ルーペ身近な理科室

繁華街化石ウォッチング体験記

町中のビルの壁や柱、床などの石材には化石が含まれていることがよくあります
静岡市中心部の繁華街で、こうした化石をウォッチングしました。


中での化石ウォッチングは、ひとりではやりにくいものです。ビルの中でキョロキョロと床や壁を見回していたら、挙動不審者と思われてしまいます。まして、写真を撮ることなどとても…。私たちは、2001年2月17日に 5人で出かけました。その中の弓削幸恵さんに他の4人は、化石の所在場所や何の化石であるかなどを教わったり説明をうけたりしました。私がこのwebページを作れたのも、そのおかげです。私は写真撮影担当で。歩いてみての感想や、これから出かけられる方へのアドバイスなどを後記として こページ最後に記しました。

コースは次の通りでした。それぞれの場所で見られた化石の内から、下記に写真でご紹介します。
また、この日以後に見つけた化石いくつかも。

リンス会館・魚磯(宮ヶ崎町)→伊勢丹デパート(呉服町)→静岡市役所旧館(追手町)→中華料理店・味の喜作(呉服町)→本田眼科(服町)→アスティ静岡(JR静岡駅ビル内)→ホテルアソシア静岡ターミナル(黒金町)

ず、下記の化石説明文中に出てくる地球の歴史のおおざっぱ時代区分を記すと…

先カンブリア時代(地球誕生〜5億7000万年前)→古生代(5億7000万年前〜2億3000万年前)→

生代(2億3000万年前〜6500万年前)→新生代(6500万年前〜現在)
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プリンス会館・魚磯
ピンク色の美しい外壁にあったアンモナイトの化石2つをご紹介します。
アンモナイト−1

手に持っているのは10円玉です。
化石の大きさを示すためにいっしょに撮りました。

このページの、他の化石の写真に写っている、ボールペン、定規、指もそのためです。



アンモナイトはビルの石材の中にはよく見つかる化石です。タコやイカの仲間で渦巻状に巻いた殻をもっています。その殻は隔壁でたくさんの小部屋に仕切られています。右の写真では、その仕切りが分ります。
アンモナイトは中生代に海中で繁栄した生物で、中生代の示準化石(標準化石)です。

示準化石−それが含まれている地層の年代を知る手がかりとなる化石。ある特定の時代にだけ生きていた生物の化石で、従って、その時代の地層にかぎって含まれるからです。

伊勢丹デパート
化石ウォッチング初心者には絶対おすすめの場所です。とにかく、あちらにもこちらにも見つかるのです。

二枚貝など

上の写真 左2枚に見られるような二枚貝や石灰藻の化石が一階の内外の壁、床、柱にいっぱいで、探すのに全く苦労しません。
石灰藻とは、体に石灰質をもつ藻類のことです。
右端の写真、赤ちゃんの手のひらのような二枚貝の化石は1階エレベーター乗り場の壁にあります。右のエレベーターの左側の壁、目の高さのところです。

静岡市役所旧館
正面玄関の壁にある、巻き貝とサンゴの 化石です。丁寧に探さないと、見落としてしまいます。

巻き貝、サンゴ

この石材は新生代のサンゴ礁の石灰岩ということなので、サンゴの化石はたくさんあるはずですが、慣れない者には見つけにくいものです。

二枚貝やウニのとげらしいものもあるということですが、分かりませんでした。







中華料理店・味の喜作(「喜」は本当は、「喜」の字を横に二つ並べた文字。変換できなかったので「喜」の字で代用します)
2階に登る階段の手すりのところにあるベレムナイトの化石です。
ベレムナイト
ベレムナイトは今のイカによく似た動物ですが、腕の数はイカのように10本ではなく、6本であったことが、ドイツで発見された化石から明らかになっています。
化石としてみつかるのは、イカの甲に相当する部分で鉛筆のキャップのような形をしています。

アンモナイトも含まれているそうなのですが、見つけられませんでした。

この店は既に営業していないようです。すると化石もやがて見られなくなってしまうのでしょうか。






本田眼科
入り口の地下に下りる階段のところの壁一面に、こんなみごとな渦のような模様があります。

ストロマトライト
これがストロマトライトです。

ストロマトライトとは、ラン藻類が分泌した石灰成分が層状に堆積したもので熱帯の非常に浅い海にできます。

ストロマトライトは、石材中に見られる化石では最も古い時代のもので、先カンブリア時代の化石です。、

ちなみに、現在地球の大気中に含まれる酸素は、この時代のラン藻類が光合成によってつくりだしたものです。地球誕生のときの大気には酸素は無かったのです。




アスティ静岡(JR静岡駅ビル内
こんなはっきりしたアンモナイトが、床にありました。
アンモナイト−2
アスティ中央入り口のところの床、及び「ASTY  GARDEN」前の床によく化石が見つかりました。
この3枚の写真にはどれもアンモナイトの化石が見えますが、左端の写真のは横断面、右2枚の写真のは たての断面です。右端の写真のものは仕切りがはっきりと分ります。左端の写真のベレムナイトは斜めの断面です。

ホテルアソシア静岡ターミナル
ここもちょっと探しにくかったです。二枚貝

この二枚貝は表面のでこぼこまではっきりわかります。
二枚貝以外にアンモナイト、ベレムナイトもあるというので、一生懸命さがしたのですが…。

この二枚貝の写真と、もう1枚撮ってきたのですが、そちらには化石らしいものは写っているようには見えませんでした。さて、何を撮ったつもりだったのか。どうしても思い出せないのです。

どうも写真を撮ると安心してしまうもののようです。目での観察や文字による記録が大切だと思いました。





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<その後に見つけた化石>
2001年2月17日の化石ウォッチング以後に、私が出先で見た化石です。

伊豆洋らんパーク静岡県田方郡大仁町田京
温室入り口の手前のところに置かれていたメタセコイアの珪化木です。
珪化木
これは石材中の化石ではありませんが。

木は埋蔵中その組織が、溶解した鉱物におきかわると石化します。珪酸とおきかわったのが珪化です。
珪化木を輪切りにしたものが、おみやげとして売られていたのを見たことがあります。その断面は鮮やかな美しい色をしていました。
この写真の珪化木は、切断されてはいなかったので断面を見ることはできませんでしたが。

メタセコイアはスギ科の植物で和名は「アケボノスギ」です。かつては化石でしか知られていませんでしたが、中国で生きているのが見つかりました。「生きている化石」の代表例です。



国立科学博物館(東京都台東区上野公園)
本館の大理石の壁に見つけたアンモナイト2つをご紹介します。
アンモナイト−3

特別探したというわけではなく、通りがかりに目に留まりました。探せば、もっと見つかりそうでした。

展示物として、立派な化石があるところですから、普通は壁に化石を探したりはしないかもしれませんが。

「ここに化石は一体どのくらいあるのだろう?」東京の街の
ビルの林立を眺めながら思いました。
大都会は化石ウォッチングの適地ですね。


【後記】

街中化石ウォッチングをしたいと前々から思っていたのが かなえられました。

好条件が重なって岩石の中の化石となり、その岩石が切り出されてこの建物の材料となった− その偶然の切り口に現れて何百万年、何千万年、何億年後の今、こうして目にすることができる−奇しき縁(えにし)というべきです。
その化石が辿ってきた、遠い太古の世界から現在のその場所への長い長い有為転変が思われ、深いところから湧くような感動を覚えました。

あちこちで多く見つけたのは何と言ってもアンモナイトでした。それだけ繁栄していた生物だったんですね。知識としては知っていたことでしたが、実感できました。だから示準化石になれるんですね。また、そのアンモナイトのすぐ近くにベレムナイトを見つけて、確かにこれもアンモナイトと同じ時代に生きていたことを目で見る思いでした。

5人で行ったウォッチングの後でも、化石がありそうなところでは気をつけてみました。そのうちの2ヶ所で見た化石を上記にご紹介しましたが、これ以外にも化石ではないか?と思ったのがありました。でも、確信できなかったのです。詳しい人に、さらに教わりたいと思いました。
もっと時間をかけて、ゆっくりと観察したかったと思います。また、水を含ませた布などで石材を湿らせたり、ルーペで見たりすれば、見えにくい化石や微細な化石も見えてきたかもしれません。ちょっと残念でした。

味の喜作は店は既に営業していないようでしたが、化石は入り口近くの石材に含まれているものであるため見ることはできました。しかし、文献には載っていても、建物の改築や模様替えなどで見られなくなっていた化石もありました。これも残念なことでした。

ここで、これから化石ウォッチングに行かれる方々へのアドバイスを…

じっくりと腰を据えて」ということなら

1)まず、事前学習が大切です。
化石の写真を見たり、生物の変遷の歴史や化石のできかた、化石を含む石材などについて学習します。

地質時代と生物の歴史はいろいろな本にでています。例えば下記の参考文献2)3)や、中学の理科の教科書(2分野下)、高校の「生物U」などです。

化石がどのようにしてできるかについては例えば下の文献2)に、どんな石材に化石が含まれているかについては3)に書かれています。

自分がウォッチングしようとする都市のどのビルにどんな化石があるか、解説したものがあればそれを読みます。私たちは下記の参考文献1)の中の「町は石と化石の博物館−静岡駅周辺での化石ウォッチング−(清 邦彦・柴 正博 )」を事前に読み、それをたよりに歩きました。

2)実際に出かけるときは…
冒頭に書いたように、挙動不審者と見られないためには複数人数で行く方がよいでしょう。
また、詳しい人に同行してもらい、その指導を受けながら歩くのがベストです。その点、私たちは、弓削さんという指導者と一緒で幸いでした。たとえ事前学習をしてあっても、初めてではどこに化石があるのか見つけにくく、また、化石らしいのを見つけても、何の化石なのか分かりずらいのです。例えば、私は駅ビル内アスティには何度も行ったことがありながら、その床にあんなはっきりと分るアンモナイトの化石があるとは知りませんでした。また、市役所旧館のサンゴの化石は、目の前に見ても最初は化石とは思わなかったのです。

指導者に同行してもらうのが不可能ならば、文献を頼りに自分たちで探すことになります。その際そこにビルの関係者(受付、管理者、その他の社員)がいたら、その人に「化石ウォッチングをさせてください」とか、「化石の写真を撮っていいですか」とひとこと言っておくと、気持ちが楽になり、やりやすくなります。また、文献を示してその化石の実際の所在場所を尋ねると親切に教えてもらえたりします。このことは、指導者が同行している場合でも同様です。私たちの場合もそうでした。もちろん、それは相手が本来の仕事で忙しそうならば遠慮すべきですが。
また、他のお客さんその他の人達の邪魔にならないように。

細かい化石を探す、写真撮影をするつもりならルーペ、カメラを持参して

3)ウォッチング後は…
度化石ウォッチングすると、石材に化石を見つける勘のようなものが少し身につきます。その後も、化石がありそうなところでは気をつけてみましょう。案外自分で見つけることができるかもしれません。
また、石灰岩や大理石でできた置物に化石が含まれていることがありますから、このようなものにも気をつけてみましょう。

「もっと気軽に買い物がてらにでも」というのならば…
ご自身の気持ちや都合に合わせて上の過程のいくつかを、適宜省略してください。

<参考文献>
1)日曜の地学シリーズ・静岡の自然をたずねて(築地書館) 地学団体研究会静岡支部 編
2)化石の写真図鑑(日本ヴォーグ社) シリル・ウォーカー/デビッド・ウォード 著
3)カラーブックス849 化石ウォッチング in City(保育社) 三宅隆三/川瀬信一 著
4)岩波生物学辞典−第4版−(岩波書店)
5)街中の化石を探そう!!(2001年3月25日静岡市立児童会館で行われた「おもしろ科学フェスティバル」のための資料)弓削幸恵 作成


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