プリズム
みんなの実験室13

**ヨウ素デンプン反応による実験アラカルト**

「大人のための理科実験教室」で実施した実験です。
デンプンにヨウ素液を滴下すると、紫色になるのがヨウ素デンプン反応です。
よく知られたおなじみの反応ですが、これによって植物や食品、紙でいろいろなことを調べてみました。


<デンプンの化学>
まず実験の前にデンプンについての化学的なことを。実験で見られる現象を、理解しやすくするためです。
デンプンはブドウ糖が単位になってできている物質です。ブドウ糖の化学構造は下の図1のように炭素、水素、酸素が結合したものです。
このブドウ糖を図2では六角形で表しています。ブドウ糖が2個結合したものが麦芽糖、そしてブドウ糖が多数結合した長い鎖のような分子がデンプンです。デンプンには、この結合が枝分かれせず直鎖になっているアミロースと、枝分かれしているアミロペクチンがあります。結合しているブドウ糖の数はアミロースが数十から数百、アミロペクチンは数百から数十万です。
デンプンの長い分子はらせん状に巻いていて、このらせんの中にヨウ素の分子がとりこまれると、紫色になります。これがヨウ素デンプン反応です。

デンプンの化学構造
(元素記号)   C=炭素   H=水素    O=酸素

   実   験   >>

(ヨウ素液の調製)
ヨウ素液は褐色ですが、デンプンに会うと青紫色や赤紫色になります。
ヨウ素液としては、ヨードチンキやイソジンなどを使います。これらは通常そのままでは濃すぎて反応の色が分かりにくいため、30〜40倍に水で薄めて使います。このヨウ素液を使って次の【1】〜【7】の実験を行いました。

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【1】光合成産物の検出
デンプンは植物の葉でつくられます。根から吸い上げた水(H2O)と、空気中から取り入れた二酸化炭素(CO2)を材料として、光のエネルギーにより合成されるので、この反応は光合成といわれます。葉にできたデンプンを検出してみましょう。
(方法)
1)葉に含まれているものを紙にしみこませる
光に当っていた葉を白い丈夫な紙(油こし紙、コーヒーフィルターなど)にはさみ、その上から木槌でたたいて、葉に含まれているものを紙にしみこませる。
なお、紙にはデンプンで処理されてあるものがあります(このページ最後の実験を参照)。ここで使う紙は、もちろんそうでないものを選びます。使おうとする紙にヨウ素液を滴下し、ヨウ素デンプン反応が出ないものを使ってください。
2)クロロフィルを漂白する
ヨウ素デンプン反応を見やすくするために、葉の緑色の色素クロロフィルを家庭用漂白剤で漂白します。ワイドハイター10gを100mlの水に入れて溶かす。この中に1)の紙を入れる。緑色がなくなったら、割り箸などで取り出して水洗いする。
3)2)の紙をヨウ素液に浸す。

(途中経過と結果)
下の写真の実験では、スイバの葉を使いました。よく晴れた日に、日当たりのよい場所に生えていた葉を午前11:30頃に摘んできて実験しました。

葉のデンプンの検出 写真1.-漂白剤に浸してから3分後の状態です。

写真2.-漂白剤に浸してから10分後です。ほぼ完全に色がなくなりました。

写真3.-水洗い後、ヨウ素液に浸したらこのように紫色となり、デンプンが検出されました。

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【2】デンプンを含む食品は?
光合成により葉でつくられたデンプンは、根や地下茎や種子に貯えられます。人間はこうした貯蔵デンプンを食物として利用しています。これらのデンプンをヨウ素デンプン反応で検出してみます。
(方法)
米や麦などの穀類はそのまま、サツマイモやジャガイモ、サトイモなどのイモ類、および果物などは切ってその切り口に、ヨウ素液を滴下します。
(結果)
穀類にもイモ類にもヨウ素デンプン反応が出ました。穀類は植物の種子、イモ類は根か地下茎です。これ以外ではバナナの果実にデンプンが検出されました。これは参加者の皆さんには意外だったようです。しかし、バナナの果実にはいつでもデンプンが検出されるわけではありませんでした。【4】の実験を見てください。

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3】デンプンの消化
デンプンは食べられると、消化管内の酵素により、ブドウ糖同士の結合が切られて次第に鎖が短くなります。この鎖の長さにより、ヨウ素デンプン反応の色も青紫色→紫色と変わってきて、やがて反応がなくなります。この経過を見てみます。体内の消化酵素のかわりに胃腸薬を使いました。
(方法)
材料のデンプン溶液-小さじ半分(2.5ml)のかたくり粉(ジャガイモのデンプン)を200mlの水に入れ、かきまぜながら熱して完全に溶かす。これを室温までさます。
酵素液-デンプン消化酵素を含む胃腸薬(新タカヂア錠など)を水に混ぜる。新タカヂア錠の場合は、5錠をすりつぶして40mlの水に均一に混ぜる。
混ぜるとき、熱することはしないでください。酵素は極端な高温だと分子の形が変わり、はたらきがなくなります。
デンプンに酵素を作用させる-デンプン溶液30mlに酵素液10mlを混ぜる。混ぜてから、直後、3分後、5分後、7分後、10分後にスポイトで1滴ずつ白い発泡スチロール板上に取り出し、ヨウ素液を1滴加える。

ヨウ素デンプン反応の時間による変化 (結果)
左の写真は、デンプン溶液と酵素液を混ぜてから、各時間後にスポイトで1滴ずつ取り出してヨウ素デンプン反応を調べた結果です。1.が混ぜた直後、2.が5分後、3.が10分後です。ただ、反応の速度は温度に影響され、高温だと速く進みます。従って、いつも同じ反応時間で同じ結果になるとはかぎりません。この写真の場合は1月に行いました。

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【4】バナナに含まれるデンプン
バナナの果肉はすべてヨウ素デンプン反応を示すと思っていたら、果皮にシュガースポットが出たバナナはそうではありませんでした。バナナの果肉に含まれるデンプンは、時間とともに減少します。

バナナ-ヨウ素デンプン反応 (方法)
果皮がきれいな黄色のバナナと、果皮にシュガースポットが出て茶褐色になり始めたバナナとを用意します。
それぞれを切って、その断面にスポイトでヨウ素液を滴下します。
(結果)
右のバナナ(果皮がきれい)-ヨウ素デンプン反応が出ましたが、左のバナナ(果皮が茶褐色になり始めている)-ヨウ素デンプン反応は出ませんでした。
果皮がきれいなときには、果肉中にはデンプンが含まれていたのが、時間とともに酵素のはたらきによりブドウ糖同士の結合が切られてデンプンではなくなり、糖に変化したと思われます。
バナナの味も、果皮がきれいなときにはそれほど甘くありませんが、果皮が茶褐色になると甘みが増すのと附合します。

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【5】もち米とうるち米のデンプンを見分ける
もち米とうるち米では、ヨウ素デンプン反応の色が違います。
(方法)
もち米とうるち米、また白玉粉と上新粉に、それぞれスポイトでヨウ素液を滴下します。

米-ヨウ素デンプン反応 (結果)
もち米とうるち米のどちらもヨウ素デンプン反応が現れますが、その色は左の写真のように違います。

白玉粉はもち米と同様な色のヨウ素デンプン反応を示しました。また上新粉はうるち米と同様な色のヨウ素デンプン反応を示しました。
白玉粉はもち米から、上新粉はうるち米からつくられるからです。

ヨウ素デンプン反応の色はアミロースは青紫色、アミロペクチンは赤紫色です。
うるち米のデンプンは、アミロースが15〜35%、アミロペクチンが65〜85%ですが、もち米のデンプンは100%アミロペクチンです。このように、アミロースとアミロペクチンの割合により、異なった色のヨウ素デンプン反応を示しました。

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【6】食品添加物としてのデンプンを検出する
食品には増量剤としてデンプンが加えられていることがあります。これを検出してみます。
(方法)それぞれの食品の切り口に、スポイトでヨウ素液を滴下します。

かまぼこなど-ヨウ素デンプン反応 (結果)
かまぼこ、プリン、ハムやソーセージ類で試してみました。どれもヨウ素デンプン反応を示したものと示さないものがありました。

かまぼこ-1と2のうち、2にはデンプンが検出されました。

プリン-3と4のうち、3にはデンプンが検出されました。

ハムやソーセージ類-5の魚肉ソーセージと、6のウインナソーセージにはデンプンが検出されましたが、7のハムには検出されませんでした。

デンプンが検出された食品は、検出されなかったものに比べて味が劣るようです。デンプンが加えられていると、体に害になるわけではありませんが。

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【7】紙がヨウ素デンプン反応!
紙の繊維自身がヨウ素デンプン反応を示すのではありませんが。

紙-ヨウ素デンプン反応 (方法および結果)
紙が製造されるとき、デンプンで処理されることがあります。繊維同士をしっかり結びつける、インクのしみを防ぐ、ペンの滑りをよくするなどのためです。
どんな紙がデンプンで処理されているでしょうか。左の写真の4種類の紙にスポイトでヨウ素液を滴下して調べてみました。
このように、4種類のうちキッチンペーパーだけがヨウ素デンプン反応を示しませんでした。

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<参考資料>
文献
1)「魚肉ねり製品のでんぷん量をヨード液でしらべる」「うるち米を混ぜたモチかどうかヨード液でしらべる」-『だれでもできるやさしいたべものテスト』増尾清著 P87〜96 (合同出版)
2)「かたくり粉が青くなる」「上新粉と白玉粉のちがい」-『ためしてビックリ!おもしろ化学実験』守本昭彦著 P104〜109 (ナツメ社)
3)「ヨードチンキで食品をし調べよう」-『家庭で楽しむ理科遊び』宮田光男編 P108〜112 (裳華房)
4)「ご飯を炊くってどんなこと〜デンプンの秘密」-『理科らしくない理科』小出力著 P38 (裳華房)
ウェブサイト
1)もち米とうるち米 http://www.gohan.ne.jp/okome-data/01/133.html
2)たたき染めでろ紙にデンプンを写し取る http://www.bio.aichi-edu.ac.jp/hwsheet/hwsheet/f-01-19/f-02m.htm
3)たたき染めによる葉の同化デンプンの検出 http://www.asahi-net.or.jp/~hi2h-ikd/biojikken/jikken-ka/kogosei.htm


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