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草原が広がる大地を貫くように1本の道が続いていく。

その中を1台の車が土煙をあげ、普通ではないスピードで爆走していった。
行く手にはきつい左カーブが待ち構えている。だが、あきらかにオーバースピードで進入する!


 フォン!フォン!

フルブレーキしながらも踵でエンジンの回転を合わせギアを3速2速と落とす。


 パンッパンッ!!

それに合わせるかのようにエキゾーストからバックフャイアーの激しい音と炎を吐き出し、
一瞬コーナーとは逆にステアを切るとフェイントを掛け車体を横に向かせた。

直後にコーナーへ進入、カウンターを当てながら華麗に素早くコーナーをクリア! アクセル全開のまま速度をあげて行った。

??「まったく、なんて所に住んでるのよ!もぅ!!」

WRC仕様のランサーエヴォリューションVを運転するドライバーは文句を言いながらも猛スピードで目的の場所へ向かった。



草原を走り続けるとポツリと一軒の山小屋が建っていた。
そこに続く道を1台の車が駆け上って来ると、家の玄関の前に停車。窓を下ろし掛けたサングラスを外すと目的の場所を見上げた。

??「ふぅ〜、やっと着いたわね。って、通信? はい、こちら詩子です」

綾香「ハロー! 私だけど、今どの辺を走ってるかしら?」

詩子「ちょうど着いたところよ。でも本当にこんな所に伝説のマスターとか言うのが住んでるの?」
パッと見には、どこにでもあるような家・・と言うより小屋を見上げながら言い返した。

綾香「あははっ、まぁ私も子供の頃に2〜3度見たきりだしね。でも結構カッコいい人だったわよぉ♪」

詩子「はいはい・・ったく何だか不安だなぁ・・・」

ふぅ・・と、ため息をつくと綾香の代わりに男の人の声が聞こえてきた。

セバス「柚木殿、それならわたくしが保証しますぞ! 彼と彼の戦車なら必ず敵なるものを蹴散らしてくれるはずです!」
彼のことを深くまで知ってるかのような安心感を感じた詩子は、うなずくと通信を切った。

詩子「さて、その勇者とか言う人に会いに行きますか」

そう言うと、車から降り小屋の扉をノックした。







     ・
     ・



「サイファーからフォトンビームが発射!来ます!!」
「シェルを展開!全速後退しつつ煙幕弾を発射!」
「了解!マスター!」



     ・
     ・



「・・・どんな世界なんだ?」
「悲しみも寂しさも無い世界・・・そして、喜びも感動も無い世界・・・いつまでも永遠に。その世界をどうにかしなければ・・」



     ・
     ・



「そうだな・・・・俺はしばらく旅に出るよ。・・・アイツの為にもな」
「・・・・いつかまたお会いできる日を楽しみにしています。あなたにもマスターにも」



     ・
     ・






 カタッ



??「んんっ・・・・何だ寝てしまっていたのか。・・それにしても、またあの夢を見るとはな」

読みかけの本が床に落ちた音に気づき目を覚ますと1人呟く。
木製のチェアーに座り、テーブルに置かれたアップルティーのカップを持ち口に運ぶと・・


 コン、コン・・


??「んっ? ようやく来たみたいだな。さて・・」
そう言うと、床に落ちた本を拾いテーブルの上に置くと扉に向かい声をかけた。

??「どうぞ、鍵は開いてるよ」

詩子「失礼しますね」


 カチャ


扉を開けて中に入ると、そのままリビングまで入り込んで行く。
そして椅子に座る男を一瞥すると・・

詩子「・・・あなたがコリャさんね?」

コリャ「ああ、そうだけど・・・キミかい?本部から来たと言うのは?」
それに頷く詩子。


詩子(これが伝説の戦車マスター・・・普通のオッサンじゃないのよ)



コリャ・・・。戦車を駆り、モンスターどもを薙ぎ倒すモンスターハンターの中で、彼の名を知らない者はいない。
たった一人、たった一台の戦車で賞金首の凶悪指名手配モンスターを、いともあっさり片っ端から火砲の餌食にしてしまうのだ。
しかし、2年前の戦い以来、コリャは現役ハンターを引退したと聞く。
確かに勇者と言われる想像からは離れたような雰囲気だった。
歳は30才代、短めに刈られた髪が顔つきには合っていたけどカッコいいイメージは無かった。


コリャ「来栖川の方から連絡は受けてるよ。例のやつを受け取りに来たんだろ? こっちに来てくれ」
そう言うと椅子から立ち上がり詩子に背を向けて部屋の奥に歩いていった。

詩子「受け取り? 私は、あなたに協力をお願いするよう来ただけよ」

本棚に立てかけてある本の1冊を抜き取ると、置くにあるパネルにパスワードを打ち込み始める。

コリャ「俺か? 俺はダメだ・・・もぅ引退した身だしな。それに・・・」
Enterキーを押すと本棚が動き隠し通路が現われた。

コリャ「キミとなら、あいつとの相性も良さそうだし。まぁ良いコンビになるんじゃないかな」
意味ありげな苦笑をすると通路にある階段を降りていった。

詩子「えっ? あいつって・・・コリャさん以外に誰かいるの?」
コリャの背後に声をかけながら後に続く。その時・・・


 パタッ


詩子「おっと・・・・・んっ? メタ・・ル? メタルマックス攻略本??」

コリャ「おい、何してんだ! 置いてくぞ!」

詩子「あっ、ごめんなさい」

テーブルの上から落ちた本を拾い、元のようにテーブルの上に置くと地下への階段を降りていった。


コリャ「さあ、着いたぞ」

階段を降りきった場所にある扉を開け中に進むと照明のスイッチを入れると
そこには外からは想像もつかないような地下ドッグが広がっていた。

詩子「山小屋の地下にこんな場所が・・・・」

コリャ「まぁ、こいつを格納するにはこれぐらいのスペースは必要だからな」
そう言い、壁についたスイッチを操作すると中央にある床が割れ、下から1台の戦車がせり上がって来た。

詩子「!!!」

コリャ「こいつが「ワルキューレ」。アメリカが誇るMBT「M1A2」とドイツが誇る「レオパルド2A5」のよいとこだけを集めたようなやつだ。」

戦車の中では中型の部類に入るであろうその車は、輝くほど美しい装甲をしていた。
複合装甲と流麗な被弾経始をもった車体デザイン。
タンデムバレルの主砲塔には、140mmアモルフとスキャンレーザー(追尾レーザー砲)が迫力をかもしだしていた。
大きなキズ一つないところを見ても、コリャとワルキューレの有能さが伺える。

コリャ「エンジンはMTU製のハイブリッドディーゼル。最新のガスタービン型よりも燃費が格段にいいんだ。主砲は・・・」

そんなコリャの説明など聞こえてないかのように目の前にある戦車をジっと見つめる。

詩子「・・・・・・コリャさん」

コリャ「それとな、このオプションランチャーにはILMS−ONE・・・って、呼んだか詩子?」
クルッとコリャのほうを向くとキラキラした目をさせながら・・・

詩子「私、これ気に入ったわ! ありがとう!!」

そう言い、戦車・・・ワルキューレに近づき、そのボディに触ろうとした時

??「あぁ〜! 勝手に触らないで下さい! これでもワックスかかってるんですからね!!」

詩子「わっ!! 何!?」
いきなりの女性の声に詩子は驚いて辺りをキョロキョロ見回す。

その声は何だか戦車の方から聞こえたような気がしたのだが・・・

コリャ「よぅ! 元気にしてたか? ワルキューレ」

ワルキュ「お久しぶりですねマスター。私はいつでも元気ですよ♪」

コリャ「そうか、そりゃよかった。最近、話もしてなかったから、機嫌が悪いんじゃないかと思ってたけどな」

笑顔で戦車と話すコリャを、不思議そうに見ている詩子。彼女はまだこの戦車ワルキューレについては何も知らなかったのだ。

詩子「あの〜・・・誰?」
彼女にとってみれば当然の疑問を口に出す。

コリャ「ああ、そっか初めてだったんだな。彼女がワルキューレ。この戦車を制御するメインコンピューターだ」

ワルキュ「初めましてワルキューレです。よろしくお願いしますね」

外部スピーカーから優しい感情のこもった挨拶をするワルキューレ。
本当にコンピューターなのか? と思わせるほどにその対応は人間以上に人間らしかった。

詩子「ご丁寧にどうも。私は柚木詩子よ」

ワルキュ「詩子さんね?」

詩子「そう、詩子さん」

ニッコリと微笑むと、改めてワルキューレのボディを手で優しく撫ではじめた。



・・・戦場に舞う2人の女神。のちにそう呼ばれるようになるこの二人の運命的出会い。
しかし、その未来を知っている者は誰もいなかった。とうの二人でさえも・・・。

続く


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