ルーペ身近な理科室11アサガオの花

****** アサガオのたねはどうやってできる? ******

アサガオの観察というと花を主体にした場合が多いのですが、植物自身としては花が散った
あと、たねをつくるという大切な仕事があります。たねはどのようにしてできていくのでしょう



 花は植物自身にとっては、子孫をつくるためのものです。つまり赤ちゃんをつくるのです。
アサガオの赤ちゃんは、たねから芽生えてふた葉を開くかわいらしい姿として見ることができますね。では、芽生える前、たねの中で赤ちゃんはどういう状態なのでしょう。また、たねやその中の赤ちゃんは、どのようにしてできるのでしょう。「ムラサキ」という品種のアサガオ(右の写真)を材料にして観察しました

まず、できあがったたねをみてみましょう。アサガオの赤ちゃんはどんな状態でしょうか。
以下の写真では、材料は方眼紙の上に置いて大きさを示しています。方眼紙の最も小さい1目盛りは1mmです。

アサガオのたねアサガオの花は咲いたその日にしおれ、やがて落ちます。そして40〜50日ほど後に、この写真のようなものが実ります。

左においてあるのは果実ですが、このとおりからからに乾いています。
その皮を破って中身を出したのが右に置いてあるもので、このように黒いたね(※1付記事項参照)がふつう3〜6個入っています。

このたねの中はどうなっているのでしょう。黒い皮をむいて中を見てみましょう。
でも、たねはからからに乾いて硬いのでこのままではむけません。そこで、水に浸して吸水させ柔らかくします。水に浸してから柔らかくなるまでに1〜数日かかります。たねのとがった方の先端のところをちょっと針で刺して小さな穴をつくってから水につけるとはやく吸水します。柔らかくなったたねを切ったり、皮をむいたりして中を調べてみました。それが次の写真です。

たねの中いちばん左の写真は吸水して柔らかくなったたねを縦に切ったところです。
真ん中の写真といちばん右の写真は切らずに皮をむいたものです。
これがアサガオの赤ちゃんで、胚(はい)とよばれています。

胚はすでにたねの中で、葉やじくをそなえた芽生えの形になっています。胚の葉は、しわをよせてたたまれ、じくは先をちょっと曲げられて、せまいたねの中に皮でつつまれて、きゅうくつそうにおさめられています。この葉は、たねが芽を出すと最初に出てきてひろがるふた葉で、子葉(しよう)とよばれます。子葉はたねの中にあるときには緑色ではなく白ですね。

たねから芽が出てくるということは、このようにたたまれていた胚の子葉やじくが皮を破って伸びてくることです。

たねの発芽

たねの中の胚と、それが芽生えたものとを並べて、どの部分がどうなるかを示しました。

たねの中で2枚の子葉はぴったりと重なっておりたたまれています。
芽を出すと2枚の子葉はたがいに離れ、この写真のようにひろがって開きます。
この間に子葉は光を受けて、白から緑色になります。

じくは伸びて、下の部分は根になります。









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このようなたねはどうやってできるのでしょう
[1]花が咲いてから、たねができるまでを次のようにして観察しました(※2付記事項参照)。
花が咲いて何日目にどうなるかを観察していくわけですが、それにはその花が咲いた日が何月何日だったのか後になっても分かるようにしておかなければなりません。例えば次のようにして-
このページの最初の写真を見てください。咲いた花の下にひもを結んであります。これは、その花が咲いた日に結びました。これと同じひもを、カレンダーのその日のところにセロハンテープなどではりつけておきます。このひもは、日によってちがうのを使いました。ある日に咲いた花には赤いひもを結び、次の日咲いた花には青いひもを結ぶというように。
こうしておけば後になっても、結ばれているひもと同じひもがはりつけられているカレンダーの日付から咲いた日が分かるというわけです。

[2]花のどこに、たねができるのでしょう
アサガオの花のつくり
この2枚の写真を見てください。

左の写真は花びらを取り去った花です。中心にめしべが1本、それを囲んで、ふつう5本のおしべがあります。それらを囲むのが5つのがく片です。

右の写真はおしべも取り去り、がく片を広げたところです。
めしべのずっと下のところがふくれていますが、ここが子房です。その中には、たねのもとになるものがつくられています。子房が大きくなったものが果実です。

めしべのてっぺんに、おしべの花粉が着くと花粉は長い管を出し、その管は子房に向かって伸びていきます。この管の中を精核というものが移動していきます。精核は、子房の中のたねのもとの中にある卵細胞と合体します。この合体によってできたものが育って胚(赤ちゃん)になります。つまり上の写真でたねの中に折りたたまれて入っていたものです。

花が咲いた後、花びら(といっても5枚がくっついていてラッパのような形の筒状になっていますが)とおしべはやがて落ちてしまいます。その後、めしべ特にそのいちばん下の子房がどうなっていくかを日を追って観察しました。

[3]開花後の子房とその中のものを観察してみました

1)果実とその中のたね
未熟なたね
開花後14日目、20日目、31日目の子房(もう果実とよぶべきですね)とその中のたねを観察してみました。
左の写真にそれらの果実(上)と、その中のたね(下)を並べて示します。果実はだんだん大きくなっていますね。

1つの果実の中のたねの数は3〜6個です。写真のは、たまたまその果実に入っていた、たね全部をならべたものです。

14日目では、中のたねはまだ水分を多く含み、皮は白色です。

20日目のたねの皮はかすかに黒くなっています。

31日めではたねの皮は完全に黒くなっています。しかし、たね全体はまだ水分が多くてやわらかく、このまま手で皮をむくことができます。
この後さらに10日ほど後になると、水分を失ってからからにかたくなります。

2)たねの中の胚の状態
開花後14日目、20日目、31日目のたねの皮をむいて、その中の胚(赤ちゃん)の状態を観察してみました。

・開花14日後のたね
14日目の胚
やわらかいので皮をむくのは容易でした。
子葉やじくができた胚がみとめられ、ゼリーのようなぬるぬるしたもので包まれていました。
胚の長さは約4mmで、子葉にはしわは見られません。
意外なことに、子葉は白ではなく緑色でした。

・開花20日後のたね
20日目の胚
まだやわらかいので皮をむくのにそれほど苦労はいりません。
胚の長さは約8mmでした。
子葉はやはり緑色で、大きくなり、しわがよって折りたたまれていました。
まわりのぬるぬるしたゼリーのようなものは、少し減っていました。

・開花31日後のたね
31日目の胚
皮はたいへんにむきにくくなっていました。硬くはないのですが、むこうとすると皮は小さくくずれてしまうのです。
これだけむいて、中の子葉が見えてきました。もう緑色ではなく、出来上がったたねの中のものと同じ白い色をしていました。10日の間に緑色の色素が壊されたわけです。
胚の長さはそれほど変化がなく、8〜9mmでしたが、子葉はしわが多くなり、小さなたねの中にやっとで納まっていました。
ゼリー状のものはほとんどなくなっていました。
もう、たねの形は出来上がっています。これから水分を失ってかたくなったものが、完成されたたねというわけです。

以上、観察したことをまとめると、アサガオのたねはつぎのようにしてできるといえます。

1.小さな緑色の子葉をもつ胚が、ゼリーのようなぬるぬるしたものに包まれた状態でたねの中にできる。
2.やがて胚は大きくなり、緑色の子葉はしわをよせておりたたまれて、たねの中におさまっている状態となる。
 ゼリーのようなぬるぬるしたものは減ってくる。
3.子葉はさらにしわが増え、緑色の色素が壊されて白くなる。ゼリーのようなぬるぬるしたものは、ほとんどなくなる。
4.水を失ってからからに乾燥して、熟したたねとなる。

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たねとは何でしょう
1)たね-ちょっとかわった状態の生物
アサガオ(ほかの植物の場合も同じですが)のたねが出来上がる最後の段階は水分を失うことでした。
確かに、たねというものはどれもからからに乾いています。 まるで生きていないみたいに、そのままずっと変化がありませんね。
生きている生物としてはちょっとかわった状態です。

たねの中には胚つまり植物の赤ちゃんがいるのですが、動物の赤ちゃんとちがい吸水しなければ育つことはなく、状態は変化しません。
つまり、たねは水分をぎりぎりまで少なくして一生の過程の進行を一時止めている状態なのです。たねにぴったり相当するものは動物にはありません(※3付記事項参照)。

しかし、たねが水を吸収して温度などの環境条件が整うと、休止が終って芽や根が出て成長を始めます。
たねが持っていた養分が分解されて、その結果できた物質とエネルギーにより体の材料となる物質がつくられます。つまり、たねの内部で物質が分解されたり、つくられたりする化学変化が起こっているということです。化学変化は水の中で起こります。そこで、発芽には吸水が必要なのです。

同じ親植物が同じときにつくったたねが、ときを隔てて吸水して芽を出し、別々のときに一生を送るということもあるわけです。

2)たねのつくり-2種類のタイプ
2種類のタイプのたねについて述べます。
「胚乳(はいにゅう)」というものをもつたねと、もたないたねです。どちらのタイプのたねをつけるかは、植物の種類によります。
「胚」は赤ちゃんのことですから、「胚乳」は赤ちゃんのおちちです。つまり、胚が芽を出すときの養分です。
下の写真、左のカキのたねは胚乳をもちます。右のダイズ(乾燥する前の、まだ緑色のはエダマメ)は胚乳をもちません。

カキとダイズのたね1.カキのたね
たて半分に割って中を見ました。真中にスプーンのような形の白い胚があります。このうち子葉は芽が出たとき最初にひろがる葉です。
胚のまわりの半透明な組織が胚乳です。

2.ダイズのたね
まだエダマメとよばれる時期のをふたつに開いて中を見ました。このふたつに開いたそれが子葉です。ふたつの子葉にはさまれて、芽や根になる部分が入っていますが、子葉に比べて小さいですね。
このたねの場合、たね全体が胚と言えます。そのまわりに胚乳はありません。胚が芽を出すときの養分は子葉にふくまれています。

3)アサガオのたねはどちらのタイプでしょう
アサガオのたねは、たねの体積の大部分を子葉がしめていて、そのまわりに胚乳はありませんでした。つまり、アサガオはダイズと同じタイプです。
でも、もう一度「開花14日後のたね」を見てください。胚はゼリーのようなものでつつまれています。このゼリーのようなものは胚乳なのです。つまり、胚乳をもたないタイプのたねも、出来上がる途中の段階では胚乳をもっています。たねが出来上がってくるにつれてこの胚乳は子葉に吸収されて少なくなっていき、やがてなくなるというわけです。

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たねについてこんな研究テーマはどうでしょう
以上述べてきた観察以外に、例えば次のようなのはどうでしょう。
1)アサガオの花が咲いてから、1週間後、10日後など早い時期のたねの中はどうなっているでしょう。胚はいつごろから見られるでしょうか。
2)同じ日に咲いた花にできるたねでも、育ち方にちがいがあるでしょうか。
3)アサガオ以外の植物のたねのでき方を観察してみましょう。

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付記事項
※1-黒ではなく、白いたねをつけるアサガオの品種もあります。
※2-花が咲いて何日目にどうなるか、その日数は温度や日当たりなどいろいろな条件によって少しずつちがってきます。
 上に記したのは、2003年夏に私の家のベランダで育てた鉢植えのアサガオで観察したものです。
※3-自然の状態では、たねに相当するものは動物にはみられません。でも、人工的処理によるものならたねに似たものがあります。
 例えば、ヒトの受精卵を凍結保存しておき、適当な時期に子宮に戻して赤ちゃんにまで育てるということが行われています。
 凍結保存されている間は生命の過程の進行を止めているわけですから、その点ではたねと似ていますね。

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後記
たね-ほんとうに不思議で感動的な存在です。水分をぎりぎりまでなくして石のように硬く、生きていないように見えるのに、ひとたび吸水すると、みるみる芽生えて成長する。吸水前とは全く反対に体内では実にダイナミックな変化がおきています。
実験や観察をする目的は何かを調べるためですが、もうひとつ重要なことは対象とつきあって親密になることです。
たねとつきあって、その命の不思議さ、奥深さを充分に感じとってください。そうすることにより、感動と更なる興味がわいてきます。

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[参考資料]
・文献
1)『アサガオ 江戸の贈りもの-夢から科学へ-』(P66〜67)(裳華房)米田芳秋著
2)『植物的生命像』(P113〜116)(講談社)古谷雅樹著
3)『植物の休眠と発芽』(P58〜96)(東京大学出版会)藤伊正著
・ホームページ
講談社パノラマ図鑑 アサガオ(P22〜23)-花がしおれたあとは、どうなるのかな-
(http://www.genetics.or.jp/Asagao/Yoneda/Introduction/htmls/22.html)
(これは、既に絶版になった『講談社パノラマ図鑑 アサガオ』(米田芳秋監修)という本をデジタル化したものです。アサガオのつくりや成長の過程、いろいろな実験が、たいへん分かりやすい写真や図で説明されています)


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