リレー小説 〜Infinity〜
走る犬/日常の位相について
歩道の上を犬が走っている。
小柄で痩せた野良犬だ。元はおそらく飴色だったろう長い毛は、惨めに薄汚れて黒ずんでいる。
そんな野良犬が必死で走っている。
時の頃はそろそろオフィス街に人の群れが現れようかと言うところ。
小犬は自らの小柄を活かして足下を擦りぬけるように駆けていく。
そして、それを追う二人の男。
一人は痩せ気味で中背の青年。
眠っているのかと疑いたくなるほどの糸目。余裕ある自然な笑みは走りながらも崩れない。モノクロのカジュアルスーツがよく似合っている。
もう一人は息を呑むほどの大男。
日本人としては規格外の200cmを越える身長と肉の厚み。ただ筋肉質でバランスが良い為に鈍重なイメージはない。アーミーパンツにTシャツとフライトジャケット、そんなラフなスタイルが惚れ惚れとするとほど似合っている。
驚くべき事に、二人は全力疾走する犬を追いながら息一つ乱していなかった。
ばかりか、行き交う人々に一人としてかすりもしない。
熟練のボクサーのように鮮やかなフットワークで人ごみをすりぬけていく。誰もがそんな二人に振りかえり、しばし息を止めて走り去る背中を見送った。
さらに──
あろう事か大男にいたっては携帯を片手に電話さえしている。
「違うって。そういうわけじゃない」
何かを慌てて否定。
「実は急なバイトが入っちまってよ。悪いけどさ、直接会場に行っててくれよ」
今度は申し訳なさそうに。
それでも視線は犬を追っている。足取りが乱れる様子もない。すれ違う人々にぶつかる事もない。
「ああ、悪い。そういう事だから頼むな」
拝むように、ようやく電話を切った。
大柄な手のひらの中にはコンパクトすぎる携帯電話をアーミーパンツのポケットに滑り込ませる。
人影が一瞬、犬の姿を隠した。
次の瞬間、人影の向こうにあるべき犬の姿はない。
一瞬できた死角をついて裏道に入ったのだ。それを糸目の青年も大男も、見逃さなかった。
前へ行きすぎた体重を、足下でしなやかに吸収して方向転換。
裏道へ入っていく。
「ハル、恨むぜ」
苦笑いを浮かべて大男は言った。
「おかげで留美に晩メシを奢らなきゃいけねぇ」
「デートだったんですか? 稔君」
糸目の青年、ハルは悪びれた表情をするでもなく応えた。
「それは不運でしたねぇ。こんな世界に首をつっこんだばっかりに」
あげく他人事のように言ってのける。
大男、稔は呆れて二の句も継げない。
そもそも『こんな世界』に引っ張り込んだのも、デートの時に限って駆り出すのもハル自身ではないか。
「まぁ、きっと間に合いますよ。まだ時間も早いコトですし」
「信じられねぇな。ハルの占いなんて当たった事あったか?」
「言います? そういうコト。よりによって稀代の陰陽師を捕まえて」
「陰陽師ってのは占いもやるのか?」
「むしろ、そっちが本業です」
「じゃ、本業の方に専念してろ。人を引っ張りまわして、こんなコトしてねーで!」
「それはほら──」
そこでハルは一瞬、言葉を止めた。
犬が右の裏路地へ急旋回したからだ。
体重と移動により生じたエネルギーを、またしなやかに殺して方向転換。よどみなく裏路地へ入っていく。
「ボクの占いは当たらないそうですから」
方向転換の瞬間、稔に顔を向けてにっこりと笑う。
「バカ言ってろ。インチキ占い師!」
稔は、悪態をついて後を追った。
宇田川 稔がハル──篠田 晴明(シノダ ハルアキ)と組むようになったのは3ヶ月前。
大学に進学したために静岡から上京。一人暮らしでバタバタとしながら新しい環境にようやく馴染み始め、水代 留美と言う彼女もできた7月の始め。
その夏の最高気温を記録した灼熱の日──
その日、稔は二つの世界の狭間に立った。
「世界は陰と陽で出来上がっている。そう説明すれば途端にクリアになります。今まで君が居た世界が陽。目の前の世界が陰。そして──君とボクが今立っているのが狭間」
あの日、ハルはそう言った。
「心配ですか?」
にっこりと笑う。
足下には──哀れな鬼の死体。そして鬼が愛した女の死体。
コンクリートの壁。人通りのない裏路地。ゴミが散らかされたアスファルトの地面。
間違いない。銀座のビル街、その足下に埋め込まれた地下街だ。
──そのはずだ。
だが稔の感覚は、それを否定していた。
肌にピリピリとまとわりつく不快な空気。薄紅いスライドが掛かったような視界。薄ぼんやりと香る伽羅の香り。
全てが現実を否定している。
何よりも──まだ手に残る感触。鬼を絶命にいたらしめた一撃の感触が。
「この鬼は、すでに死んでいました。あなたに襲いかかるよりずっと前、この姿に変形した時点で。だから法的にも道徳的にも、君が罪に問われる心配はありません」
淡々と言いながら、ハルはいつの間にやら取り出した黄色がかった紙──呪符を細かく千切る。
「──オレが殺した事実は変わらんだろ?」
「いいえ」
強張った顔で問う稔に、ハルは頭を振る。
「すでに死んでいたものを殺す事はできないでしょう?」
呟くように、諭すように言いながら手の中の呪符を千切る。尽きる事なく千切り続けている。
「だが──間違いなく息をして動いていた。動く死体なんてあるか! 出来の悪いホラー映画じゃないんだぞ!」
「陰の世界ではアリなんです。ちょうど、出来の悪いホラー映画のように」
声を荒げた稔の言葉を、ハルは静かに否定した。
そして──
手の中の呪符の破片を解き放つ。
放たれた破片は伽羅の香りの中で花びらに変わり二つの骸を包み──それでもなお増え続け、やがて花吹雪に変わり──
「だから、簡単になかった事にもできるんです」
そう言ったハルの柔らかく優しい笑み。
花吹雪が宙へと弾けた。弾けて消えた。
ぴりぴりとまとわりつく空気も、薄紅いスライドの視界も、薄い伽羅の香りもない。
そして──
鬼と女の死体も、そこにはなかった。
以来、稔はハルの仕事を手伝うようになった。
理由は、稔自身いまでも分かっていない。
ただ、自分の力がハルに必要とされている事、そして今まで知ることのなかった世界で様々なものに出遭う事──それを悪くはないと感じているのは事実だ。
そして今も──
不意に左右の壁が消えた。
視界が急に広がる。
どれほど走ったか、延々と細い路地裏をくぐるように通りぬけた先。都市計画の書類の山に埋もれ、ぽっかりと開いた計算外の空間。
そこはそんな場所だった。
ビルの谷間の陰に一筋の陽光がさしこんでいる。
陰に埋もれて散らかったゴミ。その中心でゴミ箱の上に座り、陽光を受ける中年の小男。
一目で東南アジアから来たと分かるその風貌は秋を深めたビルの谷間に浮いて見えた。
その足下に薄汚れて痩せた小犬が座り込んでいる。
「アナタ、ニホンノ、シャーマン、デスカ?」
にこにこと小男が言った。
くりっとした目のせいか、その笑顔は年の割に幼く見えた。
多分、人ごみで道を聞かれたなら愛嬌を覚えただろう。だが、こんな場所で向き合っている今は、不気味さの方が先に立つ。
「まぁ、そのようなものと言って構わないでしょうね」
にこやかにハルは答えた。
「ナゼ、アナタ、ジャマスル?」
子供のような目に悪意を篭めて小男が問う。
「副業のついでです。あなたこそ、どうしてわざわざ日本まで来て病魔(ヤカー)なんて?」
「アツメル──マジック・ソード。チカラ、イルデショ?」
目に悪意をこめたまま、小男は笑みだけは絶やさない。
ふわっと、ゴミ箱から下りてアスファルトの上に立つ。
ぎぃぃぃぃん──
金属と金属を強く叩き合わせたような甲高い音が、細く長く鼓膜を叩く。
空気が、じっとりと稔の肌にまとわりつく。
視界が薄紅いスライドに遮られる。
そして、今日は甘ったるい腐臭。
世界の──
日常の位相がズレる──
「ぐぅっ」
稔は低く唸って堪えた。
この感覚だけは未だに馴染めない。不快感が胃のあたりでじっと凝る。
ごくり、と唾を呑みこんで構えを整える。
ほぼ自然体。腰を軽く落とし、軽く両手で正中線を庇う。
臍の下、三寸のところにエネルギーの固まりがごろりと転がっているイメージを浮かべる。
ほぼ同時に、薄汚れて痩せた小犬が立ち上がった。
だけでなく陰から──まるで、ぬるりと這い出すように小動物の影が現れる。
野良犬、野良猫、カラス、ドブネズミ──種類は様々だが、どれも薄汚れ痩せている。
ぐるるるるる。
ふぎぃぃぃぃぃ。
くわぁわぁわぁ。
ぢぃぢぃぃぃ。
低く唸る声。そして、ギラギラと厭な光を帯びた赤い瞳。
「東京に病魔(ヤカー)は相性が良かったでしょう? 病の種は幾らでも転がっているし、媒介させる獣も少なくない。もちろん憑かせる相手は余るほどにいる──」
どこからか取り出した呪符を両手に、ハルが言う。
「これだけ育てるのにも時間は掛からなかったでしょうね」
右の人差し指と中指に呪符を挟み、宙に図形を書き出す。
淡く淡く、目をこらさなければ分からないほどの燐光が五芒星──陰陽道に言う晴明桔梗を残す。
「チカラ、スベテ、デショ?」
にこやかなまま小男は殺気を膨らませていく。
それに応えるように小動物の唸り声がゆっくりと音量を増していく。
「ワタシ、ベスト・ウェイ、エランダ、ダケ」
腰の後に手を回し、ナイフを取り出す。
不思議なカーブを描いた刀身は薄桃色に染まっている。柄は西洋の魔龍の姿が精緻な細工で彫り込まれ、龍の瞳には柘榴石が埋めこまれている。
小男は、それを振り上げ──振り下ろした。
それを合図に、小動物の群れが一斉にハルへ襲いかかる。
だんっ。
ぶんっ
力強い二つの音、打音と唸音が割って入る。
打音の正体はアスファルトを砕かんばかりの踏み込み──震脚の、その爆発にも似た音。大陸の武術、八極拳のトレードマーク。
唸音の正体は太い腕が、宙に弧を描き空を切る音。力強く薙ぎ払う動きは激しくも疾いが、紛れもなく太極拳の技だ。
瞬間、襲いかかった小動物達は残らず弾き飛ばされた。
ぎぃぃぎゃぁぁ。
この世のものとも思えぬ悲鳴と共にアスファルトへ叩きつけられる。
「やっと──分かり易くなったな」
稔は、にぃと太い笑みを浮かべた。
そこへ休む事なく小動物が襲い掛かっていく。的が小さいばかりでなく数も多い。さらに絶え間なく波状に続く。
並の使い手ならばじりじりと手傷を負うところだ。
しかし稔は易々とかわし、さばき、払い、踏み潰していく。全身どこに触れても即ちそれが攻撃になっている。
邪気を調伏する鬼神の舞──稔の動きは、まさにそれだった。
「アナタ、シャーマン、チガウデショ? ドシテ?」
小男がくりっとした目を、さらに剥く。よほど驚愕したのだと、はっきり分かる。
デタラメにナイフを振り回し、小動物を指揮する。狂ったように襲い掛かる。
「彼は、中国拳法の達人なんですよ」
にこにこと変わらぬ笑みのまま、ハルが言った。
その指先は、目まぐるしく印を組んでいる。足下にはいつ撒いたのか、八種八枚の呪符が八角形を象っている。
「さすがに四千年の歴史、と言うべきでしょうね。彼の発剄は──効きますよ?」
右の刀印──人差し指と中指だけを伸ばした手で宙に格子を書いていく。
左から右へ、上から下へ。
「朱雀。玄武。白虎。匂陣。帝台。文王。三台。玉女。青竜」
刀印が格子を描くのに合わせてぽつり、ぽつりと呟く。
陰陽道式の九字である。
「九字は現し世と異界の境界を開き、天地の位相を一つに繋ぎます。地界から天界へ、人界から仙界へ──現し世ならぬ幽(かく)り世へ」
言いながら今度はどんっ、と足を踏み鳴らす。
その間も稔は襲いかかる動物達を叩き伏せている。だんっ、だんっと震脚の音が合間に混じる。
「左に青竜あって万兵を避け、右に白虎あって不祥を避く。前に朱雀あって口舌を避け、後に玄武あって万鬼を避く。四方に四神降りて臨み、地を治む。──天地を開けば四神もここに在ってボクを守ります」
ハルが呟けば、すぅっと辺りの空気が変わる。
薄紅いスライドが清浄の青に。
「アナタ、ムダネ。ニンゲン、ツカレルデショ? ソノ、アースラ、ミタイナ、オトコモ、ツカレル。ソウデショ? デモ、ヤカーハ、ツカレナイ」
猿のように小男はゴミ箱の上に跳び上がった。
デタラメにナイフを振りまわしながら、やはりデタラメなステップで踊り出す。
「ワタシ、サンニ・ヤカー──ヤカーノ、オーサマ、ヨブヨ。アナタ、ミチ、ヒライタ。ダカラ、カンタン。ソウデショ?」
茶褐色の肌が、見た目に分かるほど紅潮している。くりっとした目は、すでに限界まで見開かれ血走っている。
どっどっどっどっど──
小男のステップが奇妙なリズムでゴミ箱を鳴らす。そのくせ、バランスを崩して倒れる様子も力をいれすぎて踏みぬく様子もない。
熱に浮かされたような踊りは、終わる気配もなく続く。
「ヤカーはインドのヤクシャがスリランカに渡り“病”という属性を得た魔物。そして大陸の東を渡ったヤクシャの一柱は仏法に降り──」
どんっ、どんっ。
眼前の異様な光景に何を思う風でもなく、ハルは淡々と決められた手順を処理するように足を踏み鳴らす。
「金剛なる力もて煩悩を破砕し悪神を踏み砕く──金剛夜叉明王と呼ばれました。毒には毒とも言いますし、ここは一つお力をお借りして一斉検挙と参りましょう」
どんっ、どんっ。一際、大きな音を立ててアスファルトを踏みつける。
両腕は力強く、その手に武器を握っているような仕草でふりかざす。
「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン!」
驚くほど大きく、通る声が狭い空間に響き渡る。
「オォォォォアァァァァァ」
同時に小男の喉から、絞るように甲高く鋭く伸びる声が空間を貫く。
びぃぃぃぃんっ。
空間が鋭く──衝撃で割れる寸前の硝子板のように鋭く震える。震えつづける。
稔と、病魔に憑かれた小動物達の動きが凍りついたように固まった。
拮抗──
それを破るように──
「稔君、お待ちかねの大物が行きますよ」
ふわりふわりと、人型に切りぬいた紙が泳ぐように宙を舞う。
固まった空気の中で、その周りだけが嘘のように柔らかい。
ゆっくりと、ゆったりと小男の方に向かって進んで行き──届かず、手前で力を失ってアスファルトの上に落ち──
すぅっと何もなかった空間に輪郭が描かれていく。まだぼんやりと揺れるその姿は、まるで安いSF映画のホログラムのようだ。
青灰色の筋肉質だが痩せた身体は、ボロボロの腰布の他に何もまとっていない。身の丈は悠に250cm以上──ほとんど規格外の巨躯を誇る稔が子供に見える。
その顔は、ドクロをベースに黄金と朱丹で派手に飾られた異形の仮面だ。
次第に輪郭ははっきりと浮かびあがり──
不意に、稔へ殴りかかった。
ぶぉんっ。
空気を巻き込んだ拳が唸りを上げる。
よほどの使い手でも後に退く。それほどの圧力を持った一撃である。
稔はしかし、さらに一歩踏み込んでドクロ男の拳とすれ違った。
だけでなく下から突き上げるように、鳩尾へ左肘を叩き込んでいる。
ドクロ男の重心が浮く。それほどの衝撃が背に向けて尽きぬけた。
稔の動きは止まらない。
右腕を外から内へ捻りこむように、ドクロ男のあご先へ掌底を突き上げる。同時に左肘を脇へ引き戻し、そのままピストンのように、しかし外から内への捻りを加えて真っ直ぐ突き出す。
巨人が吹き飛んだ。
だぁぁんっ。
やや遅れて重い音が響く。
「せぃっ!」
巨人がぴくりとも動かないのを確認して、稔は気息を吐き出した。
その足下で、小動物達はもう動いていない。糸が切れた人形のようにじっと転がっている。
「さて──今度は、あんたかい?」
言いながら稔は小男に視線を移した。
口元には獰猛な──明らかに巨人と対峙して昂ぶった笑みが浮かんでいる。
「オカシイ、デショッ! サンニ・ヤカー、ワタシノクニデハ、トテモ、オソロシイ、デーモン! クンフー・マスターナンカニ、タオセナイデショ!」
うろたえて小男がヒステリックに叫ぶ。
「何も不思議はありません。すでに金剛夜叉明王をこの場に降ろした時点でサンニ・ヤカーの力は、ほとんど縛られていたでしょう?」
小男の眼前に、ぬっとハルが現れて言う。
「実体がないはずのサンニ・ヤカーに形代を与えたのはボクですし──」
「ヒィッ」
狼狽しきった小男がノドの奥で擦りあげるように声を上げた。
「ヤカーもサンニ・ヤカーも夜叉──インドの水の精霊から派生したものだけに水の性。対する稔君は豊穣を意味する名からして土の性、それだけでなく土の方角たる中央から堂々と攻めていきましたから」
「ウォォォッ」
淡々と語るハルに向かって右手のナイフを突き出す。
ひゅんっ。
鋭いその一撃は、しかし空を切った。
ハルが僅かな体重移動だけでナイフの軌道から身をかわしたからである。
しかも、それだけでなく小男の右腕を巻き込むように脇へ抱え肘を極めて軽く引き込む。
ばたんっ!
小男の身体が僅かな間、宙を舞う。次の瞬間には顔面からアスファルトに叩きつけられている。
「陰陽道の基礎である五行説では土克水と言います。土は水を吸い込んでしまう──つまり水と土が打ち合えば、土が勝つものと決まっているんです。ね?」
小男を叩き伏せた姿勢で、ハルはなおも肘を極めている。
「ギィィィ」
激痛に搾り出されたような声が小男の喉で鳴っている。しかしハルの手はゆるまない。
「ちなみに日本には合気道という武術──ブドー・アーツがありまして。ボクも護身術程度にはたしなんでます。稔君と違って実力がない分、加減を知りませんから無駄な抵抗はしない方が良いですよ?」
念をおすように言ってナイフを取り上げ、ハルはにっこりと笑った。
小男は、諦めたようにぐったりと力を失った。