東京大学卒業生の武藤と申します。
このたびは私の論文を題材として特集まで組んでいただき、大変うれしく光栄に思っております。
「インターネットは、情報収集のための無味乾燥な道具ではなく、人と人とを結びつける橋渡しであるべきだ」――私の研究は、このような確信から始まりました。インターネットの世界では、地理的に遠く離れた人々や、普段なら知り合う機会もないような人々どうしが、比較的気軽に交流しあうことができます。
ときに、町内会という組織に属する人々は、住んでいる地域という共通項がある以外には、所属組織(会社や学校)・年齢・考え方などの点で多種多様です。これらの人々が気軽に集まり、互いに交わるためのきっかけを作ることができれば、町内会という組織は新しいアイディアやアクションを生み出す創造的な場として生まれ変わるものと期待されます。しかしながら現実には、人々の多様性ゆえ、交流に際してさまざまな障壁(※)が存在し、せっかくの場がうまく活かされていない場合も少なくありません。
※互いに顔を合わせる時間がない、共通の話題・関心事がない、一体感がわかない、など。
私は、インターネットがもつ「人と人とを結びつける力」と、町内会という組織が有する「人々の多様性」がうまくかみ合ったとき、これまでにない大きな可能性が広がるのではないか、と考えました。そこで、すでにインターネット上にWebサイトを開設している町内会の事例を調査し、その現状と課題について自分なりの解釈を施し、卒業論文としてまとめました。
研究をして分かったことですが、町内会サイトというのは実に多様で、「こうしなければならない」という決まりは存在しません。例えば市役所など公共のサイトであれば、特定のお店を取り上げて紹介する記事はふさわしくありませんが、町内会サイトではそのような例も存在します。町内会サイトというのは、個人ホームページとしての自由な性格と、公共サイトとしての権威(=情報の信頼性)を併せ持っており、その曖昧な位置付けを上手く利用すれば、柔軟性に富んだ大変面白い存在になるのではないかと予感させられました。また同時に、町内会サイトが置かれている微妙な位置付けを理解し、その方向性についてメンバー同士話し合うこと自体が、興味深く有意義なことではないかと思います。
駿河台自治会の皆様は、早くからインターネットの可能性に着目され、Webサイトを用いた地域活動に取り組まれてきました。私は、貴自治会サイトそのものの完成度が高いこともさることながら、パソコン教室の実施や利用者に対するアンケートなど、単なる広報に留まらない多角的な活動を通して、「人を動かして」いらっしゃる点に強い印象を受けました。
研究にあたっては、ボランティア(つまり人々の善意や責任感)に過度に依存しない、持続的に運営可能な町内会サイトのあり方についても模索しました。そういった観点から言っても、貴自治会パソコン部のメンバーの多さは強力な武器だと思います。町内会サイトの運営組織に、10人以上のメンバーが所属しているというケースは、全国的に見ても珍しいのです。会員の皆様が気軽にアイディアを出し合い、適切な責任分担と相互学習が行われるならば、サイトの維持はもちろんのこと、さらなる発展への道も確保されることでしょう。
最後に――今の時代、コンピュータを自在に操ることのできる人の数はどんどん増加していますが、一人一人の能力を結集し、より大きな力にまとめあげてゆくための仕組み作りはまだ発展途上の段階です。町内会サイトの活動は、まさにその仕組み作りでもあるのです。
いま皆様が取り組んでいらっしゃるのは、IT技術を用いたコミュニティの活性化という、極めて現代的かつ野心的なチャレンジです。最先端の志をもつ皆様が、町内会という組織をますます活気に満ちた楽しい場として再創造されることを期待して、私からのメッセージとさせていただきます。
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