小説 〜DAVALPUS〜
間奏T 逆鱗
金や銀によって設えられた豪奢なる玉座。
東方の異国よりもたらされた真紅の大絨毯。
人の背丈の十倍はあろうかという高さを誇る天井には、大いなる神々の姿を模した壁画が描かれている。
その絢爛華美な大広間の主は、つい今しがたの報告を耳にしてからというもの、不機嫌極まりない鬼の如き形相を浮かべていた。
報をもたらした哀れな兵士は、激昂した主により王錫で殴りつけられ顎の骨を粉砕された。
「おのれ、聖王都の犬どもめが…やってくれるわ」
奥歯が軋むギリギリという音が伝わり聴こえてくるかのようだ。
目を血走らせながら、その男─”狂王”はその声をより一層荒げる。
「だが、真に腹立たしきは黒騎士、ヴィシャス・ヘイトレッドよ。余が与えし恩を反故にし、敵前逃亡を図るとは何事だ!」
荒ぶる狂王。
配下の騎士達でさえ、決してその目を合わそうとはしない。
それこそ、どんな目に合わされるのか分かった物ではないからだ。
「ヴィシャスを捕えよ。余自らがこの手で八つ裂きにしてくれるわ」
狂王のこの怒声が兵士達の口から口へと伝わっていくにつれ、城塞都市のすべての軍属達の間に戦慄が走った。
それでなくとも、狂王による領土拡張戦争に追われる日々。
また、そのことが起因し聖王都との全面衝突を間近に控えているのである。
先の北部山村地帯での戦いでは、狂王軍は聖王都軍の前に敗れ去ったのだ。
この上さらに”黒騎士”とまで称された近衛兵随一の使い手が失踪。
その身柄を捜索し、拘束せよと狂王はのたまう。
これ以上、何か良くない事が起きれば、はたしてどうなるかは想像すら出来ない。
それ程までに狂王と、狂王が所持する”魔除け”と呼ばれる魔導器は恐怖の対象として畏れられているのである。
それ故、狂王の兵士達は自らの身に怒りの矛先を向けられては堪らないとばかりに、より忠実に、より精力的に与えられた命令に従事していく。
だが、そんな彼らの盲目的な努力も決して報われる事はない。
それどころか、事態は最悪の方向に向け動き出すのであった。
その晩、狂王の”魔除け”は何者かによって、その寝所より盗み出された。