鉢植の木らうんじ9写真

フォトエッセイ-春の野草たち(1)

雑草とは呼びたくありません
この春に出会った野の花たちに改めてこのページに咲いてもらいつつ、野草への思いを記しました。


15種とりあげました。次のような順に科別にまとめて登場してもらいます。画像をクリックするとその科に飛びます。

1.ゴマノハグサ科
ゴマノハグサ科
2.シソ科
シソ科
3.ムラサキ科
ムラサキ科
4.マメ科
マメ科
5.ケシ科
ケシ科

1.ゴマノハグサ科

オオイヌノフグリ タチイヌノフグリ
フラサバソウ

 オオイヌノフグリの直径1cmほどのコバルト色の花が、草むらに点々と空を仰ぐようになると春近しです。現在は道端やあぜなどいたるところに見られますが、明治の初めに入ってきた帰化植物です。これを初めて見つけたひとはどんな感動をもったでしょうか。

 タチイヌノフグリは、オオイヌノフグリと混じって生えていることが多いのですが、花の直径は3〜4mmと小さく、また葉の中に埋まるように咲いているのでので、目につきにくいのです。
上の写真、右下の画面はその小さい花をルーペで拡大して見たものです。こんなに深く美しいコバルト色です。ルーペを持つと、自然観察の楽しみもいっそう広がります。

 フラサバソウはオオイヌノフグリ、タチイヌノフグリに比べると珍しいですが、姿かたちはこの2種によく似ています。花の直径はこの2種の中間の4〜5mmです。葉に長い毛がいっぱい生えていることでも区別がつきます。
ムラサキサギゴケ ツタバウンラン
 ムラサキサギゴケとツタバウンランは、こうして並べてみるとよく似ています。
 ムラサキサギゴケは道端やあぜに普通に生えていて、地表につるをのばして広がっていきます。これと似ていて、やはりいたるところに生えているトキワハゼは、つるを出しません。
 ツタバウンランは、ムラサキサギゴケやトキワハゼほどには普通に見られません。園芸植物として渡来したものが野生化し、石垣の隙間の土などに生えることが多いようです。上の写真のそれは花壇の石の間を埋めるようにして生えていました。

マツバウンラン 

マツバウンランはこの頃あちこちで見られるようになりました。長いものだと50〜60cmほどにもなる、頼りないほどに細い華奢な茎が根元から何本も出ていて、その頂に薄紫の花が穂になって咲きます。その名の通り葉も細いものです。

このような茎なので、わずかな風にも絶えず揺れています。この写真、右下画面の花の拡大はルーペを通して撮ったものですが、揺れて撮影には手間どりました。

砂利の土地、砂浜など荒れた土地によく見られるようです。この写真の個体が生えていた場所は砂浜です。大きな群落となっていることも多く、紫の小さな花多数が帯状に広がり、細い茎の上で波をなすように一斉に揺れている様子は見ていてあきません。

マツバウンランは最近よく見られるようになった帰化植物ですが、反対に見られなくなった在来の野草もあります。

例えば、ゴマノハグサ科の植物ではイヌノフグリです。一度見てみたいと思いながら、未だに果たせません。帰化植物のオオイヌノフグリやフラサバソウに圧倒されて少なくなってしまった在来の植物です。絵や写真で見るとオオイヌノフグリに似てそれよりちょっと小型で、花の色は薄いピンクか白ですが。いつか見ることができるでしょうか。



2.シソ科

ホトケノザ ヒメオドリコソウ

 ホトケノザが一面に咲く花野が出現すると、いかにも春という感じです。

 ヒメオドリコソウはそれに比べると、個体数が少なく華やかでもありませんが、上部の葉の紫色が特徴的でわりに目に留まりやすい植物です。

カキドオシ キランソウ
 カキドオシ、キランソウ、ともにどうしたわけか以前ほどには見られなくなったようです。
 カキドオシは「垣通し」の意とか。草の間を縫うように生えていることが多いです。その草の間から薄紫の花がかわいらしいです。
 キランソウは地面を平らに這うようにして広がっていきます。濃い紫色の花にはつい立ち止まってしまいます。



3.ムラサキ科

キュウリグサ
 キュウリグサ、これもルーペで観察したい花です。直径2〜3mmしかないのでつい見過ごしてしまいますが、ルーペで拡大する(右下の画面)とその美しさに驚きます。

 この小さな花が茎の先端に長い穂になってつき、穂の先はくるりと巻いています。
この写真の個体は比較的低いものですが、高い個体では、30cmほどにもなることがあります。群生していることも多く、そうなると小さい花も目につきやすくなります。

 名の由来は、葉や茎をもむとキュウリのにおいがするからということです。花の咲いていない時期に見分けるにはよい目安です。

 キュウリグサをそのまま大きくしたようなのがワスレナグサです。こちらは花の直径は6〜9mmで、園芸植物として育てられてもいますが、野草として水辺に群生しているのも見かけます。

 もうひとつ、キュウリグサに似ているのがハナイバナで、キュウリグサと同じくらいの小さい花をつけますが、こちらは穂にはなりません。また、葉や茎をもんでもキュウリのにおいはしません。キュウリグサより、見かけることは少ないようです。



4.マメ科

カラスノエンドウ レンゲソウ
 カラスノエンドウは春の最も印象的な野草のひとつで、単独で群落をつくっていることもよくあります。マメ科植物の特徴である、蝶形の花がピンクのツートンカラーで、ほかの野草に混じっていてもよく目立ちます。田にレンゲソウを育てて田植え前に緑肥としてすき込むことは最近は減ったようですが、上の写真の撮影場所はみごとピンクのじゅうたんの田でした。

レンゲソウとカラスノエンドウ
 ところで、レンゲソウがマメ科というと、いぶかしく思われるかもしれません。マメ科植物の花は蝶形のはずなのにレンゲソウの花はそうではないからと。

 レンゲソウの花は蝶形です。ひとつの花のように見えるのは、いくつかの花の集まりで、はなびらと思われているのが、ひとつの花です。左の写真では、その花のひとつをとって花の集まりの左においてみました。これが蝶形で、カラスノエンドウの花とよく似ています。上の写真でもレンゲソウのひとつの花に注目してみてください。
また、レンゲソウの葉は多くの小葉からなり、これもカラスノエンドウのそれとそっくりです。

 レンゲソウと同じ花のつくりをしているほかのマメ科植物は例えばシロツメクサ(クローバー)です。やはり花びらと思われているのがひとつの花で、頂に多数集まって咲いています。

スズメノエンドウ
 同じマメ科植物でも、スズメノエンドウはカラスノエンドウとちがって地味な花をつけます。そのため群落をなしていてもあまり目立ちません。

 長さ3〜4mmの花はごく薄い紫色で、白に近く見える場合もあります。これもルーペで見るとほんとうに美しいと思います。

 スズメノエンドウにとてもよく似ているのがカスマグサで、ちょっと見分けが難しいです。見分けが最もはっきりできるのは実で、スズメノエンドウの実にはこの写真のように毛がたくさん生えていますが、カスマグサのそれには毛はありません。

 カスマグサの名の由来は、ラスノエンドウとズメノエンドウの中間の形をしているから、カとスの間の草の意味だとか。それにしてはスズメノエンドウにあまりに近い形ですが。



5.ケシ科

ムラサキケマン
 ケマンソウの類はケシ科から独立させてケマンソウ科とする分類法もあるようです。

 ムラサキケマンは人里ではちょっ薄暗い場所に生えていることが多いです。この写真の個体は我が家の外壁とフェンスとの間の蔭になったところに生えていたものです。
ケマンとは華鬘、つまり仏前の装飾具の意とか。薄暗いところでこの花に向かっていると確かにぴったりのネーミングだと思えてきます。

 黄色い花のキケマンはムラサキケマンより見られることが少ないようです。しかし、ムラサキケマンも以前に比べて最近少なくなったような気がします。

 今まで出会ったケマンソウの類で特に強く印象に残っているのが、「高山植物の女王」といわれるコマクサと、ムラサキケマンによく似た形で真っ青な花のエゾエンゴサクです。もう一度見てみたいと思います。

 私は幼いころから野草が好きでした。そのころからずっと見てきて、野草の世界にも栄枯盛衰を感じます。
それぞれ個性を持った野草たちに出会っていると、この世に生まれてよかったと思えてくるのです。

(写真撮影地は、フラサバソウ、ツタバウンラン、マツバウンランが静岡県熱海市、レンゲソウが静岡県藤枝市、ほかは全て静岡市。撮影時期はいずれも2003年3〜4月)



参考資料
文献
1)『
カラー自然ガイド人里の植物T』P46〜60, P86〜90(保育社) 長田武正著
2)『
カラー自然ガイド人里の植物U』P7〜9(保育社) 長田武正著
3)『
週刊朝日百科植物の世界15 タカネシオガマ、イワブクロ』P76〜78(朝日新聞社)
4)『
週刊朝日百科植物の世界21 クマツヅラ、ムラサキ』P280(朝日新聞社)
5)『
週刊朝日百科植物の世界49 フジ、ルピナス、クローバー』P23〜25(朝日新聞社)
6)『
週刊朝日百科植物の世界91コマクサ、キケマン、ケシ』P194〜204(朝日新聞社)
7)『原色日本帰化植物図鑑』P105〜106(保育社)長田武正著
webサイト
1)
教材用野草写真集=身近な野草=(http://www.tcp-ip.or.jp/~jswc3242/)


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