ルーペ身近な理科室10

****** 根粒ってなに? ******

根のついたエダマメの、その根にはコブのようなものがいっぱいついています。
これが根粒です。でも、根粒って一体何でしょう。


 (要旨)
マメ科植物の根には、こぶのような根粒がついています。この中には根粒菌という細菌がいて、宿主のマメ科植物から栄養をもらって生きています。一方、根粒菌は、植物がつくれない物質をつくることができ、その物質をマメ科植物にも与えています。

根粒を観察してみましょう。
 ダイズがまだ緑色のさやに入っている時期のものがエダマメです。枝についたままで売られているエダマメも、根は切り落としてしまってあることが多いですが、根のついたものが手に入ったらそこを観察してみましょう。直径3〜5mmほどの丸いコブのようなものがいっぱいついています。下の左の写真がそれで、このコブが根粒です。根粒はエダマメだけでなくマメ科植物一般の根にできます。マメ科植物とはダイズ以外では例えばソラマメ、エンドウ、インゲンマメなど、野草ではシロツメクサ(クローバー)、レンゲソウ、カラスノエンドウ、スズメノエンドウなどです。

 野草ならば自由に根を掘ることができますからこれで観察してみましょう。ただ、根粒はダイズのものに比べて小さいですが。下の中央の写真と右の写真はそれぞれシロツメクサの根粒とカラスノエンドウの根粒です。どちらも根粒は楕円体で、カラスノエンドウの平均的な大きさの根粒は長さが3mmほど、巾が1.5mmほどです。シロツメクサの根粒はそれより少し小さいです。でも、根粒とは一体何でしょう。実は根粒はマメ科植物にとってはとてもありがたい存在なのです。

ダイズの根粒 シロツメクサの根粒 カラスノエンドウの根粒
ダイズの根粒 シロツメクサ(クローバー)の根粒 カラスノエンドウの根粒
(2本の根を並べました)


根粒ってそもそもなに
根粒の中には、根粒菌という細菌(バクテリア)がいっぱい住みついています。下の写真はレンゲソウの根粒と根粒菌です。1.の写真の根の部分(円内)をルーペを通して見たのが2.の写真で、根粒がたくさんあります。この根粒の中身を顕微鏡で見たのが3.の写真で根粒菌が見えます。
根粒菌は、宿主であるマメ科植物から栄養をもらって生きていますが、マメ科植物も根粒菌を根につけているおかげで得をしているのです。それは,マメ科植物が自分ではつくれないものを、根粒菌がつくってマメ科植物にあげているからです。
その詳しいことを次(この写真の下)に述べます。

レンゲソウと根粒 根粒細菌
<根粒菌の顕微鏡写真(倍率15×40)>



マメ科植物と根粒菌との関係は?
1)植物がつくるもの根粒菌がつくるもの
緑色の色素であるクロロフィル(葉緑素)をもつ植物は食べ物を食べずに生きています。それは、生きるために必要なものは自然界にあるものを材料として自分でつくることができるからです。その生産が行われる場所は葉です。これを下の図で説明します。なお、文中の※15については、下の「付記事項」を参照してください。

 葉に含まれるクロロフィル(葉緑素)が太陽の光をつかまえ、そのエネルギーによって二酸化炭素と水とから糖やデンプンをつくります。この反応を光合成といいます。 材料である二酸化炭素は葉の表面の気孔を通して空気から取り込み、水は根から吸い上げます。
ところで、二酸化炭素(CO
2)は炭素(C)と酸素(O)からできており、水(H2O)は水素(H)と酸素(O)からできています。したがってこれらを材料として光合成でつくられる糖やデンプンは、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)からできています。
窒素固定説明図
光合成産物を材料としてさらにその他の物質がつくられます。植物の繊維の成分であるセルロース、細胞をつくるのに必要なタンパク質などです。

このうちタンパク質などは、、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)以外に窒素(N)もふくむので、それをつくるには光合成産物だけではなく、窒素をどこからか取り込まなければなりません。土の中には、窒素が水素や酸素と結合した化合物(例えばアンモニア)があります。普通、植物はこれらの化合物を水とともに根から吸収して、タンパク質などをつくるための窒素源にしています(※1

ところが、この土の中の窒素化合物は不足しやすいので、畑の作物にはよく窒素肥料が施されます。しかし、マメ科植物の作物には窒素肥料をやらなくてもよく育ちます。それは根についている根粒菌が窒素化合物をつくって、それを自分で利用するだけでなく、宿主のマメ科植物にもあげているからです。

根粒菌は空気中の窒素の気体(ガス)を材料にして窒素化合物をつくります。
空気はいくつかの気体が混ざったものですが、そのうち最も量が多いのが窒素なのです。でもそれは窒素同士が結合したN
2という気体(ガス)で、これを植物は利用できません。根粒菌は、このN2と水素とを結びつけてアンモニア(NH3)にすることができます。これを窒素固定といいます。

2)マメ科植物と根粒菌の共生関係※2、※3、4
根粒菌はクロロフィルをもちませんから光合成はできません。宿主のマメ科植物から光合成産物をもらいます。一方、マメ科植物は根粒菌のように空気中の窒素(N
2)からアンモニア(NH3)をつくることはできません。根粒菌がつくったアンモニア(NH3)をもらいます5。こうしてお互いに利益を得ているのです。このような関係を「共生」といいます。


付記事項
※1土の中の窒素化合物について。
土の中の窒素化合物には、アンモニア以外のものもあります。これらは水とともに植物体内に吸収されたあと、化学変化してアンモニアになります。そして、タンパク質などをつくる窒素源として利用されます。

※2マメ科植物以外にも根粒ができる植物があります。ハンノキ、ヤマモモ、グミなどです。

3根粒菌以外にも窒素固定をする生物がいます。
例えば、土の中に住むアゾトバクターやクロストリジウムという細菌、ラン藻という藻類です。アゾトバクターやクロストリジウムは植物と共生せず独立生活をしています。ラン藻はソテツやアカウキクサなどの根に共生するものもありますが、独立生活をするものもあります。

※4緑肥
今はあまり見られなくなりましたが、田植えをする前の田にレンゲソウを育て、そのまま耕すということを行うことがあります。これを緑肥といいます。レンゲソウの根についた根粒菌がつくった窒素化合物によりイネがよく育つというわけです。

5根粒菌からマメ科植物に移行する窒素化合物について。
根粒菌によってつくられたアンモニアがさらに化学変化してできた有機化合物が、宿主のマメ科植物に移行すると記述されている参考資料もありました(例-下記参考文献2)。


<参考文献>

1)『
週刊朝日百科植物の世界46 ハギ、ラッカセイ、ゲンゲ』P318〜320(朝日新聞社)
2)『植物の生理』
〔放送大学印刷教材〕(P82〜85、P206〜207)(放送大学教育振興会)山田晃弘・菊山宗弘編著
3)『
絵とき植物生理学入門』(P100〜103)(オーム社)増田芳雄編著


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