ルーペ身近な理科室16

***ルーペで見えてくる世界***

ルーペによる観察の薦めです。
ルーペでは顕微鏡ほど高倍率には見えませんが、身近なものを観察するといろいろなおもしろい発見があります。
ルーペには実に多くの種類がありますが、ここでは安価なものでの観察を試みました。


[1]ここで使用したルー3つ重ねルーペ
ルーペにはひとつ数千円もするものもありますが、安価なものでもかなりな観察ができます。
 ここでは小学生用の、ひとつ300円前後のものを使ってみました。倍率は2〜3倍です。複数個のルーペを重ねると、倍率はさらに高くなります。左の写真は、3つのルーペをそれぞれの中心を揃えて重ね、輪ゴムでまとめました。これで見た倍率は10倍ほどになります。
 ただ、倍率が高くなるとピント合わせが難しくなります。また視野が狭くなります。まず、ひとつのルーペで観察し、慣れたら2つや3つ重ねたルーペで見ることにトライしてください。

[2]観察方法観察法
ふつうルーペで見る場合には目はルーペから離し、見る対象物に向かってルーペを近づけたり遠ざけたりしてピントを合わせます。観察の場合もこの方法で行なうことはできます。しかし、この方法では、せまい範囲しか見ることができません。次のようにすると視野が広くなります。

1)ルーペを片手でもって目に近づけます。目とルーペとの距離は、眼鏡をかけたときの目とレンズくらい、又はそれより少し近いくらいです。
2)見る対象物をもう一方の手で持ち、これもルーペに近づけます。ルーペに触れるか触れないかまで近づけます。
3)そのまま対象物を、ゆっくりとルーペから遠ざけていき、ピントがあったところで止めます。遠ざけすぎたと思ったら、またゆっくりと近づけます。ルーペの倍率が高いほど、ピントのあう位置はルーペに近いところになります。

(付記)
・木の幹など、手で持てない対象物を観察する際には、ルーペと目との距離を保ったまま顔を前後に動かしてルーペを対象物から遠ざけたり近づけたりします。
・対象物が暗いとよく見えません。直射日光を避けた明るい場所で対象物を明るくして観察する、ライトで照らすなどの工夫をします。
・観察は両眼とも開けて行なう方が目が疲れません。しかし、慣れないと困難です。まず片目だけで観察し、ピントがあったらもう片方の目も開けてみましょう。これを何回も行なうと、両眼観察の感覚がつかめます。

(注意)
・太陽を、肉眼でそのまま又はルーペを通して直接見ることは絶対にしないでください。太陽の光はとても強いので目を傷めます。失明の原因になることもあります。
・直接に日光が当る場所に、ルーペを放置しないでください。ルーペが太陽光を集めて発火し、火事の原因になることがあります。

[3]観察の練習
身近なもので観察の練習をしてみましょう。次の例は、広告の中の写真・10円玉の図柄・ティッシュペーパーです。いずれもルーペ3つを重ねての観察です。

観察例1 広告の中の写真-赤ちゃんの顔の写真です。画像はたくさんの点で構成されていることが分かります。

・10円玉の図柄-平等院鳳凰堂の中央部です。建物の細部まで描かれているのが認められます。

・ティッシュペーパー-そのままでは、くにゃっと倒れてしまうので、透明なプラスチックシート(市販惣菜パック容器を切って使いました)を2つ折りにしてその間に挟んで観察しました。繊維や隙間がはっきり見えます。

[4]観察例
ある程度慣れたら、自然の形を観察してみましょう。次の例もルーペ3つを重ねたものでの観察です。
1)台所で

観察例2
・食卓塩の結晶-さいころのような立方体でした。食卓塩以外の食塩では、フレーク状や樹枝状の結晶のものがありますが、それは製法の違いによります。

・イワシのうろこ-スーパーで買った丸干しイワシには、うろこの取り残しがあります。それを観察しました。年輪が見られました。

・卵の殻の表面-低い凸凹が見え、穴もあります。この穴は気孔といい、中でひよこが育つ際に、呼吸による酸素・二酸化炭素はこの気孔を通って出入りします。

・ブロッコリー-ブロッコリーの食用部は、花のつぼみの集まりです。ブロッコリーはアブラナ科で花びらは4枚です。4枚の花びらが折り込まれて盛り上がるように納まっている状態が分かります。

・カイワレダイコン-カイワレダイコンとは、ダイコンの種子から双葉が芽生えたばかりの幼植物です。その双葉をそっと開いてルーペで見ると、その間からすでに本葉が芽生えていました。

2)屋外で

観察例3

・アリとアブラムシ-セイロンベンケイソウの葉の上で、アリがアブラムシのお尻から甘い汁を吸っているところに遭遇しました。

・ススキの葉のふち-のこぎりの刃のような、鋭いとげが見えました。うっかり手を傷つけてしまうのは、これのためだったとうなづけます。

・イヌタデの花-通称で「赤まんま」と呼ばれます。まんま1粒がひとつの花で、長さは2mmほどです。多数の花が密集して穂となっています。ルーペの下ではこの小さな花がとても美しく見えました。上の写真ではひとつの穂のなかに、つぼみ・開花中の花・すでに黒い実ができたもの、という3つの状態の花が見られました。

・ルコウソウの花粉-花粉が、おしべの葯から真っ赤な花びらの上にこぼれ落ちていました。ルーペで見ると、小さな半透明の玉のような花粉1粒ずつが見分けられました。

・ハナズオウの葉痕(ようこん)−葉痕とは、枝から葉が落ちたあとの痕跡です。葉痕が顔のように見える植物があります。目や口のように見えるのは、維管束(いかんそく)の痕です。維管束とは、水や養分の通路である管の束で、根から茎そして葉へと通り、葉では葉脈となっているものです。葉痕が顔のように見えることに学問的意味はありませんが、おもしろい形です。ほかの植物の葉痕は、下に記した参考資料4)を見てください。なお、この写真の葉痕の上に頭飾りのように見えるものは、やがて伸びてくる冬芽です。

3)継続観察の例
ある特定のものを、ルーペを使って継続的に観察しその変化を追ってみると、対象に親しみがわきます。次の例は、コハコベの開花から種子が散布されるまでを追いました。

観察例4

コハコベの花は直径5mmほどで白く地味ですが、ルーペで見るとこのように美しいです。花びらは10枚のように見えますが5枚で、それぞれの花びらが中央で深く切れ込んでいるためこのように見えます。この花びらが散って実ができ、その中に種子が実ります。実や種子もルーペで見ると細かい構造が分かります。そして、小さな自然の営みを近づいて見ていることを実感し、親しみを覚えます。

[5]観察対象はあちこちに
上の観察例はほんの一部です。観察対象は身近にたくさんあります。例えば、自分の皮膚や爪や髪の毛・イヌやネコの毛・野菜や果物・花やその中のめしべやおしべ・葉の表面・種子の表面・虫の体や羽・砂糖粒・米粒・砂粒・石の表面…その他諸々。外出の際、ルーペを持参すれば興味を引くものが見つかったときにすぐ観察できます。

[追記]
 以上のような観察を行なうのに適したルーペを、ほかにいくつかあげておきます。

いろいろなルーペ
・3枚レンズルーペ-レンズの重ね枚数により、倍率は3.5〜8.6倍になります。以上の観察に使った、3枚のルーペを輪ゴムでまとめる方法は、これをヒントにしたものです。
・ミニマイクロスコープ-倍率は15倍。透明なフードから光が入って見る対象物を明るくしてくれます。
・とげ抜きルーペ-左のは7倍、右のは15倍です。とげ抜きや、細かい修理作業用ですが、観察に使えます。ピンセットの部分に見る対象物をもってくると、ピントが合います。
・無色透明なビー玉-このような手軽なもので一応の観察はできます。ふくらんだ透明な玉なので、凸レンズとして使えるのです。写真のビー玉は最も普通のサイズの直径17mmのものです。持ちやすいように、また転がらないように画用紙を細く切ったものでくるりと巻きました。倍率はミニマイクロスコープより少し高いです。しかし、ピントが合うのは中心部の狭い範囲だけで、周辺部はひずみが大きくて観察には使えません。また、像のシャープさも劣ります。
無色透明なビー玉による観察方法はこちら→ビー玉とスマートフォンで拡大観察・撮影を

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[参考資料]
1)中学校理科教科書 理科の世界 1年(大日本図書株式会社) P10
2)牧野富太郎植物記1 野の花1(あかね書房)佐竹義輔=監修 中村浩=編 P46〜50
3)地衣類観察におけるルーペについて http://home.hiroshima-u.ac.jp/lichen/trend/loupe.html
4)愉快な冬芽・葉痕達 http://shizuka.sakura.ne.jp/kobo/fuyume_index.htm


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