『それで・・・さくっちはその話を信じてるの?』 『お前の態度、母親の言動を見る限り二人が嘘を言っている様には思えなかった。 ・・・でも俺はどうしても昔の事を思い出せない』 『そっか・・・』 星崎は残念そうに俯く。 『星崎は昔の事を思い出して何か変化した事はあるか?』 俺がそう言うと星崎はしばらくの間黙っていた。 ただ何かを言い出そうとして躊躇しているようだった。 俺はもう何も言わず、星崎が話してくれるのを待っていた。 それから数分後、星崎が俯いていた顔を上げて話し始めた。 『私が昔の事を思い出して変わった事は・・・さくっちの存在・・・かな』 『えっ!?』 一瞬、俺は意味がわからなかった。 俺の存在が変わった!? 『どういう事だ!?』 俺は星崎にその言葉の真意を確かめるために問いかける。 『昔の事を思い出したと同時にある事を思い出したんだよ。 それは私の初恋の相手がさくっちだったって事。 あの丘で初めてで会って二人で遊んでいるうちに私はさくっちの事を好きになっていたんだよね』 俺の問いに星崎ははっきりと答えた。第六話へ 第八話へ