鉢植の木らうんじ12エッセイ

スギ花粉顕微鏡写真

花 粉 症 患 者 の 雑 感

今年(2005年)のスギ花粉症はほんとうにたいへんです
花粉症患者として感じていることを書いてみました

(右の写真はスギ花粉の光学顕微鏡写真)
a-乾燥状態 b-吸水すると、ぱかっと口を開くように割れ、中身が出る。この中身も花粉の皮もそれについている顆粒も、花粉症の原因物質(抗原)と考えられている。抗原が体内に入るとこれと反応する抗体がつくられ「肥満細胞(マスト細胞)」の表面につく。その後再び同じ抗原が入ってきて肥満細胞の表面の抗体に受け取られると肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンが放出される。ヒスタミンは神経を刺激して、鼻水やくしゃみをひき起こし、ロイコトリエンは血管を拡張させて鼻づまりをおこす。

私はかなり重症の花粉症患者です。
最もひどいときには、寝ていても起きていても大げさではなく死にそうなほどのつらさです。
くしゃみや鼻水鼻づまり、目や皮膚のかゆみなど一通りの症状のうち、とりわけ耐え難いのが目のかゆみで、目玉を取り出して洗いたいほどになります。そして、全身に鉛が充満しているような倦怠感と不快感があり、その時期には家の中でも花粉症眼鏡と花粉症マスクが要ります。
 
 病歴の始まりは30年ほど前で、8月の終わりから9月中頃にかけて症状がでました。今思えばそれはイネ花粉症だったらしいのです。当時は我が家の周りには広い水田がありました。それが次第に宅地化されるにつれて軽くなっていったので、おそらくそうだと思います。今はその時期には、全く症状がでません。 ところがそれと入れ替わるように、10年ほど前から3〜5月に、またまたひどい症状に悩まされるようになりました。スギとヒノキの花粉が原因のようです。

 もちろん、対策はいろいろ行っています。医師にかかって薬を処方してもらう、花粉症マスクや花粉症眼鏡をかける、外出から帰ったら衣服をはらって花粉を落とし、うがいをし目を洗うなどなど。甜茶やミントが良いと聞けばそれも試しました。夜寝るときは口や鼻の周りは湿度を高く保つためマスクをし、目やにが乾いてまぶたがくっついてしまわないよう、濡らしてしぼったタオルを目の上に乗せて寝ます。そのようにしていくらか軽減されることもありますが、最もひどい時期になるとどんな薬も対策も苦痛を和らげる効果はありません。

 以上のような経験の中で感じるさまざまなことを、ここに記します。

肉体的苦痛はすべてそうですが、経験しない人にはそのつらさは分からないものです。
ですから、花粉症マスクや花粉症眼鏡をかけた人を見ると、分かりあえる人がここにいると思いほっとします。最近、花粉症の仲間のためのウェブサイトを見つけたときにはうれしくなりました。

しかし逆に、花粉症患者同士でも相手を理解することの難しさを思い知ることがあります。
比較的症状が軽い人は、花粉症とはこの程度のものと思うのか重症患者の苦しみが分からず、大げさなことをいうと感じる人もいるようです。

 いや、軽症患者だけではなく、かくいう自分自身が誤った認識をしていたことに、最近ようやく気づきました。
花粉症と一口に言っても、症状やその程度、また諸症状のうち何が最もつらいかは人によりまちまちです。ある人は鼻がふさがって呼吸が困難になることがこの上なくつらく、またほかの人は咽喉や鼻の粘膜の腫れの痛みやかゆみが耐え難く、発熱する人もいればしない人もいるというように。私は目のどうしようもないほどのかゆみが最もつらいものであり、鼻や咽喉にも症状はでますが、目のそれに比べれば耐えやすいのです。それで、目に症状がでない又はそれほどひどくない人は軽症なのだと思い込んでいました。花粉症関係の新聞記事やウェブサイトを見て多くの人の症例を知り、今はそう考えていたことを反省しています。鼻やその他の症状に悩む人に無理解であったことも。

理解といえば、マスコミには感謝しなければなりません。
それは花粉症という病気を世間に知らしめてくれたことに対してです。私が初めて発病した30年ほど前には、何が原因でこうなるのか全く分からず、医師の診察を受けても単に風邪だと言われるだけでした。苦しそうにしていると周りにはいやな顔をされたり、あからさまに怒られたりしました。体の苦痛に加えて精神的にもつらいものでした。やがて、それは花粉症というものだと専門家が言い始め、新聞、雑誌、テレビなどのメディアはさかんにとりあげてくれました。そうして人々に知られるようになって、私たち患者は精神的にとても楽になったのです。

世間で花粉症について言われていることで違和感を覚える言葉があります。
まず「鼻炎」という言葉について。鼻炎とは鼻に現れるアレルギー症状、つまり花粉症のさまざまな症状のうちのひとつだと思いますが、どうも世間では「花粉症=鼻炎」とされることが多いようです。すると花粉症で苦痛なのは鼻だけで、からだのほかの部分は何ともないように思われやすいものです。実際、そのように誤解している人がいました。私が最も耐え難いのは鼻の症状ではないので、このように感じるのかもしれません。
 
 また、花粉症の症状のひとつとして「集中力がなくなる」とよく言われることには、首をかしげてしまいます。集中力がなくなるのは、肉体的苦痛に耐えているとき一般について言えることであるのに、花粉症にだけなぜことさらにそう言われるのだろうと。おそらくそれは花粉症の苦痛は外からみて分かりにくいからだと思います。骨折とか出血多量のように、だれの目にも分かりやすい状態の場合は「集中力がない」とはまず言いません。

花粉症になると、ものごとを違った感覚や立場から見るのにプラスになると思うことがあります。
 本来の自分とは別の感覚を体験しますから。具体的には、例えば次のようなことです。

 私が花粉症の期間に刺激と感じるのは、花粉やほこりや煙のほかに、強い光、大きな音、アルコール飲料、辛い食べ物などです。ふだんはカレーなどの辛いものは好きで、お刺身にはワサビを効かせてこそ美味しいと思っています。しかし、花粉症の間はそういった味はつらい刺激と感じるだけで、事実辛いものを食べると目がかゆくなります。いつもは美味しいワインやビールについても同様です。そこで、本来の自分とは違う嗜好の人たちの感覚が自分の感覚として理解できるのです。

 鉛筆を削るにはふだんはナイフを使っています。削り具合や芯の長さ、とがらせ方など自由にできますから、これに限ると思います。しかし、花粉症の時期には、ひと削り毎にほこりや芯の粉が飛んでくるのがたまらない苦痛なので、手回しの鉛筆削りを使います。そのときには、鉛筆削りってほんとうにいいものだと思うのです。
またホワイトボードにマーカーで書かれた文字は、黒板にチョークで書かれた文字に比べて重みや味わいがない、と言っているのを耳にしたことがあります。確かにそうかもしれません。でも、書くとき消すときに粉が飛ばないホワイトボードは、花粉症患者には非常に有難いものです。

 暖かく晴れた日には花粉が飛びやすく、雨の日はその逆ですから、朝目覚めて雨の音を聞くと救われた気持ちになります。花粉症にならなかったら、晴れた日を苦痛と思う人がいるなど想像もしなかったでしょう。
 
 症状がひどくなると、体全体の倦怠感や不快感もでてきて、体を動かすことがおっくうになります。あるいはこれは80歳90歳になったときの身体感覚かもしれません。するとそのくらいの年齢の人たちの動作の緩慢さを自分の体で理解でき、いらだってはいけないと思います。

こうして精神的視野が広がるとはいえ、やはり花粉症になってよかったとは思えません。
とにかく耐え難いものなので。将来よい治療法が見つかるまでは、諸対策を行いながら症状をなだめなだめ毎日の仕事をこなし、ひたすらこの時期が過ぎ去るのを待つしかありません。

ところで花粉症には、花粉以外の要素はどのようにはたらいているのでしょう。
花粉だけが体内に入るより、自動車の排気ガスが同時に取りこまれる方が抗体ができやすいという実験データがあるそうです。ストレスやたばこの煙なども同様に抗体をできやすくしているそうです。おそらく、たばこ以外の煙、ほこり、アルコール飲料や刺激性の食べ物などもそうなのだと思います。しかし、具体的にどんなしくみでそうなるのでしょう。
それらが解明されて、根本的な治療法が確立されてほしいものです。全く症状がでなくなるということは望めなくても、せめて一番ひどいときでもそのつらさが「死ぬほど」ではなくなればいいと思います。ただ、花粉症がいかに苦痛であろうとも命にかかわる病気でないのはありがたいことです。


<参考ウェブサイト>
・アレルギー性鼻炎 杉花粉症と車のデイーゼル排気との関係 http://homepage1.nifty.com/jibiaka50/aresugikahundei-zeru.htm
・ためしてガッテン:過去の放送:リンパで健康[3]花粉症すっきり解消法 http://www.nhk.or.jp/gatten/archive/2003q1/20030219.html
・スギ花粉 http://homepage3.nifty.com/fukase/fukase-iin/sugikahun.html
・花粉症/アレルギー 三共株式会社 http://www.sankyo.co.jp/healthcare/kahun/qa1/index.html#01
・あつまれ!花粉症の仲間たち http://www.geocities.co.jp/Beautycare/3309/


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