エンキドゥの死

 
 

ギルガメシュとエンキドゥは、力を合わせイシュタルの天牛を打ち殺した。

通りで仕え女たちが褒めそやす。
「人々のなかで、誰が最も素晴らしいか。
男達のなかで、誰が最も立派であるか」
国の民らが唱和する。
「人々のなかで、ギルガメシュこそ最も素晴らしい。
男達のなかで、ギルガメシュこそ最も立派である」

ギルガメシュとエンキドゥ、二人は遠く離れて座った。二人はシャマシュの前にひれ伏した。エンキドゥは兄弟として腰を下ろした。

二人は眠って、そして明るくなったとき、エンキドゥは語りはじめた。
 
「おおわが兄弟よ、わたしは昨夜なんという夢を見たのだろう。
アヌ、エンリル、エアそして天なるシャマシュが集まっていた。
エアがエンリルにこう言っていた。『彼らは天の牛を殺してしまった。
そしてまた、香柏の森の万人フンババを殺してしまった』
するとアヌが言った。『二人のうちの一方が死ななければならない』
エンリルがこう答えた。『エンキドゥが死なねばならぬ。ギルガメシュは死んではならぬ』
天の太陽神シャマシュがエンリルに話していた。
『彼らは天牛とフンババをお前の命令で殺したのではなかったのか。それなのに罪のないエンキドゥが死なねばならぬというのか』
エンリルは天の太陽神シャマシュに腹を立てた。
『お前が彼の仲間のように、毎日彼らと共に行くからだ』と」

エンキドゥは起きあがれず、横になったままだ。
「わが兄弟よ。お前は私にとってかけがえのない兄弟だ。彼らはわたしを、わが兄弟のために再び起きあがらせない。わたしは死霊のもとに座るだろう。わたしは死霊の敷居を越えるだろう。そしてかけがえのない兄弟を、この目でもう見ることはあるまい」

ギルガメシュは友の言葉を聞き「その目から涙があふれた」。


 

エンキドゥは病んでいた。
彼は孤独で、一人で横たわっていた。
「友よ、わが夜の夢のすべてはこうだった。
天は叫び、地は応えた。
その狭間にわたしは立っていた。
一人の男がいて、その顔を暗くしたが
その顔はアンズーのそれと瓜二つだった。
その手はライオンの手、その爪は鷲の爪。

彼はわたしの束ね髪を掴み、わたしをこわばらせた。
わたしが彼を撃つと、彼は飛び縄のように跳び退いだ。
今度は、彼がわたしを撃ち、わたしを押し倒した。
彼は野牛のようにわたしを踏みつけ
わたしの体をつよく締めつけた。
『友よ、助けてくれ』と叫んだが
あなたは怖れて、わたしを助けてはくれなかった。

彼はわたしを撃ち、鳩に変えてしまった。
わたしの腕は鳥のように羽ばたいた。
彼はわたしを捕らえ、イルカラの住まい、暗黒の家に引いていった。
そこに入ったものが出ることのない家に
そこに踏み込んだら戻れない道に
そこに住むものが光を奪われる家に。

そこでは塵が彼らの糧食、粘土が食べ物なのだ。
彼らは鳥のように翼の衣を身に纏い
光を見ることなく、暗闇に暮らしている。
わたしが入った塵の家の扉の上に、わたしは見た
数々の王冠が伏せられてあるのを。
わたしは聞いた、王冠をかぶる者たち、昔から国を支配した者たち
アヌとエンリルに焼いた肉を捧げ
供物を捧げ、絶えず冷たい革袋の水を飲ませた者たちの声を。

わたしが入った家にエヌ祭司とラガル祭司が座し
イシップ祭司とルマッフ祭司が座し
偉大なる神々のグド・アプス祭司たちが座していた。
エタナが座し、スムカンが座し
冥界の女王エレシュキガルが座し
冥界の書記ベーレト・ツェーリが彼女の前にひざまづき
書板を持って、彼女の前でそれを読み上げていた。
彼女は頭を上げ、わたしを見つめて言った。
「誰がこの人物をつかまえたのか」と。

友よ。わたしはあなたと共にあらゆる困難な道を歩んだ。
わたしを死後も思い起こし、忘れないでくれ。
わたしがあなたと共に歩み続けたことを」

彼が夢を見たまさにその日、彼の力は終わりを告げた。
エンキドゥは横たわる。一日、二日と
エンキドゥは彼の寝台に横たわる。
三日、四日と、彼は寝台に横たわる。
五、六、七日と、
八、九、一〇日と、寝台に横たわる。

ギルガメシュは、花嫁のように友の顔を覆い、鷲のように友の周りを旋回し
その仔を奪われた牝ライオンのように、前に後ろに慌てふためく。
悪鬼のように髪をかきむしり、祭服を引き裂き投げ捨てる。


友よ。われらは力を合わせて、山に登った。
天牛をつかまえ、これを打ち倒した。
香柏の森の強者、フンババをも滅ぼした。
ところが今、あなたを捕らえたこの眠りは何だ。
あなたは闇になり、もはや私の言葉は届かない。
もはやあなたは頭をあげない。
あなたの心臓に触れても、いっさい脈打たない。

男たちよ、わたしに聞け、わたしに聞け。
長老たちよ、わたしに聞け。
わたしは我が友エンキドゥのために泣く。
泣き女のように泣き叫ぶ。
わが傍らの斧、わが脇の援け、
わが帯の大太刀、顔面の盾、わが良き支え、
わが祭服、わが充溢の腰帯よ。
悪しき霊が、これをわたしから取り去ってしまった。
ギルガメシュの嘆きの声は止むことがない。


 朝の太陽が、薄く輝き始めたとき、
ギルガメシュは国中に呼びかけた。
鍛冶工よ、銅細工人よ、銀細工人よ、彫刻師よ
わが友の像を造れ。
その友の四肢は象牙
その友の目はサファイヤ
その友の胸はラピスラズリ
その本体は金である。

お前のため、ウルクの人々を泣かせ、お前のため涙を流させよう。
誇り高い人々をお前のため悲しみで満たそう。
わたしはお前の死後、動物の毛皮をまとって荒野をさまようだろう。

ギルガメシュは、愛する友のため、手厚い葬儀を執り行った。
充分な副葬品を死者に添え、シャマシュに示した。
象眼されたエラマック材の卓子を取り出し、紅玉随の器に密を満たし
ラピス・ラズリの器にバターを満たした。
彼は卓子を飾りシャマシュに示した。

 ギルガメシュは、彼の友エンキドゥのために泣き、荒野をさまよった。
われらは力を合わせて、山に登った。われらは天牛を捕らえて、これを撃ち倒した。
香柏の森に住むフンババを滅ぼし、山の麓でライオンどもを殺した。
わたしが愛し、労苦を共にした友エンキドゥ、彼を人間の運命が襲ったのだ。
六日七晩と、わたしは彼のために泣いた。蛆虫が彼の鼻の穴から落ちこぼれるまで。
 わたしも死ぬのか。エンキドゥのようではない、と言えるのか。
悲嘆が我が胸に押し寄せる。わたしは死を怖れ、荒野をさまよう。       (月本昭男訳)

ウバラ・トゥトゥの息子、ウトナピシュティム。
ウトナピシュティムは「生命を見た者」と知られている。ウトナピシュティムへの道はどこか。ウトナピシュティムに会って、死と生の秘密を聞き出すのだ。
荒野をさまよい歩いていたギルガメシュは、再び歩き始めた。



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