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人は人とのしがらみに囚われ 生き永らえる─


 7章─戦慄

      ─  開始


 移動床の駆動音が、ゴウンゴウンと静かに響いている。
時速17km程で動く、ライノラ─カーディル間の連絡通路に敷かれた移動床だ。
作戦会議から3日後のAM11:00、セガイラたちはカーディル管制区へと向け、進路をとっていた。
セガイラを先頭に、15名のCGW─ 共に120名の一般戦闘員が列を成している。
戦闘員たちの足元には、幾百の弾倉が詰め込まれたボックスが置かれている。
これからの戦い─ カーディル管制区制圧のための装備類一式だ。
カーディル管制区のゲートまであと40kmといったところか。
「皆─ 休んでおきなさい。あと2時間程度で到着するはずだから。最後の休憩と思ってね。」
皆、その言葉に癒されるかのように荷物にもたれかかり、居眠りにつき始める。
セガイラは、槍使いのCGW。1人しかいない女性CGWとしてライノラ帝郷区では有名だった。
リミテがCGWとなったことで、女性CGWは2名となる。
セガイラもまたリミテと同様、毅然としていて優しい性格の持ち主だ。
その優しい性格を、周囲は”もったいない性格”と呼ぶ。
その容姿は、赤茶がかったショートの黒髪で、目の色は黄金色。
黄金色の目を持つ数少ない仲間として、リューハやコミューンを慕っている。
特に、同期のコミューンをよく気にかけている。
そんな立場からか、コミューンを慕うリミテにどこか嫉妬めいた感情を覚えている。
そんなリミテとは、カーディル管制区で落ち合う手筈になっている。
リミテは航空機で管制区上空から降下、空中庭園からの侵入経路をとる。
「リミテ─ か。」
美しい女性だ。その容姿も、戦い方も、願いも、志も。
「負けてる─ かな。」
セガイラは1人、呟く。

 2時間余り経過したところで、セガイラのタグがアラーム音を鳴らす。
セガイラははっとして背に掛けていた槍を手に取る。
カーディル管制区ゲートまで残り1kmを切った。
「皆、起きてる!? 準備して!!」
他もアラームとセガイラの掛け声に、慌しく装備を整え始める。
整えるといっても、既に装備品は弾薬などすべて装填済みで、その際確認と、再装填の準備に終わる。
残り700mを切った辺りで、セガイラは前方に1つの狙気を感じ取った。
蛇の系統の狙気─ 狙撃ライフルの類だ。
狙気の系統には、独特のものが宿る。
大口径の銃には、犬の狙気、狙撃ライフルには蛇、装飾拳銃には羽根の生えた神獣といった具合だ。
例外となるケースは少なくないが、基本狙気を覚えておけば、総合してどんな武器にあたるのかがわかる。
「機関砲─ 私の横へ!!射撃準備急いで!!」
セガイラの意図したところを理解した数名のCGWが、一般兵を急かす。
ガキィン!!
タァン!!
セガイラの槍が、銃弾を弾き飛ばす。
1秒送れて、その銃声が皆の耳に届く。
間違いない。狙撃ライフルが1挺、こちらを狙っている。
連射系の機関砲ならともかく、単発式相手というのなら、比較的やりやすい。
狙ってきている方向が明確なら、尚のことだ。
「まあ─ コミューンを逃がした時点で、そう仕掛けてくるのは予測の範疇だけどね─ 防護壁、前へ!!」
大型の盾を持った一般兵がセガイラの前に出る。
カァン!! カカァン!!
防護壁が、敵の銃弾を弾く。
被弾音から察するに、連射可能なライフルも用意したようだ。
セガイラは防護壁の前へ出る。それを見た一般兵は、少しうろたえたような表情を浮かべる。
「良いの─ 今のうちに感覚を研ぎ澄ませておきたいから。 他にウォーミングアップしたい人はいる!?」
セガイラの言葉に、CGWがこぞって前へ出る。
ガキィン!! カキン、キン─ !!
拳銃の峰で弾き落とす者、刃物で斬り弾く者、皆それぞれだが、銃弾を弾くことに難を出す者はいない。
「ほんっと、損な性格かもしれないな─ 自分で自分を責め立てるような場所に身を置いて─ っと。」
ガキィン!!
セガイラの槍の矛先は、正確に銃弾を捉えて弾く。
次第に、セガイラたちの肉眼でも敵の姿を捉えることが出来てくる。
時は無情に過ぎ、移動床は進み続ける。
─ 頃合か。ウォーミングアップとしては馴染みかけてきたところだが─
視界の先には、10名余りの敵戦闘兵の姿。
「機関砲撃ち方構え!!」
セガイラを含むCGW数名が、防護壁の後ろへ退避する。
「射角固定!! 射撃数100!! 撃ち方、始め!!」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ・・・!!
容赦の無い弾丸の嵐が、カーディル管制区のゲートを襲う。
大口径─ 連射が、ケルベロスの狙気を身に纏い、敵を穿つ。

機関砲の連射が鳴り止んだ頃には、既に敵の姿がはっきりと視界に映っていた。
残り100m─ どうやら敵も防護壁を用意していたらしく、そこに戦闘兵の死体は見当たらない。
防護壁付きのライフルがこちらを向いている。
ガキィン!!
セガイラの槍が、敵の放った弾丸を弾く。
あと50m─ セガイラは走り始める。続いて他のCGWも4名、前に出る。
タァン、タタァン!!
ガキン、キキン─ !!
弾丸を弾き飛ばしながら、セガイラは進む。
移動床の速度も合い重なり、セガイラは速く─ 速く跳躍した。
ドズン!!
槍の矛先が、ライフルの薬室を貫く。
「無駄な殺しはしたくないわ。降参するか死ぬか─ どちらか今すぐ決めなさい。」
槍を突き立てたセガイラは一瞬無防備となるが、残りのCGWがすぐさまセガイラの横から銃口を向ける。
静かに─ カーディル管制区の戦闘員は手を上げる。
セガイラは静かに息をつくと、槍をライフルから抜き、持ち上げる─
ドウン!!
CGWの1人が、敵兵の心の臓を穿つ。
「─っ、どうして!!」
静かに指を差したその先─ 敵兵が袖の下から抜いたナイフが転がる。
セガイラは、はっとする。
「甘いんだよ─ ホント損な性格だよ、お前。」
「ごめん─」
セガイラは少しだけうつむくと、大きく息を吸って吐く。
「よしっ─ じゃあ、行こうか、皆。」
「もったいないというより、変な性格だよな、お前─」
セガイラはそれに面食らったような表情を浮かべ、相手をどつく。
「じゃ、行くよ─」
敵兵のタグを抜き取り、ゲートのパネルに当てる。
ゲートが静かに開き、セガイラは複数の狙気に挟まれるのを感じた。
タタタタタタタァン!! ドウン!!
素早く身を伏せ、セガイラは迎撃をかわす。
案の定、ゲート周辺の警備は既に固められているようだ。
「手榴弾!!」
セガイラの掛け声と共に、一般兵が2名、手榴弾を持ち、ゲートに走る。
キンッ、キキンッ─
手榴弾の制御ピンが外れ、ゲートから左右に分かれた通路に投げ込まれる。
ズガァァァン!!
程なくして、辺りは爆炎に包まれる。
舞い上がった黒煙が晴れないうちに、セガイラは号をかける。
「突入─!!」
セガイラの号とともに、皆一斉に駆け込む。
タタタタタタタタァン!! バララッ!! バン!!
援護射撃と共に、相手の狙気を感じ取ったCGWが速攻をかける。
パタタタタタタタタタタッ!! ドドドン!!
銃声の嵐が─ 始まった。


      ─  裏切り


 リミテは、3機の戦闘機に護衛され、歩兵降下用の貨物航空機に乗っていた。
セガイラたちは、もう既に突入を開始した頃だろうか。
時計を確認し、連絡通路の移動床の速度から換算すると、ちょうどそんな頃合だ。
次第に、視界にカーディル管制区の居住塔の姿が捉えられるようになる。
カーディル南居住区からライノラ帝郷区まで逃げてきたときのことを考えると、
管制区居住区塔の上空で、再度待ち伏せをくらう可能性が高い─
リミテがそう考えると、案の定、カーディル管制区の上空に3機のイグザネル・キャットの影が映る。
「剣じゃ、ねぇ─ 後、お任せして良いかしら?」
リミテは貨物航空機のパイロットに質問する。
パイロットは、リミテに対してグーサインを出す。
「空でのことは任せておけ! 任務を全うして来い!」
くすっとリミテは笑う。
「お手並み拝見─ ね。 じゃあ、行くわよ2人とも!!」
一般戦闘兵の援護を2人つけて、リミテは貨物口へと向かう。
ゴウン─ と、重い金属音を響かせ、扉が開く。
下には、雲で霞んだカーディル管制区塔。
「ちょうど頃合ね─ ついてきて!!」
リミテの身体は中空に放り出される。続いて、2人の戦闘兵もリミテの後を追い飛び降りる。
「─ っっっっっっ!!!」
かつて身に覚えたことの無い空気の圧力に、呼吸もままならない。
静かに息を全部吐き捨て、大きく大きく飲み込むように息をする。
想像以上の圧迫感だが、問題無い─
降下を続けると、次第に管制区の空中庭園が視界に入ってくる。
「ああそそここよよ!!!」
声がエコーしたように響き渡る。
2人の戦闘兵は一寸考えた後、すぐに理解し、頷く。
降下を続け、居住区塔の最上階の窓が目に映ったところで、パラシュートを開く。
後の2人もうまくタイミングをずらし、パラシュートを開く。
速度が急減し、ふわふわと舞いながら中庭へ降りてゆく。
中庭に着地するまでの間に迎撃されたらひとたまりもないが─
リミテの思惑は、そううまくはいかず─ 案の定、パラシュートを見ての展開か、先の戦闘機からの報告かは
定かではないが、迎撃兵が中庭に姿を現す。続いて中庭に隠蔽設置されていた迎撃砲台もその姿を現す。
「マズいなぁ─」
浮き立ったような調子でリミテは呟くが、その心境はかなり重い。
このままでは、空中で蜂の巣にされ、挽肉となった自分の死骸が空中庭園に撒き散らされることになる。
ふと、ある思いが頭を過ぎる。もしかすると─
「2人とも─ !! 砲台の方を狙って!!」
迎撃砲台は2門、うまくいけば─
リミテは静かに練気を集中する。
足に、空気の抵抗を溜め込みながら─
2人の戦闘兵は、足に括り付けたサブマシンガンを手に取り、迎撃砲台に向かって弾丸を穿つ。
ガガガガガガガガガガガッ!!
破壊されていく対空機関砲。
迎撃兵の1人が、銃を持たずに身を縮めるリミテへとその手に持ったライフルの銃口を向ける。
リミテは、剣を取り出すと、パラシュートのベルトを外し、静かに詠う。
「迅っ─ !!」
タァン!!
遅れて銃声。 空気が、爆発した。
リミテのいたはずの中空には、何も無い。
ズドン!!
リミテの足が、一瞬で偽造の大地に叩きつけられる。
空気を─ 蹴った?
迎撃兵はそんな印象を覚えた。
リミテが、大地に伏せた体勢から、静かに立ち上がる。
「お久しぶりね、ブライト─ 私が戻ってきたときは会わなかったから、半年ぶりかしら。」
ブライト─ 迎撃兵の容姿を見るや否や、リミテは懐かしんでその名を呼ぶ。
「久しぶりだな、リミテ─ 君だったとは思わなかったよ、裏切りか─ ?」
ブライトの皮肉じみた言葉に少しだけ顔をゆがめると、リミテは静かに述べる。
「裏切りと思ってくれて結構よ─ 降参するか死ぬか─ どちらか今すぐ決めなさい。」
セガイラと同じ言葉が、こぼれ出る。
ブライトはライフル、リミテは剣─ どう考えても、取る行動は1つだった。
ブライトはライフルの銃口をリミテに向ける。
裏切り者には、死を─
タァン!! トトトッ─
リミテは、既にその場にはいなかった。
ヒュァッ─
剣の腹が、ブライトの首に当てられる。
「もう1度言うわ・・・降参するか死ぬか─ どちらか今すぐ決めなさい。」
冷たく伝わる剣の感触─
「ふざけ─」
ドンッ─
ブライトの両腕が、地面に転がる。
「命までは奪わないわ─ せいぜい後悔してなさい。」
「ぐあああああああああ!!!」
ブライトは絶叫を上げる。激しい後悔の念が抱かれるが、時既に遅し。
最初の異常な着地を見た時点で諦めるべきだった。
リミテは2度も、チャンスをくれた─ それなのに取ってしまった無謀な行動。
でも、命がある─ 命があるなら─
「・・・っ、気を使ってもらって済まない。 ぐあっ・・・」
痛みに悶えるブライトを背に、リミテは進む。
「お礼には及ばないわ─ ごめんなさいね、腕・・・ さあ、行くわよ2人とも。」
そんなリミテの背は、どこかはかなくも映る。
2人の戦闘兵がリミテの後を追っていく。
出入り口に、慌しい雰囲気が漂ってくる。
どうやら、ブライトだけが来たわけではないようだ─
「行くわよ─ ここからは遠慮なし、2人は遮蔽物を見つけて陽動に専念して!!」
練気を集中し、前を見つめる。
カーディル管制区の兵隊がぞろぞろと沸いて出る。
沸いて出る出入り口の両脇に、援護射撃手が構え、目前にいるリミテへと向かって発砲する。
「迅─ っ!!」
ガガガガガガガガガガッ!!
トトトッ─
銃声と同時に、静かな静かな足音をたて・・・
ザシュッ、ドシュッ、シュバッ─
左右に展開を始めていた者のうち、右の3人を一瞬で斬り伏せる。
リミテが移動した様子を誰も捉えられず、左の小隊を混乱させる。
ガガガガガガガガガガッ!!
混乱した中、2人の援護射撃が敵を捉える。
「ぐあっ─」
1人がその場に倒れ伏す。
残りの2名は、思わず先のリミテよりも、射撃音のした方へと注意を向ける。
練気集中─
「迅─ っ!!」
トトトッ
ザシュ、ドシュッ─
静かな足音の直後、残りの2名も斬り伏せられる。
事態をようやく飲み込んだらしい出入り口脇の援護手は、リミテに狙いを定める。
ガガガガガガガガガガッ!!
こちら側の援護の方が、早かった。
弾丸の牽制になり、結果、敵兵を出入り口の両脇へと隠れさせる。
「ナーイス牽制!!」
練気集中─
「迅─ っ!!!」
リミテの身体が、中空を舞い、一直線に出入り口の内部へと向かう。
練気集中─
遅れて再度、敵の援護射撃手が2人、顔を出す。
時、既に遅し。
リミテは出入り口から内部に入り込み、壁に足をつける。
「迅─ っ!!」
トッ、ザシュッ─ トッ、ザシュッ─ トッ─
リミテは出入り口から再び空中庭園へと舞い戻る。
ドサッ、ドサッ─
崩れ落ちる屍が2体。
「手榴弾!!」
リミテが叫ぶと、2人が動く。
「了解─ !!」
キン、キンッ─ キキンッ─ 投げ込まれる手榴弾。
ズガァァァン!!
辺りは爆炎に包まれる。すんでのところで、飛び散る鉄粉を回避するリミテ。
「右の方がエレベータと階段に近いから、右から突入するけど─ 良い?」
土地勘のあるリミテが告げると、2人は頷く。
「了解です─ リミテさんに従いますよ。」
ありがたい言葉だ─ リミテはそう痛感する。
「1人グレネード、1人はサブマシンガン─ 再装填急いでね。」
ジャコッ─ 2人は息を合わせたかのように、再装填─ グレネードへの持ち替えをする。
普通、どちらがどちらを持つか打ち合わせてからするものだが─ 何も揉めることなく、互いが装備を準備し終える。
「あなたたち─ 面白いわね。名前は? あ、聞いたはずよね─ フィルと、ハルって言ったかな?」
きょとんとした表情を浮かべると、2人は頷く。
リミテはとりあえず2人の名前を覚えておくよう心がけた。
「まあ、それはさておき・・・煙が消えないうちに突入ね。」
リミテが先頭を切り、3人は管制区内部へと侵入する。
ガガガガガガガガッ!!
ズガァァァン!!
トトトッ ザシュッ─
ハルがサブマシンガンで牽制し、フィルが遮蔽物を破壊─ リミテが止めを刺す。
絶妙なコンビネーションの繰り返しで、リミテたちは前へと進んだ。


      ─  合流


 セガイラたちは、激しい戦闘を繰り返しながら、20階層のエレベータターミナルへと向かっていた。
リミテたちとは、そこで落ち合う手筈になっている。
辺りには、けたたましく警報が鳴り響き、戦闘兵が次から次へと現れる。
こちらも戦力としては十二分にあるため、劣勢になる兆しもなく、順調に完全制圧に向けて戦闘を繰り返す。
そういった意味では、少数精鋭のリミテたちのことが心配ではある。
「敵襲!! 敵襲!! 35階層に大部隊を確認!! 5階層にも3名の敵兵を確認!!
 該当の隊は速やかに敵を掃討せよ!! エレベータは使用禁止!! 繰り返す・・・!!」
ああそうか─ エレベータを使用すれば、敵と見なされて袋叩きに遭うといったところか。
ともかく、リミテたちの生存は確認できたことになる。
「35階層以上への攻略に90名!! 私を含む残り45名でリミテたちと合流するわ、再編隊急いで!!」
息を合わせ、階段へと突入する。
ガガガガガガガガガッ!!
パタタタッ!! タタァン!!
敵の機動隊もその階段から沸いて出てくるため、容易に前へ進むことが出来ない。
リミテたちもこの辺りで苦労しているに違いない─
35階層の敵はほぼ掃討し終えたこともあって、階段反対側からの敵は姿を見せない。
ガガガガガガガガガッ!!
「私たちCGWが尻込みしてたら話にならないわ─ 覚悟を決めて、行きましょう!!」
「迅っ!!」「迅っ!!」「迅っ!!」
CGWたちが先陣を切り、階段へと突入する。
「援護よろしく─ !! 迅っ!!」
セガイラも1歩遅れて突入する。
ガガン!! ガガガガガガガッ!!
ドシュッ!! ズシュッ!!
タタタタタタタタタァン!!
無理をした突入のため、回避思考の処理能力を、放たれる弾丸の数が上回る。
ところどころ、かすめるように被弾する。
「はぁぁぁぁぁあああっ!!」
ドシュッ、ガシュッ─ !!
ガガン、ガガガガガガガンッ!!
半ば無理矢理、34階層の階段を制圧する。
この調子でいけば、かなりの消耗戦となることは間違いない。
あと14階層─ どうしたものか。
装備品はいくらでも替えが効くが─ 戦闘員はそうもいかない。
感じられる狙気の数からして、まだまだかなりの数が下で待ち構えている。
「とりあえず─ 手榴弾。 2つ用意してね。」
セガイラは取ってよこせといわんばかりに手を差し出す。
戦闘兵が手榴弾を2つ、セガイラに手渡す。
キンッ、キンッ、キキン─
セガイラはそのうち1つを即、投擲する。
階段を転がり落ちる手榴弾の音─
ズガァァァン!!
手榴弾の爆炎が、下の階の階段を覆う。
「─ 迅っ!!」
大きく振りかぶって、セガイラは残り1つの手榴弾を投擲する。
カンッ、カンッ、カンッ、カカン─
高速回転を掛けられた手榴弾が、壁から壁へ、壁からその下の階段へと、転がっていく。
ズガァァァン!
遥か下の階層で、爆発が起こる。
自分たちの守備するよりも後方での爆発─ 階下は混乱する。
─ チャンス。
「突撃!!」
一気に階段を駆け、混乱した階下に侵入。
ザシュ、ドシュッ、ドシュッ─
セガイラは容赦せずに仕留めていく。
なるべく殺しはしたくないと思っていたセガイラだが、相手は敵意満載の武装兵─
悠長なことも言っていられない。
ガガガガガガガガッ!!
半ば無理矢理作りこんだ隙に付け入るように、下方階の攻略を進めていく。
「階の完全制圧は後回しよ!! リミテたちと合流することを今は最優先にして!!」
予め出ていた指示だが、戦闘で熱くなった戦闘兵たちの精神を本来の在り処へと戻す檄。
セガイラを含む5名のCGWを先頭に、着々と階下への攻略を進める─

 リミテたちもまた、階段区画まで攻略し、先の5階層から進み、10階層までの階段を攻略していた。
完全制圧できないままの階段侵攻は、敵に後ろを取られることもあり、かなりの難度を極める。
フィルのグレネードもかなり役に立っており、敵の視界を阻んで一気に攻略するという手段に大きく貢献していた。
ズガァァァン!!
ガガガガガガガガッ!!
トトトッ、ザシュッ、ガシュッ、ドシュッ─
ガガガガガガガガッ!!
フィルとハル、リミテの絶妙なコンビネーション。
一瞬で階段を上りきり、壁を蹴り、剣を前へ─ 突進。
二刀を手にしたその手で、敵の胸を刺突、剣を抜き、再度練気爆発─
トトンッ─
軽い歩調で、優雅に階段の遊びを舞う。
正に、優雅なること、舞う華の如く─ だ。
ハルは、援護射撃を続けながら、コミューンの言っていたことを思い出す。
『あれは例えて言うなら、舞う華の如く─ だな。1つの完成された格闘と言って良い。』
正にその通り─ しかも怖いのはそんな完成性ではなく、そこで完全に限界点を定めるのではなく、
得た力によって、技にその力を消化していく─ リミテの剣技に流派があるのかどうかは定かではないが、
ごく自然な流れで行なわれる力の進化だ。
未だ底が知れない器と言って良いのかもしれない。
そんなリミテの華麗な跳躍と斬撃にも、練気を使い果たした直後から練気集中までの間、どうしても隙が出来る。
その隙を見逃すことなく、ハルは的確に援護射撃を行なう。
身を起こしてリミテを撃とうと構える敵の頭を薙ぐ。
身を伏せて体勢を崩してくれればそれで良し、身を伏せずに弾丸の犠牲となってくれればそれもまたなお良し。
リミテはその隙に弾丸を撃ち込まれることなく、第2撃を開始する─
そんな循環に、特に不満を抱いたわけではないが、階をまた1つ攻略した後、リミテはしばし熟考する。
「リミテさん・・・?」
フィルが、グレネードを構えながら不思議そうに尋ねる。
激しい戦闘の続く中、早くも頭が変になってしまったか─ そうではなく、リミテからもたらされたのは、1つの提案だった。
「ねえ・・・次の援護射撃、飛び出しの最初だけで止めてみてくれる? 試してみたいことがあるの─」
やはり頭がおかしくなったか─ そんなことをすれば、リミテは練気集中の間援護を受けられないことになり、
その隙に弾丸を山ほど撃ち込まれるに違いない─
「その提案は─ 請けかねます。リミテさん─ 気を確かに。」
正気に戻るよう呼びかけるハル。間髪いれずにリミテは回答する。
「じゃあ・・・第2援護射撃のとき、一呼吸置いて私の動きを観察してみてくれる? 大丈夫そうならスルー、
 やっぱり危なっかしかったら通常通り援護射撃。 ─ それで良いわね?」
言ったと同時、リミテは練気集中を開始する。
フィルとハルは頭を振ると、黙って武器を構える。
「・・・ありがと。」
リミテは静かに告げると、練気集中を再開する。
大きく息を吸い込み、身体の中に循環させる。
循環させた血液の1粒1粒に力を蓄えるイメージ。
その赤い濁りの中に、やがて白い煌めきが宿ってくるのがわかる─ その光の最高点を見極める。
光が最高点に達したとき、リミテは息を吐く。
ただ普通に吐いたのでは溜めた練気が逃げていってしまうため、余分となった空気のみを押し出し─
力を溜め込んだ血液から筋肉へと力を伝え、吐き出す息と共に、精神を集中・安定させ、迅を唱える。
通常であればその手順で高速機動を可能にするのだが─
息を吐いたとき、リミテは迅を唱えない。
「力のわだかまりを溜めて・・・溜めて・・・溜めて・・・」
大きく息を吸う。身体の中に循環させる。
リミテの身体の中には、最高潮の煌めきを放つ血液の群れ。
煌めきは、そこで終わらない。
更にその輝きを強め、血液自体が白く染まってしまうような感覚。
リミテは静かに、息を吐く。
「迅─ っ・・・」
辺りの空気が渦を巻いて、リミテの身体を包み込む。
ヒュァァァァァッ─
トッ、ザシュッ、トッ、ドシュッ、トッ、シュバッ、トッ、ガシュッ、トッ─
ハルは援護射撃の構えを取りつつ、唖然とその光景を眺めていた。
リミテの足は、留まることを知らずに華麗な演舞を見せつける。
刺しては舞い、斬っては舞う。気高く麗しき桃華はなお舞い続ける。
ピシャァァァァァッ─
血飛沫が飛び散る中、リミテは歩を和らげる。
気付けば、2階上まで攻略していた。
慌てた2人がリミテの後を追い、会談を駆け上ってくる。
「2人とも─ !! 前はもう良いからバックアタックだけ警戒して!!」
2人とも、苦笑いしか出てこない。
顔をしかめながら、その銃口は後ろへと向く。
ガガガガガガガガッ!!
掃射が、後ろからの敵を、掃った。

 ガガガガガガガガッ!!
戦闘兵の援護射撃が続く中、セガイラたちは歩を確実に進め、目的の20階層までたどり着いた。
こちらは大人数で攻め立てたため、割と短時間で到達することが出来たが、リミテたちは少数─
来るのに時間を要しそうだ。
「少し下の階も混乱させておくとしましょうか。射撃準─ んっ?」
セガイラの耳に、風切り音が、届いた。
ヒュァァァァァッ─
ザザザザザザシュッ、ドシュッ─

キンッ─
セガイラの槍の矛先と、リミテの剣先が、軽く衝突する。
「お待たせっ、セガイラさん─」
今しがたセガイラが感じ取ったのは、紛れも無くリミテの練気によって瞬間的に仕留められた敵の存在。
その気配が、命の灯火が、静かに静かに消えてゆく。
「リミテ、私のことは呼び捨てでかまわないわ─ それより、リミテあなた一体・・・」
先までの戦闘のことを言っているのだろう─ 2人がリミテにやっとのことで追いつく。
「練気をちょっとね・・・コミューンに習ったのを応用してみたの。練気集中した後に、追加で再練気する感じで。」
セガイラもまた、試したことがあった。
しかし、練気の吸気は1回が精一杯で、何度やっても練気爆発させずに2度目の吸気を行なうことはできなかった。
それをいとも簡単に出来る人間など、セガイラはリューハの他には知らない。
「リミテ、あなたひょっとすると本当に・・・」
リミテは無垢な表情で振り向いて、首をかしげる。
「ん? 何か言った??」
やめておこう。余計な褒め言葉で期待させすぎてもいけない。
「いいえ、なんでもないわ。それより、敵の配置確認は滞りなくできたの?」
配置確認─ そう、カーディル管制区を制圧するにあたり、把握しておかなければならないこと─
ハイド長官の、所在だ。
指揮系統のトップをいかに早くおさえるかが、早期制圧の鍵を握る。
「下の配置はそんなに大袈裟じゃなかった・・・兵の配置も全体をカバーする隊形になってて、どちらかというと
 上に行けば行くほどに兵力が大きくなってる。下方区に戦力補充しに行った風でもない─」
セガイラは冷静にリミテからの情報を聞き取る。
「なるほど・・・じゃあハイド長官は─」
導き出せる答えは1つ。
「・・・最上階ね。」
リミテとセガイラ、同時に言葉を発する。
本来下層階が上官の居住スペースとなっているカーディル地区にとって、上層階にある執務室か本来の居住部屋に
いるか、そのどちらが正解なのか導き出せることは非常にありがたい。
リミテとセガイラは歩調を合わせ、上への階段を上り始める。
「一応カタしたとはいえ、向こうもまだまだ戦力は補充できるはずだからね・・・そこのところ気をつけて上がりましょう。」
セガイラの言葉に、リミテは頷いて神経を尖らせる。
他のCGW4名と、フィルとハルを含む戦闘兵がぞろぞろと、階段を上り始めた。
PM0:30、CGWセガイラと同じくCGWリミテは、合流した。


      ─  終焉は突然に


 セガイラとリミテは、その後再度階段に駆けつけた兵たちを難なく片付け、上への階段を攻略していくうち、
気付けば49階層にまでたどり着いていた。
セガイラはずっと見ていた。ここまでたどり着くのに、その活躍は殆どリミテが独占していた。
連続吸気による膨大な量の練気集中が可能にする、長時間高速機動。
本来ならば1呼吸置かなければならないタイミングを、追加の高速機動が襲う。
50階層への攻略も、特に難は無かった。
セガイラが妙な対抗心を燃やし、躍起になって走りながら敵を仕留める。
息が途中であがりそうになるが、そこで踏みとどまってはリミテに先を越されてしまう。
セガイラは再呼気をしないまま、無理矢理練気爆発させる。
リミテとセガイラの高速機動は続き、とうとう50階層にたどり着く。
リミテは慢性的に、セガイラは急性的に、途端に息を切らす。
「ぜぇっ、はあっ・・・」
援護部隊がリミテたちを追い抜き、50階層の敵兵掃討に向かい出す。
騒雑とした雰囲気の中、2人は中腰姿勢のまま顔を向かい合わせる。
「なかなか・・・やるじゃない? 新入りCGWにしては上出来過ぎるわ。」
セガイラの皮肉めいた発言に、リミテは噴き出す。
「あはっ、あはははははははは!! セガイラだって無茶しちゃダメよ?」
セガイラはその言葉に、苦笑いしか出てこない。
「確かにそうね・・・余計な競争心で無茶してるようじゃ・・・私もまだまだかな?」
リミテは、笑いながら姿勢を立て直す。
「余計な・・・競争心? 私、何かセガイラに悪いことでもしたかしら?」
コミューンの好意が、今パシアとリミテの2人に向けられていることは明らかだ。
コミューン・・・
セガイラは、胸の奥に想いをしまい込む。
「そうね・・・悪いことは何もしてないわね。」
セガイラもまた、姿勢を立て直すと、ツカツカと戦闘兵が向かった先へ歩き出す。
「ほんっと、損な性格・・・」
その呟きが、リミテに届くことは無かった。
つかつかと廊下を進むと、流れ弾がリミテたちに向かって飛んでくる。
ジャッ─
すんでのところでリミテたちは弾を見切り、回避する。
2人はその狙気を完全に捉えることが出来るため、今現在銃口が向けられている方向、相手の位置
さえはっきりと掴むことができる。
老化の奥に、防護盾をつけた機関銃がこちらに向けられているのがわかる。
距離にして200mといったところか。
50mほど走ったところで、じりじりと前へと進む戦闘兵と、その影に隠れるCGWの姿。
敵との距離は、まだ100m少々ある。
今飛び出たとしても、リミテの長時間高速機動をもってしても敵の懐には届きそうにない。
届いたとしても、その後の呼気をしなければならず、敵の陣地のど真ん中で大きな隙を与えることになる。
防護盾の兵が確実に進むのを待つ他無いか・・・
考えながら、リミテとセガイラは防護壁の裏に貼り付く。
呼吸を繰り返し、今まで消耗してきた体力を安定方向に導いていく。
「距離・・・どれくらいまで近づいたら行けそう?」
不意にリミテがセガイラに問う。
どのタイミングで突撃をかけるか─ それは極めて重要なことだ。
皆のタイミングがずれ、突撃がバラバラになってもいけない。
「確実といえるのは10mくらい─ かな? 無理すれば30mってところね。」
おおよそそれくらいだろう。
リミテも自身の習得した練気跳躍による突破可能距離を目算する。
「10mなら行って数人斬って戻ってこれるわね。」
「あなたならね。」
セガイラがリミテの科白に言葉を重ねる。
確かにそうだ。練気の分割使用が可能なのは、今のところリミテとキャンサー・リューハのみだという。
「そうなると私1人でも辛いし、セガイラたちのことを考えると10m─いえ、もっと行かないと・・・」
10m級の距離になると、相手もそれだけ細かい狙いをつけることが出来る。
例えば、盾と盾の隙間に見える相手の胴体を狙い撃つことも可能なように。
つまり、それだけ近づくならばそれだけ慎重になって動かなければいけないということだ。
慎重に─ 着実に、防護盾を持った戦闘兵が前進する。
盾を持ち上げすぎると足に被弾する恐れがあるため、極力地面から離さずに─ 見ているリミテたちにも、
その苦労が窺える。ライフル弾を弾き飛ばすだけの強度を持った鉄板は、それなりに重い。
前進して、防護盾の隙間から敵側の様子を窺い見る。
カカンッ、カカカカカンッ!!
盾への被弾音が響く。
相手も、盾の隙間に人影が映ると狙い撃とうとしているようだ。
慎重に慎重を期さなければならない。
「様子見は私がやるわ─ 狙気を感じ取るのには自信があるの。」
セガイラが乗り出す。
その自信満々な様子に、周囲は黙って了解のサインを出す。
「狙気の合間を縫って私が様子を見るわ─ ・・・?」
言葉が、途切れる。その場でただ1人、セガイラだけがその違和感に気付く。
それは辺り一面に弱々しく漂う狙気─ 遠方から狙撃兵の狙気を感じ取るときと酷似しているが、
全方位から感じ取ったことなど無い。あるいはその狙気を極限にまで抑え込むことが出来る者がいたら─
セガイラが、ふと後ろを振り返ったと同時、グレネードの弾が発射される。
真後ろに、敵兵の姿。その銃口はリミテを向いている。
「 ─っ!! リミテ危な─」
ズガァァァン!!
リミテをはじめ、周囲は何が起こったのかわからず、一刹那混乱に陥った。
目の前に転がるセガイラの肉片。
黒煙が立ちこめる中、リミテは1人の敵兵の姿を捉える。
「迅っ─ !!」
トトトッ─ ガキィン!!
咄嗟の判断でリミテは敵兵に斬りかかる。
その刃は、相手の取り出した剣に受け止められる。
ガガガガガガガガガッ!!
刹那の混乱から正気を取り戻した戦闘兵がリミテを援護する。
敵兵は回避行動に移る中、体勢を崩す。
「逃さない─ っ!!」
リミテは舞い踊るように剣を振るう。
ザシュッ─ ドシュッ─ グシャッ─
惨殺される敵兵に、一瞬同情してしまうような殺し方。
周囲が皆、そう思った。
リミテの狙気は、悪魔のようなおぞましさを経て、段々と弱々しく、舞い散る華のように萎んでゆく。
「セガイラ!! セガイラ!? 嘘でしょ─ ねえ─ !!」
かろうじて残ったセガイラの上半身を抱き起こし、懸命に呼び掛ける。
ぎゅっ─ と、リミテの腕を掴むセガイラの手。血に塗れている。
「ほん"っと─ 損な性格─ 嫌になるゎ・・・」
段々とその響きを失ってゆくセガイラの声色。
それでも、リミテは確かに聞き取った。
「恋敵を助けてジ・エンド─ なんて、ホント嫌になるわ─ げほっ─」
肺が機能を失ったのか、もう殆ど声が出ない。
「ねえ─ お願いが、あるの─ 聞いて・・・くれる?」
リミテは大粒の涙を零しながら、黙って頷く。
「コミューンにね─」
ぐすっ─ と、リミテが鼻を啜る音だけが響く。
「だらしないわね─ もっとしっかりして。 折角私が認めた女なのに─ ほら。」
自分の声が、聞こえない─ 意識が、遠のいてゆく。
それでも時は動き、世界は加速していく─ ああ、なんて虚しくて、こんなにも心地良いのだろう。
「ずっと好きだったって─ よろしく・・・ね。」
リミテは黙って頷く。
「わかった─ 伝えるから─ だから、死なないで・・・お願い。」
困ったように笑いながら、セガイラは手の力を緩める。
「リミテ、あなたならきっと─ 」

言葉が、声が、世界が、断絶した。
「あ・・・あ・・・あ・・・ !!」
リミテの声だけが、虚しく廊下に響く。
同時に、リミテから妙な気配が浮かび上がってくる。周囲はただそれを、黙って見ていた。
否、言葉に出来なかった。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」
リミテの錯乱の声が、響き渡る。
その次の瞬間に起こったことを、周囲は何に例えて良いのか判らない。
例えるなら、威風堂々─ それでもまだ何かしっくり来ない。
そう、例えるなら神が生まれた瞬間を目にしたかのように。
ドッ─ !!
神が少し憤怒して、あたり一面を掃ったかのように。
リミテの姿が、セガイラの許から消えて失せる。
辺りの何処を探してもリミテがいない─ 否、探す範囲が狭すぎた。
リミテの姿は、豆粒のように小さく、遥か60m先─ 敵陣の中央に見て取れた。
リミテがど真ん中にいるにも拘らず、敵兵はまったく攻撃をしない。
「なんで・・・」
フィルが言葉を発しかけた次の瞬間、答えが出る。
敵兵の身体が、上半身と下半身に分離される。
並べられていた敵側の防護盾も、一気に崩れ落ちる。
ほんの、一刹那の出来事だった。
セガイラの最期を看取った直後、リミテは信じられない程の高速機動で、敵を一瞬にして殲滅した。
これが示す事実は、俄かには信じられないが、確かにその場で起こったことだった。

かちゃり─ と、執務室の扉が開く。
中から現れたのは、リミテにとって見慣れた顔─ ハイド長官その人だ。
「何日ぶりかね・・・君が裏切ってから。」
皮肉をリミテに投げてよこすハイド長官。
「悪いけど─ そんな冗談に付き合ってる気分じゃないの。早く、終わらせましょう─」
くすっと、ハイド長官が嘲笑の笑みを浮かべる。
「そうだな─ 早いところ決着をつけるとしよう。 この間は小娘と思って油断したが─」
リミテの状況を把握した戦闘兵たちが、援護のために押し寄せてくる。
「バーバルノ・アテート!!」
ハイド長官の瞳が、黒から茶へ、茶から真紅へとその色を変える。
「これで君ら雑兵の動きは完全に捉・・・ ?」
ハイド長官が言葉に詰まる。何故言葉に詰まったのか、まったくわからない。
よもや、自分の肺から下が斬って落とされていることなど、想定もしない。
リミテの姿も、そこには無い。
ハイド長官の遥か後方─ リミテの凛とした背中。
美しきこと舞い咲く華の如く─ リミテは剣を美しく振り抜く。
ドシャッ─
ハイド長官の身体が、転がる。
そんな、馬鹿な。アテートしてからほんの一瞬の出来事。
アテート状態にある目に、その動きを捉えることが出来ないなど─ あり得ない。
だがしかし、そのありえない光景を、リミテは再現してみせる。
「この・・・!!」
声にならない声を発し、ハイド長官はリミテに拳銃を向ける。
ズガン!!
リミテの姿は、そこには無く─
次の瞬間には、ハイド長官の右腕は、斬って落とされていた。
リミテが、ハイド長官を見下ろす。
その見下す目は、透き通ったサファイアの青。
ドシュッ─

言葉が、声が、世界が、断絶した。

タタタタタタタァン!!
ガガガガガガガガッ!!
銃声が木魂する中、リミテはセガイラの骸を抱えてつかつかと歩く。
その身体で、一体何人斬り殺しただろう。
主張の違い、思想の違い─ ただそれだけで、何人も何人も命を奪う。
これが─ 罪。
受け入れよう、すべてのしがらみを。
そう、誓った。

PM4:30、カーディル管制区の塔内部を完全制圧、続く地上制圧を開始─



Re'mt blade reloaded ...「戦慄」HUMAN of humans'' created by Wiz's
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