リレー小説 〜Infinity〜
舞台裏の観客
都内某私立高校、お嬢様高校として有名な進学校である。
外見上ではただの普通の高校なのだが数年前から大富豪の娘や芸能人の娘、果てはアイドルなどが入学して以来、完璧にお嬢様高となってしまい、今もその系統の入学者が増えている。
もっとも、学校側としては有名になり理事長の財布も常に温かいのだが。
その学校の校門で、一人の生徒が携帯電話で話をしていた。
「ええ、ちょうど授業も終わって今から帰るところよ」
長いブロンドの髪に眼鏡をかけたおとなしい感じのする彼女が話す。
「・・・いえ、迎えの必要はないわ。今日は少し用事があるの」
時計を見てあたりを見回す。誰かを待っているようだ。
「心配しなくていいわ、すぐに帰りますから・・」
そう言うと彼女は電話を切って、それを鞄にしまい溜息を漏らした。
「フウ・・・まったくお母様の心配性にも困ったものね」
もう一度、時計を見ながら。
「そろそろね・・・」
彼女の名前は朝比奈 香澄。
都内某私立高校、通称お嬢様高校に通う17歳の女子高生だ。
彼女の家は老舗の和菓子屋『朝比奈屋』。
昔ながらの味で子供から大人まで根強い人気を誇っている。
この家の長女として生まれた彼女は土、日には店を手伝い、その跡取として従業員からも好かれている。(本人は跡を継ぐ気はないが)
また、父と母の他に連也と言う弟がいる。
「・・・1分32秒の遅刻ね」
彼女がそう呟くのと同時に周囲の空気が変わった。
「結界なんて、随分と手の込んだやり方ね・・・」
彼女が振り向いたその先には一人の男が立っていた。
「遅刻をしたことは誤ります」
低く丁寧な口調で男は話しかけてきた。
「・・・で、何の用かしら。わざわざ手紙で呼びつけて」
「いえ、今後起こることについて、あなたがた朝比奈家には手を出して欲しくないのですよ」
「手を、出すな・・?」
「ええ。あなた方に手を出されると、少々困りますからね」
「もし、断ると言ったら?」
彼女がそう言うや、男の目つきが変わる。
「その時は、あなたを始末します・・・」
「・・・あら、怖いこと言うのね」
彼女が薄笑いを浮かべると同時に、周りの空気がキンと音を立てて弾けた。
「でも・・・貴方では私には勝てないわ」
周り空気が通常のそれに戻ってゆく。
「な・・け、結界が!」
「ずいぶんと安っぽい結界を張ってたのね・・・少し力を見せ付けすぎたかしら?」
男の腕からは血が流れ出ていた。
結界を破った力が男にもダメージを与えていたのだ。
「くっ、忠告はしましたよ!!」
男はそう吐き捨てると、その場から姿を消した。
「追いかけないの? お姉ちゃん・・・」
彼女の背後から少年の声がする。
「・・・来ていたの連也」
「母さんが様子見て来いってうるさいんだよ」
「まったく、心配しなくていいって言ったのに・・・」
少年は帽子を深くかぶりながら口調を変えて話す。
「あと、父さんから伝言。今回は観客でいろって・・・」
「・・・そう、お父様が」
彼女は空を見ながら、
「言われなくてもそうするわ。今回は・・・」
学校近くの森の中で男は苦々しく舌打ちする。
「くそ、あの女め。よくもやってくれましたね・・・」
「お前が、勝手なことをするからだろう?」
森の奥からもう一人、サングラスをかけた男が現れる。
「・・・フッ、あなたも来ていたのですか」
「先ほど朝比奈家から連絡があった。今回は観客に徹すると・・・」
男は一瞬、驚いた顔をした後、薄笑いを浮かべた。
「なるほど、すでに朝比奈家は知っていたのですか・・・」
「そういうことだ・・・」
「ですが、これで少しは楽に事が運べますね・・・」
「そうだな・・・・・・」
サングラスのずれを直しながら呟く。
(しかし、観客でいるという事は、裏を返せば乱入もあり得るということか・・・)