Q33 頭がよくなるってどういうことですか。
A33 脳の仕組みは複雑で、解明されていない部分もたくさんあります。
しかし、脳がこの国の最もすばらしい資源のひとつであり、子供それぞれの幸せを握る鍵であることを考えると、そろそろ子供たちも、脳について意識した方が良いと思われるので、子供たちには、こんなふうに脳はできている、と話してあります。
・脳は、何億こもの小さな箱の集まりである。
・箱の一つ一つには、覚えたことが入るようになっている。
・箱に知識がひとつ入ると、忘れないようにふたが閉まる。
・その知識が必要なときは、ふたが開き、中を見る。
・覚えたばかりのときは、蝶番も滑らかに動くので、ノックすれば、すぐにふたが開く。
・その部屋を長い間使わないと、蝶番が次第に錆びてきて、ふたが開きにくくなって、その中が見えなくなる。
この話の続きはまだあるのですが、この話が理解できた後、子供たちには、続きを話します。
脳がこのような仕組みになっていると考えると、優しく友だちに教える子は、さらに頭が良くなったと言えます。
一度しっかり勉強して、友達のためにふたを開けたので、蝶番がさび始めるのが、先へ伸ばされたのです。
1カ月前の夕食の献立は、覚えていますか。
なかなか難しいですね。
でも、1年前の誰かの誕生日の夕食の献立はいかがでしょう。
1カ月前の事は忘れているのに、1年も前のことは、覚えている。これが、人間の脳のおもしろいところで、そして、大切なところです。
何か特別な日の献立は、その特別なことと関連して、何度も思い出します。
だから、なかなか忘れません。
この「関連して」と「何度も」が、脳の力を上げるキーワードなのです。
脳のひとつの箱に、その日の出来事がしまわれます。
もう一つの箱に、その日の献立がしまわれます。
それぞれの箱のふたが、その後も何度も何度も開けられれば、蝶番は錆びずに、スムーズに思い出せるという訳です。
その日の出来事と献立は、もちろん別々に思い出されもしますが、この二つの部屋は、太いひもでつながっているために、片方のふたがノックされると、もう一つのふたも、そのノックの音で開けられることが多くなります。
その日の出来事を誰かに話したり、楽しく思い出したりしたときには、同時に、献立の部屋の箱も開くことが多いでしょう。
逆に、その献立と同じ料理を偶然見たときに、その日の出来事がよみがえってくるということも起こるでしょう。
この二つの箱のふたは、他の単独の箱のふたの2倍、開けられる可能性が出てきます。
錆び付くまでに、2倍以上の期間がかかる、すなわち、長い間、思い出すことができるという訳です。
アインシュタインの脳も、私たちの脳も、容量的には、それほど変わりはないそうです。
ただ、箱と箱をつなぐひもが、複雑に入り組んでいて、ひとつの箱をノックした時に同時に開くふたの数が、普通の人より多いので、人より多くの発想ができる仕組みになっているそうです。
さて、では、この仕組みをどのように学習に生かせば、子供たちの力は伸びるのでしょうか。
お子さんは、学校での出来事を、家族のだんらんの中で話しますか。
授業について話しますか。
子供たちの脳の細胞は、食事の好き嫌いをせず、よく遊び、十分睡眠をとれば、自然に毎日増えていきます。
知識を入れる箱がどんどん増えていくのです。
もちろん、好き嫌いをして、片寄った食事をしたり、睡眠不足だったりすると、他の子より、脳細胞の増え方は、小さくなるでしょう。
また、鍛えれば鍛えるほど筋肉が増えるのと同じように、その日のうちに、空の脳の箱を全部埋めてしまえば、体は、寝ている間に、いつもより多い栄養を脳に送って、昨日用意した数よりも、もっと多い箱を用意しようとするでしょう。
しっかり集中して授業を受けさえすれば、お子さんの脳の箱は、授業中に自然に埋まっていきます。
その箱のふたが、いつまでもスムーズに開くようにしておけば、それを忘れない、いつでも思い出せる、という訳です。
では、ずっと開けておけばいいではないか、と言われたこともありますが、それは、無駄であり、無理でもあります。
今日は「舌」という漢字を勉強した。
それを忘れないために、ずっと「舌」という字を、頭の中に念じていよう。
これでは、生活できません。
時々、上手にふたを開けてやり、蝶番が錆びないようにしてやるだけで、十分なのです。
「今日、こんなことを学校でやったよ。」
お子さんが、今日の出来事を家の人に話しているときは、その出来事が入った箱のふたが開かれます。
一度知識を入れて閉まったふたも、その日のうちに一度開けることで、錆び付くまでの時間が、随分延びます。
また、ここで、話を聞いてくれる家の人が、それに関連した話をすると、お子さんの別の箱にその知識は入り、学校で覚えたことの箱と、太いひもでつながります。
すると、「特別な日の献立」のように、この先、ふたの開くチャンスは、さらに大きくなります。
家族だんらんの中、大勢の人が、学校の話題に口をはさめばはさむほど、ひもでつながった箱は、増えていきます。
家族の会話を増やす。
たったこれだけのことで、お子さんの「頭が良くなる」といっても、過言ではないでしょう。
さて、箱のふたを何度か効果的に開けるという考え方は、もちろん、お子さんの学習方法の基本になります。
自分でそれを上手にやるかどうかで、12歳以降の学習の効率は変わってきます。
今から、少しずつ、それについて考えていけば、間に合います。
具体的な例を少しあげてみましょう。
毎日、ほとんどの子が、漢字を100字くらい、家で練習してきます。
同じだけやっているのに、漢字を書く実力には、かなり差があります。
原因は、いろいろあります。
一つは、気力です。
一字書くごとに、「絶対覚えてやるぞ。」という気持ちで書いている子と、そうでない子との差は、やはり大きいものです。
「絶対覚えてやるぞ。」と言う子の脳の箱には、確実にその字は入りますが、そうでない子の脳の箱には、入らないことが多いのです。
特に「ながら勉強」をしている子の脳の箱は、真剣に取り組んでいる子の半分も、漢字で埋まらないでしょう。
テレビを見ながらやると、半分は、テレビのことが、脳の箱に入ってしまうのです。
また、「覚えた漢字は絶対使う」という気力も、そうでない子との差を大きくつけるでしょう。
自分の気力で意識的にふたをノックするのですから、蝶番の錆びも、恐れをなしてしまいます。
さて、気力は大切で欠くことができないものですが、そればかりでも普通の人間はうまくいきません。
ちょっと工夫して、自然に、効果的に、ふたが開くような方法で勉強するのも大切です。
この工夫を自分でできるようになれば、中学以降も、順調に伸びていきます。
つまり、良く言われる「自主勉強」の種がここにあるのです。
お子さんの漢字ノートをご覧ください。どんなふうに、毎日、漢字の練習をしていますか。
同じ字を、1行、2行と並べている。
毎日、毎日、ドリルの同じ箇所を写している。(そして、同じ字を毎日直されているのに気づかない。(^-^))
もちろん、その子の力にあったやり方が基本ですから、全員がやり方をむりにそろえる必要はありません。
しかし、全くの工夫なしでは、ふたは効率よく開かれません。
これまでに私の出会った子供たちが、どんな工夫をしたかという例が、こちらにあります。 Q21へ
「頭がよくなる」という定義は、たくさんあります。
まずは、お父さん、お母さんの定義で、お子さんに話してみてください。
ここに書いた脳の話が参考になれば幸いです。
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