ルーペ身近な理科室15

    ***葉から芽がでるベンケイソウ科の植物***

ベンケイソウ科の植物には、たねによらず葉から芽がでて増えるものがよくあります。
そのうち、比較的よく見られる5種をご紹介します。また、こうした子孫のつくりかたを、たねによる方法と比べました。


[1]葉から芽がでる植物紹介
セイロンベンケイソウ、コダカラベンケイ、コダカラソウ、キンチョウ、オボロヅキ(いずれもベンケイソウ科)の5種をご紹介します。
同じ植物に、資料によってちがう和名や学名が記載してある場合は、複数を記しました。
1種類の植物について、和名(日本での標準的な名)は複数ある場合もありますが、学名(世界共通の名)は1つであるはずです。しかし、ここにとりあげた植物には資料により異なる学名がみられたものがありました。それは、分類学的見解の違うそれぞれの立場から命名されたものでしょう。セイロンベンケイソウ、コダカラベンケイ、コダカラソウ、キンチョウについては、ブリオフィルム属に分類される場合と、カランコエ属に分類される場合があります。

1)セイロンベンケイソウ(セイロンベンケイ)(トウロウソウ) 学名-Bryophyllum pinnatum (Kalanchoe pinnata)
葉を茎から切りはなしておくと、やがて葉のふちのくぼみの部分から、芽がでてきます。乾いた場所においたり、ピンで壁に留めておいたりしても芽はでてきますが、やはり水がある方が芽のでかたも、その後の成長も早いのです。平らな容器に水を2〜3mm入れそこに葉を置きます。
乾燥すると、茎についたままでも芽がでてくることがあります(下の写真、右の鉢植え)。生じた芽は、自然に葉から落ちることは少なく、この点では次のコダカラベンケイ、コダカラソウ、キンチョウとはちがいます。寒さには弱いので、冬は室内や温室などに入れます。
セイロンベンケイソウの生育についてのさらに詳しいことは、このサイトの次のページに記しました。→生物実験室15

セイロンベンケイソウ


2)コダカラベンケイ(シコロベンケイ)学名-Bryophyllum daigremontianum (Kalanchoe daigremontiana)
次のコダカラソウと混同されていることがありますが、交配種であるコダカラソウの一方の親がコダカラベンケイということです(参考資料〔5〕)。こちらの葉の形はコダカラソウとちがって長三角形で先端が尖っています。また、コダカラベンケイの葉の裏の斑紋は紅紫色で、この点でもコダカラソウとはちがいます。
葉が茎についたままでふちのくぼみの部分から芽がでてきます。この芽は風やちょっとした接触によっても、すぐぽろっと落ちます。そして、落ちた芽が親植物の根元の地面にたくさん育ってくることになります。大きく育てるには、ひとつの芽をひとつの鉢に植えます。これも寒さには弱いので、冬は室内や温室などに入れます。

コダカラベンケイ

コダカラベンケイの花
←コダカラベンケイの花

芽から育って2〜3年すると花がさくことがあります。
花が咲くようになった個体は、背が高くなり、支えをしないと倒れてしまう状態になることがほとんどです。
左の写真の個体の背丈は90cmでした。100cm以上になることもあります。


3)コダカラソウ 学名-Bryophyllum 'Crenatodaigremontianum'
コチョウノマイ(胡蝶の舞 Bryophyllum crenatum)とコダカラベンケイの交配種です(参考資料〔5〕)。
これも葉が茎についたままで、ふちのくぼみの部分から芽がでてきます。葉の裏の斑紋は、コダカラベンケイのそれのような紅紫色ではなく緑色です。葉のふちに生じた芽がちょっとした衝撃で落ちてしまうのは、コダカラベンケイと同じです。
下の左の写真の鉢にはこうして落ちた芽がぎっしり生えています。放っておくとこうしてどんどん増えます。大きく育てるには、ひとつの芽をひとつの鉢に植えます。これもまた、寒さには弱いので冬は室内や温室などに入れます。

コダカラソウ

コダカラソウ孫芽


←孫芽が生じることもあります。

この葉には何と、ふちにできた芽に、さらに芽が生じました。元の葉からみればいわば孫芽です。このようなことは、しばしばあるというわけではありませんが。
コダカラソウの花  
←コダカラソウの花

やはり、芽から育って2〜3年すると花がさくことがあります。
そして、花が咲くようになった個体は、背が高くなり、支えをしないと倒れてしまう状態になることが多いのも、コダカラベンケイと同じです。
左の写真の個体の背丈は100cmでした。

花のつき方や形もコダカラベンケイに似ていますが、おしべ・めしべが花びらの外に出るほど長いのは、コダカラベンケイとはちがいます。


4)キンチョウ 学名-Bryophyllum tubiflorum (Kalanchoe tubiflora)
漢字では「錦蝶」と書きますが、これは花の印象からでしょうか。私はまだ咲かせたことがありませんが、華やかな感じの花です(参考資料〔6〕)
葉はこのように細く、その表面の斑紋は紅紫色で、コダカラベンケイのそれとよく似ています。葉の先端の部分に芽を生じます。この芽はやはり落ち易く、親植物の根元に育って増えます。これもまた、寒さには弱いので冬は室内や温室などに入れます。
フシチョウ(不死鳥 Kalanchoe hybridKalanchoe tubiflora×Kalanchoe daigremontiana)は、このキンチョウとコダカラベンケイとの交配種です(参考資料〔6〕)。
フシチョウもやはり、葉のふちに芽を生じます。

キンチョウ


5)オボロヅキ 学名-Graptopetalum paraguayense
肉厚の葉が重なり合うようにつきます。この葉は、ぽきっととれやすく、折れた傷口の部分から新しい芽が生じます(写真右)。こうしてどんどん増えます。上の4種とちがって寒さに強く、冬でも戸外に置いて大丈夫です(静岡市の場合)。芽生えて数年の株には、春から初夏にかけて花が咲くことがあります(写真左)。
オボロヅキ


[2]どうして葉から芽がでるのでしょう?
葉が茎から切り離されたりすることにより、特定の部分の細胞(または細胞群)の遺伝子がはたらくよう促され芽を形成するものと思われます。しかし、その具体的なしくみは、とても複雑なものでしょう。

[3]たねによって子孫をつくる方法とのちがい
たねができるには、おしべとめしべによる受精が必要です。めしべの下の方の子房の中にある卵細胞と、おしべでつくられた花粉の精細胞とが合体するのです。それにより、卵細胞と精細胞の遺伝子を受け継ぎます。しかし、葉から芽がでる増え方では、1個体の親植物だけから遺伝子を受け継ぎます。そこで、芽の遺伝子構成は親植物と全く同じです。つまり、親のコピーともいえる生物です。このような生物を「クローン生物」といいます。
このことについてはこのサイトの次のページに記しました。→生物実験室15

メモ
コダカラベンケイとコダカラソウとは、しばしば混同されています。本ページではコダカラベンケイは、下記の参考資料〔3〕の写真と記述により同定しました。また、コダカラソウの同定は参考資料〔5〕によりました。

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<参考資料> 
書籍
〔1〕『絵をみてできる生物実験』(P106〜107)(講談社サイエンティフィク)岩波洋造・森脇美武=著
〔2〕『絵をみてできる生物実験PartU』(P60〜61)(講談社サイエンティフィク)岩波洋造・森脇美武・渡辺克己=著
〔3〕『週刊朝日百科植物の世界56 ベンケイソウ、スグリ』P5-229〜230(朝日新聞社)
ウェッブページ
〔4〕草木図譜 セイロンベンケイ http://aquiya.skr.jp/zukan/Bryophyllum_pinnatum.html
〔5〕草木図譜 コダカラソウ http://aquiya.skr.jp/zukan/Bryophyllum_Crenatodaigremontianum.html
〔6〕草木図譜 キンチョウ http://aquiya.skr.jp/zukan/Bryophyllum_tubiflorum.html
〔7〕【ブルーミングスケープ】観葉植物 育て方/子宝草 http://flower.phoebastria.com/data/kalanchoe/kodakarasou.html


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