リレー小説 〜Infinity〜
私は鳩に餌をあげていた
改札を抜けた留美の前に雑踏が広がった。
思い思いの場所に歩きゆく者、誰かを持った居るのかその場に留まる者など様々だ。
特に、行く場所のない留美は適当に町を流すことにした。
歩きながら店先のウィンドウの中をちらりと見ながら移動する。
フラフラと歩くが特に気を引く物はない。
電気屋のTV前で立ち止まる。
TVでは、この前までロードショーで激しいSFXが売りで劇場を賑わせていた映画のDVDが流されていた。
SF物で巨大な帝国に立ち向かう者たちの物語だ。
映画館で観たが、内容は良く覚えていない。
稔と付き合い始めたばかりで、稔のことが気になって仕方なかったからだ。
そういえば、その後のデートでも激しいアクション物ばかり観ているような気がする。
確かにどきどきするんけど、あのどきどきは違うどきどきだ。
今度、恋愛物を観に行くのも悪くないかもしれない。
やっぱり、恋愛物も一緒に観てみたい。
今回の遅刻の罰に、今度連れてって貰おう。
留美はそんな事を考えながら再び歩き出した。
暫く歩き回った留美は大きな広場で足を休めていた。
ベンチに座りながら周囲を見回すが、鳩に餌をやっているおじさんがいるくらいで、特に面白い発見はない。
実に暇だ。
町を無目的に歩くことは、それはそれで新たなる発見があって良いのだが、やはり限度というものがある。
稔との待ち合わせまで残り1時間程度。
「こんにちは」
これからどうしようかと考えていると、餌をあげていたおじさんに声を掛けられた。間近で観ると40代半ばと言った所だろうか、ワイシャツの第一ボタンを外し、ツータックパンツ。すこし色あせた緑色のコートを羽織っている。
「あ、こんにちは」
「お暇でしたら、鳩に餌でもあげてみませんか?」
「餌……」
ちらりと男の手にある袋に目が移る。その手には透明ビニールに包まれたパンの耳が入っている。
留美はすこし考えた後、餌をあげることにした。暇つぶしにはちょうど良い。
「いつもはもう暫くあげているのですがね、あいにく今日はこれから用事があるんですよ。失礼ですが……お暇そうにしてたので、頼めるかな……と」
「そうなんですか、良いですよ。ちょうど暇だったし」
「そうですか、ではお願いします。すいません」
男は頭を下げて留美に袋を渡した。
男が去った後に、留美は餌を巻き始めた。
鳩は我先にとがっついて食べる。凄い食欲だ。
「すごい食欲ねぇ……」
餌を巻きながら、留美は餌を巻き続けた。
暫く巻き続けると、餌はつきた。
「あ、もう無くなっちゃった。今日は、おしまい」
留美は鳩に向かって餌の終了を告げた。
鳩はそれでも留美の周りから離れない。じっと見つめながら『グルッポー、ポー』と鳴いている。
「もう無いの、からっぽ、わからないのかなぁ?」
袋を逆さにして何もないことをアピールする。しばらくゆっさゆっさと振った後で、留美はあることに気付いた。
鳩が……すこし大きくなっているような気がした。
いや、餌をあげる前よりも明らかに1まわり大きくなっている。
『ポー!』
鳩が鳴いた。それを皮切りに一斉に全ての鳩が鳴き出す。
「な、何? 何なの?」
目の前の一匹が大きく翼を広げる。その目には何か禍々しい邪悪さが伺えるかのようだ。
『ポー!ポー!』
他の鳩もつられるかのように一斉に翼を広げ出す!
異変に気付き、留美がその場を離れようと立ち上がった瞬間、鳩達は一斉に留美に向かって飛びかかった!
「キャーーーーーッ!」