ZEROから始まる物語 <前編>


注1 この作品は、多少のネタバレになる可能性がありますので、
   EVEZEROをクリアしてから見られることをお勧めします

注2 この作品は、ZEROよりも以前の物語です

注3 この作品中で「これはちょっと変じゃないか?」と思われる所があるかと
   思いますが、あとがきで少し説明していますので許してやって下さい(切実に)



歩いていた。
・・別に目的は無い。
ただ、歩いていた・・。

・・あれから、どれくらいの月日が経ったのだろうか?
事故に会い、臓器を奪われ、母と肉体を共にして過ごして来た日々・・。

妹のお陰で、私は自由に歩く事が出来る。
妹の体を借りて、私はこうして外を歩いていける。
でも、この足は、体は、私のでは無い・・。
いつか・・、私は自分の足で自由に歩く事が出来るのだろうか?
どこまでも続く、でもいつかは元に戻って来る、この大地を、自分の足で、自由に・・・。

・・ふと、目の前にはゲームセンターがあった。
・・まあ、他にする事は無いし、遊んで行くかな・・?

私は、とりあえずガンシューティングというものをやって見る事にした。
だが、そのゲームはもう他の人が遊んでいる最中だった。
遊んでいる人は、高校生だろうか?制服を着ていて、長い髪の毛が印象的な女の人だ。
・・後ろ姿を見ているので、髪の毛しか見えていないだけなのだが・・。

その人の隣には、同じ制服を着た女性が、ゲーム画面を見ながら、
なにやらアドバイスをしているみたいだ。多分、友達なのだろう。

しばらくして、どうやらゲームオーバーになったようだ。

 「あ〜あ、ゲームオーバーかぁ・・」

 「・・それにしても杏子、あんたなんで1発も敵に弾が当たらないの!?」

 「だって・・このゲーム難しいんだもん」

 「・・どんなに下手な人でも、1発は当たるわよ」

 「そうなの?」

 「当たり前でしょ!?それで進路は警察関係になりたい?
   あんた無茶な事言っちゃダメだよ!」

 「いいじゃない・・。別に・・」

そう言いながら、2人はゲームセンターから出て行った。
・・難しいのかな?このゲーム。

  * * * *

 「おい!見ろよあの娘!!ハイスコアだぜ!!」

 「すっげーな。ゲームの天才なんじゃないのか!?」

・・簡単だった。
私の事をまわりの人達はすごいと言うが、私の感想は・・、

「これで1発も当てることの出来ないあの人の方がすごい・・」

  * * * *

 「おい東海道〜。いくらやっても無駄だって・・」

 「黙れ小次郎!この僕が貴様なんかに負けるわけが無いんだ!
   それに、僕は二階堂だ!!」

ふいに、うるさい声が聞こえてきた。
ゲームセンターは他の場所に比べたらうるさい部類に入るのだろうが、
その声はまわりの騒音があるにも関わらずうるさく感じる大きな声だった。
声の方を向くと、2人の男がいた。

 「たかがゲームだろ?それほど熱くなるなよ」

 「そんな事は関係無い!例えゲームだろうと貴様なんかに
   この僕が負けるわけにはいかんのだ!!」

 「だが、この前は俺が勝ったぜ?」

 「なにかの間違いだ!それを今日ここで証明してみせる!!」

 「そのために俺をゲーセンなんかに誘ったのか?」

 「当たり前だ。こんな理由でもない限り、僕が貴様を誘う訳がないだろう!!
   ・・ふん。貴様の目論見なんかもはや見切っているぞ!
   大方、僕に勝つためにずっと前からあのゲームを猛練習して、
   それで僕をゲームセンターに誘ったのだろう?」

男は自信満々でそう言った。よほど自信があるのだろう。
それに対し、もう1人の男は、
髪の毛で眼が見えないのだが、半分呆れているように見える。

 「だが、その作戦はもう通用せんぞ!僕はあのゲームを猛特訓し、
   いまやこのゲームセンターのハイスコア保持者だ!」

 「おいおい・・。なにか勘違いしているようだが、
   あのときは、たまたま暇で、歩いていたらゲーセンの前に通りかかって
   そこにおまえがいたから、成り行きで勝負になっただけだぜ
   それに、俺はあのゲームは初めてやった、というかゲームなんて普段俺はしないぜ」

 「う・・嘘を付くなッ!だったらどうしてあんな高得点を出せたんだ!!」

 「ふ・・。それはな」

 「そ・・それは・・?」

 「俺様の才能さ」

一瞬、うるさい男は怒りに満ちた表情でもう1人の男に怒鳴ろうとしたようだが、
何も言わずに、元の自信に満ちた表情に戻った。

 「・・ふ、まあいい、貴様がどんな嘘を付こうが、この僕に勝つ事など絶対に出来ん!!
   いや、あのゲームで僕より高得点を出せる人間など、この世に存在しないのだ!!」

どうやら、自分のゲームの腕にかなりの自信があるようだ。
真実に裏付けされた本物の自信か、
ただの自信過剰なのかはよく分からないが。

 「見ろ小次郎!このゲームのスコア第1位に輝く、この『S・N』の文字を!!」

 「・・1位、S・Nじゃないぜ?」

 「ふっ、何をバカな・・。この文字が貴様には見えな・・!!!」

男は、口を大きく開けたまま、固まっていた。
・・さっき、私がやっていたゲームの画面を見て・・。

   * * * *

 「・・おい!!そこの男!!」

 「な・・なんだよ?」

 「このゲームのハイスコアを出した奴は誰だ!?」

 「あ・・あそこにいる女の子だよ」

そういって、その人は私の方を指差した。

 「そうか・・分かった」

なにかとうるさい男が私の方へ歩いて来た。

 「こんにちはお嬢さん。君に是非頼みがあるのだが・・」

 「おい東海道〜、もてないからって、そんな子供に手を出しちゃ犯罪だぜ」

 「誰が出すか!それに僕は二階堂だ!!に・か・い・ど・う・!!」

・・うるさい人だ。

 「それで・・、なにか御用ですか?」

あまり係わり合いになりたくないので適当に切り出した。

 「おお、そうだった。是非、僕とあのゲームで戦ってくれないだろうか?」

 「どうして?」

 「あそこにいる極悪人にこの僕の実力を見せ付けねばならないんだよ。
   そのためには、君に僕が勝たねばならないのさ」

 「それでしたら、私よりも高得点を出せばいいでしょう?」

 「おお!そうか、なるほど、そうだな」

得点を競うのだから、それくらい、普通気付くと思うけど・・。

 「もう、いいですか?」

 「ん?ああ、悪かったね」

 「いえ・・」

そう言って、私はゲームセンターを出た。
ふと、中を見ると、あのゲームで必死になって遊んでいる、うるさい男が見えた。
もうひとりの髪が長くて眼が見えない男は、見当たらなかった。

   * * * *

しばらく歩いていた。
ふと、考える。
私は・・、本当にアルカなのだろうか?
アルカの記憶を持った、まったく別の存在なのではないだろうか・・?
・・分からない。

 

そんな事を考えていると、いきなり前方からなにかにぶつかった。
その勢いで、私は後ろに転んでしまった。

 「あ・・ゴメン!大丈夫?」

・・どうやら、私は考え事をしているうちに誰かとぶつかってしまったようだ。

 「立てるかい?」

 「あ、はい。大丈夫です」

立ち上がってよく見ると、ぶつかった相手は大柄な男だった。
肩幅が広く、見るからにラグビーか何かの選手みたいだ。

・・なんか、優しそうというか、ちょっと気弱そうな眼をしている。

そして、なぜか私の事を「なかなか可愛いな」って心の中で言っているような気がする・・。

 「ゴメンね。よそ見していて、怪我はないかい?」

 「大丈夫です。それに、私も考え事をしていたので、おあいこです」

 「そうか・・。そりゃあ良かった」

 「それでは、私はもう行きますので・・」

 「ん?そうだな。いや、悪かったね」

 「おあいこだと言ったでしょう?」

 「ははっ、そうだったね」

 「じゃあ、気を付けてね」

 「はい・・」

−−−前編END



後編へ続く・・・