リレー小説 〜Infinity〜


首飾りの力


『ゴゥ……ズウゥウウン』
 鈍い響きをあげて爆煙が舞い上がり、辺りに吹き飛ばされたアスファルト片がぱらぱらと舞い落ちた。
「まずは2人……」
 ハーメルンは満足げな笑みを浮かべて視界が晴れるのを待った。
 煙が晴れた先には無惨に焼けこげた2人の少女が物言わぬ姿となって転がっているはずだ。
 ついに視界を塞いでいた煙が晴れる、そこには……。
「……馬鹿な、何故生きている!?」
 2人は生きていた。
 彼女たちだけまるで何事もなかったかのように、その場にいた。
 雷弾は確かに直撃した、その証拠に少女達の周囲はその衝撃で深くえぐり取られている。
(防御プログラムか? いや、そのような物で我がPidepiper's Fluteの力を防ぐことは出来ないのは先ほど実証済み、しかも……)
 ハーメルンは思考する。
(奴らは互いに抱き合っていてそのようなそぶりはなかった!!)
 少女の内の一人がスックと立ち上がり、手に持った鎖付きの何かをこちらに向けてつきだした。
 首飾りの様だった。
 そして、それは見覚えのある物だった。
「あれは……!」

 激しい爆煙が起こり、視界を覆い隠した。
「…………………あれ?」
 真冬は疑問の声を上げた。
「なんともない?」
 真冬は上下左右を見渡す。
 何らかの力場が働いているのか自分たちを囲む薄紫のシールドの様なモノが見て取れた。
「なんや、これ…?」
 何がなにやら頭で理解できずに混乱していると、いきなり横にいた留美が立ち上がった。
 その手元に石の様なモノが無数についた鎖飾りが見て取れた。
「それって……」

 最後に見たのは、3つの雷弾がこちらに飛んでくる光景だった。
 その後、爆音が響いた。
 すぐに、自分にも衝撃が伝わってくる物だと思ってた。
 しかし……それは来なかった。
 ゆっくりと留美は目を開く、目の前で激しく雷が渦巻いていた。
 だが、決して自分には向かっては来ない。
 自分と雷の間に薄紫の膜があり、雷を防いでいる様だった。
(……危ない所でしたね)
 女性の声が聞こえた。いや、響いたと言うべきか。
 それは真冬の声ではなかったからだ。この場に自分と真冬以外はあの男しか居ない。
「誰、何処にいるの?」
(今はその様なことを話している時間はありません。首飾りに宿っていた力を解放した余波で先ほどは乗り切れましたけど、もう、こちらからコントロールすることはできません。あなたがやらなければ、次であなたも横の少女も……死にます)
「やる?やるって一体何を!?」
(首飾りに溜められた力を解放し、あの男の魔力にぶつけるのです)
 留美は首飾りを見下ろした。
 次に真冬を見た。
(……やらなければ、この子も、私も……死ぬ)
 すぐに留美の心は決まった。
(よくわからないことだらけだわ。ホラー映画のヒロインみたいに恐怖の悲鳴を上げたい。でも、そんな事は許されない。私に出来ることがあるなら、それをやり尽くすまであきらめるなんて出来ない。どうすればいいの?力を貸して!)
 謎の声に対して、留美は心からの思いをぶつけた。
(……それでこそ、力を受け継ぐにふさわしい。魂の強さは変わらないということかしら?立ちなさい、留美!そして首飾りを全面に押し出しなさい!)
 留美は立ち上がり、ズイッと首飾りをハーメルンに向けて突き出す。

「何故、貴様が、それを持っている!!忌まわしき『封印の鍵』を!!」
 ハーメルンは吼えた。
 それに呼応するかのようにPidepiper's Fluteがページをめくりだす。
(すでに少女の呪文は始まっている。急がねば……!)

 ハーメルンは何か口走っているのか口が動いているが、声に集中しているのでよく聞き取れない。
 横でも真冬が何か言っている様だが、同じ様に聞き取れない。
(私の言ったことを復唱しなさい)
 無言で留美は頷く。
(よんぐ だくて りんか、ねぶろっど づぃん、ねぶろっど づぃん…)
「よんぐ だくて りんか、ねぶろっど づぃん、ねぶろっど づぃん…」
 ハーメルンの魔導書Pidepiper's Fluteが勢い良くページをめくり始める。同時にハーメルンの周囲に雷弾が浮かび出す。
(…よんぐ だくて りんか、よぐ=そとーす、よぐ=そとーす…)
「…よんぐ だくて りんか、よぐ=そとーす、よぐ=そとーす…」
 ハーメルンの雷弾が2つ、3つと増えていく。
(…よんぐ だくて りんか、よんぐ だくて りんか…)
「…よんぐ だくて りんか、よんぐ だくて りんか…」
 ハーメルンの力ある言葉と共に、3つの雷弾が留美達に向けて撃ち出される!
(…やーる むへん、やーる むへん!!)
「…やーる むへん、やーる むへん!!」
 留美の力ある言葉が終わったと同時にフヨフヨとアメーバ状の膜が雷弾を覆うかのように投網のように広がった。
 それは雷弾を包み込むと口を閉じ、じわじわと消化するかのように雷弾を縮小させ、消滅させた!!

「く……」
(いかん、このままでは我が力Pidepiper's Fluteが封印されかねん……、ここは退くか)
 ハーメルンはジリッと後ろに下がる。
 ふっと自分を覆うかの様に影がハーメルンを覆った。
「悪いが、逃がさねえぜ」
 背後から声が響いた。
「稔!」
『封印の鍵』を持った少女の声に喜びの色が感じられる。
 ハーメルンが振り向くと、そこには大柄で筋肉質な男が立ちはだかっていた。
「ヒーローは最後にやってくるものさ」
 そう言って、稔はウインクしてみせた。

 


 

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