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「はあ…、はあ…」荒い息を吐きながら、七瀬は無惨に破壊された校舎の中を走った。
H&K社のMP5Kを構え、油断無く左右を見回してから、上り階段へと身を踊らせる。
チェック柄のスカートが舞い、弾丸が擦過した腿から、流れる血が見えた。
七瀬「何だって、こんな事になっちゃったのよ…」
ズキズキと痛む足を庇うように、踊り場で足を止める。
予備のリボンを包帯代わりに巻き付けると、かつての自分たちの教室の方向へと再び走り出した…。
七瀬(たしか、来栖川の人が援軍に来るって言っていたよね)
戦いの中、はぐれてしまった友人達は、今どこに居るのか・・答えは、まだ見えない。
この戦いの行く末も、まだ見えない。
七瀬「誰か…あたしを助けてよ…」
七瀬は走り続ける・・・
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あれは2週間前のこと・・突然外部からの連絡が途切れたのだった。
尾根学園を中心とした半径100k以上の周囲は、それまでの生活・・
いや存在が無かったかのように人の姿が消え去っていた。
来栖川企業が中心となって大規模な調査団が組織され調査が行われたが報告は芳しくない内容だった。
電気や水道・ガス・食料などのライフラインは100k圏内に存在してあり急に困ることは無かったし、
不思議なことに外部からの電力供給も続いていた。
残された人々は一抹の不安を持ちながらも、いつも通りの生活を過ごしていた。だが、それも・・
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七瀬「・・・ここもダメか」
暗がりの図書館の中を覗き込む。
本棚は倒れ、書物は散乱し、かつての面影など無いかのような荒廃ぶりだった。
七瀬「ふぇ〜ん、乙女1人では怖いじゃないのよぉ! 早く誰か来てぇ!」
スカートに着いた埃を払い落とすと図書室を出て、廊下を駆けて行った。
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5日前、突然それは起こった。
隣街にある東鳩高校が破壊されたのだった。
原因は不明、何者によるかの破壊工作の疑いもあったが真相は分からずじまいであり、
来栖川企業の令嬢が通う学校との事もあり企業間の抗争とも取れたが、
2週間前の出来事のこともあり関係は無いとされた。
そして、友好校でもある尾根学園にも警備の徹底を通知がなされていた。しかし・・』
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ピーピー!!
七瀬「はぃ、こちら七瀬です。あっ委員長!」
足を止め、通信機につながったヘッドセットで答えた。
保科「そちらの様子はどうなん?」
七瀬「こっちの状況は最悪よぉ! もぅ敵らしき相手の姿は見えないわ」
破壊された教室内を覗き込み答える。
保科「了解、学生達の避難は済んでるはずだけど、一通り確認をお願い。援軍を送ったから無理はしないよう気をつけてな」
七瀬「分かったわ、とりあえず屋上に向かいます」
保科「それと長森さん達の所在はまだ・・・」
七瀬「うん、あれから2人の姿は・・・はっ!?」
タタタッ!!
気配のした方に向け七瀬はMP5Kを3点バーストで1連射すると様子を見る。
保科「どうしたん、七瀬さん!! まさか敵!?」
通信機から委員長の慌てた声が響く・・
廊下の奥、瓦礫の残る通路を見やるが、そこには何も見えなかった。
七瀬「ゴメン、私のきのせいだったみたい・・それじゃぁまた後で、オーバー」
保科「ほいな、気をつけてな」
構えたMP5Kを降ろすと、突き当たりにある階段を屋上に向け上っていった。
七瀬「こんな時に瑞佳と茜はどこに行ったのよぉ、それに浩平も・・・」
そんな七瀬の独り言を誰も居なかった教室の中、机に座った何者かが聞いていた。
二つのお下げ髪にリボンを着けた何者かが・・・
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・
尾根学園と東鳩高校・・・
二つの有名学校には特殊な能力を持った生徒が通っていた。
個人個人特徴的な力を持つ者は、この一件から来栖川企業の内部にある特殊部隊を組織
彼ら、または彼女らは今回の事件を調査しているところだった。
その権限は、武器の無制限使用・私設軍隊の兵器自由使用・指揮系統の組織・情報収集など
すべての活動に対して自由な行動を取ることが出来た。
だが、その能力に目覚めたもの全てが良い方向へと向かうとは限らなかった・・・
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もう間もなく訪れるであろう冬を予感させるような寒風が吹き抜ける夕刻の校舎の屋上。
そこに、夕焼けを浴びて影を延ばした一人の少女がいた。夕焼けを見ているのだろうか。
しかし彼女は無表情だった。その瞳は見ているはずの夕焼けを映してはいなかった。
??「今日の夕焼けは何点かな・・・浩平君がいればわかるのに・・・」
そう言って少し寂しそうな表情をその可憐な顔に浮かべた。
そのとき、屋上の扉がものすごい勢いで開かれた。しかし少女は驚いた様子もなく夕焼けを見続けていた。
扉が開くと同時に屋上に転がり込んできた人影が油断無くあたりを見渡し、夕陽を見ている少女を発見した。
七瀬「もしかして・・・みさき先輩?」
思わず発した言葉に、背中を向けていた少女-みさき先輩-が振り向いた。
みさき「その声は・・・留美ちゃんだね。どうしたの?そんなに慌てて」
しかし返答はなかった。かわりに荒い息づかいが返ってきた。
みさき「? どうしたの、留美ちゃん。何かあったのかな?」
みさき先輩は七瀬に尋ねた。
七瀬「・・・・・・・・・・・・」
しかし七瀬からの返答はなかった。
しばらく両者の間に沈黙の時間が流れた。そして遠くに銃声が響いた。
その瞬間、七瀬の身体がびくっと震えた。みさき先輩は研ぎ澄まされた感覚でその微妙な変化を察知した。
みさき「なんだか銃声みたいなのがきこえたね、留美ちゃん。一体どういうことかな?」
みさき先輩はあくまでも冷静に聞いた。さすがに隠し切ることは不可能だと思ったのか、七瀬は口を開いた。
七瀬「だめよ、先輩。本当のことをいったら先輩まで巻き込んじゃう。乙女にそんなことはできないわ」
七瀬は必死に先輩に話しかけた。
みさき「でも、手には銃を持ってるね。それが何を意味しているのかは分からないけど、一人じゃ無理なことだってあるよ」
なぜみさき先輩は七瀬が銃を持っていることに気がついたのであろうか。
七瀬「だけど今はそんな状況じゃないのよ!」
屋上に七瀬の慟哭が響き渡る。
七瀬「お願いだからここでじっとしていてね先輩。すぐに助けが来ると思うから。・・・やっぱり先輩を巻き込む事は乙女にはできないわ!」
そう言うのが早いか、七瀬は先輩に背中を向け校舎の中に飛び込んだ。
そして扉を閉めたと同時に鍵のかかる音が聞こえた。その音を聞いてみさき先輩がつぶやいた。
みさき「もうすぐ夕御飯なのに・・・帰れないよ〜〜」
そう言って少し困った顔をした。だが、人には見せない表情を浮かべ、
みさき(私もみんなの役に立ちたいけど・・・でも私なんかが居たら迷惑が掛かるから)
そう言い、何も映さない瞳から流れる涙をぬぐった。
人影の無い街角・・・避難の済んだ商店街を二つの影が並んで進んでいた。
ピンク掛かった長めのウェーブの髪のすそをかき揚げると横に並ぶ大きめなチェックのリボンを着けた背の低い女の子に声をかけた。
深山「上月さん、綾香の言った目的の場所ってこっちで良かったのよね?」
澪「・・・・」
返事の代わりにスケッチブックを見せる。
澪『こっちで当ってるの』
深山「ありがとうね、上月さん」
そう言うと、澪の頭を優しく撫でた。
澪は顔を赤くしてニコニコと微笑み返す。
深山「学校の方へは椎名さんを行かせたし、七瀬さんの方は大丈夫と・・でも、みさきは一体どこに行っちゃたのよぉ」
一番の親友のことを心配するが「まぁ、あのみさきなら大丈夫よね」と自分に言い聞かせた。
クイックイッ
深山「んっ? どうしたの上月さん?」
澪「・・・・・」
道の先を指差し、何かを訴えかけた。
深山「えっ、誰かいるって? どれどれ・・・・」
額に手をかざし、先を見やる・・・そこには。
深山「あれは・・・・芹香さん? それに姫川・・・琴音!!」
その頃、1人校内を探索する七瀬は延として進まぬ調査に痺れを切らしていた。
七瀬「だぁ! ここに何か気配を感じるなんて芹香さんが言うから来てみれば何にも無いじゃないのぉ!」
1人愚痴をこぼす七瀬。
七瀬「でも、希望を失わずひたすら頑張る、乙女にしか為せないわざね!」
そのとき!!!
七瀬「ミサイル!!??」
七瀬めがけて小型のマイクロミサイルが飛んできた!!
手持ちのMP5Kでは対抗できないと悟った七瀬は銃を投げ捨てこぶしを固める!!
七瀬「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
間近に迫ったミサイルに向け拳を放つ、そして閃光と爆発!
無傷だったガラスが割れ、教室の壁が崩れ落ちた・・・
煙が晴れ破壊された廊下の中、爆発の中心に1人の姿が現れてくる・・それは七瀬だった。
だが七瀬には傷一つない。
七瀬「名付けて『ななぴ−フィ−ルド』・・ふっ、この私には効かない攻撃ね」
ななぴ−フィ−ルドにより爆発を無効化した七瀬はミサイルが飛んできた方角に目を向けた。
七瀬「そこのあなた! 私を相手にしたかったら堂々と勝負したらどうなの!」
シルエットしか見えない相手に向け言い放つ、
??「ふっ、さすがはあたしね。まぁ、こんな事でくたばるとは思ってないけどね」
そう言い、手に持った空のミサイルランチャーを投げ捨てる。
そして、七瀬に向け歩みを進めると、窓から差し込む日の光を足元から受けながら七瀬の前に姿を現した。そこには・・・
七瀬「わ・・・わたし?」
そう、そこには七瀬が立っていた。
その七瀬はゆっくりと七瀬に向かい更に歩みを進める。
七瀬「あ・・・あなた何者!?」
目の前の事実に困惑し、後ずさりする七瀬。
??「ふっ、教えてあげるわ・・・・・我が名は『ドッペル七瀬』。この世界を滅ぼす者なり・・」
そう言い放つと、七瀬に向かい拳を放つ!