〜Proving Grounds of the Mad Overlord〜
第3話 『再会』
「まあ、これも俺の信心があればこその業だな」
たくさんの冒険者で賑わうギルガメッシュの酒場の片隅で、ヨセフはニヤリとした表情で相棒シオンの肩を叩く。
「なに言ってんだよ、あれだってたまたまあの御者が密輸犯だったってだけで……」
「それこそが、神のお導きってやつさ」
ヨセフはシオンの顔を覗き込むようにして続ける。
「第一、俺の報奨金がなければロイヤルスイートには泊まれなかったんだぜ? それとも、馬小屋のほうが好みかな」
「………もういいよ」
深い溜息をつくと、思わず涙目になってくる。
実際、今回のような犯罪まがい(というか犯罪)な件は初めてではなく、むしろ今回は比較的おとなしい方だったようだ。
もっともそれらの事件も、すべて神懸り的な偶然で正当化されてきたのだが……
「シオン、ようやくお前もこの俺の偉大さに気づいたようだな」
「偉大さ…というよりは、極度の勝手さと言うべきかしら? ヨセフ様?」
酒場の入り口方向から、若い女の声が会話に飛び込んでくる。
そこには、赤い髪の長身の男と、やや褐色おびた肌の長髪の少女が立っていた。
「相変わらず馬鹿やってんな、ヨセフ」
「久しぶりね、お2人さん」
2人の来訪者は、店員に注文を済ませるとヨセフ達のいるテーブルにつく。
「やあ、来てくれたんだね」
「この俺が、久しぶりのデカいヤマをみすみす見逃すとでも思っていたのか?」
赤髪の剣士ユダヤは、さも当然だといわんばかりに率直な意見を口にした。
「それに、リーダー1人じゃヨセフ様を抑えるの大変でしょ?」
皮肉った台詞を投げかけつつも、微笑んで軽くウインクをするこの少女の名はイルミナ。
「ケッ、ユダヤにくっついてまわるだけの女が…言ってくれるぜ」
「ちょっ…それどういう意味よ!」
ヨセフに野次られたイルミナは、跳ね上がるように席を立つ。
「すまんシオン、どうやら問題児を1人増やしちまったようだ」
「いいよ……ユダヤ」
「ところでリーダー。シキちゃんはまだ来てないの?」
「そういえば、見かけないな。シオン?」
「あの女は、お前の担当だろ? シオン」
どうやら、未だに姿を見せない残りのメンバーのことについて、皆一斉にシオンに問い掛ける。
シオンは少し当惑しつつも、言葉を返す。
「なんでみんなオレに聞くんだよ? そんなのオレが聞きた……ん? ヨセフ、オレが担当ってどういう意味だよ!」
「そのまんまさ。ゾッコンなんだろ?」
「ヨセフゥゥゥ〜〜!!」
シオンは顔を赤らめて狼狽する。
その様子にイルミナ達もヨセフに続けとばかりにからかい始め、酒場の一角は笑い声に包まれていった。
再会の祝杯をあげ夜も更けた頃、話題は前回の冒険以降の各人の話へと移行していた。
珍しい様々な話が飛び交う中、誰かがふとこう呟いた。
「今頃、シキはどの辺にいるのかな?」
一方、その頃。
場所は城塞都市から西に離れた山岳地帯。
黒い外套を纏った剣士、デュオは複数の野党らしき集団と対峙していた。
その足元には、すでに2人の賊が倒れている。
野党と思しき男たちは皆一様に顔を布で覆い、粗末な短剣を手にしており、デュオを包囲せんとにじり寄ってくる。
数は倒した男を除き7人。
1人1人は大した事がなくとも、同時にこられては少々厄介な人数だ。
額に汗を滲ませながらも、デュオは剣を構えなおす。
この時代、王都から離れれば盗賊の類が我が物顔に徘徊するのは決して珍しい事ではない。
統治下の街や村が襲われでもしない限り、上帝の兵が動く事はまずないのである。
ましてや魔除けが奪われた今、トレボーに周囲を気配せする余裕などないのであるが……
頃合を見て、短剣を逆手に構えた盗賊が一足飛びに襲い掛かる。
左右同時に2人だ。
デュオは左から来る男の短剣を持つ手首を蹴り上げると、反対方向の賊を袈裟切りにし、返す刀で手首を押さえる左の男の胸板を凪ぐ。
刹那の間に2人の敵を地に沈める。
だがその瞬間、その大立ち回りの一瞬の隙をついて背後から賊が飛び掛かった。
デュオの反応が一瞬遅れ、賊の手にした凶刃が妖しくきらめいた。