ルーペ身近な理科室14

    ***野菜や果物を使う実験アラカルト***

野菜や果物を使う実験7つをご紹介します。
野菜や果物も、その他の材料や道具も、すべてスーパーや100円ショップで手に入るものばかりです。
また実験方法は手軽に試せるよう、できるだけ簡単なやり方を工夫しました


〔1〕クロロフィルがつくられる条件

レタス
左の1.の写真はひとつのレタスをたて2つに切った直後の状態です。外側の葉が緑色なのと違い、光を受けられない内側の葉は黄色っぽい色です。
このレタスの左半分を暗いところに、右半分をこのまま明るいところに置きました。そうして3日後の状態が2.の写真です。
明るいところに置いた右半分だけが中の葉まで緑色になっています。

この結果から、植物の葉に含まれる緑色の色素クロロフィル(葉緑素)は、光を受けてつくられることがわかります。内側の黄色の部分には、クロロフィルをもたない色素体があり、光が当ることによってそこにクロロフィルがつくられ、緑色の葉緑体となったものです。このような現象のほかの例として次のようなのがあります。畑に育っているダイコンの上部が地上に出ていて、そこが薄く緑色になっているのを見ることがあります。また、暗いところで芽生えて黄色の芽生えに光が当ると緑色になります。
この実験に使えるほかの野菜-キャベツ、ハクサイ


〔2〕野菜で酸アルカリ性を調べる
 酸アルカリ性を調べるリトマス試験紙は、リトマスゴケ(という名ですがコケではなく地衣類)という植物の色素をろ紙にしみこませてつくります。リトマスゴケ以外にも、酸アルカリ性によって色が変わる物質をもつ植物は多いのです。同じく地衣類のウメノキゴケ、いろいろな植物の赤や青や紫の花びら、ムラサキキャベツやナスなどです。その多くがアントシアンという色素です。ムラサキキャベツに含まれるアントシアンで試験紙をつくる簡単な方法を考えました。ムラサキキャベツ試験紙をつくるには、刻んでそれを煮出して紫色の液を得て、それをろ紙にしみこませてという方法がよく行われますが、それより簡単な方法です。この方法では試験紙は少ししかできませんが。

ムラサキキャベツ試験紙-1
写真1.のように、つまようじ3,4本又はフォークで、ムラサキキャベツの葉をがりがりと傷つけます。紫色の液がしみでてきます。

その上にペーパータオルを押し付けて、液を滲みこませます。濡れた状態のまま、試験紙として使ってもいいですが、乾燥させれば保存できます。写真2.はドライヤーで乾燥させたものです。
ムラサキキャベツ試験紙-2
左の写真は、乾燥させて小さな短冊形に切った試験紙に、それぞれ酢、ミカン汁、固形石けんを溶かした水、キンカン(虫さされの薬)をつけたものです。

強い酸性では赤、弱い酸性ではピンク、弱いアルカリ性では青から緑、強いアルカリ性だと黄色になります。
従って、酢とミカン汁は弱い酸性、石けん水とキンカンは弱いアルカリ性です。キンカンにはアンモニアがふくまれており、それが弱いアルカリ性なのです。

この実験に使えるほかの植物-ナス、ハボタン(紫色の葉)、赤や紫や青い花びら

ナスを使う場合には、つまようじやフォークではなく紙やすり(サンドペーパー)で表面をこすって、紫色の液を、しみ出させます。そのあと、ペーパータオルを押し付けて、液を滲みこませることは同じです。
花びらを使う場合は、もんで液をしみ出させるといいでしょう。


〔3〕水の通路を見る
ネギ、セロリ、サラダナ、チンゲンサイを使って、植物体中を水が上昇するのを見てみました。
まず、植物に吸収させる水を着色します。水300mlに食紅(赤い食用色素)2.5ml(小さじ1/2)を溶かします。この着色水に、これらの野菜をを立てて入れます(下の左端の写真)。切り口を新しく切ってから入れるといいでしょう。数時間後、これらの野菜を切らずにそのまま見てみました。

赤い水に挿した野菜 赤く染まった水の通路

ネギは着色水が通った細い部分が赤く見えています。
セロリやチンゲンサイは葉の先端まで赤く染まり、そこまで水が達したことが分かります。
。セットしてからこれらの写真を撮影するまでの時間は、ネギとチンゲンサイがが6時間、セロリが3時間でした。ただし吸水の速さは、そのときの温度や湿度などの環境条件、植物の生理的状態によって違ってきます。

輪切りや縦切りにして断面をルーペで見てみました。

野菜の断面-1 野菜の断面-2

それぞれの横断面や縦断面には、着色水が通ったところの断面が、赤く染まって糸のように並んでいます。

これは、植物を折ったり引っぱたりすると出てくる、丈夫な繊維質のいわゆる「すじ」です。

道管
セロリの葉柄の道管(顕微鏡写真)
根から吸収された水は、道管(どうかん)という管を通って根から茎や葉へと送られていきます。
上の写真で、赤く染まった「すじ」ひとつは1本の道管ではなく、道管が集まったところです。

参考のため、左に顕微鏡写真を示します。
セロリの葉柄の縦断面の赤く染まった「すじ」1本の部分を顕微鏡でみたものです(15×10)。
写真の上でクリックすると拡大写真がでてきます。このページに戻るには、ブラウザの「戻るボタン」をクリックしてください。
「すじ」には、環状やらせん状に壁が厚くなっている管が集まっています。これが道管です。道管は根から茎、さらに葉や花へと通っていて、植物体のすみずみまで水が送られます。

この実験に使えるほかの野菜-レタス、ハクサイ、キャベツ、ミズナ、コマツナなど


〔4〕冷蔵庫内での成長

ネギ
ス-パーで買ってきた野菜も生きているということを実感させてくれる実験です。

買ってきた長いネギを半分に切りました。左の写真1.は、その下半分の切り口側です。これをそのままポリ袋にしまい、冷蔵庫の野菜室(温度は8℃)に入れました。
翌日もう、その切り口からほんの少し伸びていました。

そして、写真2.は1.から4日後の状態です。暗く、低温の状態で、吸水することもなく、なおこうして成長したのです。



〔5〕酵素の作用-パイナップルを使って
パイナップルにはブロメラインというタンパク質分解酵素が含まれています。ゼリーの材料であるゼラチンは、動物の骨や皮から取り出されるタンパク質の一種です。このゼラチンにパイナップルを作用させて、ブロメラインのはたらきを調べてみました。
下の写真1.
左のゼリーには、1cm角ほどに切った缶詰のパイナップルを、右のゼリーには同じく1cm角ほどに切った生のパイナップルを乗せました。

 写真1.
パイナップルを
乗せた直後
パイナップルを乗せたゼリー  写真2.
パイナップルを
乗せてから2時間後

パイナップルを乗せてから2時間後、缶詰のパイナップルを乗せた左のゼリーは柔らかくなり横に広がったものの、形を保っています、しかし生パイナップルをのせた右のゼリーは形が崩れて融けたようになっていました。これは、生パイナップルに含まれるタンパク質分解酵素のブロメラインが、ゼラチンを分解したのです。
缶詰の果物はその生産工程で加熱されています。酵素は加熱されると分子が変性して、酵素としてのはたらきがなくなりますから、缶詰のパイナップルを乗せた方のゼリーは形が崩れなかったのです。缶詰のパイナップルの替わりに、生パイナップルを加熱して使ってもよいでしょう。

缶詰パイナップルを乗せたゼラチンが柔らかくなって拡がってきたのは−
タンパク質の分子は、アミノ酸が多数結合した長いものです。固まった状態のゼリーでは長いゼラチン分子は、互いにネットワークをつくって結合し、流動性を失っています。しかし、温度が高くなるとこのネットワークがゆるんできます。缶詰パイナップルを乗せたゼリーも柔らかくなって横に広がったのは、そのためです。これを冷蔵庫に入れれば再びしっかりと固まります。しかし、生パイナップルを乗せて崩れたゼリーを冷蔵庫に入れても融けた部分はもはや固まりません。生パイナップルに含まれるブロメラインによって、ゼラチンの長い分子そのものが切られたからです。

なお、酵素のはたらきには温度が影響を与えます。上の実験は、22〜23℃くらいの室内で行いました。しかし、15℃くらいの場所で行ったときには、7時間以上経っても、生のパイナップルを乗せたゼリーは形が崩れるまでには至りませんでした。ただ、パイナップルの周囲が融けてえぐれたようになりました。缶詰のパイナップルを乗せたゼリーは上の部分は平らなままでしたから、やはり違いはでましたが。

この実験に使えるほかの果物-パパイヤ、キウイ、メロン、イチジク(これらは、やはりタンパク質分解酵素を含みます)

注意--市販のゼリーには、ゼラチンではなく寒天を使ったものがよくあります。寒天はタンパク質ではなく、海草から取り出される炭水化物の一種が主成分ですから、この実験には使えません。ゼラチンを使って手作りしたゼリーか、ゼラチンを材料とすることが確かな市販品を使ってください。


〔6〕バナナへの果皮への太陽光の作用
 バナナを使って、太陽光の作用をしらべました。
傷のない黄色のバナナの半分を、下の写真1.のようにアルミホイルで包みました。よく晴れた日の10:00.〜13:00の3時間、これを直射日光の当るベランダに出しておきました。その後このバナナを箱に入れ、部屋の暗所に置きました。

バナナ

上の写真2.は翌日の状態です。アルミホイルでおおわなかった部分だけが、茶色になり始めています。そして、写真3.は、それからさらにを箱に入れ、部屋の暗所に1日置いた後の状態です。茶色がいっそう濃くなり、アルミホイルでおおった部分とおおわなかった部分との違いがはっきりしてきました。バナナの皮をこのように変色させるのは、太陽光のスペクトルのうちでも紫外線の作用であることが確かめられています。
日光を照射する時間の長さをいろいろに変えると、茶色になる濃さが変わるでしょうか。
これらの実験、およびバナナを使ったそのほかの実験も行いました。このページを見てください→生物実験室13


〔7〕オレンジオイルがポリスチレンを溶かす
ミカン、レモン、グレープフルーツなどの柑橘類の皮を折り曲げて力を加えると、オイル状の物質がでてきます。オレンジオイルとよばれるこれに含まれるリモネンという物質は、ポリスチレンを溶かします。プラコップや、市販の惣菜の入っている透明なパックなどはポリスチレンでできています。こうした容器のどこかに「PS」と記されているのは、ポリスチレンという意味です。「スチロール樹脂」と書かれていることもあります。また発泡スチロールは、ポリスチレンに細かい泡を含ませたものです。

オレンジオイルがポリスチレンを溶かす

グレープフルーツの皮を折り曲げて力を加え、出てきたオレンジオイルを発泡スチロールにつけます(写真1)。直後、その部分は融けて浅く穴があきました(写真2)。写真3.は20分後の状態です。その穴はさらに深くなっていました。発泡スチロールがリモネンに溶けると、体積が非常に小さくなります。
写真4は、2つのポリスチレンのプラコップを、オレンジオイルを接着剤にしてくっつけたところです。オレンジオイルをプラコップの底につけると、そこの部分が少し溶けます。そこにもうひとつのプラコップの底をつけて押し付けたら、このようになりました。オレンジオイルをつけるとき、あまり多く念入りにつけるとプラコップに穴があいてしまうことがあります。
この実験に使えるほかの果物-ミカン、レモン、ネーブル、ポンカン、アマナツなど柑橘類ならどれでも使えます。

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<参考資料> 
〔2〕野菜で酸アルカリ性を調べる
・「色のふしぎ」『科学あそび大図鑑』(P89〜93)(大月書店)津田妍子=著
〔3〕水の通路を見る
・「水の上昇(1)(2)」『絵をみてできる生物実験』(P86〜89)(講談社サイエンティフィク)岩波洋造・森脇美武=著
〔5〕酵素の作用-パイナップルを使って
・「観察・実験 パイナップルに含まれる酵素」『高等学校生物T』(P39)(数研出版)川島誠一郎ほか8名=著
〔6〕バナナへの紫外線の作用
・「バナナへの紫外線の作用を調べる実験」『植物の観察と実験を楽しむ』(P131〜133)(裳華房)松田仁志=著
〔7〕オレンジオイルがポリスチレンを溶かす
・「くっつくプラスチック」『ためしてビックリおもしろ化学実験』(P166〜199)(ナツメ社)守本昭彦=著


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