小説 〜DAVALPUS〜
間奏U 傍観者
「狂王ご自慢の暗殺者を物ともせぬ強さ。只者ではありませんな」
今しがた戦いのあった街道を見下ろす小高い丘の上。
丘の上より、その顛末を傍観していたスーツ姿の男が、傍らに立つ濃紺色の法衣を纏ったいま一人の男にそう呟いた。
「よもや、在野の冒険者とは思えぬその戦いぶり…」
スーツ姿の男の畏怖とも取れる口調。
その視線はおよそ五倍にも及ぶ数の暗殺者を退けた二人組に注がれている。
「見た顔だよ。どちらも」
男の長い黒髪が、心地よいと言うにはやや強すぎるきらいのある夜風にたなびく。
抑揚の効いたその低い声が闇夜を伝う。
彼の視線もまた眼下の二人組を見据えていた。
「彼らを御存知で?」
だが、その問いには答えず。
「気付いたようだ」
「ええ。この距離で向こうから気付くとは、益々もって只者とは思いがたい」
街道より見上げる丘の上に、二人の傍観者の姿があった。
その後背に佇む二頭立ての豪奢な馬車は、彼らが只者ではないことを無言に物語っている。
暗殺者の群れを退けた騎士と射手は、やがて彼らが立ち去るまでその視線を傍観者達と交わし続けた。
空には満天の星空がどこまでも広がっていた。