ルーペ身近な理科室13 

***ヒガンバナの葉を見たことがありますか***

9月、川土手などを真っ赤に彩るヒガンバナ。そのとき葉は見られません。


ヒガンバナの葉は花が終わる頃に出てきます。花ほど人の目を引きませんが、濃い緑色に茂って翌年の3〜5月枯れます。葉と花は別々の時期に現れるというわけです。ヒガンバナの1年を追ってみました。なお、これは静岡市で2001年から2005年に観察したことをまとめたものです。

1.花茎の芽生えから開花まで
ヒガンバナの花茎が地上に現れる時期はその年の気候によってちがいますが、概ね9月上旬から中旬です。同じ花芽を開花まで追ってみました。

ヒガンバナ-1

9月16日
こんなかわいらしい花茎がふたつ並んで土の中から出ていました。つぼみはまだ小さく、苞(ほう)にすっぽり包まれて赤い色が苞を透けて見えています。葉は見当たりません。


9月19日
たった3日でこんなに伸び、つぼみも大きくなり苞から出てきました。


9月22日
満開になりました。やはり葉はありません。

(2002年撮影)


2.花の終わり、葉の芽生え
これは上のとは別の花です。花が終わるまでを追いました。
花がすっかり終わった9月28日、茎の根元に葉が芽生えていました。2本の茎のすぐ右にも葉が伸びてきています。(2001年撮影)

ヒガンバナ-2


3.葉の繁茂
1年中で最も寒い2月、ヒガンバナの葉が繁っています。幅8mm前後の、細長い濃い緑色の葉がかたまって生えます(左の写真)。これは田のほとりに生えていたものです。
葉の根元を少し掘ってみると、右の写真のようなものがでてきました。葉の下の、茶色の皮に包まれた丸いものは「鱗茎(りんけい)」とよばれています。これは普通「球根」と言われますが根ではありません。タマネギも同じつくりですから、それと比べると分かりやすいでしょう。白い袋状のものが層になって重なっていますね。この白い袋状のものは変形した葉で、ごく短い地下茎からでています。根は鱗茎の下部から細いひものようにでているひげ根です。
緑の葉は太陽の光を浴びて、そのエネルギーにより光合成をして、糖やデンプンなどをつくります。その産物はデンプンとして鱗茎に貯えたり、新しい鱗茎を育てるために使われたりします。鱗茎に貯えられたデンプンを使って9月に花茎をのばします。(写真は2005年2月6日撮影)

ヒガンバナの葉-1 ヒガンバナの葉-2


4.枯れてゆく葉
寒い間、色濃く繁っていたヒガンバナの葉は、4月に次第に枯れていきました。下の写真は田のほとりの同じ場所を4月の上旬、中旬、下旬に撮影したものです。これ以後、9月に花茎がでてくるまで、ヒガンバナは地上から姿を消します。でも、地下部は生きていて、鱗茎に貯えた養分を使って花茎を誕生させます。(2004年撮影)

ヒガンバナの葉-3


〔葉見ず花見ず〕
 ヒガンバナは花と葉が別々の時期に出るので、「葉見ず花見ず」などともよばれます。多くの植物は春先に芽を出し、夏の暑い時期に葉を繁らせ、秋に枯れます。ところがヒガンバナの葉は全く逆に、寒い時期に色濃く繁り春先に枯れてしまいます。ほかの植物の葉があまり生育していない時期に繁っているので、冬にヒガンバナの葉はかなり目立ちます。9月に花が真っ赤に咲いていたあたりを、冬に歩くとすぐ見つかります。普通は花だけが注目されるヒガンバナですが花を養うのは葉です。その葉の芽生えから枯れるまでを見つめると、この植物の命の営みを一層しっかりと実感できます。
ヒガンバナは鱗茎にデンプンをたくわえますが、リコリンという有毒物質も含みます。リコリンは水に溶けるので、昔飢饉のときには鱗茎を水にさらしてリコリンをのぞき食用にしたそうです。
日本のヒガンバナは花が終わっても実は結びません。つまり、種ができないのですが鱗茎が分かれて増えていきます。川土手などに大群集をつくるのはそのためです。

〔参考文献〕
 ・「ヒガンバナの花は葉を見ず、葉は花を知りません『ほんとの植物観察』(P49〜50)(地人書館)室井綽・清水美重子=筆者代表
 ・「ヒガンバナ」『牧野富太郎植物記2』(P64〜67)(あかね書房)佐竹義輔=監修 中村浩=編
 ・「ヒガンバナ」近田文弘 『静岡県の自然秋・冬の植物』(P68〜70)(静岡新聞社)黒沢美房等6名=著


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