みんなの実験室10
私たちの身のまわりの、いろいろなところに感熱紙がみられます。この感熱紙を使っておもしろい実験ができます。
●これらが感熱紙の例です
下の写真は私たちの生活に身近な感熱紙の例です。ファックスやワープロのプリンタ用紙でインクのいらない式のもの、商店のレシート(青ではなく黒く印字されたもの)、券売機の切符、電気やガスや水道の検針票などです。
感熱紙には、熱を加えられると黒く発色する薬品がぬられていて、インクを使わずに印刷できます。
●感熱紙を使った実験
以下の実験は、ワープロ用紙を使って行いました。感熱紙にぬられている薬品が反応して、いろいろなおもしろい現象が見られます。
1)感熱紙にドライヤーの熱風をあてると、黒く発色します。この黒はアルカリ性では消え、酸性になるとまた現われます(説明文と同じ番号の写真を見ながら読んでください)。
1.感熱紙を一部折り返して、そこにそのままドライヤーの熱風をあてました。表は黒くなりましたが、裏返っている部分は白いままです。こげたのなら、裏も表も黒くなるはずですが。
2.折り返した部分をひろげてみると、折り返しでかくれていた表の面は黒くなっていました。
3.全部ひろげて、黒くなった部分にキンカン(虫さされの薬)をぬると、そこだけ白くなりました。
4.白く変ったところの一部に、酢を筆につけてぬるとそこはまた黒く(黒っぽい緑色)なりました。
<どうしてこのような結果になったのでしょう>
・感熱紙とは
感熱紙の表面には2種類の物質がぬってあります。ひとつは黒い色のもとになるもので、はじめは色がありません。あとひとつは発色剤で、酸性の物質です。色のもとになる物質は酸性の物質に会うと黒くなります。これらふたつの物質ははじめは固体の状態で、反応しないので紙は白です。
そこに熱が加えられると、色のもとと発色剤はとけて反応し、黒い色になります。
裏面には色のもとも発色剤もぬられていないので、熱風をあてても白いままです。
キンカン(虫さされの薬)に含まれているアンモニアは酸性の反対のアルカリ性の物質です。そこでキンカンをぬると酸性の物質の効果をうち消して黒い色が消えました。そこに酸性物質である酢をぬると再び黒くなったというわけです。
感熱紙に印刷されるしくみは、感熱ヘッドの発熱体に電流が流れてそこが熱くなり、それが紙にふれるとその部分の色のもとと発色剤がとけて黒くなります。文字のない部分では、電流が流れず色のもとも発色剤もそのままなので黒くなりません。
2)硬いものを使って感熱紙を強くこすると、そこが黒くなります。
ボールペンのキャップの先で感熱紙を強くこすって字を書いてみました。
すると右の5の写真のようにそこが黒くなって、書いた字が現れました。
<これはどうしてでしょう>
この実験に使ったワープロ用紙の袋に書かれた説明には、「紙面を強くこすると摩擦熱で発色することがあります」とありました。
3)熱風をあてて黒くなった感熱紙の、この黒い色はエタノールなどの有機溶媒にとけます(説明文と同じ番号の写真を見ながら読んでください)。
6.このグラスには消毒用エタノール(エチルアルコール)が入れてあります。熱風をあてて黒くなった感熱紙の下の部分だけををエタノールに浸して引き上げたところです。
浸した部分だけ黒い色が消えました。
すると、エタノールはキンカンと同じように、はたらいたのでしょうか。でも、この白くなった部分に酢をぬっても、黒くはなりませんでした(※1下記参照)。また、引き上げた感熱紙を乾燥させて、白くなった部分に熱風をあてても、もはや黒くはなりませんでした(※2下記参照)。ということは、この部分にぬってあった薬品はエタノールにとけたのでしょうか。
(※1、※2とも少し黒くなる場合もあります。感熱紙にぬられた薬品が完全にはエタノールにとけず、少し残っているためだと思われます)
そういえば、黒い感熱紙をエタノールに浸したとき、紙からエタノールへと黒い色が流れ出していました。また、黒い感熱紙をエタノールに何枚もたくさん入れると、エタノールがうっすらと黒くなってきます。感熱紙にぬられている薬品がエタノールにとけているなら、それらは酸やアルカリに反応するでしょう。そこで、次のような実験をしました。
7.の写真を見てください。6のエタノールに酢を2,3滴加えると、このような色になりました。4.の実験で酢をぬったとき現れた色と似ています。
8.そこに重曹(炭酸水素ナトリウム)を入れてかき混ぜると、このように色が消えました。
<6〜8の実験結果はどう考えたらよいでしょうか>
6.の実験により、発色した黒い色はエタノールに溶けたことが分かります。そこで、これらをとかしたエタノールに酢を入れると、それと色のもととが反応して、発色し7.の写真のようになりました。黒っぽい緑色ですが、この反応が強く現れて、この色の物質が多くできれば黒に見えるわけです。
最後にこのグラスに入れた、重曹(炭酸水素ナトリウム)がとけた重曹水は弱いアルカリ性です。そこで酢の酸性がうち消されて8.の写真のように色が消えました。
なお、黒くなった感熱紙をエタノールのかわりに、マニキュア除光液につけても、エタノールの場合と同様に黒い色はとけました。これは除光液の成分中のアセトンにとけたのではないかと思われます。このように、ほかにもいろいろな有機溶媒にとけるのかもしれません。
●感熱紙を使った科学あそび
以上の実験結果を利用して、こんな科学あそびはどうでしょう。
1)感熱紙を折り紙として折って熱風をあてると
9.感熱紙を正方形に切り、これでかぶとを折りました。
10.このままドライヤーの熱風をあてるとこの通り。感熱紙の表がでているところだけ黒くなりました。
事前に何も言わずにこの実験を行ったら、見た人はとても不思議に思うでしょう。
2)感熱紙にエタノールやマニキュア除光液をぬると
熱を加える前の白いままの感熱紙を、エタノールやマニキュア除光液に浸してしまうと、ぬってあった薬品は液に溶け出していってしまいます。でも、これらの液を筆につけて感熱紙にぬったら、液もそれにとけた薬品も紙の上に留まっていますから、そこが黒くなるのではないでしょうか。
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11.筆にエタノールをつけて感熱紙に「エタノール」と書いてみました。
また、筆にマニキュア除光液をつけて感熱紙に「除光液」と書いてみました。
すると、この通り。色のもとと発色剤がこれらの液にとけて反応してそこが黒くなったわけです。
3)水性ペン、油性ペンで感熱紙に書くと
12.これは、どちらも黄色で書いた文字です。
「水性ペン」という文字は黄色の水性ペンで書き、「油性ペン」という文字は黄色の油性ペンで書きました。
書いた直後は,どちらもたしかに黄色でした。時間がたっても水性ペンの文字の色は変りませんでしたが、油性ペンの文字の色はだんだん黒く変わっていきました。この写真は、書いてから約2分後の状態です。
エタノールやマニキュア除光液は色のもとや発色剤をとかします。油性ペンのインクにも、それらをとかす成分が含まれていて、そのため文字の色が黒くなりました。上の2)の実験と同じことが起こって黒い物質ができ、黄色をかくしてしまったわけです。
一方、水性ペンのインクには、色のもとや発色剤をとかす成分が含まれていないので、文字の色は変らなかったと思われます。
●付記事項
1)感熱紙に熱を加えるのにドライヤーを使う代わりに、熱湯に入れても黒く発色します。
2)感熱紙が熱によって発色した黒い色は、時間の経過とともに化学変化して薄れ、やがて消えてしまいます。例えば、商店のレシートの文字は長い期間経つと消えます。最近は改善されて、保存性の高い用紙も開発されているようですが、消えては困る文書はコピーをとっておく方が安心です。
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<参考資料>
文献
1)『ガリレオ工房の科学あそび』P74〜77(実教出版)滝川洋二編著
2)『続・理科らしくない理科』P119〜123(裳華房)小出力著
3)『ガリレオ工房の身近な道具で大実験・第3集』P64〜69滝川洋二・吉村利明編著
ホームページ
1)不思議キッズ 科学マジックの部屋2001年11月(http://www.gakushu.net/magic/0111b/index.html)
2)キリヤ化学ホームページ(http://www.kiriya-chem.co.jp/q&a/q17.html)
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