ルーペ身近な理科室

自然観察庭の四季・動物篇(1)

我が家の小さな庭は、私の最も身近な自然観察フィールドです
春から夏にかけて目についた動物たちの命の営みの諸相を記します


1)潜葉虫
ショカツサイ
春先から5月頃にかけて庭のあちこちで、ショカツサイ(写真−オオアラセイトウ、ムラサキハナナ、ハナダイコンなどの別名あり)が花を咲かせます。

その葉に、この写真のような白いすじが描かれていることがよくあります。このような葉は野草、畑の野菜、森や林の木でも見つかります。

チョウやガ、甲虫、ハチ、ハエに属するいろいろな種類の「潜葉虫」は葉の中に卵を産みつけます。その卵からかえった幼虫は葉の組織に潜ったまま細胞液や葉肉組織を食べて育ちます。この白いすじは、幼虫が食べながら前へ前へと進んで行ったあとです。
潜葉虫は通称、「絵かき虫」とか「字かき虫」とか呼ばれています。
庭の中や家のまわりで、ほかにもこうした葉がないかさがしてみました。



潜葉虫

左の写真はチチコグサモドキとオオジシバリの葉にみつけた白いすじです。葉の裏をかえしてみると、中の幼虫がみつかることがあります。

オオジシバリの写真、左のは葉の表、右の写真は別の葉の裏をかえしたところです。→で示した黒い点のようなのが幼虫です。








2)これミミズのふんです

2000年6月のある日このような土の粒の集まりを見つけました。これはミミズのふんです。その大部分は土ですから、ちっとも汚いという感じはしません。
ミミズのふんは庭で時々見つけますが、このように地表にもりあげられたのを見ることはあまりありません。ほとんどの場合はシャベルなどで土を掘ったとき、地中に小さな丸い粒の集団になっているのを見つけるのです。
ミミズのふん
ミミズは植物の腐ったものつまり有機物を土といっしょに食べ、吸収されなかったものはふんとして出します。ミミズは土を動かし耕してくれていると言えます。

食べた物はミミズの消化管を通る間に、生きた植物の根から吸収されやすいものに変化していて、それがふんに含まれています。こうしてミミズのふんは植物にとって肥沃な土となっています。またミミズが死ぬとその死骸もよい肥料になります。こうしてミミズは生態系の中で重要な役割を果たしています。

あの進化論のC.ダーウィンは、長年ミミズの研究をして本を著わしています。ダーウィンは「鋤(すき)は人類が発明したもののなかで、最も古く、最も価値あるものの一つである。しかし、実をいえば、人類が出現するはるか以前から、土地はミミズによってきちんと耕され、現在でも耕されつづけているのだ」といっています。そう思って見るとあらためてミミズに感慨と感動を覚えます。
しかし、現在は殺虫剤や枯草剤などによる環境汚染でミミズが減ってきているとか。庭の木に安易に殺虫剤散布をしたことを反省しました。


3)こんなところにイラガのまゆが!
イラガの幼虫は緑色の体にとげがたくさんあり、そのとげに刺されるととても痛いです。俗に「でんき虫」とよばれています。
この幼虫は夏に木の幹や枝にまゆを作ってその中にこもります。まゆの中で冬を越しその中でサナギになり、成虫になります。そして翌年の6〜7月に成虫はまゆから出てきます。成虫や幼虫は見つけにくいのですが、まゆは割に簡単に見つかります。我が家の庭でイラガのまゆが最も多く見つかるのはサクラの木です。
下の左の写真はサクラの木の、ほとんど水平にのびた大きな枝の表面についたイラガのまゆです。ひとつのまゆの長さは約1.5cmで、端にあいているあなは、成虫が羽化していったあとです。
垂直の面に着いたまゆでは、多くの場合長軸方向を縦向きにしていますが、このように水平な面に着くとまちまちな向きに着いています。これは何か理由があるのかもしれません。
イラガのまゆ
イラガのまゆはとてもかたくて、指で押したくらいではとてもつぶせません。

もう1枚の写真はちょっと思いがけないところに見つけたイラガのまゆです。

サクラの木のそばにある、物置小屋の外側を被う波板に着いていたのです。すべて、へこみにはまりこむようにして着いていました。でっぱった所よりへこんだ所の方が、まゆを作り易いのでしょうか。
かなり古いもののようで、あなの形はくずれ、指で押すと簡単にこわれるほどもろくなっていました。






4)アサガオはホオズキカメムシのすみか
毎年「ムラサキ」という品種のアサガオを育てています(下の左の写真)。
その葉の裏に茶褐色がかった金色の卵がかたまって産みつけられているのがよく見つかります。ホオズキカメムシの卵です。2001年7月のある日、卵のそばに孵ったばかりの1齢幼虫の集団を見つけました(下の右の写真)。この写真はデジタルカメラのレンズの前にルーペをつけて拡大して撮影しました。

アサガオとカメムシ
卵のサイズは縦が約1.5mmで横が1mmです。また1齢幼虫は体長が約2mmです。かたまってじっとしていました。

カメムシはさなぎの時期がない不完全変態の昆虫です。
幼虫が脱皮したあとの抜け殻をアサガオの葉の上に発見することもあります。こうして幼虫はアサガオの汁を吸って成長していきます。



カメムシの成虫
左の2枚の写真はホオズキカメムシの成虫で、幼虫の時期と同じように、ほとんどの場合集団になっています。体長は約13mmです。

体色はとても地味ながら、光の量や当たる方向によって見え方が微妙に違い、あれっと思うことも。この2枚の写真を見比べてみてください。

こういうことは、実物に接してこそ気付くことで自然観察の楽しさのひとつだと思います。







5)セミの異変

庭の木の枝や葉をしっかりと抱くセミの抜け殻がよく見つかります(下の左の写真)。ほとんどがアブラゼミです。背中の切れ目は成虫が羽化して出ていった跡です。その枝や葉を抱く力はほんとうに強く、風や雨にも耐えて何ヶ月もそのままです。
2001年8月のある日枯れた落ち葉の上に、普通よりも黒っぽい色の抜け殻をみつけました(下の右の写真)。正確には抜け殻になりそこねたものです。
セミの抜け殻

背中の切れ目(白い矢印で示しています)から、成虫の体が途中まで出てきています。しかし、過程はそれ以上に進まず、成虫は死んでしまったのです。このような状態の抜け殻(になりそこね)は毎年2、3個見つかります。
脱皮中に強風にあおられると、つかまっていた枝や葉から落ちてこういうことになるようです。

雨に打たれたためか、成虫の死骸には穴があき中は空洞になりかけていました。


下のの写真は、同じく2001年8月に落ち葉の上に見つけた、これは生きたアブラゼミです。こんなふうに羽がちぢれていました。
ちぢれ羽のセミ
そのちぢれた羽をさかんにばたばたさせていましたが、もちろん飛べません。

どうしてこのような羽になってしまったのでしょう。
どの成虫も羽化した直後の羽はちぢれていて、やがてだんだんのびて真っ直ぐになりますが、その過程で何か異変が起きたのでしょうか。それとも羽の形成に関係した遺伝子が変化してしまったのでしょうか。
人間による環境汚染が関係しているということは?

ご存知の方はご教示ください。





<後記>

・我が家の庭で自然観察することの利点は、同じ場所を1年中また1日のうちいつでも観察できることです。特に「自然観察の時間」というものをとらなくても、日常心がけ気をつけているだけでもいろいろな発見があります。地面にかがみこんで何かを見ていたり、写真を撮ったりしても挙動不審者か?という疑いをもたれることもありません。

・自然観察は驚きや感動をもたらしてくれます。
書物に書いてあったものに実際に出会うと存在感が確かなものになります。書物に書かれてないことにいくつか出会いました。波板についていたイラガのまゆ、ホウズキカメムシの成虫の体色の見え方、ちぢれ羽のセミなどです。自然というものの奥深さを感じます。自然観察とは、とてつもなく大きなそして深い広がりをもつもののほんの一部だけを見ている行為だと思います。

・自然観察をして疑問に思ったこと、知りたいと思ったことを参考資料で調べると、さらに得るものがプラスされます。あの進化論のチャールス・ダーウィンがビーグル号の航海から帰った後40年以上もミミズの研究をしていたとは、初めて知ったことでした。ダーウィンだけでなく、ここにとりあげた動物それぞれについてそれ専一に長年研究していられる方々の著書やWebサイトに接し敬意を覚えました。

・怖いものを見てしまうこともあります。
ヘビやその抜け殻を見つけたときには足がすくみました。現在はヘビを見かけることは少ないそうですから、ここにはまだ自然が残っているという証しには違いないのですが。ヘビが嫌いでない人は、「このヘビは毒はないから大丈夫」などと言いますが、毒のあるなしではなくあの姿を見ただけで理屈ぬきに怖いのです。でも、誰かが殺してしまおうと言ったらそれはやめてほしいのです。ヘビも生態系の一員です。私の目につかない所で生きていてください。ミミズやセミと一緒にこのページにとりあげなくてすみませんでした。
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<参考資料>
・文献
1)花と昆虫(小学館) 中山周平・矢島稔 共編
2)科学あそびだいすき(連合出版) 科学読物研究会 編
3)ミミズと土(平凡社) C.ダーウィン 著   渡辺弘之 訳
4)ヒトとミミズの生活誌(吉川弘文館) 中村方子 著
5)ミミズの生活を調べよう(さ・え・ら書房) 渡辺弘之 著
6)わたしの研究イラガのマユのなぞ(偕成社) 石井象二郎 著
7)カメムシはなぜ群れる?−離合集散の生態学(京都大学学術出版会) 藤崎憲治 著
8)図解雑学昆虫の科学(ナツメ社) 出嶋利明 著
9)昆虫と遊ぶ図鑑(地球丸) おくやま ひさし 著
・Webサイト
1)リーフマイナーleafminerの生物学 (http://rfecol.kais.kyoto-u.ac.jp/~sugiura/leafminer.html) 杉浦真治 作成


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