プリズム

みんなの実験室16

**水を吸うプラスチック**

水を吸うプラスチックは、吸水ポリマーとか高吸水性ポリマー、高吸水性高分子、高吸水性高樹脂などとよばれ、いくつかの種類があります。
ここでは、紙おむつ・携帯トイレ・保冷剤・芳香剤・プランツボールなど使われている吸水ポリマーで実験しました。
これらに使われている吸水ポリマーは、ポリアクリル酸ナトリウムという物質で、自重の何百倍もの水を吸収します。


                                   〔1〕粉の吸水ポリマーを使う実験

 紙おむつや携帯トイレに使われている吸水ポリマーはとても細かい粉状です(下の左の写真)。ここでは、理科実験材料として販売されているものを使いました。もっと手軽に入手できるものは、携帯トイレ(下の*)の中身です。紙おむつから取り出すという方法もありますが、紙おむつの吸水ポリマーは、綿状のパルプにしっかりとくっついています。おむつに切れ目を入れたものを、大きなポリ袋に入れて振って取り出すという方法を試みましたが、ほんの少しの吸水ポリマーしか取り出せませんでした。実験の際には吸水ポリマーを口や鼻から吸い込まないよう注意してください。
*携帯トイレ-乗っている車が交通渋滞にまきこまれた場合などに備えるもの。100円ショップなどにあります

1)吸水ポリマーはどのくらい水を吸うか吸水前後の吸水ポリマー
 吸水ポリマー0.5gをチャック付ポリ袋(A7 118mm×83mm)に入れました。
計量カップに100mLの水を入れておき、このチャック付ポリ袋に少しずつ入れていきました。水を入れると直ぐに吸収しました。
 結局、吸水ポリマーは100mLの水をすべて吸収してしまい、この写真のようにゼリー状になりました。水100mLは100gですから、吸水ポリマーは自分の重さの200倍の水を吸収したわけです。

 このページ最後の参考資料2)には、自分の重さの100〜1000倍の純水を吸収する、と記してありました。

2)吸水した吸水ポリマーから水を出す食塩により水を出す吸水ポリマー


布やスポンジに水が吸われた場合と違い、吸水した吸水ポリマーに力を加えても、水は出てきません。しかし、次のようにすると…
吸水してゼリー状になった吸水ポリマーを、少し器にとり食塩をぱらぱらとふりかけます。
すると、数秒後に水が出てきました。

〔追記〕
@上の実験2)が示すように、食塩が溶けた水は純水に比べ、吸水ポリマーに吸収される量は低下します。尿は塩分を含むので、実験1)の結果ほどには紙おむつに吸収はされません。吸水ポリマーが吸収する生理食塩水は、自重の20〜60倍ということです〔このページ最後の参考資料2)〕。
A紙おむつで、吸水ポリマーを保持している綿状パルプも尿を吸収しますが、その吸収量は吸水ポリマーほどではありません。
B手づくり保冷剤−水を吸った吸水ポリマーをチャック付きポリ袋に入れたまま、冷凍庫で凍らせれば保冷剤になります。
C手づくり芳香剤−水を吸った吸水ポリマーに、アロマオイルを5,6滴(好みで加減)加えれば芳香剤になります。冷たい食品を買ったときに店でサービスされる保冷剤を解凍したものを、同様にしても芳香剤をつくることができます。吸水させる水に初めからアロマオイルを入れておいてもいいです。空きびんに入れ、網のシートなどをかぶせるとよいでしょう。


〔2〕プランツボールを使う実験

吸水したプランツボール
 100円ショップなどでよく見かけるプランツボールは、左の写真のような、既に吸水した柔らかなゼリー状の球体で、直径は10〜15mmほどです。
 一般名称は「植物栽培用高分子吸水球」で、商品名としてはアクアボール・アクアジェリー・クリスタルボールなどが使われています。理科関係のサイトでは、プランツボールとなっているので、ここではその名称を使うことにします。
これを花瓶などの容器に入れ植物を挿しておくと、植物に水を供給します。吸水していた水が減ってプランツボールが小さくなったら、水を足せば元にもどります。

これに芳香物質や消臭物質を含ませたものも、薬局・薬店、ドラッグストアなどで、売られています。

 未吸水プランツボールは直径2〜3mmのビーズ状の玉で、押すと弾力があります(この下、左端の写真)。未吸水プランツボールは、吸水したものに比べると、売られているのはあまり見かけません。この実験に使ったものはネット販売で買いましたが、ある100円ショップには売っているとのことです。

1)未吸水プランツボールの吸水
 プランツボールの吸水  
  透明な容器に未吸水プランツボールを入れ、それが充分浸かるくらいの水を入れておきました。
左の写真は、その中から時間をおいて同じ4つを取り出してシャーレーに入れ、そのシャーレーを方眼紙の上に置いて撮影しました。方眼紙の最小目盛りは1mmで、この写真はほぼ実物大です。
 粉の吸水ポリマーは、水を加えると直ぐに吸水してたちまち体積が増えましたが、プランツボールはそうではありませんでした。吸水前直径2〜3mmだったのが、水を入れて20分後に直径6〜8mmのデコボコした形に、4時間後に直径15〜17mmの丸い形になりました。

・吸わせる水に、アロマオイルを加えておくと芳香剤になります。

2)プランツボールから水を出す
 吸水した粉の吸水ポリマーは、食塩をかけると直ぐに水が出てきました。では、吸水したプランツボールはどうでしょう。
直径15mmの吸水したプランツボールに、食塩をぱらぱらとふりかけると水が出てきて、プランツボールは小さくなりましたが、ゆっくりでした。食塩をかけて24時間後に、直径7mmになりました。色が薄くなったのは、水とともに色素が出ていったためでしょう。
食塩により水を出すプランツボール


3)消えるプランツボール消えるプランツボール

 吸水したプランツボールのうち無色透明なもので、おもしろい現象が見られます(左の写真)。
吸水したプランツボールを水に入れると、水に浸かった部分は見えなくなります。しかし、溶けてしまったのではなく、スプーンなどですくうと確かにあるのです。

 ここに砂糖を加えて、割り箸などで静かに混ぜて溶かします。すると、プランツボールは見えてきます。左の写真のものは、水30mLに砂糖3gを入れて溶かしました。
 なお、砂糖水ではなく塩水の中に入れても、同じようにプランツボールは見えました。

                                       〔 注  意 〕

1)粉の吸水ポリマーが目に入らないよう、口や鼻から吸い込まないよう注意してください。吸水するとふくれて目を傷つけたり息がつまる恐れがあります。
2)粉の吸水ポリマーが吸水してゼリー状になったものや、吸水したプランツボールをゼリーとまちがえて食べないでください。特に、赤ちゃんや幼児には気をつけ、手の届かないところにおいてください。
3)吸水前、吸水後のもの、ともに下水に流さないでください。捨てる場合は、プラスチックごみとしてごみ収集に出してください。吸水後のものは、広げておくと乾燥してきますから、そのようにしてからごみ収集に出してください。


〔 説  明 〕

〔1〕吸水のしくみ
 粉の吸水ポリマーもプランツボールも、ポリアクリル酸ナトリウムというプラスチックでできています。これは非常に長い分子で、橋をかけたような網目状の構造をしています(下の左の図)。顕微鏡でも見えないほどの、とても小さな網目ですが。下の右の図は、その網目ひとつの吸水前後の状態を模式的に示したものです。

ポリアクリル酸ナトリウム分子 ポリアクリル酸ナトリウム分子の吸水  
 ポリアクリル酸ナトリウム分子に水が入ると、分子からNa(ナトリウムイオン)が電離します。そのため、分子にはマイナス電荷をもつ部分が多くできます。そこで、マイナス同士で互いに反発して分子の間が広がり、そこに多量の水がとりこまれます。この水は強く捕らえられていて、圧力をかけても離れません。
  ポリアクリル酸ナトリウム分子 ポリアクリル酸ナトリウム分子の吸水

〔2〕なぜ食塩をかけると水が出てくる?
 ポリアクリル酸ナトリウム分子に水が入ったときに電離によってできるNa(ナトリウムイオン)は、食塩を水にとかしたときにも食塩が電離してできるものです。吸水したポリアクリル酸ナトリウム分子の外に食塩をかけると、その食塩はそこにある水にとけ濃い食塩水になります。ポリアクリル酸ナトリウム分子内外のNa濃度は、外では濃く、内では薄いということになります。このような場合、水はその濃度差をなくすような方向へ移動します。つまり、水は内から外へと出てきます。
 このように、濃度差によって水が移動する圧力を「浸透圧」といいます。刻んだ野菜に食塩をかけると水が出てくるのも浸透圧によるものです。

〔3〕なぜ粉の吸水ポリマーはプランツボールより速く吸水する?
 ここで考えられる理由を以下に記します。(これ以外に、おむつや携帯トイレの吸水体には、尿をすばやく吸収させるような物理的・化学的な工夫がなされていると考えられますが。)
 水を吸収するのは、水と接触している表面からです。だから、表面積が広ければ多量の水を一度に吸収できます。同じ重さのものでも、細かい粉の吸水ポリマーは、プランツボールに比べ表面積がずっと広いです。そこで、粉の吸水ポリマーは、プランツボールよりずっと速く吸水します。また、吸水したものに食塩をかけた場合の水の出方も、やはり表面積の違いで粉の吸水ポリマーの方がずっと早いです。

〔4〕なぜ無色透明なプランツボールは、水の中では見えない?

 水の中の透明なガラス玉は見えます。光は、水とガラスのように違うものの境目を通るとき屈折します。水だけのところを通ってきた光は屈折せず直進します。そこで、水とガラスの境目を通ってきた光と、水だけのところを通ってきた光はちがって見えるので、ガラス玉の輪郭が分かります。
 水を吸ったプランツボールは、殆どが水です。そこで、水とプランツボールの境目では光は殆ど屈折しません。あたかもそこも水であるかのように、直進します。そこで、プランツボールの輪郭は見えません。しかし、砂糖水とプランツボールの境目では光は屈折するので、プランツボールの輪郭が見えてきます。

〔5〕吸水ポリマーのそのほかの用途
 ・土壌保水剤-砂漠のような水の少ない土地で、植物を育てるために使われています。吸水ポリマーを土に混ぜ、水を含ませてから植物を植えると、植物の根が吸水します。
 ・食物の鮮度保持用のシート ・ひんやりパンダナ ・ペット用の保冷シートやトイレシート ・吸水土のう ・人口雪 など。

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<参考資料>
1)図解雑学 ためしてビックリ! おもしろ化学実験(ナツメ社) 守本昭彦=著 P178〜179
2)身近な化学探訪 100〜1000倍もの水を吸収する高吸水性ポリマー http://www.chemuseum.com/professional/report/9/index.html
3)ぷるぷるいいにおい!オリジナル芳香剤をつくろう
 http://www.i-kahaku.jp/research/bulletin/11/kagaku09.pdf
4)プランツボールを使った光の屈折実験 http://blogs.yahoo.co.jp/maruzeny/61854412.html
5)高吸水性樹脂の応用 http://www.sanyo-chemical.co.jp/tech_info/pdf/jpn/pk97.pdf


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