宇宙
さまよえる魂


惑星
夢から醒めて、ジーン・ウールは少し元気が出てきました。だって、夢の中ではいつでも一人ではありませんでした。まわりを見回すと、ジーン・ウールが元気になった分だけ、ジーン・ウールのいる世界は明るくなってきました。もともと、ジーン・ウールは光の娘です。心の悲しみが薄れていけば、夜が明けていくように光が射して、やがて美しい草原まであらわれてきました。

すべてが織り合わさって全体をなしている。
一つ一つが他に働きかけ、生きている。
天の諸力が上昇し、下降している。
そして、黄金の釣瓶を渡している。
祝福の香る翼をもって
天から地を貫いて突き入り
すべては調和して響きわたる。
(ファウストより)
人は、思いによって何かを作り出すことが出来るものなんです。もし、そんな馬鹿なと思われる方は、ただ、思わなかっただけ。ジーン・ウールの思い描いた世界はそれは素敵でしたよ。ジーン・ウールは、まづ一番にお友達が欲しかったのです。そう思ったら、目の前の地面からぴょこんって可愛い顔が覗きました。茶色の小さな動物です。優しい目をしています。ジーン・ウールがそうっと手を伸ばしたら、あわてて地面にもぐってしまいました。でも、またしばらくするとまた顔を出します。とても好奇心が旺盛なようです。「キャヒーン」と立って鳴きました。この世界に来てから自分以外の声を初めて聞きました。もうジーン・ウールは一人ではなくなったのです。
ジーン・ウールは「アンタレス」とそっと呼んでみました。この世界で初めて名前を付けることの出来るものと出会いました。1999/12/8

 それから、荒野の窪地に立って「湖よあらわれよ」と叫びました。すると、地の底から水がにじんできて、水たまりが幾つもできました。隣同士の水たまりが一つになり、また大きな水たまりが集まりだして、地の上を流れました。小さな池が出来ました。池は次第に水かさを増していきました。小さな池はじわじわと荒野に広がっていき、やがて大きな大きな湖になりました。ジーン・ウールは喜びました。水はどこまでも透き通って見えました。

ジーン・ウールは「魚や昆虫や小鳥や動物たちがあらわれるように」と、願いました。
風が吹きました。生き物たちは、風と一緒にジーン・ウールの世界にやってきました。風は宇宙の息吹から生まれたのです。ジーン・ウールの立っている世界には、地球の生き物の思い出が大地に眠っていて、ジーン・ウールの言葉によって、目覚めたようでした。
これらの世界をジーン・ウールが作り出したと思うのは、少し違います。もともと原型があったのです。ジーン・ウールが宇宙の秘密を知っていて、もともとある世界を呼び出しただけなのです。

それから、ジーン・ウールは船も造ったし、ジーン・ウールの住む世界を冒険する乗り物も作りました。でも、誰にも会うことは出来ませんでした。どこまでも果てしなく旅をしても、人間に会うことはなかったのです。
次にジーン・ウールが作ったものは何だと思いますか?
それは、宇宙船でした。もちろんいつでも可愛いアンタレスと一緒です。宇宙の端から端まで旅をしても、ジーン・ウールは、アルルの王から逃れることは出来ませんでした。
もしかしたら、それもジーン・ウールが産み出したのかもしれないけど、町がありました。人が住んでいた形跡はあるのに、やはり誰もいません。

ジーン・ウールはまったくのひとりぼっちでした。ジーン・ウールは悲しくて、淋しくて泣きました。すると、ジーン・ウールの世界は光を失い始め、夜の暗闇になりました。
夜空には星がいっぱい輝いているというのに、寂しさはより増してきます。空には、シリウスが輝いていました。まるで、「ジーン・ウールよ。元気を出しなさい。」と励ましているように強く輝きました。

 ジーン・ウールは知らなかったけれど、ジーン・ウールが悲しんで悲嘆にくれるのを、今か今かと待っている存在がありました。1999/12/9
その者は、夜の闇の中から現れました。その者は星空を背にして立っています。
ジーン・ウールは誰もいない世界で、初めて人影を見つけたのです。

「ジーン・ウール、私はお前をずっと昔から待っていた。やっと願いが叶ったぞ。」
「その声は、誰?」
「わたしは、始めからあり、終わりまであるもの。最初の始源の混沌から生まれたもの。この世のすべてを持ち、含んでいるもの。」そして、黒いマントを翻し、空全体を覆いました。あたりは光ひとつ射さない真の真っ暗闇になりました。
ジーン・ウールは、はっと我に返りました。

「ジーン・ウールよ。お前はもうこの世界から出ていくことは出来ないのだ。私と共に生きよ。私は、お前の望むものを何でも与えることが出来る。私の城には美しい庭園があり、岸辺には色とりどりの花が咲き乱れている。召使いもたくさんいる。美しい衣装、美しい宝石、珍しい食べ物、愛らしい動物もいる。私と共に生きよ。私だけを愛せ。」
そして、幻を見せました。大勢の召使いたち、輝く太陽。でも、なぜかその太陽の輝きのまわりに、時々黒い影がさしました。
 ジーン・ウールの見開いた目に一体何が映っていたのでしょうか。遙かな山並みに、雁の群が空を横切っていきました。太陽は山のはに落ち。夕げの煙がゆるやかに流れていきます。

木枯らしも好き。暖かい暖炉の薪の匂いを運んでくるから。
夕暮れも好き。なつかしいわが家と、なつかしい父や母の思い出につながるから。
雨降りも好き。雨だれも好き。ひとりぼっちも・・・・。

その時、嫌というほど指を噛まれました。アンタレスです。齧歯類は歯が長く、噛まれると深い傷を負います。
「ジーン・ウールしっかりしなよ。逃げなきゃ駄目だ。」
アンタレスには、幻は見えませんでした。でも、得体の知れない存在がジーン・ウールをすっぽりと覆っていたことは感じ取っていました。尻尾がバッと広がっています。それで、何度もジーン・ウールに訴えていたのに、聞こえなかったので、最後の手段に訴えたのです。血が流れ、傷口がズキズキと痛みました。

その後不思議なことが起きました。ジーン・ウールの指先からしたたり落ちた筈の血が、一滴の痕跡も残さず消えてしまったのです。気がつくと先ほどジーン・ウールを誘惑していた幻も消えています。

アンタレスが、ジーン・ウールのポケットから光る石を探し出して言いました。
「ジーン・ウール、この石が僕に言ったんだ。ジーン・ウールが危ないってね。」
その石は、地底の青色人からもらった石でした。いつの間にポケットに入っていたというのでしょう。あれは夢だったはずです。
手にとって眺めると、石は次第に輝きを増してゆき、四角い石の面に一人の男性の姿が浮かびました。そして、いつかその姿がジーン・ウールには、忘れることの出来ないものとなりました。ジーン・ウールは銀のサークレットを作り、サークレットの中心に光る石をはめ込みました。石はダイヤモンドのようにジーン・ウールの額の上で輝いています。そしてサークレットはジーン・ウールの頭に昔からあったようにピッタリと収まりました。

サークレットをつけるようになってから、不思議なことに心はいつも暖かく、一人でいても一人ではありませんでした。何かにつながっていると信じられたのです。
可愛いアンタレスがそばにいたからだけではありません。遠くにいても愛しい方を、ジーン・ウールはいつも心で感じていられたのです。

でも、今宵の夢はこれでおしまいです。ジーン・ウールの不思議な話はまた明日。






宇宙