プリズム
みんなの実験室7.

ベンハムのこま実験と考察

白黒の模様が描かれたこまを回すと色が見えてくる
この不思議なベンハムのこまを回し、写真撮影して色が見える理由を考えてみました


こまの図柄

[実験]
上の写真1〜4の図柄のこまを回して実験してみました。

1]ベンハムがデザインしたこまでは色は写真に写らない
19世紀末、ベンハムという人がデザインして、イギリスで売り出したこまの図柄のひとつは上の写真1.のようなものでした。
これを太陽光や電球、蛍光灯の光の下で回すと、紺や赤などの色が見えます。回転中に速さが変わり、それによりどの部分に何色が見えるかが変化します。
ただ、見える色は人によって少し違いがあります。また、回転中にこのこまをデジタルカメラで追い、モニター画面で見てみると、直接見たときと違い、色は見えませんでした。そして、撮影しても色は写っていません。
そこで、回すと色が見えるのは目の錯覚と思われます。

[2]回転中の色が写真に写るこま
上の写真のこまのうち、2の図柄は下記参考資料2)に載っていたもの、3と4の図柄は私が適当に描いてみたものです。
この2. 3. 4.の図柄のこまは太陽光や電灯の光の下で回しても色は見えません。写真に撮ると灰色に写るだけです。ところが、蛍光灯の光の下で回すと色が見えるのです。そして、デジタルカメラのモニター画面で見ても色が見え、撮影するとその色が写っています。すると、この場合は色が見えるのは目の錯覚ではありません。
なお、当然ながら撮影の際には蛍光灯以外の光が当たってはいけないので、フラッシュは光らないようにして撮りました。
1蛍光灯のタイプによって、回転中に見える色が違う.
3波長昼光色タイプの蛍光灯と昼白色光タイプの蛍光灯とでは、同じこまを回しても違う色が見えます。
[昼白色光タイプの蛍光灯の光には、3波長昼光色タイプに比べて緑色が少ないのです。そこで3波長昼光色タイプの方がやや青っぽい光です−下記参考資料6)と7)]。どちらのタイプであるかは、蛍光灯の表面に書いてあります。
回転中のこま1

左は、図柄2.(左端の写真)のこまを3波長昼光色タイプの蛍光灯の下で回したときの写真(2−A)と昼白色光タイプの蛍光灯の下で回したときの写真(2-B)です。





回転中のこま2

同じく、この左は、図柄3.(左端の写真)のこまを3波長昼光色タイプの蛍光灯の下で回したときの写真(3-A)と昼白色光タイプの蛍光灯の下で回したときの写真(3-B)です。


こまは回っている最中に回転の速さが変わり、それによってどの部分に色が見えるかが変化します。ですから、上に示した回転中のこまの写真は、ある一瞬の状態であって、回っている間ずっとこのように見えるのではありません。
しかし、いずれにしろ、3波長昼光色タイプの蛍光灯の下では緑、黄、赤紫色〜青紫色が見え、昼白色光タイプの蛍光灯の下ではオレンジ色と青が見えました。3−Bの写真では、このオレンジと青がともにとらえられています。しかし、2−A、3-Aでは緑と黄は写っていますが、赤紫色〜青紫色はとらえられませんでした。図柄4.のこまを3波長昼光色タイプの蛍光灯の下で回したとき、その色をとらえた写真を次に示します。

回転中のこま3

左の図柄4.のこまを3波長昼光色タイプの蛍光灯の下で回したのが4−Aの写真です。赤紫色〜青紫色とがとらえられています。この写真では中心に近い部分に色が見えますが、この状態の回転より少し遅い回転速度になると周辺部にも色が見えます。

なお、こまの回転方向は、2-A、2-B、3-A、3-B、4-Aのいずれもが時計回りです。


2.回転方向が逆だと色の並び順も逆になる
次に、図柄3.のこまを3波長昼光色タイプの蛍光灯の下で、時計回りと反時計回りに回してみました。その写真を示します。写真中に色を文字で入れました。時計回りと反時計回りでは並び順が逆になっています。
回転中のこま4




つまり、時計回り(左の写真)では、こまの上半分の色を左から右へ見ていくと白→黄→緑の順になっていますが、反時計回りではこの逆です。






[考察]
色が見える理由の、ほんの入り口のところを行き来しているだけというのが実感ですが…。実験結果、参考資料をもとに考えたことを記します。

1]ベンハムがデザインしたこまで見える色は目の錯覚と思われます
ベンハムがデザインしたこま(図柄1)を回して見える色は人によって差があり、また写真にも写りませんから目の錯覚と思われます。色が見える理由は次のようなことではないかと考えました。

白い色の光には、虹に含まれるいろいろな色が混ざっています。こまの図柄の白い部分から反射される光もそういう光です。

一方、人間の目に光が入ってからそれを感じるまでには、わずかに時間的な遅れがあります。また、光がなくなった後も(このこまの場合は図柄の黒の部分がまわってきたとき)ほんの少しの時間、光の感覚が残っています。こうした感覚の時間的ずれは色によって違います。そこで、白い光に含まれているいろいろな色を感じる際に、色によって時間的にずれるので、ある瞬間にはある色が、別の瞬間には別の色が見えると思われます。。またこのようなずれは、人によっても違うので、個人個人で見える色に差があるということではないかと考えました。

[2]蛍光灯の光の下で回すと見える色は目の錯覚ではありません。しかし色が見える理由は何とも複雑そうで…
蛍光灯の光の下で図柄2.3.4.のこまを回した場合に見える色は、写真に写るのですから目の錯覚ではなく実際にその色の光が発せられているわけです。その理由を考えてみました。

この色は蛍光灯の光の下でだけ見えます。その蛍光灯の発光のしくみは−
蛍光灯の端にあるフィラメントが熱せられると、そこから電子が飛び出します。電子は、蛍光灯内部に入れられている水銀蒸気にぶつかって紫外線を出させます。紫外線は人間の目には見えません。紫外線は、蛍光灯の内側に塗ってある蛍光物質に当たります。するとそこから人間の目に見える青、赤、緑の光がでてきます。この3色は光の3原色といい、これらがいろいろな割合で混ざることにより種々の色の光になります。例えば、赤と緑が同じ割合で混ざると黄色になり、赤と青が同じ割合で混ざると赤紫色になります。また、3原色の光すべてが混ざると白になります。
一種類の蛍光物質で青、赤、緑すべての色を出すのではなく、蛍光物質の種類により出す光の色は違います。その蛍光物質の調合の仕方により、蛍光灯の光の色が違ってきます。昼白色光タイプでは緑の光を出す蛍光物質が少なくなっています。
蛍光物質が光を出している時間は色によって差があります。[下記参考資料3)と7)]。また、蛍光灯は1秒間に100回以上点滅しています。

3波長昼光色タイプの蛍光灯の光で見える回転中のこまの白色は、そういった蛍光灯の点滅の点灯時にこまの図柄の白い部分が、3種類の色の光すべてを反射しているときのものと考えられます。では、黄や緑は?
もしも、蛍光物質が光を出している時間が、青が最も短く、次が赤で、緑が最も長いとすると−。
蛍光灯が消えているとき、白い光に含まれていた色のうち先ず青が消えたあと残っている赤と緑によるのが黄色であり、その赤も消えたとき見えるのが緑と考えられます。つまり、肉眼では白、黄、緑はある瞬間にこまの面に同時に見え、写真に撮ると同じ画面に写っていますが、実は時間的に100分の何秒かづつずれて現れているのではないかと考えるのですが。
そうだとすると、こまの回転方向と色の並び順は関係があることになりますが、[2]2の写真で、時計回りでも反時計回りでも、回転方向と同じ向きに色を辿っていくとどちらも白→黄→緑となり、この考えと矛盾しない結果になっています。

赤紫色〜青紫色が見えるのはどう考えたらいいのでしょうか。これらは赤と青の光がいろいろな割合に混ざってできる色のはずですが、この2色が消えていないときには緑も消えていないわけですから、この2色に緑が混ざった色になると思われるのですが。

昼白色光タイプの蛍光灯ではオレンジ色と青が見えました。オレンジは昼白色光タイプでは緑の光が少ないためでしょう。しかし、ここでも青はどう説明したらよいか。

[3]その他のこと
図柄2〜4のようなこまは、太陽光の下で回しても色は見えませんでした。しかし注意してみれば見えるという人もいるようです。錯覚のおこりかたには個人差があることがこれでも分ります。

ここで使った蛍光灯は、3波長昼光色タイプと昼白色光タイプでした。インバータータイプの蛍光灯の光では色は見えないようです[下記参考資料1)].。それは今回は実験しませんでした。

[終わりに]
とにかく、考えれば考えるほど次々に疑問がわいてくる奥の深い、おもしろい現象です。こまの回転速度、色の出現と消失の時間的変化の100分の1秒単位での記録ができれば、と思うのですが。。
それはできなくても、次は図柄の白黒の割合や間隔を正確に決め、それらをいろいろに変えたもので実験してみようと思いました。


[参考資料]
(文献)
1)ガリレオ工房の身近な道具で大実験 [第2集](大月書店) 滝川洋二・吉村利明=編著
2)かがくを感じるあそび事典(農山漁村文化協会) 山田卓三・著
3)身の回りの光と色(裳華房) 加藤俊二・著
(Webページ)
4)ベンハムのコマの実験( http://www.geocities.co.jp/Technopolis/2759/benhamu.htm) 久保田信夫・作成
5)ベンハムの実験( http://www.ncsm.city.nagoya.jp/exhibits/S/S6/2607.html) 名古屋市科学館のホームページ
6)照明器具のお話(http://www.chuden.co.jp/kozin/kigu/idea/living/menu6.html) 中部電力株式会社のホームページ
(電子メール
7)理科教育メーリングリスト[rika:23812]RE:ベンハムのコマの色つき写真は可能か? 久保田信夫
8)理科教育メーリングリスト[rika:23840]Re:ベンハムのコマの色つき写真は可能か? 久保田信夫


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