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<こみっくライフ♪>
第3ページ

「はぁ……」

「ど、どうしたんですか?」

前に座っているあさひちゃんが心配そうに俺の顔を覗きこんだ。

「いやね、最近負傷する事が多くなったなぁってね」

実際、今も腕に包帯を巻いている。

「そ、そうなんですか」

今日、久しぶりに暇ができたあさひちゃんと一緒にマンガ喫茶でお茶を飲む事になった。

と言うわけでマンガ喫茶にいる。

毎日のドタバタ騒ぎと比べると今のあさひちゃんの顔を見てる方が和む……

「とにかく大変なんだよ」

「同居……ですよね?」

「ああ」

「私も……一緒に住みたいです……(ボソッ)」

「ん、何か言った?」

「え、いえ、あの、その……何でも無いです……」

顔を真っ赤にしてあさひちゃんが俯いた。

「それで連日連夜激戦が繰り広げられてね。体中が傷だらけさ」

「可哀想……」

「ううっ、心配してくれるなんて……ありがとう、あさひちゃん!」

ガシッ

「わわっ!」

突然手を握られて驚くあさひちゃん。

「そ、そんな……私はただ一樹さんが心配で……」

「それが嬉しいんだよ。それに引き換え、こっちは……」

「一樹〜!!」

「そうそう、こんな風に毎日……って、わあぁぁぁ〜!!」

何時の間にか俺達の隣に詠美がいた。

「え、詠美! なんでこんな所に居るんだよ!?」

「学校の帰りにあんたを見かけたから付いて来たの」

ストーカーか?

「お、お、大庭……え、詠美さんだ……」

「ん? そう言えばあなた誰?」

「あ、あの、私!」

「一樹の知り合いなの?」

「は、はい」

「なんて名前よ」

「さ、桜井あさひって言います!」

「桜井……あさひ?」

「は、はい」

「な〜んだか、どこかで聞いたような名前ね?」

やばい!

「それにこの顔、良く見るような気がするんだけど……」

更にやばい!!

「あ〜、もしかしてあの桜井あさひ!?」

「あ、あの、その!」

「ち、違うんだ! 同姓同名!」

慌てて誤魔化す。

「同姓同名?」

「ああ、同姓同名でしかも顔が似てるから良く間違えられるんだ。な、あさひちゃん」

足であさひちゃんに合図する。

「え、あ、ええ、そうなんです」

「ふ〜ん……」

「さてと、お茶も飲み終わったしそろそろ行くか」

「あ、はい」

「ちょっとぉ、何ですぐに帰っちゃうのよ!」

「だから俺達はお茶が飲み終わったから帰るんだよ」

「なんか私を避けてるような……」

「いや、そんな事ないぞ」

「え、ええ」

でも詠美が一緒だったら騒がしくなる事は目に見えてるな。

「本当なの?」

「本当さ。さぁて、行くかな。あさひちゃん、何処に行く?」

「え、え〜と、カードマスターピーチグッズを買いに行きたいです」

「決まりだな」

「ちょ、ちょっと一樹〜!」


    ・
    ・
そして俺達二人はバイトで働いている店に行った。

大志が居ない事がかなりの救いだ。

奴が居たら今ごろどうなってる事やら……

 ぞわぁぁぁっ!!

考えるんじゃなかった。

「あ、これ、前から探してたんです」

「よし、じゃあ俺が買ってあげるよ」

「そ、そんな! いいですよ」

「ほら、遠慮しないで」

「で、でも……」

「久しぶりに会えたんだから俺に奢らせてよ」

「す、すいません」

「はは、気にしないで」

「ああ〜、これって売り切れ続出で買えなかったやつだ!」

気にしないで……

「こんなところで見つかるなんて、ちょおラッキ〜♪」

気にし……

「やっぱり詠美ちゃん様の日頃の行いが良いからよね☆」

気に……

「……ところで詠美……」

「ん、何?」

「何でお前が付いて来るんだよ」

「違うの、付いて来たんじゃなくて私の行きたい所にあんた達がいたの」

「へいへい、そうですか」

「と言うわけで一樹、これを買いなさい」

「なんでやねん!!」

ビシッとつっこみが詠美にきまる。

「それはあんたが私の『したぼく』だからよ」

「下僕だろ……」

「い、良いのよ『したぼく』で!」

「詠美、自分の過ちを認めろ」

「ふみゅみゅ〜ん、なによなによぉ〜! とにかく『したぼく』は私の言う事を聞けば良いの」

そんなめちゃくちゃな。

その前に下僕になった覚えないし……

「あのなぁ、俺はお前の下僕なんかじゃないんだよ」

「なに馬鹿な事言ってるの。この詠美ちゃん様が『したぼく1号』に任命してあげたのに喜びなさいよ!」

したぼく1号って……

と、その時!

「「あっ!!」」

何だ?

「その容姿、その美声、もしかして桜井あさひちゃんでゴザルか!!」

「も、もしかしなくてもあさひちゃんなんだな!!」

「え、あ、その……」

あさひちゃんがオタクの縦と横に絡まれていた。

「何してるんだ、お前等!!」

「な、何? 何が起きたの?」

詠美は全く理解できてなかった。

「何とな? 我等があさひちゃんと思わしき人物と会話をしてるのだが?」

「そ、そうなんだな」

「ただの他人の空似だ。気にしないでくれ」

「いや、そんなはずはないでゴザル」

「きっと、あさひちゃんなんだな」

「い〜や、違う。この子は俺の彼女だ、手を出すな」

「彼女〜!? 一樹、あんた!!」

「か、か、か、一樹さん!?」

「ちょっとしたこじ付けだから、口裏合わせてくれ」

小さな声であさひちゃんと詠美に耳打ちした。

「わかったけど……彼女じゃなくて妹とか他にあるでしょ」

「わ、わかりました、一樹さんの為なら」

「あさひちゃん、是非サインと握手を!」

「だからあさひちゃんじゃないって」

「あさひちゃんを渡すんだな」

あさひちゃんはお前等の所有物じゃない。

「こうなったら……ダッシュッ!」

あさひちゃんの手を取って逃げ出す。

「わっ、一樹さん!」

「ちょっと一樹!?」

慌てて詠美も追いかけてきた。

「あ、逃げたでゴザル!!」

「に、逃がさないんだな!」


    ・
    ・
    ・
「はぁはぁはぁ」

店を出てかなりの距離を走っているのだがまだ追ってくる。

ちっ、しつこい奴等め!

「はぁはぁ、何処まで走るのよ一樹!」

「一樹さん……も、もう、疲れました」

「待つでゴザル〜!!」

「ま、待ってなんだな〜!!」

「何だか知らないけど、どうするのよ一樹」

「か、一樹さん」

「くそ〜、こうなったら……」

 ガシッ

詠美の腕を掴む。

「頑張れ詠美!!」

オタク二人目掛けて思いきり投げつける。

 ブンッ

「ふみゅぅぅぅんっ、なんで〜!!」

「むっ、上空に未確認飛行物体発見でゴザル!」

「ぶ、ぶつかるんだなぁ!!」

 ゴチ〜ン!

見事に詠美の活躍によってオタク二人の爆撃に成功♪

「む、無念でゴザル……」

「やるんだな……」

 ガクッ

「ふみゅ〜……頭が……」

「良くやったぞ、詠美」

「あ、ありがとうございます詠美さん」

「もしかして誉められてる?」

 コクッ

「なんだか知らないけど、私ってばちょおエライのね☆」

胸を反る詠美。

ピリリリ!

「きゃっ!」

突然、あさひちゃんの携帯が鳴り始めた。

「あ、はい……そうですか……」

「あさひちゃん?」

ピッ

「すいません一樹さん。仕事がちょっと……」

「そう……わかった。じゃあ今日はここらへんでお開きにしよう」

「すいません……それでは」

軽く挨拶をすると小走りで走り去った。

「何かあったの?」

「いや、何でもない。気にするな」

「さて、行こう」

 グイッ

「こら、何処に行くつもりだよ」

「この頭の傷の代償は高いんだからね」

「俺に何をしろと……」

「買い物に付き合いなさい!」

つまりはデートか……

「俺はこれから原稿を書かねばならんからお前一人で行くんだな」

「そんな事言って良いのかなぁ?」

「なに?」

「これがどうなっても良いの?」

スッ

「そ、それは!!」

我が宝、カードマスターピーチキーホルダー(非売品・プレミア付き)!!

「さぁ、どうなっても良いの」

「おい、それって脅迫じゃないか!」

「あ〜あ、なんだか道路に向かって投げたくなってきた」

「わあぁぁ〜!!」

「せ〜の……」

「わかった、わかった、行くよ、行けばいいんだろ!」

「やったぁ〜☆」

俺、悲しくなってきた……

日常って素晴らしいなって思えるさ。

普通の日常って……

ポタポタ

あ、泣けてきた……

「さぁ、れっつごぉ〜♪」

「ごぉ〜……」

ズリズリズリ

脱力した俺は詠美に引きづられていった。



  〜つ・づ・く

written by 「SAKAI」

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