第8章へ第10章へ たった1つの真実を信じて、繋ごう─ 9章─幕 ─ 神戦 宙に浮いた意識に転移したエルクスは、その光景を見つめていた。 リューハに続いて、20名のCGWが降下し、一斉にELたちに襲い掛かる。 エルクスの死をもってして気を抜いたELたちにとって、それは奇襲となった。 リューハとアークを残し、皆それぞれの戦いへと集中する。 その中に、ドッグ・タグの束をリューハの手から回収するCGWの姿。 『ああ・・・これで俺の役目は果たされた。これで安心して逝ける・・・』 その様子に満足したエルクスの意識は、静かに消えゆく。 ガカカカカカカカカンッ!!! ダラララララララララララッ!! キンッ、キンッ、ガキィンッ!! 周囲が激闘を繰り広げる中、2人の男は身動き1つせず、立っていた。 「やあ─ 久方ぶりだな、3年ぶりくらいか? 相変わらず部下に酷い真似をするものだな。捨て石というわけか?」 捨て石─ そう、エインの首を取るために確実な手段の大前提として、キャンサーであるリューハが無傷未消耗の状態 でエインの元へ参じる必要があった。 それまでのルートの確保、敵側の戦力の消耗─ そのための、捨て石だ。 ナンバー2とも言えるカルナはコミューンたちが引きつけるよう命じた。 「罪を負う者の名はそれなり─ というわけさ、アーク。」 にやりとアークが笑う。 「そのために来たというわけだな─ 罪を解き放つ者、エインの許へ。」 にやりと、リューハも笑う。 「まあそんなところだ─ 話はそこまでにしてもらって良いかな?」 リューハはプラネット・ホルクを構える。 アークもまた、その手にした剣、ハルガラン・サイファーを構える。 「さあ─ 往こうか。」 ザザッ─ 突如、場を包む空気が変わり、無線に雑音が入る。 気流が2人の中心を軸に、渦のように回転を始める。 互いが互いの狙気を高め、殺気めいた空気が場を包み返す。 2人が、同時に動く。 ─ ゴァッ。 ィィィィィィィィィィン!! 周囲のCGWとELも、その光景を横目に見て唖然とする。 何が起こったのか、その場の目撃者は説明できない。 ただ、『もうこの戦いが終わるまで俺たちに関与するな』と、その光景が言ってみせたようだった。 両者ともに、突きを放った。 ─ そこまでは、皆が理解できた。 今の一瞬で一体、何回の突きを放った? 何十・・・いや、幾百か。 突きのぶつかる衝撃音が衝撃音をかき消し、静かな金属の響きだけが反響する。 「前座はあまり長引かせてもつまらない─ 今ので充分だ、そうだろう? リューハ。」 アークの言葉が、リューハ以外のすべてを震撼させる。 今ので─ 前座? 前座のぶつかり合いで、並みの兵相手なら何十人を挽肉にできただろう? それはそれは、途方も無い戦いだった。 ズズッ─ 2人の身体を、黒い紋様が侵食していく。 「プラネット・・・」 「ハルガラン・・・」 それぞれの覚悟が、刻み込まれる。 「アテート!!」 バッ─ !! ババッ─ !! キュィン、キァン!! キン!! ガキィィィ!! 音だけが辺りを埋める。 皆を置き去りにして、辺りあちこちで衝撃波が炸裂する。 「ぐあっ─ !!」 「ぎゃっ!!」 みるみるうちに、建物のあちこちが破損、損壊していく。 その衝撃波に巻き込まれ、CGW、EL関係なく巻き添えを食う。 ガキンッ、キン、キン、キキンッ!! ゴアッ─ !! 瞬く間に幾つもの衝撃波が再発する。 今、何処にキャンサーとエインが存在するのかさえわからない。 「巻き添えを食うぞ─ 離れろ!! 退避だ!!」 CGWの1人が言葉を発すると、はっとしたように、皆、通路へと退避行動を取る。 キィン!! 退避するCGWとELのすぐ背後で、衝撃音が炸裂する。 間一髪、そこから脱し、通路の中へと退避が完了する。 「はぁ、はぁ─ 危ないところだったな。」 「ああ─ 」 はっと、両者顔を合わせる。 敵─ !! CGWとELは敵同士、気付いたときには互いに銃口を向け合う。 「─ よせ。 無意味だ。 この戦いに火がついた時点でもう─ 」 CGW、ELの双方が双方を止めに入る。 援護射撃をしようにも、対象が何処にいるのかすらわからない状況。 首を取った者が、制圧権を持つことになる。 ただ、この戦いを傍観するしか、道は無い─ 繰り出される技が、速い。 音速はとうに超え、光速には達さないまでも充分に破壊力を持つハルガラン・サイファーが右へ左へ、攻撃を繰り出す。 周囲には届かないその声も、リューハの耳には届く。 「斬鉄流─ 散月煉獄翔!!」 アークもまた、カルナと同じく斬鉄流使い。 だがその完成度は─ 高い。 64発の斬撃が、リューハの身体に向けて放たれる。 キキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキンッ!! 48発を弾き飛ばし、残り16発は回避する。 強い剣気の塊が、四方八方へと弾き飛ばされる。 この応酬に、1秒と掛かっていない。 相手も相応の化け物だということか。 技と技のほんの少しだけ空く隙間に、リューハはプラネット・ホルクで突きを入れる。 キキンッ!! ─ 駄目か。 隙間を作ったのもわざと─ リューハの隙を作るために。 「斬鉄流迅式烈破!!」 分身した剣気が襲い掛かる。 隙を突かれたはずの、その斬撃を簡単に掻い潜り、アークの懐に潜り込む。 本来、槍使いのリューハにとっては不利な間合い。 剣の間合いよりも深く、潜り込む。 「─ どちらの間合いでもないのにどうする気だね?」 くすっと、アークが笑う。 にやりと、リューハも笑う。 「斬鉄─ 散月衝!!」 はっと、アークが身を引く体勢に入る─ が、既に遅い。 槍を持っていない方の左腕を前へと突き出す。 「蓮火っ!!」 ズガァァァン!! ─ 両者の応酬の中、攻撃が初めてまともに入った。 CGWたちとELたちが見つめる中、吹き飛ばされるアークの姿が初めて映し出される。 ガシャァン!! エントランスの飾り棚にぶつかり、アークの身体が崩れ落ちる。 「素手で・・・」 すぐに体勢を立て直し、剣を構える。 すぐにリューハも動きを止め、2人は再び対峙する。 「一応、私も斬鉄流は習得している。技も1通り─ な。 素手でも放てる技があることは知っていただろう?」 チャッ─ 剣を正面に構え、不適に笑うアーク。 「そういえばそうだったな─ 忘れていたよ、ふふっ。」 ゆらりと、アテート状態のまま緩慢な動きをとるアーク。 「仕切り直しだ─ 斬鉄流─」 ─ 急加速するアークの動き。 「龍撃輪っ!!」 ズガガガガガガッ!!! 6発の鎌イタチを槍で弾き飛ばす。 「迅式烈破っ!!」 再び分身した剣気が襲い掛かる。 そして再び、リューハは斬撃の嵐を掻い潜り、アークの懐に潜り込む。 「斬鉄─ 散月衝!!」 リューハはまた同様に技を打ち込む構えを取る。 そして、違和感に気付いた。 アークは、先ほどよりも数cm深く斬り込んでいる。 そして─ 「超・迅式烈破!!」 迅式烈破の、斬り返し。 燕返しといったところか。 分身した剣気が、リューハの身体を薙ぐ。 ドガガガガガガガッ!! ザシュッ!! 咄嗟の判断で受け止めたリューハだが、そのうちの一撃を許してしまう。 「─ ぐっ!!」 そこに出来た大きな隙を、アークは見逃さない。 「流石に、同じ轍は踏まんさ─ 斬鉄流─ 大破断!!」 体勢を崩したリューハは、その斬撃をまともに受けることになる─ 否。 『行け─ プラネット・ホルク。』 ガキィィィィィン!!! 直撃するはずだった、一撃。 「残念だったな─ せっかくのチャンスだったのに。」 一旦距離を取って身構えるアーク。 「槍が勝手に動いて、手がそれに引っ張られてるように見えたが─ 気のせいか?」 くすっと、リューハが笑う。 「今の君のイメージで正しいよ、アーク。 このプラネット・ホルクは、私の意思と同期している。」 ─ 成程。 体の方が動かなくても、槍に意思を注ぎ込めば、勝手に武器の方が動き出して攻撃を止める。 無理な体勢になっても、武器の方が勝手に動き、変則的な攻撃が可能になる─ というわけだ。 アークにはそんな技術は無い─ が、初めてそれを知ったアークは、にやりと笑う。 「そうか─ そんな力もあったな、そういえば。では、私も─ 久しぶりに試してみるか。」 自分の思念を脳から右手へ─ 否、ハルガラン・サイファーに直接注ぎ込むイメージ。 回転させて右、左へと剣を動かす。 否、右手が、剣に引っ張られるような感じで動き始める。 「─ 流石だな、エインを名乗るだけのことはある。」 神戦とも呼べるほどの、その戦いは続いた─ ─ ガン・セケーション 突如、2人の間に立ちはだかった黒い塊─ 大口径オートマチック拳銃のハーヴェンタ。 ハーヴェ・・・旧ラタリナ語で、憎悪を意味する。 モデル番号も1つ違いで、レヴィニーと対になっている。 地面に突き刺さっていることから、カルナも察することが出来るように、この拳銃の重量は半端ではない。 35kgという鈍重な数字を叩き出している代物だ。 今回の戦いでは重いだけだし、コミューン自身、使いこなせているとは言い難いため、敢えて持って来なかった。 それが今、目の前の地面に突き刺さっている─ アテート状態ならあるいは・・・ コミューンは、静かにハーヴェンタに手を伸ばす。 その光景をまじまじと、敢えてカルナは奇襲することなく、見つめ、そのときを待った。 ズシリと、右手に圧し掛かる重圧。 醸し出される漆黒の悪魔の狙気は、禍々しく、雄雄しく解き放たれる。 通常状態のコミューンでは、持ち上げることで精一杯だったが・・・ ガシャンッ─ !! カルナに照準を合わせる。 ─ 大丈夫だ、撃てる。 コミューンがそう確信した瞬間、カルナもまた構え直す。 「その拳銃─ お前のものか。」 確認するカルナ。 「ああ─ このレヴィニーと対になっている拳銃だ。 何故、今空から降ってきたのかはわからんがな。」 おそらく、後で合流する予定だったリューハが狙って落としたものと思われるが、今はそれよりも─ 「そうか─ それなら良い。 ならば、行くぞ。」 先ほどまでの、舐めてかかるような笑みはもうカルナには無い。 真剣な眼差しで、コミューンを、ハーヴェンタを見る。 「斬鉄の─ 」 ズドアァァァァァァァァアン!!! 炸裂し、その銃口から解き放たれる23mmマグナム弾。 アテート状態でも、その反動を抑えきれず、少し仰け反るような形となる。 技の発動直前だったカルナはすぐに技を止め、剣を正面に向け、迫る弾丸を迎え入れる。 ガキィィィィィン!!! LM85やレヴィニーとは比較にならないほど重いその衝撃を受け止め、弾丸を両断する。 瞬間、カルナの両肩から血が散る。 両断されたハーヴェンタの23mmマグナム弾は、カルナの両肩を挟むようにすり抜ける。 その、衝撃波によってついた傷。 「─ ぐっ!!」 カルナの呻き声がコミューンの耳元へと届く。 なんという恐ろしい兵器だ─ 撃ってみたコミューンが一番それを痛感する。 カルナは何が起こったのか理解できないまま剣を構え直す。 構え直したその先に、垣間見える焦りの影。 今度はコミューンの方から笑みが零れ─ 出ることは無い。 勝利の望みが見えてきたところで、何の解決にもならない。 すべてはそう─ 「1発でその傷なら、これはどうかな─ ?」 カルナに問いかけるコミューン。 カルナもその意図を察したようだ。 悪魔と神獣が、唸りをあげる。 狙気が拡がり、辻風を生む。500m後方にいるリスクも、その寒気にぞっとする。 何よりもその憎悪と悲哀の中心にいたのは、コミューン自身。 その圧倒的な思念にも似た気配に、ただただ圧倒される。 圧倒されながら、2挺拳銃を構え続ける。 そしてそのときは静かに─ 「クレスト・オブ─ クルツ!!」 銃声は、けたたましく。 その憎悪と悲哀は、解き放たれる。 ズガァキュァァァズドァァァン!!! 繋がった銃声は、鋼と鋼の交響に交響を重ね、不協和音を奏でてみせる。 ガギギギギギギギギィンッ!!! 全神経を集中させ、弾丸の1つ1つを弾き飛ばすカルナ。 前段を防ぎ切り、ハーヴェンタの衝撃波で数々の傷を負いながら─ 最後の弾丸を弾き飛ばしたところで、手に痺れが走る。 ドンッ─ エルテ・サヴァーティがその場に落ち、地面に突き刺さる。 またとないチャンス─ ハーヴェンタには敢えて1発残しておいた。 この残り1発でカルナを─ ゴドンッ─ コミューンの手元から転がり落ちるハーヴェンタ。 ─ 痺れている。 コミューンの右腕もまた、ハーヴェンタの過ぎた威力による反動の連続の影響で、小刻みに震える。 コミューンは感じるや否や、レヴィニーをその場に置き、それぞれの予備弾倉を用意する。 カルナも必死にエルテ・サヴァーティに手を伸ばす。 その手でぐっと、柄を握り締める。 その柄の巻き布がひらりとはためき、その隙間からお互いの顔を見つめる。 「その衝撃に耐え切れないのは、お互い様というわけだな─ ははっ。」 睨みながらカルナが呟く。 コミューンもまた、睨み返して応える。 カチャキキキキキキンッ─ ジャコッ─ 装填完了─ あとは─ 大丈夫だ、痺れは取れた。 握れる。 お互いがそう確信した。 2人の間に、交響曲が流れ始めた。 5協和音からなる、5重奏(クインテット)。 華麗に、誇り高く、2人は舞った。 コミューンとカルナ、エルテ・サヴァーティとレヴィニー、ハーヴェンタそれぞれの気配が、 絶妙の旋律を奏でて舞い踊る。 「クレストオブ─ ベイオネット!!」 ガキンッ─ ガキキキキキキキキッ!! コミューンは先ほどのハーヴェンタの衝撃を痛感したのか、敢えてカルナの間合いである近接戦を選ぶ。 先ほどまではそうもいかなかったが、左手には14kgのレヴィニー、右手には35kgのハーヴェンタ。 どちらか1つでも相手の身体に当たれば決定的とも言えるダメージを与えることが出来る。 レヴィニーとハーヴェンタの重量バランスが可能にする、超絶な重圧打撃。 ガギィィィィィィィ─ !! クロスステップからの振り下ろし─ レヴィニーとハーヴェンタを交差させての打撃。 重い─ 先ほどまでの戦いで見せた打撃の3倍はあろうかという攻撃重量を、カルナは必死に堪える。 堪えたその先に見える死線─ 時を奏でる歌が、響く。 ぐっ、と押し返し、斬鉄流の構え─ 「斬鉄の─ 一閃っ!!」 ガキィィィン!!! 閃く瞬間の刃を、防ぐ。 「二閃!! 三閃!!」 ガキィッ!! ギィィィイン!! 防ぐ、防ぐ。 ふと見上げた青空─ 空を奏でる歌が、響く。 「万閃っ!!」 仰天の青空を、深く暗く、鋼の殺気が埋めてゆく。 ─ 闇を奏でる歌が、響く。 狙気の鋼が、空を埋め尽くしてゆく。 降りかかる万の刃。 その全てが、以前受けたものとは比べ物にならないほど、速く、速く迫り来る。 コミューンは可能な限りその刃を弾き飛ばす。 可能な限り─ 3〜40発弾き飛ばしたところで、限界を知る。 それでも降り注ぐ幾千もの刃。 このままでは防ぎ切れない─ カルナも本気になったというところか。 防ぎ切れない─ 可能な限り刃は防いだ。 そう、可能な限り─ しかし、それでは駄目だ。 可能以上の措置を取らなければ─ 幾千の刃がコミューンの身体へと降り注ぐ。 『それ、あたしのお気に入り─ だから、ちゃんと戻って返してよ。』 『それ、私のお気に入り─ 貸しておいてあげる。また数日後に必ず返してね。』 見える死線が─ 大きくなる。 死を奏でる歌が、響く。 ぷつん─ と、コミューンの中で何かが千切れた。 シュァァァァァァァッ!! 轟く風切り音が、カルナとコミューンの耳元へと届く。 美しく螺旋を描き、上へ下へと踊り狂うレヴィニーとハーヴェンタ。 ガィン、ギギギギギギィン!! ギィィィン!! 剣気を押し退け、違う剣気にそれをぶつけていく。 次々に逸らされる剣撃の数々。 生を奏でる歌が、響く。 次々に開く空、蒼天の兆し。 ズドアァァァァァァァァアン!!! ズカァァン!! 息を合わせたかのように放たれる2つの弾丸。 カルナの大技直後の隙につけ入る。 キンッ─ キンッ─ !! 止められる筈の無い、タイミング。 しかし、確かにエルテ・サヴァーティが2つの弾丸を両断する。 違和感に気付く。 カルナの手に、エルテ・サヴァーティの姿が、無い。 カルナの正面方向─ コミューンとの中間地点ほどのところに浮く宝石剣の姿。 エルテ・サヴァーティは宙を舞い、コミューンに襲い掛かる。 「─ くっ!!」 ガキィィィン!! キィン!! ガァン!! 自由奔放と言わんばかりに舞うエルテ・サヴァーティの斬撃を必死に防ぐコミューン。 「テレキネシスの一種さ・・・ 俺の意思とエルテ・サヴァーティは同期している。エインに教えられて以来今まで 使う機会など無かったがな─ 」 呟きながらエルテ・サヴァーティに手をかざし続けるカルナの姿。 念じながら剣を動かしているのか─ ならば。 ガキィィィィィィ─ !! 剣をハーヴェンタの横腹で受け止める。そして─ キュァ、キュァィン!! レヴィニーの超速弾丸が、カルナの身体に襲い掛かる。 ビシュッ─ 弾丸を回避したカルナの頬から、血が散る。 にっと、カルナが再び笑う。 次の瞬間、エルテ・サヴァーティがくるくると回転してカルナの手元に戻る。 「─ お前も、今の万閃を薙ぎ払うのに使っただろう?」 無意識のうちにやったことだが、確かにコミューンは、銃に手を引っ張られて無理矢理動かされているような感覚に捉われた。 前に1度だけ、リューハとの組み手で追い込まれた時に同様の現象が起こったことがある。 感覚が麻痺しすぎて、とても会得出来なかった技─ 『高等過ぎて今の君には会得できまいよ─ そうだな、今一度その技を使うことがあるのなら、こう呼びたまえ─』 「─ ガン・セケーション!!」 己の思念をレヴィニーとハーヴェンタに告げる。 カルナに─ 襲い掛かれ。 美しい自然な螺旋を描き、超速でカルナの急所に迫り行く2挺の拳銃。 ガキンッ、キィン!! あり得ない超速で迫り来るそれを、またあり得ない超速で捌く宝石剣。 ガギギギギギギギッ─ その剣を2挺の拳銃で絡めるように動作させ、カルナの手から弾き飛ばす。 ドガッ─ !! 地面に突き刺さるエルテ・サヴァーティ。 今だ─ 瞬間、カルナにレヴィニーを向ける。 ヒュァッ─ 刹那、神獣の気配がコミューンの知覚を覆う。 後ろ─ 地面に突き刺さったはずのエルテ・サヴァーティが、カルナの手元へと戻り迫る。 その経路に、コミューンの急所があった。 「─ くっ!!」 ガギィィィィン!! 危うく、ハーヴェンタの横腹でその攻撃を受け流す。 シュルルルルルル─ パシッ。 再びカルナの手元に舞い戻るエルテ・サヴァーティ。 にっ、と、再び笑うカルナ。 先ほどまでの余裕のある笑みとは異なり、合間にほんの少しだけ敢えて見せびらかす程度のものだ。 お互いに手は、ほぼ出し尽くしたといったところか─ 先が見えない。 出足も自然と止まる。 ただただ、お互いの呼吸の音だけが響き渡る。 リスクもまた、狙撃のタイミングが見えてこず、自身の呼吸と心拍の音だけが聞こえてくる。 ィィィン、ィァィィィン─ はるか遠方、居住塔の上層部から金属音のようなものが響いてくる。 おそらく雑兵戦が終わり、キャンサーとエインの一騎打ちに入ったのだろう。 ─ どうする? いつ撃つ? どうやって撃つ? どうすれば、勝利を手にすることが出来る─ ? 小さいながらも確実に響き渡ってくる神戦の音。 それを聴きながら、3人は静かに、深い深い思慮の中に引き込まれていった。 ─ 青き星の鐘 神がかったその戦いは、絶え間なく続いていた。 神聖なる広間を斬り果たし、むき出しのコンクリートだけが包み込む異様な空間で、神剣ハルガラン・サイファーと 神槍プラネット・ホルクが激突する。 キキキキキキァン!! 周囲のCGWとELは、その響き渡る金属音だけを聴いていた。 時折その姿を見せる2人の影。 互いに呼吸を整え合うその一刹那の瞬間だけ、その姿が朧げに垣間見える。 「斬鉄流─」 そう─ 己の武器との同期が可能にするのは自由に剣を動作させる念動力に限ったことではない。 「千変万化っ!!」 ガキィィィィン!! 剣撃を受け止めたその端から、違和感をすぐさま感じ取るリューハ。 受け止めたハルガラン・サイファーの剣先がぐにゅりと時空を歪めたように変化する。 「─ !?」 それは鎌のように形を変えて、その刃はリューハの喉笛へ─ ヒュァッ─ ガキンッ!! プラネット・ホルクを反転させ、すぐさまそれを受け止め、後方に退く。 蛇のように、うねりながらリューハを追撃するハルガラン・サイファー。 ガキキキキキキンッ!!! 次々と押し寄せる斬撃の1つ1つを丁寧に捌いていく。 捌くというよりは、受け止めて自分が回避する方向へと退く感じだ。 ハルガラン・サイファーは伸びる─ どこまでも伸びてリューハを追撃する。 みるみるうちに辺りはハルガラン・サイファーの刃で埋め尽くされていく。 次第に回避するリューハにも足場の限界が迫る。 「これで決まりかな─ リューハ。」 ぐっと剣を握り締め、力を伝えるアーク。 剣は四方からその形を変え─ 迫る。 ザシュシュシュシュシュシュッ!! 貫く刃、その先に散る儚い粒。 ─ 白銀の装飾粒が、むき出しのコンクリート床に散る。 ハルガラン・サイファーが貫いたのは、リューハの白衣─ 純白の装飾コートだった。 貫かれたその白衣はひらひらと舞いながら、剣に垂れ下がる。 リューハの姿は─ ? アークは、辺りを見回してリューハの姿を探す。 いない─ 跳んで剣の上に乗ったのなら、ぐるりと一周見渡せばすぐに見つかるはずだ。 アークは、はっとする。 ヒュァンッ!! リューハがこの伸びた剣の下に伏せるように隠れていたら─ ? 縦横無尽に伸ばしたハルガラン・サイファーを元の形に戻す。 ぐるりと一周、荒れ果てた床面を見回す。 ─ いない。 リューハの姿はどこにも─ パパンッ!! 刹那、響く銃声。 アークの身体─ 背中を、2発の銃弾が穿つ。 「─ ぐっ!!」 隠し持った小型拳銃を構えて撃った後、懐にそれを仕舞い込む。 2発の弾丸が、強化された筋肉と防護幕に押し戻され、その場に転がり落ちる。 「やはりこんな玩具では無理か─ 斬鉄流─ !!」 痛みに耐えながら、アークも振り向きざまに。 「散月衝、蓮火っ!!」 「大破断っ!!」 ガッキィィィィィィィィィィ─ !! 衝撃波がたちまち辺りに拡がり、瓦礫の山を吹き飛ばしてゆく。 静止するプラネット・ホルクとハルガラン・サイファー。 その切っ先を支点に、双方共に身動き1つしない。 双方の力は完全に、拮抗していた─ 否、直前に弾丸を受け止めたその身体のダメージからか、 アークのハルガラン・サイファーが少しずつ、少しずつ後ろへと押し戻される。 「─ っ!!」 焦りの表情をほんの一瞬垣間見せるアーク。 その後、静かに息を吐くと、気丈で冷静な眼差しへと変化する。 アークの首から頬にかけて、黒い龍の紋様が描かれ、侵食してゆく。 ぐっと、今まで押していた槍が押し返される。 徐々に、それは確実に侵食を開始する。 「アーク、君は・・・」 そして、癌細胞が蠢くように、雄雄しく、禍々しく。 「ハルガラン─ リンク。」 鋼と鋼のぶつかり合うショーダウン。 槍を構えていたリューハを引き裂くように、血が迸る。 「─ っ!!」 悲鳴をあげる間もなく、第2撃。 ガキィィィィイン!!! 受け止めたその衝撃は鈍重かつ素早く。 リューハの身体中、ところどころがそれに耐え切れず、軋む。 中空を舞うアークのその姿は、まるで天使のように。 そんな姿を見守りながら、周囲のCGWとELは息を呑む。 リューハは静かに目を閉じる。 それはほんの一瞬だったかもしれない。 青い星の海が、リューハの世界観を彩る。 カラァァァァァン─ カラァァァァァン─ 美しい鐘の音が、響く。 「行くのか─ ? リューハ。 我が許へ。」 にっと笑い返し、リューハはその青き星の化身へと告げる。 「向こうがその気なら─ 私も行くべきだろう? 相応の対処だと思うがね。」 青き星の化身はしばらく黙ったあと、リューハに告げる。 「全身が急速に、我が癌細胞に蝕まれていく─ 解いたときの代償も小さくない。わかって─ いるのだな。」 リューハは、海から解き放たれる。 目が覚めたときには、その覚醒は終わった。 「プラネット─ リンク。」 黒い龍の紋様が─ おぞましい癌細胞が、リューハの身体への侵食を始める。 視界にうつろうのは、中空を舞うアーク・エイン。 リューハは、深く屈んで己を抱く。 「お・・・おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」 手を拡げ、天高らかに雄叫びを揚げる。 黒き翼 舞い降りて 浅き夢より 醒めしとき 天高らかに 汝その叫びを掲げん 汝凶弾に穿たれるとき 一欠片の憎悪を 与えよう 汝は甦りし不毛の星 青き水の星より来たれ─ 歌に奏でられながら、リューハは舞う。 秒間幾千回と、互いの刃を重ねる。 もはや音すら聞こえてこない─ 否、周囲のCGWやELには、耳鳴りとなってその音が届く。 ィィィィィィン─ ィィィィィィン─ リューハの傷はリンク時の防護幕により、強制的に塞がれる。 幾千回のうち、幾百回、互いに互いの武器の切っ先が触れる。 ガガガガガガッ─ ズガガッ─ 確かにその剣先、槍の矛先が相手に命中する─ が、致命打はおろか、掠り傷1つ負うことは無い。 防護幕が強化され過ぎて、互いの切っ先が触れはしても、斬れたり貫かれることが無い。 決定打を叩き込むには、それ相応の力を込めた一撃でなければならない。 リューハも、そしてアークも、そこに気付くというよりは、気付きながらも凶器を振り回す。 目の前のすべての攻撃をもらえば、いかに強力な防護幕とはいえ、貫かれる。 だから幾千の攻撃の多くを受け止めなければならない。 また、隙を与えないためにもこちらの攻撃を止ませるわけにはいかない。 どうする─ どうすれば、決定打を与えることが出来る─ ? 答えは3つだった。 しかしながら、うち1つはこの決闘の条件を満たすことはない。 もう1つは、相手が隙を見せるまで待つこと─ だがそれは現実的ではない。 ならば─ 答えは1つ。 受け止めていた攻撃の嵐を、リューハは無理矢理横方向に押し流す。 押し流すというよりは、攻撃の嵐に押されて自分が横に流される形となる。 アークの横面をその視界に捉える。 「─ はああっ!!」 プラネット・ホルクを大きく振りかぶり、溜めた練気を爆発させる。 ドガァァァァッ!!!! すんでのところで、ハルガラン・サイファーの同期によって止められる。 ─ 否、攻撃が入ることは入ったが、間に入ったハルガラン・サイファーによってその衝撃は和らげられてしまう。 「斬鉄─ 散月衝、蓮火っ!!」 大振りの直後、尚、追加で技を繰り出すリューハ。 無理をしたその技は無鉄砲過ぎて、アークは容易にそれを回避する。 そして形成されるリューハの大きな隙。 アークは当然、そこに付け入った。 「斬鉄流─ 龍虎逆鱗っ!!」 弧を描くようにして、大回転するハルガラン・サイファー。 そこから発生する円形の衝撃波。 それをリューハは正面から受けた。 左脇腹から右肩にかけて、凄まじい衝撃を受け止め、傷を負っていくリューハ。 その表情は一旦苦痛に苛まれ、次の瞬間には不敵な笑みに変わっていた。 もう1つの答え─ そう、自ら隙を作って相手の攻撃を受ける。 そうすれば─ 自ずと決め手の攻撃に掛かる相手にも隙が出来る。 攻撃を受けながらリューハは、プラネット・ホルクを構える。 「斬鉄─ 覇空・蓮火っ!!」 回転しているアークにから見て真横からの突き。 その怒涛の一撃が、アークの脇腹を抉る。 ガガッ─ !! 2つの攻撃が交錯し、炸裂する。 ズガァァァァァァァァン!!! ガシャァァァァァァァン!!! 物凄い衝撃波で、テラス窓が一気に崩れ落ちる。 ─ ドシャッ。 リューハとアーク、2人の身体がコンクリートの床に崩れ落ちる。 「くっ─ 。」 2人とも立ち上がろうとするが、必殺を込めた一撃を受けたのだ。 容易に体勢を立て直せるはずも無く。 ググッ─ それでも、負けるわけにはいかない─ CGWからも、もちろんELからも援護の射撃が無いのは、敬意の顕れだった。 それでも─ アークは押し寄せる激痛に耐えながら、立ち上がる。 わあっ─ と、歓声が聞こえたような錯覚に陥る。 ELたちの微かなざわめきが、そう聞こえたのだろう─ ごくりと、息を呑むCGWたち。 食い入るように、その光景をまじまじと見つめる。 アークは、傷を負ったその身体でリューハに詰め寄ることはせず、逆に距離を取った。 距離を取り、そして─ バサァッ─ !! 黒い龍の紋様が広がった翼で、舞い飛ぶ。 窮鼠、猫を噛むとはよく言ったものだ。 重傷とはいえ、迂闊に近づいたらどんな反撃に転じるとも限らない。 だから─ 遠くから穿ち殺すことに決めた。 「斬鉄流─ 」 リューハも遅れて立ち上がる─ が、体勢を整える前にアークの技が発動する。 「千変万化っ!!」 空を舞い跳ぶアークの元から、ハルガラン・サイファーが伸びてくるのが見て取れた。 プラネット・ホルクを後ろ手に構え、くるくるとその手元で回転させる。 「─ 最後はその技で来たか─ 」 様々に形を変えるその剣は、リューハの喉笛や心の臓を狙って迫り来る。 リューハは、その場から少しだけ前に出る。 ドシュシュシュシュシュッ!! リューハの左腕、左胸、腹、右足─ 所々を貫かれるリューハ。 「─ がはっ!!」 思わず、吐血するリューハ。 回転させていたプラネット・ホルクはその動きを止め、逆手に持たれる。 決着─ アークもELも、CGWも、そう感じた。 ELたちはすかさずとどめの射撃体勢に入る。 CGWたちも一斉に止めに入るが─ 間に合わない。 諦めの考えがよぎった瞬間、その場の全員が違和感を感じ取った。 構えに入った銃が自然と垂れ下がる。 リューハを包み込むその場の空気が、異様なまでの変質を見せたからだ。 リューハの目は、下を見つめていたその体勢から、深く、深くアークを睨みつける。 ぎらり─ と、突き刺すようなその黄金色の瞳。 何か来る─ とてつもない何かが。 そう直感したアークは、伸びたハルガラン・サイファーに千変万化の効果を追加する。 ジャキキキキキキキキッ!!! 伸びた途中の剣が盛り上がり、何重もの盾となってリューハとアークの間に隔たる。 リューハは、その剣の盾の向こう─ アークに左の掌を向ける。 その右手─ 逆手に持った槍、掌を見せる左手。 答えが導き出される。 ─ 槍の、投擲。 だがそれは、咄嗟に盾を設けたアークにとってはなんら脅威とはならない─ それでもリューハは、プラネット・ホルクを強く握り締める。 青い星の海が、リューハの世界観を彩る。 カラァァァァァン─ カラァァァァァン─ 美しい鐘の音が、響く。 汝は甦りし不毛の星 青き水の星より来たれ─ 青き星の鐘よ、響き渡れ─ リューハは大きく振りかぶる。 練気、練気、再練気。 チリッ─ 周囲のコンクリート屑が弾け飛ぶ。 「─ 大・青・鐘 !!」 キュァッ─ !! 斬鉄流千変万化は、発動者が不動であることが基本条件となる。 千にも万にも姿形を変える剣のイメージ力にすべての気を集中させるからだ。 リューハ自身も、斬鉄流を扱う身ゆえに、その事実を知る。 リューハが自身の最大技─ 大青鐘を放ったのは、その条件を知っていたからに他ならない。 つまり─ カラァァァァァン─ 大きな鐘の音が、響いたような気がした。 シュァァァ─ 摩擦熱で融けた周囲の壁─ 火傷を負うCGWやELもいた。 砕けた剣の破片が、所々に散っている。 はっとしたように、皆、リューハとアークの様子を見やる。 リューハの方は、槍を投擲し終えた体勢のまま、突き刺された剣にもたれかかるようにしている。 ─ 力尽きたのか? アークの方は─ 朽ちる幻影─ その存在感はまるで消え往く幻影のように。 その胸に穿たれた、巨大な穴。 盾と成したハルガラン・サイファーはものの見事に打ち砕かれ、その破片が四散する。 その柄を握り締め、垂れ下がる骸。 それは静かに、静かに崩れ落ちた。 ─ 謝罪の言葉 五重奏の曲は、絶えず3人の間に流れていた。 時、空、闇、死、生の奏でる旋律はとても繊細で、少しでも力押しをすれば飲み込まれてしまいそうで。 刹那の呼吸さえ、神獣は絡め取る。 ガキンッ─ キン、キキン─ !! キュァ、キュァィン!! ズドアァァァァァァァァアン!!! レヴィニー2発に、ハーヴェンタを1発。 アテート状態で1度におおよそ耐久に足る限度だと、コミューンは先のクレスト・オブ・クルツと、今自身に受けた 反動をもってして悟る。 ハーヴェンタのみならば2発が限度といったところか。 そこから先の弾丸を一度に放てば、手の感覚に麻痺が生じる。 カルナも、それを悟ったかのようだった。 ハーヴェンタから放たれる23mmマグナム弾の重い衝撃を受け流せるのはせいぜい2発。 おそらく3発目を弾き飛ばした辺りから、エルテ・サヴァーティを握る手に痺れが生じる。 ガキキンッ!! ギィィィン!! 下から上への斬り上げをすることによって、ハーヴェンタの弾丸を情報へ反らす。 そうすれば先の衝撃波で傷を負うことも無い。 だがしかしそれは─ カルナは前に出る。剣が間合いの接近戦。 ガキキキンッ、キキンッ!! 果てしない超速で迫り来る斬撃を、レヴィニーとハーヴェンタそれぞれの峰で受け流す。 ハーヴェンタの弾丸を上方へ弾くと決まっているならば、その次の攻撃に繋ぐ鍵となる─ が、その隙を与えるわけにはいかない。 もはや自分の腕が銃の動きに引っ張られていく感じで、ガン・セケーションのイメージを維持するだけで とてつもない精神力を消費していくコミューン。 だがそれはカルナも同様だろう。 しかし、そう悟られまいとしてか否か、カルナの猛攻は続いた。 ガギギギギギギギギギッ!!! 総重量49kgの紫鎖銀と金剛石が奏でる交響は、ひときわ激しく、美しく。 荒々しい金属音はその作り手を思わせるかのように。 繊細な金属繊維を彩るハーモニー。 レヴィニーとハーヴェンタは、例えるならば2筋の弦。 とりわけエルテ・サヴァーティはそこに引かれる1本の弓。 ぶつかり合うたびに、その旋律は彩りを増してゆく。 ガドンッ─ その重さに耐えかね、先にその手から武器を離してしまったのはコミューンだった。 35kgのハーヴェンタは、その手から重々しく音を立てて零れ落ちる。 ここぞとばかりに、カルナが攻め入る。 ガキン、キンッ、ギギィィン!! 残ったレヴィニーでエルテ・サヴァーティの斬撃を弾き飛ばすが、些か限界が近くなる。 コミューンの振りかざすレヴィニーの間を縫って、その剣は振り下ろされた。 ─ ザンッ!! ズドアァァァァァァァァアン!!! ズガッ!! ともに、左脇腹に切り傷、銃創を負う。 「─ っ!?」 カルナが振り返ると、そこには宙に浮くハーヴェンタの姿があった。 「テレキネシスで・・・」 ガン・セケーションによるテレキネシスを使えば、コミューンの腕への負担は無い。 だがしかし、そこにかかる集中力─ 精神的な負担はかなり大きい。 ハーヴェンタを落としたのも芝居ではなく、集中力の限界が来ていたからに他ならない。 つまり─ 傷を負いながらも、カルナは剣を走らせる。 エルテ・サヴァーティ─ 憎悪の名前。 チギギギギギギギギギギギギギィィィン!! ─ ガドンッ!! コミューンの精神力は、もう尽き果てていた。 残りのレヴィニーも地に落ちる。 キィン!! ズカァァン!! リスクの狙撃タイミングも、読まれていた。 勝利を確信したカルナが、 カルナはとどめの一撃を、コミューンに放った。 バチッ・・・ 他に音は、しなかった。 静寂が辺りを包む中、カルナはその光景を目の当たりにする。 精神力を使い果たしたコミューンは、蝕む癌細胞にあてられ続けた。 レヴィニーもハーヴェンタも失った今、残されたものは─ コミューンの身体全体を包み込んでいた防護幕が、2点に収束する。 それはコミューンの両手のひらに収束して、暗雲と共に小さな雷となって姿を現す。 傍目には、素手で金剛石の剣を受け止めるコミューンの姿。 バヂヂッ!! ─ブォン!! 手を交差させ、エルテ・サヴァーティを弾き飛ばすコミューン。 ─ ズガッ!! 地に突き刺さるエルテ・サヴァーティを尻目に、コミューンは前へと繰り出す。 初めて見る光景に、カルナは思わず慄く。 防護幕を使用するにあたって、その濃度を特定点に収束する─ ? クリムゾン・クシュターゼとは幾度も会話したカルナだが、そんなことが可能だということは知らされていない。 コミューンがカルナの眼前に迫り、その暗雲の渦に包まれた手を突き出す。 カルナは1歩、練気で退く。 同時に、テレキネシスでエルテ・サヴァーティを急速で引き寄せ、コミューンの背中を狙う。 ヴォン!! バヂヂッ─ コミューンの左手は、容易にそれを受け止めた。 そしてコミューンの右手が、カルナの眼前に迫る。 「─ くっ!!」 ガシッ─ 暗い暗い負のエネルギーが、カルナの頭を掴む。 それは黒い帯状の煙となり、舞い上がった。 ふわりと浮いて消え往くのは、遠い日の惨状。憎悪の塊だった。 「ぐあぁぁぁぁぁぁあ、あ、あ・・・」 「カルナ─ ここに隠れているのよ。リューハは・・・どこに行ったのかしら・・・」 狭い食器棚にカルナを押しやる長い緑髪の女性。 「リューカ姉さん・・・ やめろよっ!!俺だってまだまだ戦える!!」 「何を言ってるの!? こんなケガで・・・ 戦わせられるわけないわ。」 カルナは無理矢理身体を起こそうと躍起になる。 それを見て取ったリューカは、カルナを胸元に抱き寄せる。 「姉さ・・・っ」 トンッ─ 静かで正確な打撃が、カルナの首を襲う。 意識は薄れ─ 静かに沈みゆく。 リューカはそっとカルナの身体を食器棚に押し込むと、ゆっくりと扉を閉じた。 「ごめんね、カルナ─ 。」 優しく、扉を撫でるリューカ。 「さて─ と。」 ガシャンッ─ 大型のアサルトライフルを構え、部屋の入り口へと向かう。 ザザッ─ その玄関先に現れる敵兵。 バラララララッ!!! バラララッ!! 物陰に移り、現れる敵兵を穿ち倒していく。 物陰に隠れたリューカと、姿をさらけ出した敵兵とでは、優位性が違う。 圧倒的とまではいかないが、敵兵を順調に倒していく。 もっとも、手榴弾でも投げ込まれれば一巻の終わりにある状況だが。 バラララララララッ!! バラッ─ 突如、リューカからの銃声が止む。 今まで穿ってきたものとは異質な気配が、入り口脇から漏れ出るのを感じる。 覚悟を決めて突進してきた兵とは違い、恐怖に駆られながらもやっとのことでしがみついている。 そんな印象を受ける気配。 そしてそれは姿を現した。 恐怖に身を震わせながら2挺の拳銃を構えて立つ少年。 「子ども─ !?」 思わず、ライフルの構えを解くリューカ。 子どもを撃つなど、そんな行為に─ 少年の肩に刻印されたラタリナの紋章に、リューカははっと正気を取り戻してライフルを構え直す。 子どもであっても、敵軍のラタリナ兵であることに違いは無い、出会ったが最期─ ガガンッ!! バラララララララッ!! カルナが目覚めた頃には、すべて終わっていた。 目の前には、崩れ落ちたリューカの遺骸と、女性を撃ち殺してしまった少年兵の泣き崩れる姿、 それに加え、玄関先からその様子を静かに見守るリューハの姿。 「あぁっ、うあああああああああ・・・!!!」 コミューンの初めての殺人対象が、女性であったことは、今も尚心の傷跡として残っているままだ。 憎悪を吸い出されたカルナの身体は、精神力を消耗し切ってその場に崩れ落ちる。 「カルナ─ お前に、話がある。」 そう切り出したコミューンは、勝ったという実感より、何かに怯え震えているような印象だった。 スコープ越しに見るコミューンは、今にも崩れ落ちそうに弱々しく、だがはっきりとそれを告げる。 「すまない─ 俺は、お前の姉さん─ リューカさんを殺した。 本当に、すまない─」 コミューンの口から零れたその言葉は、謝罪の言葉だった。 深く深く頭を下げて陳謝するコミューンは、どこか惨めにさえ映る。 カルナは崩れ落ちたまま、コミューンの謝罪の言葉をその耳に入れる。 ヴーッ、ヴーッ、ヴーッ!! 突如、サイレンが響く。 その後に居住区全体に響き渡るアナウンスが、3人の時を止めた。 「戦闘中の兵及び全居住者に報せる。 アーク・エインはリューハ・キャンサーの手に落ちた。 ここからの戦闘は意味を成すことはない。速やかに全員投降せよ。 繰り返す─」 終わりの、合図だった。 AM11:00少し間を置いて大規模部隊が敵陣に降下、戦闘を開始。 AM11:45、敵陣本拠へ向けて、突入口が空いていることを前提としたリューハ・キャンサーの出発。 PM1:50、敵主戦力のカルナ・エレメフを足止めするための戦闘に突入。 PM2:30、リューハ・キャンサー及び20名のCGW突入、エインとの戦闘開始─ そしてPM3:20、敵主戦力カルナ・エレメフ及び敵総統アーク・エインの無力化に成功。 終わった。 すべての因縁に終止符を打ち、この戦いの幕が静かに下りてゆく。 「カルナ─ すまないが、これで失礼するよ。今のあんたにはもう戦う気力すら残っていないだろう。」 コミューンが、背を向けてカルナの元を後にする。 崩れ落ちたカルナが、呟きを放つ。 「コミューン─ 俺はお前を・・・」 底を突いたはずの気力が、憎悪が再びその火をつける。 「許すわけには─ いかないんだあぁぁぁぁ!!!」 怒声と共に、エルテ・サヴァーティが再びカルナのテレキネシスで動き出す。 エルテ・サヴァーティはコミューンの心臓を背中から狙い撃つ。 「許さない─ か。 それも良いさ─ 与えられた任務は果たした・・・充分だ。」 『パシア、リミテ─ 済まない。 君らとの約束は果たせそうにない・・・ 俺は既に死んでいたんだ。もう・・・』 ズカァァン!! カルナに息を合わせたような、狙撃音が響く。 キィン─ ッ!! ズガッ─ 先に進む力を失ったエルテ・サヴァーティが地に刺さる。 『死ぬ─ つもりだったんだが─ な。』 「カルナ・・・本当に、済まない。」 コミューンはゆっくりと、歩調を緩めたままその場を後にした。 「くそっ─ くそっ、くそぉ・・・」 カルナは静かにうずくまる。 リスクもライフルを背に掛け、歩き出す。 時は無情に流れ、過ぎ行くもの─ カルナは1人、再度無気力に崩れ落ちる。 そして1つの戦いの幕が完全に下ろされた。 Karna saverty removed ...「幕」HUMAN of humans'' created by Wiz's 第8章へ第10章へ